はじめての住宅ローン
幸せなふたりに水を差す様ですが…
メリットがたくさんの「夫婦で住宅ローン」万が一の場合も考えて賢く利用
井上光章
アルトゥルFP事務所代表、1級FP技能士、CFP®
収入面に課題があり一人で住宅購入資金を借りられない場合、夫婦で住宅ローンを組むという選択肢があります。方法としては、ペアローンと連帯債務(収入合算)型の2種類が一般的。その仕組みと注意点を解説します。
代表的な方法は「ペアローン」「連帯債務(収入合算)型」と呼ばれるもの。どちらの場合も住宅の名義は共有(負担した金額に応じて持ち分を持つ)になります。それぞれについて仕組みとメリットを紹介してきましょう。
万が一の備えである「団体信用生命保険(以下、団信)」「住宅ローン減税」の適用方法にも違いがあるので、あわせて解説します。
住宅ローン減税とは、住宅ローンを組んで10年間(2020年12月末までの入居なら13年)、毎年末の住宅ローン残高の1%分(一般住宅の場合、上限4000万円、認定長期優良住宅等の場合、上限5000万円)までが、所得税から控除される仕組みです。控除しきれない分は一部、住民税にも適用されます。
ペアローンとは、ひとつの住宅に対して夫婦それぞれにローンを組む住宅購入資金の借入方法です。
個別に住宅ローンを組むので、それぞれのローンの返済年数や金利タイプを柔軟に調整できるのがペアローンのメリットといえます。
一方、デメリットといえるのは、住宅ローンが2つになるため、事務手数料などの費用も二重に必要になることです。ちなみにペアローンでは、夫の住宅ローンには妻、妻の住宅ローンには夫が、相互に連帯保証人になるのが一般的です。
ペアローンの一般的な仕組み(合計3000万円を借りる場合)
ペアローンの団信
ペアローンの場合、夫婦それぞれに住宅ローンを組むことになるので、団信には個別に加入する形になります。もちろん保障の適用範囲は個別に設定されるため、夫に万が一のことがあったときには、夫のローン残高はゼロになりますが、妻の分はそのまま返済義務が残ります。
ペアローンの住宅ローン減税
ペアローンでの住宅ローン減税の計算は、個別の住宅ローンの残高を基に行われます。1年目の夫のローン残高が2000万円、妻のローン残高が1000万円だとすると、夫は最大20万円、妻は最大10万円まで、それぞれに住宅ローン減税が受けられるということです。
連帯債務(収入合算)型の住宅ローンとは、夫婦の収入の全部または一部を合算して審査を受け、夫婦のどちらかが主債務者、もう一方が連帯債務者となってひとつの住宅ローン組む方法です。
住宅ローンがひとつなので、事務手数料などの費用がひとつで済む、また後述する「夫婦連生団信」に加入できる場合があるといったメリットがあります。
この際、合算した収入の金額に比例して債務を個別に負担するのではなく、借入全額に対して夫婦が同じく返済義務を負います。つまり主債務者である夫が返済不能になった場合には、金融機関は連帯債務者である妻に対しても借入残高の全額を請求できるということです。
連帯債務(収入合算)型の一般的な仕組み(合計3000万円を借りる場合)
連帯債務(収入合算)型の団信
連帯債務型(収入合算)の団信は、主債務者のみを保障対象としているのが基本です。夫が主債務者、妻が連帯債務者だった場合、夫が亡くなったときにはローンの残高はゼロになりますが、妻が亡くなっても残高は変わりません。ただし、妻(連帯債務者)が亡くなった場合にも残高がゼロになる夫婦連生団信に加入できる場合もあります。
連帯債務(収入合算)型の住宅ローン減税
連帯債務(収入合算)型の住宅ローンの住宅ローン減税は、実際に夫婦のそれぞれが負担する金額の割合を基に住宅の持ち分(住宅の所有権の割合)を算出し、その持ち分に応じて計算します。
例えば頭金なしで3000万円の住宅ローンを組み、3000万円の住宅を購入したとしましょう。このとき主債務者が夫であっても、実際には夫が2000万円の返済を負担し、妻が1000万円の返済を負担するなら、住宅の持ち分は夫が3分の2、妻が3分の1とするのが一般的です。これにより、住宅ローン減税の対象額は、夫が2000万円と妻が1000万円とみなされます。つまり、夫は最大20万円、妻は最大10万円の住宅ローン減税を受けられるということです。
「ペアローンと連帯債務(収入合算)型、自分に合っているのはどっち?」と思った人は、以下の関連記事も併せてご確認ください。
それぞれにメリット・デメリットがあるペアローンと連帯債務(収入合算)型ですが、すべての金融機関が用意しているわけではありません。実際には「住宅ローンを組む金融機関をどこにするか」で選択肢は限定されてしまいます。
