ペアローンを使う人が増えている?

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妻と共働きのMさんは30歳。まもなく子どもが産まれることもあり、マイホームの取得を検討中です。出産後、妻は仕事に復帰する予定です。知人からマイホーム取得時にペアローンを使う人が増えていて、住宅ローンの借入額も多くなるという話を聞き、ペアローンについて調べてみることにしました。

01ペアローンとは?

ペアローンとは、一つの物件に対して、一定の収入がある複数の人がそれぞれに住宅ローンを契約し、互いに連帯保証人になる方法のことです。多くは夫婦での契約を想定しているようですが、金融機関によっては同性パートナーや親子でのペアローン契約が可能な場合もあります。

Mさんがペアローンを利用する場合は、Mさんと妻がそれぞれ独立した住宅ローン契約を結ぶことになるので、借入額や借入期間などの条件は個別に決められることが分かりました。

ペアローンを組むことで借入額を増やすことができ、物件の選択肢も広がりそうです。

ペアローン利用者が増えている背景

ペアローンが増えている背景には、借入額が増えるというメリットのほかに、社会の変化もありそうです。

内閣府の男女共同参画白書・平成30年版によると、1980年以降、共働き世帯は年々増加しており、1997年以降は、男性雇用者と無業(非就業者)の妻から成る世帯数を共働きの世帯数が上回るようになっています(※1)。

また、2019年に内閣府が行った「男女共同参画社会に関する世論調査では、「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」という性別による役割分担意識について、賛成は35.0%で過去最少となり、「反対」が59.8%と過去最多となりました(※2)。性別によって役割分担を固定する必要はないという意識が定着ししつつあり、男性も女性も共に働く形が一般的になってきたこともペアローン増加の後押しをしているようです。

出典(※1):内閣府男女共同参画局男女共同参画白書(概要版)平成30年版I-3-4図

出典(※2):2019年度男女共同参画に関する世論調査の結果

親子リレーローンとの違い

Mさんがペアローンについて調べていると、ペアローンと同じように「2人で協力してローンを返す」、親子リレーローンというものがあることがわかりました。

ペアローンが、二つの住宅ローンをそれぞれが契約して、2人で返済していくのに対して、親子リレーローンはひとつの物件について親子が一つの住宅ローンを契約し、親子2代でリレーのようにローンの受け渡しをして返済していくものです。

ペアローンの加入時や完済時の年齢の条件は、一般の住宅ローンとほぼ同じですが、親子リレーローンには借入時の年齢制限があることが多く、金融機関によって異なりますが、親が70歳以下で、子が20歳以上であるなどの条件が設けられています。

また、住宅ローンの返済中に債務者に万が一のことがあった場合、保険金により残りの住宅ローンが弁済される団体信用生命保険(団信)の加入についても違いがあります。ペアローンでは夫婦がそれぞれ団信に加入するのに対し、親子リレーローンは親か子のどちらかが団信に加入しますが、一般的には子が加入条件となっているものが多いようです。また、金融機関によっては、親子両方が団信への加入を求められることもあるようです。

いずれにしても、今のMさんには直接の関係はなさそうです。

「収入合算」との違い

Mさんは希望金額を単独では借りられない人に向けた「収入合算」いう方法を見つけました。借入額を増やせる点でペアローンと似ていますが、契約する住宅ローンの本数などいくつかの違いがあるようです。

収入合算は、主債務者(申込者本人)の収入と、一定の要件を満たす家族(1名)の収入を合算することで審査対象の収入を増やし、借入額を増やすことができるものです。ローン契約は1本なので事務手数料や印紙代などの諸費用も1本分ですみます。

なるほど、ペアローンの場合はそうした費用が2本分かかるのだなと、Mさんはメモを取りました。

収入合算には連帯債務型と連帯保証型があり、連帯債務型の収入合算では例えば夫婦であればどちらかが住宅ローンの主債務者となり住宅ローンを借り、もう一人は連帯債務者としてその住宅ローンを借り入れます。連帯債務者は主債務者と同等の返済義務を負いますが、主債務者とともに住宅ローン控除を利用できます。団信には主債務者は加入することができますが連帯債務者の加入の可否は金融機関や商品より異なります。

一方で、連帯保証型の場合は、夫婦のどちらかが主債務者となり、もう一人は連帯保証人となり、主債務者が返済できないときに、もう一人が連帯保証人として返済を肩代わりします。住宅ローン控除を受けられるのは主債務者のみで、団信に加入できるのも同様です。

ほとんどの収入合算は連帯保証型ですが、独立行政法人住宅金融支援機構が、民間の金融機関と提携して提供している住宅ローン・フラット35の収入合算は、連帯債務型です。

ペアローン、親子リレーローン、収入合算のなかでも注目されているフラット35の収入合算を比較してみました。

ペアローン、親子リレーローン、フラット35の収入合算の比較

  ペアローン 親子リレーローン フラット35の収入合算
契約する人数 主に夫婦2人 主に親子2人 主債務者
契約する住宅ローンの数 2本 1本 1本
返済 夫も妻も同時に返済を始める まずは親が返済をはじめ、その期間は子が返済する必要はない 主債務者が返済
住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除) 夫婦それぞれに適用される 親と子がそれぞれの持ち分に応じて適用される 主債務者と連帯債務者にそれぞれ適用される。
団体信用生命保険(団信) 夫も妻もそれぞれに加入する 親か子のどちらかが加入するが、子が加入条件となっているものが多い 任意。加入する場合は主債務者

