人生100年時代のマイホームとライフプラン

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人生100年時代、寿命が延びること自体は喜ばしいことですが、一方で「長い老後、経済的に大丈夫かな」と不安を覚える人も多いのではないでしょうか?今年40歳になるAさんも、その1人。妻と二人暮らしのAさんは、そろそろマイホームが欲しいと思いつつも、老後資金が足りなくなるかもしれないという不安から、購入に踏み切れずにいます。そこで、Aさんはファイナンシャルプランナー(FP)に相談してみることに。人生100年時代にふさわしいマイホーム購入についてアドバイスをもらいました。

01人生100年時代、老後にいくら必要か?

Aさん:今年40歳になり、妻と二人暮らしです。そろそろマイホームを買いたいと思っているのですが、希望するエリアのマンションは5000万円近くします。そんな高額のローンを借りられたとしても、老後資金が足りなくなってしまうのではと心配になってしまい、購入に踏み切れません。少し前に、公的年金だけでは老後資金が2000万円足りないというニュースが話題になりましたが、そもそも、老後資金はどのくらい必要なのでしょうか?

FP必要な老後資金の額は、人によって異なるので一概には言えません。同じ「老後」と言っても、生活費は住んでいる場所や家族構成、健康状態や持ち家か賃貸かなどによっても異なるため、「公的年金だけではとても足りない!」という人もいれば、「公的年金で十分」という人もいます。他人の話に流されず、まずは、自分自身は毎月どのくらいのお金があれば不自由のない生活が送れるのかを検討してみましょう。

参考になるのが、総務省が行っている「家計調査報告」です。2020年の同報告によると、二人以上の世帯で、世帯主が65歳以上の夫婦のみの無職世帯では1カ月の消費支出は平均22万4390円、社会保険料や税金などの非消費支出の平均3万1160円を合わせると1カ月の実支出は平均25万6090円となっています。次の表は同調査結果の項目ごとの内訳です。

世帯主が65歳以上の夫婦のみの無職世帯の1カ月の消費支出内訳

支出項目 平均支出額(月)
食料 6万5804円
住居 1万4518円
光熱・水道 1万9845円
家具・家事用品 1万258円
被服・はきもの 4699円
保険医療 1万6057円
交通・通信 2万6795円
教育 4円
教養娯楽 1万9658円
その他(小遣いなど) 4万6753円
非消費支出(税金など) 3万1160円
25万6090円

出典:総務省家計調査報告(家計収支編)2020年(令和元年)平均結果の概要 P19

Aさん:私の場合、住居を購入するかどうか決まっていないので、この表から住居費を除くと、老後の生活費は夫婦2人で24万1572円となり、月に25万円程度は必要なようです。

FPそうですね。月に25万円ですから、年に約300万円は必要ということになります。仮に65歳で定年して、老後が20年間あるとすると、大まかに見積もって住居費以外に300万円×20年=6000万円が老後資金として必要ということになります。

Aさんは企業にお勤めですので厚生年金を受給予定ですが、2021(令和3)年度の夫婦2人分の老齢基礎年金を含む厚生年金の標準的な受給額は、月に22万496円とされています(※1)。Aさんが仮にこの金額を受給できるとすると1年で約264万円、20年間で約5280万円は公的年金で確保できることになりますが、それでも先ほど試算した老後資金6000万円には720万円も足りません。さらに、年金の受給額が下がる可能性もありますし、高齢期には医療費や介護費など急な出費が発生する可能性も高くなります。

厚生労働省の「平成30年度・国民医療費の概況」によると、65歳以上の1人当たり医療費の平均は年間で73万28700円となっています(※2)。実際に支払う金額は保険適用により1~3割の間になりますが、それでも年間7万~22万円程度の支出が続くことを想定しておく必要があります。また、介護費については、生命保険文化センターの「生命保険に関する全国実態調査/平成30年度」によると住宅改造や介護用ベッドの購入などの一時費用の合計が平均69万円、月々の費用が平均7.8万円となっています(※3)。これらの備えも考えておかなければなりません。

(※1)出典:厚生労働省プレスリリース

(※2)出典:「平成30年度・国民医療費の概況」(厚生労働省)P6

(※3)出典:生命保険に関する全国実態調査/平成30年度(生命保険文化センター)

また、もしマイホームを購入せずに老後も賃貸住宅に住み続けるのであれば、家賃の負担も続くので、不足分はさらに大きくなります。

02老後資金と住宅ローン

Aさん:現在の家賃は月に15万円ですが、将来的に払い続けることは難しいかもしれませんね。

FP:家賃の月額が15万円ですと、1年間に180万円になります。これを老後20年間支払い続けるとすれば、家賃だけで3600万円もかかってしまいます。更新料も別にかかりますし、家賃の値上げもあるかもしれません。