例えば、全期間固定型のフラット35を利用する場合は、連帯債務(収入合算)型を選択するしかありません。一方で、民間金融機関の住宅ローンにはペアローンしか用意されていないことが多いようです。金融機関や住宅ローンのタイプ、金利といった諸条件を複合的に検討して、借り方を決めることが大切です。
ペアローン、連帯債務(収入合算)型、いずれの方法で住宅ローンを組んでいたとしても、離婚したからといって、夫婦どちらかから返済義務がなくなることはありません。例えば、離婚をきっかけに元夫が購入した家から出て行った場合、元夫は住んでいない家のために借りたお金を返し続けなければならないわけです。
さらに、住宅ローンを組むための前提条件として「住宅ローンの対象となっている家に住む」ことが挙げられます。出て行った側の人はこの条件を満たさなくなるため、一括返済を求められる可能性もあります。
【方法1】住宅を売却して住宅ローンを一括返済する
住宅が住宅ローンの残債以上で売れるならば、売却資金を基にローンを完済することができます。不動産会社に依頼したり、自分で探したりして買主が見つかったら、価格交渉の上、売買契約を結びます。他人に迷惑をかけず、経済的な負担も少ないため、離婚時に多くの人が採る対応方法となっています。
住宅を売却してローン残債を一括返済する
ただし、住宅の資産価値がローン残高を下回っている場合、差額の負担ができないなら売却は不可能です。預貯金あるいは新たな借り入れ、または住み替えローンなどを検討し、差額を埋める必要があります。
【方法2】連帯保証人・連帯債務者を第三者に代わってもらう
ペアローンの場合は夫婦相互に連帯保証人に、連帯債務(収入合算)型の場合は夫婦のどちらかが住宅ローンの連帯債務者になっているのが基本です。金融機関との交渉によっては、これを第三者に変更することが可能なケースがあります。連帯債務(収入合算)型の住宅ローンの場合は、この方法で離婚時の住宅ローントラブルを解消できますが、ペアローンの場合には、連帯保証人から外れたとしても自分の住宅ローンの返済義務は残ります。他の解決策もあわせて検討する必要があるでしょう。
連帯債務(収入合算)型の住宅ローンで連帯債務者を変更する
【方法3】ペアローンを住宅に残る人のみに一本化する
離婚時に夫の住宅ローンの残りが2000万円、妻の住宅ローンの残りが1000万円のペアローンを組んでいたとします。このローンを住宅に残る人のみが負担する3000万円の住宅ローンに一本化するという方法も考えられます。
ペアローンを一本化してひとりのローンにする
ただし、ふたり分の住宅ローンをまとめて組みなおすには、それなりの収入が必要。実際には親を連帯保証人にするケースが多いようです。また、基本的には新しい金融機関との契約となります。
【状況】
- 住宅ローンの種類:ペアローン
- 住宅ローン残債:3500万円
- 離婚後の住居:夫/現住宅に住む、妻/現住宅を出て実家に住む
佐藤さん(仮名)ご夫婦は、離婚後の住宅ローンの処理として、自宅の売却による完済を考えたそうです。しかし、査定結果は2950万円で完済にはいたらず、差額の550万円を貯蓄で補填するのも困難な経済状況でした。
次に考えたのは住宅ローン返済の継続だったのですが、妻のほうが将来的に新たに住宅ローンを組むことも考え、連帯債務者から外れたいと強く要望しており、返済継続も断念。
最後に住宅ローンを夫に一本化することを住宅ローンを組んでいる銀行に相談し、審査を受けたのですが、借入可能額は2800万円。貯蓄は500万円あったものの残債に届きません。まさに八方ふさがりの状況に陥ってしまいました。
【解決】
相談を受けた結果、夫に住宅ローンを一本化する方向で、新たな金融機関を探すことを提案。多くの金融機関で対象外となってしまいましたが、離婚によるローン一本化に対応した金融機関を1件発見し、3480万円の融資を受けられるように調整。夫から20万円の自己資金を出してもらうことで、一本化に成功しました。
※一部、事実に対して編集を加えています。
離婚によるローン一本化の借り換えに対応してくれる金融機関は多くはありません。金融機関選びの段階で専門家の力を借りることも大切です。上記の例のように住宅ローンの借り換えがうまくいくのは、実感としては5人中1人くらいの割合だと思います。
ペアローンの場合は、夫婦それぞれが個別に住宅ローンを組むため、団信にも個別に加入することになります。つまり、どちらかが死亡した場合には、どちらか一方の住宅ローンの残債だけがゼロになるということです。生存している人の住宅ローンはそのまま残ります。夫婦いずれかが死亡した場合にローン残高のすべてをゼロにしたい場合は、別途、生命保険に加入する必要があります。
