一般団信とはどう違う?保障の範囲が広がる「特定疾病保障特約付き団信」
ファイナンシャルプランナーのK氏は最近、特定疾病保障特約付きの団体信用生命保険(団信)に関する相談が増えてきたと言います。住宅ローンの返済中に万が一のことがあった場合、保険金により残債が弁済される団信はほとんどの住宅ローンで加入が求められますが、一般的な団信と比べて保障の範囲が広がるといわれる、特定疾病保障特約付きの団信とはどういったものなのか、K氏に解説してもらいましょう。
01そもそも、団体信用生命保険(団信)とは?
―住宅ローンを借りる際に団信への加入が義務付けられているケースが多いようですが、そもそも団信とは何なのでしょうか?なぜ、加入する必要があるのですか?
K氏:住宅ローンは返済期間が数十年もの長期にわたることが多いですが、返済期間中、利用者がずっと元気で働き続けられるとは限りません。最悪の場合、返済期間中に利用者が病気や事故で亡くなったり、身体に障害を負ったりするケースも考えられます。住宅ローンを組む際、対象となる住宅にはローンの貸主である金融機関の抵当権が設定されるので、例えば利用者が障害を負って働けなくなり、ローンの返済が滞ってしまうと、住宅は競売にかけられ住み続けることができなくなってしまいます。
また、ローン利用者本人が死亡して相続が発生した場合は、原則として住宅ローンも遺族に相続され、遺族に大きな経済的負担を強いてしまうことになりますし、遺族に返済能力がない場合は、やはり遺族が住み続けることもできなくなってしまいます。
こうした事態を防ぐための保険が、団体信用生命保険、通称「団信」です。団信に加入すると、住宅ローンの利用者が返済中に万が一死亡したり重度の身体障害を負ったりして返済ができなくなってしまった場合、生命保険会社からローンの貸主である金融機関にローン残債相当額の保険金が支払われるので、家族は住宅に住み続けることができるのです。
02相談者は団信を知らない人から専門家顔負けの人までさまざま
―団信に関する相談は、どんな人から受けることが多いですか?
K氏:団信についてほとんど何も知らない方から、驚くほど詳しい方まで、実にいろいろな方から、さまざまなご相談があります。住宅ローンを検討中に初めて団信について知ったという方からは、「団信って何?なぜ入らなくてはいけないの?」という質問が寄せられることが多いですね。
また、最近は死亡時や重度障害を負ったときだけでなく、がんや脳梗塞など特定の病気にかかったときに保障が受けられる特約(特定疾病保障特約)を付けられる団信が増えているので、「特約を付けるべきか」、「付けるならどの特約が良いか」という相談を受けることが増えています。
その他には、「団信の審査に落ちてしまったが、団信に加入せずに借りられる住宅ローンはないだろうか?」、あるいは「団信に入りたいけど、自分の健康状態で入れるかどうか不安です」という相談を受けることもあります。
03病歴によっては、団信の審査に通らないことも
―団信は誰でも加入できるものではないのですね。どんな項目が審査されるのでしょうか?
K氏:団信は生命保険の商品の一つなので、加入するには審査があり、加入できないことも決して珍しくありません。審査項目は各生命保険会社とも公開していませんが、審査時に提出する「告知書」では、以下の項目を確認されることが多いようです。
現在の健康状態
- 現在何らかの疾患の治療中かどうか
- 3カ月以内に医師の診察・検査・治療・投薬を受けたことがあるか
病歴
- 生まれてから今までに悪性新生物の疾患(がん、肉腫、悪性リンパ腫など)と診断されたことがあるか
- 過去3年間に、病気で手術を受けたことや2週間以上の治療を受けたことがあるか
- 聴覚、言語、咀嚼機能などに障害があるか
- 手や足、指に欠損や機能障害があるか
保険会社によって審査基準が異なるので一概には言えませんが、過去に悪性新生物の疾患にかかったことのある人や、現在何らかの病気で治療中の人は審査に落ちてしまう傾向が強いようです。治療中の病気がある人は、治療に専念し、治癒してから改めて団信加入を考えた方が良いかもしれません。
04特定疾病保障特約付き団信とは?
―特定疾病特約には、どんな種類があるのですか?
