持ち家か賃貸か、コロナ禍の状況で考える

11

持ち家と賃貸のどちらが得か?多くの人を悩ませるこの問題ですが、妻と子どもがいる35歳の Aさんも、賃貸に住み続けるかマイホームを購入するかで、ここ数年悩んできました。答えが出せないまま、新型コロナウイルス拡大の影響もあり、さらに判断に悩むようになりました。ある日、友人からファイナンシャルプランナーを紹介してもらい、話を聞いてもらうことになりました。

01コロナ禍でも住宅購入の検討に大きな影響はない

Aさんは賃貸、持ち家のどちらが良いのかを考えてきました。勤務する会社は、コロナ禍の中でも何とか順調に業績を伸ばしています。それでも、将来は不透明で、住まいをどうするべきかの判断はしづらいと考えています。

Aさんはまず、ファイナンシャルプランナーに住宅購入に関心のある人たちはどう考えているかを尋ね、その結果を参考にしたいと思いました。

ファイナンシャルプランナーは、相談に来る人たちの数に変化はなくコロナ禍で意識が変わったとは思わないと言い、アンケートに基づく調査データを見せながら説明してくれました。

株式会社リクルート住まいカンパニーが2020年5月に行った「住宅購入・建築検討者調査」では、新型コロナウイルスの感染拡大による住まい探しの検討への影響を尋ねています。それによると、「検討への影響はない」は42%、「検討が抑制された」は36%、「検討が促進された」は22%という結果となっています。全体で見ると、住宅購入の検討にコロナ禍は大きな影響を与えていないようです。

コロナ禍による住まい探しの検討への影響

検討への影響はない 42%
検討が抑制された 36%
検討が促進された 22%

出典:リクルート住まいカンパニー「住宅購入・建築検討者調査」P4

02コロナ禍でも購入の検討に変化なしの背景

Aさんは、購入の検討に変化がないという調査結果を聞くと少し驚いた様子です。そうした意識の背景には何があるのでしょうか。

ファイナンシャルプランナーは、持ち家を志向する人には、従来から「家賃を払うのがもったいない」という考え方が根強くあると話し、不動産流通経営協会が行った調査で、住宅を購入した理由として、「家賃を払い続けるのがもったいないから」と答えた人が、全体の54.5%に上っていると教えてくれました(※)。

住宅を購入した理由

家賃を払い続けるのはもったいないから 54.5%
住宅を購入しておいた方が、結婚、子どもの成長などに良いと思うから 24.0%
持ち家のほうが自由に使えて気兼ねがないから 22.0%
もっと広い家に住みたかったから 19.8%
金利が低く買い時だと思ったから 18.8%
結婚を機に、家を持ちたかったから/家を買い替えたかったから 18.5%
家を持つのが夢だから 15.3%
購入する前の住居費が高くてもったいないから 13.8%
持ち家のほうが住宅の質が良いから/住宅の質を高めたいから 12.3%
(子どもが出ていって)購入する前の家の広さや設備などが最適ではなくなったから 11.0%
購入した方が、家賃と比べて、月々の支払いが安くなるから 10.4%
老後の安心のため、家を持ちたかったから/家を買い替えたかったから 10.3%
もっと住宅の仕様が良い家に住みたかったから 10.3%
以下略  

(※)出典:一般社団法人不動産流通経営協会「50㎡未満の住宅の居住満足度・住宅購入がライフスタイルに与える影響に関する調査(平成30年)」

住宅を購入した理由の上位には、「住宅を購入する前の住居費が高くてもったいないから」(13.8%)、「購入した方が、家賃と比べて月々の支払いが安くなるから」(10.4%)という回答があり、賃貸よりも持ち家の方がコストの無駄を省けると考える層の厚さが見て取れると言います。

また、ファイナンシャルプランナーは、住宅購入の相談に来る人とローンの返済について話していると、「住宅は買わなくても住まいは必要で、結局、家賃は払うわけですからね」と言われることも多いと言います。コロナ禍であろうがなかろうが、どこかに住むためには賃貸では家賃が必要、購入するには住宅ローンの返済が必要。そこは同じではないかという意識があるようだとのことです。Aさんは、それはかなり説得力のある話だなとうなずきました。

03住宅購入で重視するものには変化が

購入の意欲とは少し違う話ですが、と前置きしてファイナンシャルプランナーは住宅購入にあたっての意識にはコロナ禍前とは変化が見られると教えてくれました。前述のリクルート住まいカンパニーの調査では、広さと駅からの距離のどちらを重視するかを尋ねたところ、前回2019 年12月(コロナ禍の前)の調査と比較すると広さを重視する人が増え、駅からの距離を重視する人が減少しました(※)。コロナ禍をきっかけに在宅での仕事が増えたことが影響しているようです。

広さと駅からの距離の重視意向

2019年12月調査 今回調査 前回調査比
絶対広さ 11% 12% +1ポイント
どちらかといえば広さ 31% 40% +9ポイント
どちらでもよい 18% 18%
どちらかといえば駅からの距離 35% 25% -10ポイント
絶対駅からの距離 5% 5%

※出典:リクルート住まいカンパニー「住宅購入・建築検討者調査」P10

04持ち家と賃貸のメリットとデメリット

ここまで、コロナ禍でも住宅購入の検討についての変化がないことの背景などを教えてもらったAさんは、あらためてファイナンシャルプランナーに持ち家と賃貸のメリットとデメリットを尋ねてみました。