そもそも定年退職して給与収入が無くなり、年金だけの収入になった場合、月々の家賃は大きな負担になります。定期収入が多い現役時代のうちにマイホームを購入し、ローンを完済しておく方が精神的に安心と考える人が多いのも事実です。

一般的な住宅ローンは、80歳までに完済することを融資の条件としているケースが多いので、Aさんも年齢的には返済期間の長いローンを借りることができます。実際、40歳前後で住宅ローンを借りる人は多く、独立行政法人住宅金融支援機構が行った調査(※4)では、2019年度に同機構が提供する住宅ローン「フラット35」の融資を受けた人の平均年齢は、新築マンションが42.1歳、中古マンションが41.6歳、注文住宅が43.3歳、建売住宅が38.9歳となっています。

(※4)出典:「2019年度フラット35利用者調査」P4

40代は一般的に収入が増える時期でもあるので、ローンの返済と老後資金の貯蓄の両立は決して無理なことではなく、むしろ、両立にはベストな時期と言っても過言ではありません。

人生100年時代の長い老後を安心して過ごすためには、少しでも多く老後資金を貯める必要がありますから、老後資金の貯蓄は1日でも早く始めたいもの。「住宅ローンがある程度返済できてから、老後資金を貯めよう」とするのではなく、両立できる予算配分を考える方が賢明でしょう。

03返済のための予算は生活費次第

Aさん:なるほど。でも住宅ローンは審査を受けてみないと、借りられる金額もわからないですし、毎月の返済額もわからないので、どうやって予算を立てれば良いのかわかりません。

FP「返済額がどのくらいになるか」という発想ではなく、「毎月、どのくらいなら無理なく返済できるか」という発想に切り替えると良いですよ。毎月無理なく返済される額を決めて、その返済額で借りられる金額がどのくらいかを金融機関に確認するのです。

Aさんの場合は、毎月15万円の家賃を支払っていますので、マイホームを購入すると、少なくともその15万円の支出は浮くことになります。これをローンの返済に充てれば、これまでと生活水準を大きく変えなくても、マイホームが購入できる可能性があります。

数カ月分の家計簿をつけて収支の「見える化」をするのも、おすすめです。見える化ができたら、先ほどの総務省の「家計調査報告」で、2人以上世帯の平均支出(※)と自分の場合と比較して下記の空欄を埋めてみてください。平均以上に使っているようなら、見直しが必要です。

消費支出の費目別月平均額(2020年、2人以上の世帯)

項目 月平均支出額 自分の場合
食費 8万198円  
住居 1万7374円  
光熱・水道 2万1836円  
家具・家事用品 1万2708円  
被服・履物 9175円  
保険医療 1万4296円  
交通・通信 3万9972円  
教育 1万0293円  
教養娯楽 2万4987円  
その他 4万7088円  

(※)出典:家計調査報告(家計収支編)2020年(令和2年)平均結果の概要P15

支出の無駄を減らすことができれば、その分、住宅ローンの返済に回す金額を増やせる可能性があります。返済可能額の決定は、生活費の見直しとセットで行うと良いですね。

04将来を見据えて住宅取得を

Aさん:40歳でマイホームを購入後、仮に85歳くらいまで生きるとしたら、今後45年間も同じ家に住めるのだろうか、という不安もあります。

FPそうですね。まず、45年間住むことが前提の場合は、年月を経ても快適に安心して暮らせる、耐久性に優れた住宅を選ぶ必要があります。また、家族構成やライフステージに応じて必要な設備や間取りが変わってくる可能性があるので、間取り変更やリフォームがしやすい住宅であるかどうかも、しっかり見極めたいものです。

Aさん:「優れた耐久性」、「リフォームがしやすい」」という条件を兼ね備えた住宅を買えば、長期間安心して、ライフステージの変化にも対応できる家に住めそうですね。しかし、そうした住宅は価格も割高なのではないでしょうか。

FP:確かに割高にはなりますが、一定の基準を満たす住宅は税控除や金利軽減などの優遇措置を受けられるというメリットがあります。例えば、一般の住宅の場合、所得税の住宅ローン控除の対象借入限度額は4000万円で、控除額の上限の目安は年間で40万円です。

しかし、所管の行政庁から認定される「長期優良住宅」であれば、借入限度額は5000万円に引き上げられるので、控除額の上限の目安も年間で50万円となります。それぞれ10年間、一定の要件を満たせば13年間にわたって、より大きな控除を受けられることになります。さらに不動産取得税や登録免許税、固定資産税についても優遇措置がありますし、自治体によっては長期優良住宅を新築する人に補助金を交付するところもあります。

