はじめての住宅ローン
借り換えると必ず得する…訳ではありません⁉︎
住宅ローン借り換えの注意点 低金利プランへの変更に潜むワナとは
鈴木さや子
株式会社ライフヴェーラ代表、ファイナンシャルプランナー・キャリアコンサルタント
借り換えのメリット・デメリット、注意したほうがいいケースについて解説していきます。
住宅ローンの「借り換え」とは、高い金利で組んでいたローンをより低い金利で組み直すなど、「現在のプランよりも有利な条件で新たに住宅ローンを借り直す」ことを指すのが一般的です。多くの場合、住宅ローンの「総支払額を削減する」ことを目的とし、それまで組んでいた住宅ローンの残債は、新たな住宅ローンで借り入れたお金で一括返済します。
住宅ローン金利の水準が低くなった結果、自分が組んだときよりも低い金利の住宅ローンが登場したり、収入の低下などによって住宅ローンの経済的な負担が重すぎると感じたりしたときなどには、一考の価値があるでしょう。
住宅ローンの借り換えで得られるメリット
- 総支払額や総返済額を減らせる
- 毎月の返済額を減らせる
- 返済期間を短くできる
- 固定金利への借り換えで、将来の金利変動への不安をなくせる
- プランによっては団信保障を充実させられる
一見するとメリットが大きそうな住宅ローンの借り換えですが、注意すべきデメリットもあります。特に注目したいのは「借り換えには手数料・諸費用がかかる」という点です。
住宅ローンを組むときには、事務手数料や抵当権設定費用、印紙税などの諸費用がかかります。金融機関によって金額は異なりますが、借入金額の3%程度が必要になるのが一般的。借り換えのときにも、新たな住宅ローンの借り入れ金額に応じて同様の諸費用がかかります。この手数料・諸費用が借り換えによる経済的負担の軽減効果を大きく減少させてしまうケースがあるのです。
また、新たな住宅ローンの借り入れとすでにある住宅ローンの一括返済を同時に行わなければならないため、手続きも煩雑になります。新たな住宅ローンの事前審査、本審査の申し込みと通過、借入中の住宅ローンの一括返済の申し込み、新たな住宅ローンの融資実行と借入中の住宅ローンの完済というステップを踏まなければなりません。
すべての手続きにおいて多くの書類を揃える必要があり、その手間はかなりのものです。スムーズに進んでも1カ月程度はかかると考えたほうがいいでしょう。ネット銀行の場合は、書類不備により何度も郵送のやり取りが発生する可能性があり、さらに時間がかかることも。窓口がある金融機関を利用する場合でも、平日に出向かなければならないため、なかなか休みを取れない人は手続きが長期にわたってしまうこともあります。
住宅ローンの借り換えに伴うデメリット
- 手数料・諸費用がかかる
- 完済に伴う諸費用:全額繰り上げ返済手数料・登記抹消手続きにかかる費用など
- 借入に伴う諸費用:保証料・事務手数料・抵当権設定費用・印紙税
- 煩雑な手続きが必要
住宅ローンの借り換えに一定の制約を設けている金融機関もあります。もし借り換えを検討しているなら、スムーズに進められるかを自分が借り入れている金融機関へ事前に確認してみましょう。借り換えの際には2つの金融機関と同時に手続きを進めなければならないので、時間に余裕を持って取り組むことが必要です。
借り換えをすると総支払額・総返済額は減少するものの、それに伴って発生する手間を考えると効果が見合わないと感じられる場合が多々あるのです。また、総返済額を減らすことを重視して返済期間を短縮した結果、毎月の返済額の負担が大きくなりすぎてしまうケースもあります。
借り換えを検討するときに注意したほうがいい、代表的なケースを紹介していきましょう。
完済までの期間が短い・返済残高が少ない場合には、借り換えによるメリットは減少します。つまり、借り換えによるデメリットが相対的に大きくなるということです。「手間と時間をかけた割には期待したほどの効果がなかった」という結果に陥りがちなので注意が必要です。
【住宅ローンの借り換えの条件】
- 完済までの期間:8年
- 元金残高:1200万円
- 借り換えによる金利の変化:金利1.60%から0.57%
借り換え
シミュレーション
-
- 借り換え前
- 総返済額:12,800,000円
- 毎月の返済額:133,253円
-
- 借り換え後
- 総返済額:12,283,000円
- 毎月の返済額:127,901円
手数料諸費用:434,000円
- 内訳
- 抵当権設定・抹消費用:120,000円
- 事務手数料等:264,000円
- 登記関連費用等:30,000円
- 印紙税:20,000円
合計12,717,000円
-
- 借り換えによる
負担軽減効果 - -83,000円
- 借り換えによる
※金額はシミュレーションによる概算です。実際の場合とは異なる場合があります。
シミュレーションの結果、住宅ローンの総返済額は1280万円から1228万3000円となり、51万7000円を削減できました。ただし、借り換えのための手数料・諸費用が43万4000円かかっており、借り換えによる負担軽減効果は8万3000円にとどまります。毎月の返済額は5000円程度しか削減できない計算です。
「8万3000円」「毎月5000円」という金額を大きいと取るか小さいと取るかは個人の判断になりますが、思ったよりも効果が薄いと感じた人も多いのではないでしょうか。完済までの期間が短く、返済残高が少ないケースでは「労多くして功少なし」となってしまうことも考えられます。