02ペアローンのメリットとデメリット

Mさん夫婦は3つの方法の中から夫婦が同時に返済を始めるペアローンを検討することにし、そのメリットとデメリットを整理することにしました。

ペアローンのメリット

ペアローンには以下のようなメリットがあります。

借入額が増やせ物件の選択肢も広がる

Mさんにとってペアローンの最も大きなメリットは単独で借り入れるより、借入額を増やせることです。購入できる物件の選択肢が増えて、より利便性の高い地域に住むことも現実的に思えてきました。

夫婦それぞれに住宅ローン控除が適用される

住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)は、要件を満たした場合、対象の住宅に住み始めてから今なら13年間、ローン残高の1%分の税金が控除される制度です。Mさん夫婦それぞれが住宅ローンを組むので、住宅ローン控除はそれぞれ適用され、節税効果が大きくなります。親子リレーローンや収入合算の連帯保証型では住宅ローン控除の適用は主債務者だけです。

夫婦ともに団信に加入できる

ペアローンでは債務者であるMさんと妻のそれぞれが団信に加入できるので、夫婦のいずれかに万一のことが起こった場合、いずれかの債務が弁済されます。幸いMさん夫妻は健康には問題なく、団信の加入も心配はなさそうです。

ペアローンのデメリット

一方でペアローンには以下のようなデメリットもあります。

費用の負担が増える

Mさんと妻がそれぞれにローンを組むことになるため、事務取扱手数料、印紙税、保証料抵当権設定費用などがそれぞれの契約ごとにかかります。

万一の場合には備えが必要

団信に二人が加入できるのはペアローンのメリットですが、注意しておかなければならないこともあります。
仮にMさんが亡くなれば団信の契約によりMさんの住宅ローンは無くなりますが、妻は自分の住宅ローンを引き続き返済していかなければなりません。妻が亡くなった場合も同様です。

債務者の死亡により全額が償還される単独での住宅ローンとは違うことを理解しておく必要があります。

ペアローンを設定する際には、それぞれの収入に合わせ、無理のない返済ができるローンを組んでいるはずですが、パートナーいなくなると、生活が変わってしまうことは容易に想像できます。今まではMさんと分担していた生活費を妻1人でまかなうことになり、自分の分の返済が難しくならないとも限りません。自分たちの経済状況に合わせ、民間の保険に加入するなどの備えをしておくことも必要かもしれません。

離婚した場合にも返済が残る

Mさんと妻が不幸にも離婚することになってしまったら、物件を売却しローンを完済できればよいのですが、それでも債務が残ったときや、どちらかが物件に住み続ける必要があって売れない場合などは、返済が困難になります。

離婚しても2人で所有し、ローンをそれぞれに返済することもできるようです。しかし自分が債務者であり、なお相手の連帯保証人であるということは離婚しても変わらないため、相手の返済が滞った場合には自分に返済義務が課せられることになります。

自分たち二人にそんなことはないだろうと思いつつも、少し不安を感じるMさんでした。

03ローンの割合と持ち分

Mさんは二人のローンの割合をどうしたらよいのか調べてみました。夫婦それぞれの借入額の比率と、物件の持ち分(所有権)比率を合わせるというのが一般的なようです。

例えば4000万円の物件を、Mさんが2000万円・妻が2000万円のペアローンをそれぞれ組んで購入する場合に、持ち分比率を夫50%、妻50%にするということです。

Mさんが3000万円、妻が1000万円のペアローンなら、持ち分比率はMさん75%、妻25%となります。

持ち分比率は必ずしも、ローンの借入額の比率と同じでなければならないわけではありません。しかし住宅ローンの負担の割合と持ち分の割合が違うと、どちらか一方が相手へ利益の供与をしたとみなされ、相手方は比率に応じた贈与税を払わなければならなくなる可能性があるので注意が必要です。

また、住宅ローン控除を受けるためには建物の所有が条件です。どちらかが土地の所有者でどちらかが建物の所有者である場合には、土地しか所有していない人には住宅ローン控除が適用されません。

現時点では、Mさん夫婦にはそれぞれ継続的な収入があり、出産や育児休暇の後にも妻が仕事に復帰できること、夫婦が共に団信に加入できる健康状態であることなどから、ペアローンを住宅購入の一つの手段として検討できそうです。 ただし、自分が債務者であるとともに相手の連帯責任者でもあることから、Mさん夫婦が将来的に円満で健康であることも大切な要件になってきそうです。

相山華子

監修:相山華子

ライター、OFFICE-Hai代表、2級ファイナンシャル・プランニング技能士

プロフィール

1997年慶應義塾大学卒業後、山口放送株式会社(NNN系列)に入社し、テレビ報道部記者として各地を取材。99 年、担当したシリーズ「自然の便り」で日本民間放送連盟賞(放送活動部門)受賞。同社退社後、2002 年から拠点を東京に移し、フリーランスのライターとして活動。各種ウェブメディア、企業広報誌などで主にインタビュー記事を担当するほか、外資系企業のための日本語コンテンツ監修も手掛ける。20代で不動産を購入したのを機に、FP(2級ファイナンシャル・プランニング技能士)の資格を取得。金融関係の記事の執筆も多い。

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