生命保険会社によって名称や対象の疾患が異なることがありますが、特定疾病保証付き特約には主に次のような種類があります。
- がん保障特約
- 3大疾病(がん、脳卒中、心筋梗塞)特約
- 7大疾病(3大疾病+高血圧性疾患、糖尿病、慢性心不全、肝硬変)特約
- 8大疾病(7大疾病+慢性膵炎)特約
- 9大疾病(8大疾病+ウイルス肝炎)特約
このほか、最近ではすべての疾病が保障対象になる全疾病特約を取り扱う生命保険会社も出てきています。
ただし、いずれの特約も対象の疾病であると診断されただけで保障が受けられるわけではなく、「12カ月以上、就業不能状態が続いたとき」や「180日以上入院したとき」など、各生命保険会社が定める支払い要件を満たした場合にしか保証が受けられないことに注意が必要です。
また、団信に特定疾病特約を付ける場合は、別途、特約が付けられるかどうかの審査も受ける必要があります。
―特約を付けると、保険料はどうなるのですか?
K氏:通常の団信(死亡保障・重度身体障害保障のみの団信)の保険料は一般的には金利に上乗せされますが、金融機関によっては保険料を金融機関側の負担とし、ローン利用者の負担をゼロとしていることも珍しくありません。一方、特約については利用者の負担がゼロであることはまれで、金融機関や特約の種類によって異なりますが、おおむね0.1~0.3%、金利に上乗せする形で保険料を支払う仕組みになっている場合が多いようです。金融機関の中には、金利に上乗せするのではなく、住宅ローンの支払いとは別に保険料を支払う仕組みを採用しているところもあるので、個別に確認することをお勧めします。
―保険料を利用者が負担する場合、生命保険料控除は受けられるのですか?
K氏:先ほど申し上げたとおり、団信の保険金は、ローン利用者やその家族ではなく、ローンの貸主である金融機関に支払われます。生命保険料控除が受けられるのは「保険金等の受取人のすべてが、自己又は自己の配偶者その他の親族」の場合のみとされているため、団信の保険料は生命保険料控除の対象にはなりません。したがって、金融機関が保険料を負担してくれる場合を除いて、団信の保険料や特約料はローン利用者の完全な自己負担となってしまいます。
―保険料の負担をしたくない人や、健康状態に問題があって団信に入れない人もいると思います。団信に入らなくても借りられる住宅ローンはありますか?
K氏:金利が全期間固定型の住宅ローンとしてよく知られている「フラット35」は、団信への加入を任意としていて、義務付けていません。生命保険などの保障が十分にあり、健康状態に不安のある人には心強い制度だといえるでしょう。ただ、フラット35の場合も、一般的な住宅ローンと同じく、ローンの利用者本人に万が一のことがあって返済が滞ってしまうと、住宅は競売にかけられ住み続けることができなくなってしまいますし、残された家族に経済的な負担をかけてしまうことになりかねないので、将来への備えのために団信に加入する人が多いようです。また、団信の加入条件が緩和されているワイド団信への加入の検討や、配偶者の連帯保証を条件に団信未加入でも住宅ローンを認めている金融機関もあることなどを説明するケースもあります。
―一般的な住宅ローンでは加入する団信の種類をローンの貸主である金融機関が指定するケースが多いと聞きました。フラット35の場合は、どんな団信に入れば良いのでしょうか?
K氏:フラット35は独立行政法人住宅金融支援機構と民間の金融機関が提携して提供しており、団信の加入についての取り決めは、窓口となる金融機関によって異なります。金融機関によって団信の種類を指定している場合もありますが、フラット35の利用にあたって団信に入る人は、住宅金融支援機構が提供しているフラット35専用の団信「新機構団信」に加入するケースが多いようです。
「新機構団信」に加入すると、フラット35利用者本人が死亡したとき、または身体障害者福祉法が定める身体障害1級もしくは2級に該当する障害を負って障害者手帳の交付を受けたときに、ローン残高相当分の保険金が住宅金融支援機構に支払われ、残債の返済に充てられます。
ただし、新機構団信が利用できるのは、フラット35の利用要件を満たし、かつ以下の要件を2つとも満たす人のみです。
- 「新機構団体信用生命保険制度申込書兼告知書」の記入日現在、満15歳以上満70歳未満(満70歳の誕生日の前日まで)の人
- 幹事生命保険会社(※)に加入承諾を受けている人
※機構団信に申し込んだ人の加入の許諾や保険金支払い審査を行う生命保険会社で、地域ごとに決められている。フラット35公式HPで確認できる。
―新機構団信に入ると、フラット35の借入金利は高くなるのですか?