連帯債務(収入合算)型の住宅ローンを組んだ場合、前述した通り、団信は主債務者のみを対象としているのが一般的です。主債務者が死亡したときは残債がゼロになりますが、連帯債務者が死亡したとしても残債は減りません。連帯債務者の死亡にも対応したいと考えるなら、夫婦連生団信に加入できる住宅ローンを選ぶか、別途、生命保険に加入する必要があります。
住宅ローンを借りるときは共働きでも、子供が生まれてどちらかが家事や育児に専念するというシチュエーションも考えられます。こういったケースでは、どちらかひとりの収入で2人分の住宅ローンを返済していかなければなりません。
2人分の収入ならば問題なく返済できた住宅ローンでも、収入がひとり分になると、途端に家計が厳しくなるというケースは高い確率で考えられます。また、どちらか一方が他方の名義(夫が妻の名義など)の住宅ローンの返済をすると、贈与税の課税対象となる可能性もあります。加えて、仕事を辞めて家事に専念すると、その人にかかっていた所得税、住民税がゼロになるため、住宅ローン減税も受けられなくなります。
こういった状況に陥るのを避けるために、住宅購入時にライフプランをきちんと考え、それに見合った資金計画を考える必要があります。もし「住宅ローンが払えないかも……」と思ったときには、できるだけ早く金融機関に相談し、返済期間の延長や一定期間の返済額の減額を申し出てみましょう。
メリットが大きくなるのはこんなケース!
- ひとりでは希望の金額を借り入れできない場合
- ひとりで借りるよりも夫婦で借りたほうが、住宅ローン減税の適用金額が大きくなる場合
第一に挙げられるのは、ひとりでは希望の金額を借り入れできない場合。夫婦の収入を合算したり、ペアローンを組むことで、借入可能金額を増やすことができます。借り入れが可能だからといってむやみに高額な住宅ローンを組むのはおすすめできませんが、あと500万円、あと1000万円といった程度であれば、夫婦の収入が安定していることを前提として、積極的に利用するのも賢いといえるでしょう。
もうひとつは、住宅ローン減税の適用金額が、ひとりで借りるよりも夫婦で借りたほうが大きくなる場合です。住宅ローン減税は、毎年の所得税(一部は住民税から)から、毎年末の住宅ローン残高の1%分(一般住宅の場合、上限4000万円、長期優良住宅等の場合、上限5000万円)までが控除される仕組み。例えば、収入自体が少なく、ひとりで住宅ローンを組むと満額の控除を受けられない場合は、夫婦で住宅ローンを組むことにメリットが生まれます。
また、住宅ローン減税の対象となる住宅ローン残高には、一般住宅で4000万円(認定長期優良住宅等の場合は5000万円)という上限があるため、4000万円よりも多く借り入れをする場合は、夫婦で住宅ローンを組むメリットが大きくなるケースがあります。
例えば一般住宅の購入に5000万円の住宅ローンを組んだとしましょう。このときひとりで住宅ローンを組むと、上限の住宅ローン残高が4000万円なので、住宅ローン減税の適用金額は最大40万円です。
一方、ペアローンや連帯債務(収入合算)型で夫婦で住宅ローンを組むと、住宅ローン減税の対象となる住宅ローン残高は夫婦それぞれに割り振られます。ペアローンで、夫婦2500万円ずつの借り入れをしたなら、夫婦それぞれに最大で「2500万円×1%=25万円」の控除が適用され、合計で最大50万円の控除が受けられるわけです(連帯債務(収入合算)型の場合の住宅ローン残高は持ち分に準じます)。
最適な住宅ローンの組み方は人それぞれですが、借入金額の増額と住宅ローン減税の適用額の増額の可能性というメリットを頭に入れ、適切な判断ができるようになっておきましょう。いずれにせよ、住宅ローンを組む際は、今後のライフプランと資金計画をきちんと考えることが大切です。
個人の働き方や収入に多様性が生まれ、住宅ローンの組み方もひとそれぞれになってきています。夫婦が共同で住宅ローンを組むケースも少なくはありません。ひとりだけの収入では審査に落ちてしまうような住宅ローンを組めるため、住宅購入時には魅力的に映るでしょう。
ただし、高額すぎる住宅ローンを組むのは禁物。離婚、死別といった大きな生活の変化が起きたときに苦労するケースがあるからです。ライフスタイルが変化することも念頭に置いて慎重に住宅ローン選びをしてください。
7人の専門家(FP)が教えます!失敗しない住宅ローン
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