借り換え前後の金利の差が小さい場合も慎重な判断が求められます。借り換えは基本的に、金利の安いプランに住宅ローンを切り替えることで総支払額・総返済額の削減を目的とするもの。借り換え前後の金利差が小さければ、相対的にデメリットが大きくなってしまいます。
【住宅ローンの借り換えの条件】
- 完済までの期間:30年
- 元金残高:3000万円
- 借り換えによる金利の変化:金利0.775%から0.57%
借り換え
シミュレーション
-
- 借り換え前
- 総返済額:33,630,000円
- 毎月の返済額:93,422円
-
- 借り換え後
- 総返済額:32,655,500円
- 毎月の返済額:90,681円
手数料諸費用:900,000円
- 内訳
- 抵当権設定・抹消費用:190,000円
- 事務手数料等:660,000円
- 登記関連費用等:30,000円
- 印紙税:20,000円
合計33,555,500円
-
- 借り換えによる
負担軽減効果 - -74,500円
- 借り換えによる
※金額はシミュレーションによる概算です。実際の場合とは異なる場合があります。
借り換えによって住宅ローンの総返済額は3363万円から3265万5500円になり、97万5000円の負担軽減が実現しました。しかし、手数料・諸費用に90万円がかかるため、借り換えによる負担軽減効果は7万5000円にとどまっています。毎月の返済額は約3000円しか減りません。このような場合も手間をかけた割に効果が少ないと感じる人が多いかもしれません。
現在の住宅ローンが住宅ローン減税(控除)の適用期間内にある場合は、控除額との兼ね合いも考えたほうがいいでしょう。住宅ローン減税の控除額は毎年末の住宅ローンの残高と連動しているため、借り換えによって住宅ローン残高が減ると控除額も減ってしまうのです。
「控除が減る」ということは「経済的な負担が増える」ということです。多くの場合は数千円程度の減額になるのですが、上記の例のように負担軽減効果が数万円程度の場合は、借り換えによるメリットを大きく損ねてしまう結果になります。
また、新しい住宅ローンの返済期間が10年未満の場合には住宅ローン減税の適用期間中であったとしても、控除を受けられなくなります。
住宅ローンの借り換えをする際に、返済期間の短縮を同時に検討する人も少なくありません。借り換えによって総返済額が減った分、返済期間を短くできると考えるのです。返済期間を短縮すると利息の支払いも減り、総返済額はさらに減少します。
このとき注意しなければならないのは、毎月の返済額が大幅に増えてしまう可能性があることです。借り換えによる総合的な経済的負担の軽減と、毎月の家計負担のバランスをしっかりと見極める必要があります。
【住宅ローンの借り換えの条件】
- 完済までの期間:30年から20年に変更
- 元金残高:3000万円
- 借り換えによる金利の変化:金利0.775%から0.57%(完済までの20年間)
借り換え
シミュレーション
-
- 借り換え前
- 総返済額:33,630,000円
- 毎月の返済額:93,400円
-
- 借り換え後
- 総返済額:31,760,000円
- 毎月の返済額:132,300円
手数料諸費用:900,000円
- 内訳
- 抵当権設定・抹消費用:190,000円
- 事務手数料等:660,000円
- 登記関連費用等:30,000円
- 印紙税:20,000円
合計33,555,500円
-
- 借り換えによる
負担軽減効果 - -970,000円
- 借り換えによる
※金額はシミュレーションによる概算です。実際の場合とは異なる場合があります。
このケースでは返済総額は97万円も少なくなり、借り換えによるメリットが大きいように感じます。ただし、返済期間を短縮し、完済までの期間を30年間から20年間した結果、毎月の返済額が9万3400円から13万2300円へと約4万円も増えています。
住宅ローンの借り換えをする前に、まずは現在、住宅ローンを組んでいる金融機関に金利の引き下げを相談してみるのも賢い方法です。借り換えを検討している旨と借り換え後の返済プランを提示しながら相談すると、場合によっては金利の引き下げに応じてくれることがあります。労力は少しかかりますが、事前審査まで通してから相談するとより効果的です。
- 総支払額、総返済額をどの程度減らせるのか
- 毎月の返済額がどのように変動するのか
- 住宅ローン減税(控除)の節税効果がどのように変動するのか
- 借り換えにかける手間が、経済的な負担効果に見合うのか
なお、総支払額・総返済額・毎月の返済額に影響する、金利や手数料・諸費用は金融機関によって異なります。借り換えにあたっては、自分が最も有利な条件で住宅ローンを組める金融機関を選ぶことも大切な作業です。あとになって「こんなはずではなかったのに…」とならないよう、しっかりと吟味・検討を重ねてから借り換えは実施してください。
住宅ローンの借り換え時に大切なのは、総返済額の減少だけに着目しないことです。借り換えをする際には、手数料・諸費用が発生するため、経済的な負担が思ったより軽くならないケースが多々あるのです。総返済額+手数料・諸費用を総合的に計算して、借り換えをすべきか判断する必要があります。
また、借り換えに必要な手続きにかかる時間的コストもあわせて検討したほうがいいでしょう。借り換えには、新規の借入れと同等以上の手間がかかります。手間だけがかかって効果が薄いという結果にならないように慎重に判断したいところです。
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