K氏:はい。新機構団信の保険料は返済額に盛り込まれる=フラット35の金利に上乗せされるため、新機構団信付きのフラット35は団信なしのフラット35の金利に比べて、2021年3月現在、0.2%高く設定されています。
(参考)新機構団信付きフラット35の金利:1.370~2.170%(返済期間21~35年、融資率9割以下の場合、2021年3月現在)
―新機構団信にも、特定疾病保証付きの特約はありますか?
K氏:3大疾病(がん、急性心筋梗塞、脳卒中)が原因で一定の要件に当てはまる状態になった場合や、公的介護保険制度に定める要介護2から要介護5までのいずれかに該当した場合にも保険金が支払われる、「新3大疾病付機構団信」があります。
新3大疾病機構団信に加入できるのは、フラット35の融資を受ける人で、以下の1と2の要件を両方満たす人です。
- 「新3大疾病付機構団体信用生命保険制度申込書兼告知書」の記入日現在、満15歳以上満51歳未満(満51歳の誕生日の前日まで)の人
- 幹事生命保険会社に加入承諾を受けている人
ただし、新3大疾病の保障が受けられるのは75歳の誕生日の属する月の末日まで。75歳の誕生日の属する月の翌月1日から80歳の誕生日が属する月の末日までは「新機構団信」の保障内容が適用されます。
―「新3大疾病付機構団信」を利用した場合、金利が高くなるのですか?
K氏:はい、新3大疾病付機構団信は、新機構団信よりも保障内容が充実している分、保険料が高くなり、金利も上乗せされる保険料の分だけ、高くなっています。参考までに、2021年3月現在の新3大疾病付機構団信を利用したフラット35の借入金利は、「新機関団信付きのフラット35の金利+0.24%」です。
05特定疾病保障特約は必要?
―フラット35も一般的な住宅ローンも、団信の特定疾病保障特約を付けると、金利が高くなって、月々の返済額や返済総額が高くなってしまうということですよね。それでも特約に入った方が良いのでしょうか?
K氏:団信の加入を義務付けている住宅ローンは多いのですが、特定疾病保障の特約を付けるかどうかは義務ではないので、最終的には個々人の判断次第です。特定疾病保障特約の対象となっている疾病は、がんや脳卒中など、日本人の罹患率が高い疾病ばかり。今は健康な人でも、将来、これらの疾病にかからないという保証はありませんよね。特約を付けるかどうか迷ったときは、闘病しながら住宅ローン返済のプレッシャーに追われる生活ができるかどうか、自分自身の身に置き換えて想像してみてください。その上で、特約料の負担=万が一への備え、と納得できたら、団信に特約を付ける価値は十分にあると思います。もちろん、すでに生命保険で特定疾病などの備えをしているのであれば、コストをかけてまで団信の特定疾病保障特約に入る必要はありません。
注意しておきたいのは、一般的には団信の加入後に特約を後付けすることはできないので、後になって「特約を付けておけばよかった」と後悔しても手遅れになってしまうことです。また、一度付けた特約を途中で解除できない団信もあるため、特約を付けるか否かについては、慎重に判断する必要があります。安易に自己判断せず、ファイナンシャルプランナーなどの専門家や保険会社の担当者に相談し、アドバイスを受けることをお勧めします。
監修:相山華子
ライター、OFFICE-Hai代表、2級ファイナンシャル・プランニング技能士
プロフィール
1997年慶應義塾大学卒業後、山口放送株式会社(NNN系列)に入社し、テレビ報道部記者として各地を取材。99 年、担当したシリーズ「自然の便り」で日本民間放送連盟賞(放送活動部門)受賞。同社退社後、2002 年から拠点を東京に移し、フリーランスのライターとして活動。各種ウェブメディア、企業広報誌などで主にインタビュー記事を担当するほか、外資系企業のための日本語コンテンツ監修も手掛ける。20代で不動産を購入したのを機に、FP(2級ファイナンシャル・プランニング技能士)の資格を取得。金融関係の記事の執筆も多い。
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