高齢になってからマイホームを住み替えたり建て替えたりするのは、大変ですから、いつまでも安心して快適に住み続けられる住まいを購入することは、老後への備えの1つでもあります。目先の金額だけにとらわれず、長期的な視点に立って、住宅選びをするようにしたいですね。

05大切なのは貯蓄と資産形成

Aさん:住宅の購入も長期的な視点で考える必要がありますね。ところで、一般的には借入期間が35年の住宅ローンが多いようですが、私の場合、定年まであと25年なので、できればその定年前にローンを完済したいと思っています。返済期間を短くするにはどうすれば良いでしょうか?

FP自己資金、頭金が多ければ多いほど、借入金額が少なくて済むので、返済期間を短くすることができます。頭金は一般的には購入金額の2~3割程度にすることが多いようです。国土交通省の「平成30年住宅市場動向調査(※)」によると、分譲マンションを購入した人の自己資本比率(購入価格に占める頭金の割合)は、34.1%、注文住宅は31.2%、分譲戸建て住宅で21.8%となっています。

(※)出典:国土交通省「平成30年住宅市場動向調査」P24

なお、頭金を増やすと、その分、返済期間が短くなるため、金利分の支払いも少なくて済み、返済総額も抑えることができるメリットもあります。ただし、だからといって貯蓄をすべて頭金に使ってしまうのは適切ではありません。冠婚葬祭や医療費、介護費用など、急な出費への備えとして手元にある程度まとまったお金を残しておく必要があるからです。また、住宅の購入時には購入費用だけでなく、税金や仲介手数料、ローンの契約料などの諸費用がかかります。諸費用はマンションでは購入額の3~5%、注文住宅は10~12%くらいが目安とされていて、原則として現金で支払わねばならないので、頭金とは別に用意しておく必要があることにも注意が必要です。

また、住宅ローンを返済しつつ貯蓄をして、まとまった金額が溜まったら、繰り上げ返済をすることで、返済期間を短縮することもできます。住宅ローンの返済があるなしに関わらず、とにかく、貯蓄は資産形成の基本です。定期的な収入がある現役時代に貯蓄に励み、マイホームを含む資産を築いておくことが、何よりの「老後への備え」になるはずです。

06予算、借入可能額、毎月の返済金額から住宅ローンを試算してみよう

Aさん:これまで住宅購入と老後への備えを別々に考えていましたが、住宅購入も老後の備えの一環と考えると、住宅購入に前向きになれそうです。さっそく、住宅ローン選びをしたいのですが、まずは何から始めればいいでしょうか?

FP複数の金融機関の住宅ローンを比較検討して、自分の条件に合うローンを選ぶのが基本ですが、実際に複数の金融機関に行って話を聞くのは大変ですよね。金融機関に問い合わせる前に、オンラインのシミュレーションサービスで借入可能額や毎月の返済額の目安を確認すると、より効率的にローン探しができます。

いろいろなサイトがありますが、例えば「スゴい住宅ローン探し」の住宅ローンシミュレーションでは、「住宅購入予算」「借入可能額」「毎月の返済額」の3つのシミュレーションができます。いずれも必要事項を入力すれば、その場で金額の目安がわかる優れものです。Aさんの場合なら、今の家賃と同じ負担でどのくらい借りられるのかがわかる「借入可能額シミュレーション」から、試してみてはいかがでしょうか。また、3つのシミュレーションのほかに「老後のお金シミュレーション」もあり、老後の収支の試算もできます。

住宅の購入も、住宅ローン選びも、ほとんどの人にとって初めての経験です。自己判断に頼らず、今回私に相談してくださったように、いろいろな専門家の力を上手に借りて、自分のライフプランに適したローンを選ぶようにしてください。

相山華子

監修:相山華子

ライター、OFFICE-Hai代表、2級ファイナンシャル・プランニング技能士

プロフィール

1997年慶應義塾大学卒業後、山口放送株式会社(NNN系列)に入社し、テレビ報道部記者として各地を取材。99 年、担当したシリーズ「自然の便り」で日本民間放送連盟賞(放送活動部門)受賞。同社退社後、2002 年から拠点を東京に移し、フリーランスのライターとして活動。各種ウェブメディア、企業広報誌などで主にインタビュー記事を担当するほか、外資系企業のための日本語コンテンツ監修も手掛ける。20代で不動産を購入したのを機に、FP(2級ファイナンシャル・プランニング技能士)の資格を取得。金融関係の記事の執筆も多い。

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