すると、ファイナンシャルプランナーは比較表を見せてくれました。

持ち家と賃貸のメリット・デメリット

  持ち家 賃貸
メリット ・自分や家族の資産になる
・税に関する軽減措置が受けられる
・家族の変化(居住人数の増減・親の老化など)に合わせたリフォームやDIYが自由
・住み替えが気軽にできる
・多額の初期費用がかからない
・修繕費の負担がない
デメリット ・購入する際に、まとまった初期費用が必要
・気軽に引っ越せなくなる
・修繕費は自分で負担しなければならない
・一生家賃を払っても資産にならない
・リフォームやDIYができない
・老後の不安(高齢者だと契約が結べない物件がある)

賃貸のメリットは、生きている間のライフイベントに合わせて住み替えがしやすい点です。購入する場合に比べて、修繕費を出す必要はありませんし、住み始めるときにかかる初期費用も数十万円で済みます。

持ち家のメリットは、初期費用は賃貸に比べて高額になりますが、住宅ローンの支払いを終えれば、家がそのまま資産になるという点です。

ファイナンシャルプランナーは「ここで気をつけて欲しいのは、なんとなくこちらの方が良さそうだと、感覚で判断しないこと。持ち家と賃貸では必要なコストが異なるため、長期的なランニングコストを比較してみなければ、自分にとってメリットが高い方を正しく選ぶことはできません」と言います。

そして、持ち家の取得と比較すると、イメージしづらい賃貸にかかるコストをざっと計算してくれました。

仮に、月々の家賃が10万円かかる家に50年間住んだとすると、総額はおよそ6880万円になりました。

賃貸住宅にかかるコストの内訳

初期費用:仲介手数料、敷金・礼金(各1カ月分) 30万円
家賃 6000万円
月々の管理費(1万円と想定) 600万円
更新料(家賃1カ月分・2年更新) 250万円
総額 6880万円

相談者のAさんは、想像以上にコストがかかることに驚きました。子どもがまだ小さく、今後は教育費や自分たち夫婦の老後のお金などさまざまな出費が予想されます。

Aさんは「約7000万円も支払うことになるのなら、家を買った方が得かな?」と率直な感想を口にしました。収入が安定しているうちに住宅ローンを組んで早めに完済すれば、老後の暮らしが楽になるかもしれないと、数字を見て思ったのです。

そこで、もっと具体的なコストを把握するために、住宅購入にかかる費用も計算してみたいと考えました。

05住宅ローンを試算してコストを把握

Aさんは「今払っている月10万円の家賃を住宅ローンの支払いに充てるとしたら、どれくらいの家が買えるのだろう?」と考え、ファイナンシャルプランナーに試算を依頼しました。

住宅ローンの試算は、借入可能額の算出や予算組み、金利の支払い方法についてなど、事前に学び、確認しておいた方が良いことがあり、正確な数字を知るためにはプロにお願いしたいところです。

Aさんは友人の紹介があり、気軽にファイナンシャルプランナーに相談することができましたが、家の購入が決まっていないうちからプロに頼むことをためらう人も多いでしょう。

そこでおすすめしたいのが「スゴい住宅ローン探し」の「住宅ローンシミュレーション」です。

このシミュレーションでは、以下の4つの目的別に、簡単な操作で結果を確かめることができます。

  • 住宅購入予算シミュレーター:予算組みで悩んでいる人向け
  • 借入可能額シミュレーター:今支払っている家賃から購入できる家の価格を考えたい人向け
  • 毎月の返済額シミュレーター:毎月の返済額を具体的に把握したい人向け
  • 老後のお金シミュレーション:老後を安心に暮らしたい人向け

ただしファイナンシャルプランナーは、コスト面だけを見て持ち家か賃貸かの判断をするべきではないと話します。それぞれのライフスタイルや、ローンを組むことへの抵抗など精神的な面も考慮する必要もあるからだと言うのがその理由です。

それでも、住まいにかかわるコストを把握しておくことは、今後のライフプランを考えるうえで重要なポイントになります。

購入する方向に気持ちが傾いてきたAさんは、あらためて住宅の取得について検討を一歩進めていきたいと考えています。

相山華子

監修:相山華子

ライター、OFFICE-Hai代表、2級ファイナンシャル・プランニング技能士

プロフィール

1997年慶應義塾大学卒業後、山口放送株式会社(NNN系列)に入社し、テレビ報道部記者として各地を取材。99 年、担当したシリーズ「自然の便り」で日本民間放送連盟賞(放送活動部門)受賞。同社退社後、2002 年から拠点を東京に移し、フリーランスのライターとして活動。各種ウェブメディア、企業広報誌などで主にインタビュー記事を担当するほか、外資系企業のための日本語コンテンツ監修も手掛ける。20代で不動産を購入したのを機に、FP(2級ファイナンシャル・プランニング技能士)の資格を取得。金融関係の記事の執筆も多い。

この特集の他の記事

ご利用上の注意

  • 本記事は情報の提供を目的としています。本記事は、特定の商品の売買、投資等の勧誘を目的としたものではありません。本記事の内容及び本記事にてご紹介する商品のご購入、取引条件の詳細等については、利用者ご自身で、各商品の販売者、取扱業者等に直接お問い合わせください。
  • 当社は本記事にて紹介する商品、取引等に関し、何ら当事者または代理人となるものではなく、利用者及び各事業者のいずれに対しても、契約締結の代理、媒介、斡旋等を行いません。したがって、利用者と各事業者との契約の成否、内容または履行等に関し、当社は一切責任を負わないものとします。
  • 当社は、本記事において提供する情報の内容の正確性・妥当性・適法性・目的適合性その他のあらゆる事項について保証せず、利用者がこれらの情報に関連し損害を被った場合にも一切の責任を負わないものとします。本記事には、他社・他の機関のサイトへのリンクが設置される場合がありますが、当社はこれらリンク先サイトの内容について一切関知せず、何らの責任を負わないものとします。本記事のご利用に当たっては上記注意事項をご了承いただいたものとします。

0