年収700万円の住宅ローン、適正な組み方は?借入額や頭金、返済計画を解説
年収700万円あれば、住宅ローンの借り入れはできるとわかっていても、いくらぐらいまで借り入れできるか知っている人は少ないでしょう。また一般的に高収入といわれる年収700万円でも、月々の返済額を無理のない額に押さえておかないと、家計が破綻する恐れもあります。 そこでこの記事では、年収700万円での借入可能額や頭金、さらに無理のない返済計画をシミュレーションしてみました。具体的な数字で知ることで、住宅ローンの返済イメージを掴んでみましょう。
01世帯年収700万円で住宅ローンはいくら組める?
「世帯年収700万円なら、どのくらい借り入れできる?」「月々の返済額はいくらなら無理がない?」と、住宅ローンを借り入れする前に知っておきたいのは、借入可能額と無理のない月々の返済額です。そこで役に立つのが、「年収倍率」と「返済負担率」という2つの目安です。まずは年収倍率から借入可能額を算出してみましょう。
年収700万円の借入可能額は3500万~4200万円が一つの目安
年収倍率という指標をご存知でしょうか?年収倍率とは、購入する住宅価格が年収の何倍になるか表した数値のことで、金融機関が融資額を決める際の判断材料にも使われています。一般的に適正な年収倍率は5~6倍といわれており、年収700万円だと3500万~4200万円が借入可能額の目安となります。
ちなみに住宅金融支援機構「2022年度 フラット35利用者調査」によると、この年収倍率の全国平均は購入する住宅の種類別にみると以下のとおりです。
- 土地付注文住宅:7.7倍
- マンション:7.2倍
- 建売住宅:6.9倍
- 注文住宅:6.9倍
- 中古マンション:5.9倍
- 中古戸建:5.7倍
利用者の平均年収倍率は、約6.7倍となり、年収700万円だと4690万円が平均借入金額になる計算です。
しかし金融機関によっては、年収倍率を上限8倍にしているところもあり、その場合だと上限である5600万円を融資してくれる可能性もありますが、土地付注文住宅のように住宅建築費用が高くなければ、実際融資してくれることは少ないでしょう。
また同2021年度調査によると、土地代が高い首都圏での土地付注文住宅の平均購入金額は5133万円で、年収倍率は7.8倍。年収700万円で当てはめると、土地付注文住宅を購入して住宅ローンを組んだ場合は、5460万円(年収700万円 × 年収倍率7.8倍)ほどが平均相場となります。年収700万円あれば、土地が高い首都圏でも平均価格の土地付注文住宅を手が届くことがわかります。
しかしこのような高額な土地付注文住宅を購入すると、適正な年収倍率の範囲を超えてしまうため、できれば頭金を2割ほど入れるなどして、購入価格全ての借り入れは避けましょう。
返済負担率20~25%に収める!月々の返済額は12万円台に
続いて、無理のない月々の返済額について押さえておきましょう。そこで参考になるのが、返済負担率という数値です。これは年収に占める、住宅ローンを含めた総ローンの年間返済額がいくらくらいなのか割合を示すもの。
一般的には、年収に占めるローンの返済額は20~25%に収めると、家計を圧迫しないといわれています。返済負担率30%を超えると、返済の負担が重くなるでしょう。
返済負担率の算出方法は以下の通りです。
年間のローン返済額合計 ÷ 世帯年収 × 100
たとえば世帯年収700万円で土地付注文住宅を購入し、借入金額5000万円の住宅ローン(変動金利0.375%、返済期間35年、ボーナスなし)を組んだら、月々の返済額は12万7049円(年額約152万円)となり、年収700万円で考えると、返済負担率は21.7%(= 年間返済額152万円 ÷ 年収700万円 × 100)です。
金融機関が審査の際に用いる返済負担率は上の式で算出しますが、実際の家計の収支に寄り添った内容に近づけるのであれば、手取り収入額を基に考える必要があります。手取り収入で考えると、年収700万円(40歳未満、東京都在住、扶養なし)は、月平均で約47万円(手取り年収564万円)。他のローン返済がないと想定すると、月々約13万円の住宅ローンを返済して残り34万円で生活するイメージです。
そうなると、手取り収入に対する返済負担率は約26.9% = 年間返済額152万円 ÷ 手取り年収564万円 × 100と25%を超えることなり、さらに返済負担率は住宅ローン以外のローンも一緒に含めて計算するため、カーローンや教育ローンの返済があれば、30%を超える可能性が出てくるでしょう。そのため、頭金を入れるなどして、できれば月々の返済額を12万円以内にすれば、返済負担率も25%台に収まるので安心です。
また忘れていけないのが、住宅購入時には住宅本体の価格以外に、登記や住宅ローンの事務手数料などの諸費用がかかることです。ちなみに5000万円の住宅購入では、約140万円の諸費用がかかります。諸費用を住宅ローンに組み込める金融機関もありますが、借入金額が増えるため、できる限り現金で用意しておく方がよいでしょう。
02用意する頭金の平均額は?自己資金比率は3割近くも!
高額な住宅ローンを借り入れする際は、頭金を入れて借入金額を少なくすることで、結果的に総返済額を抑えることができます。頭金の目安は一般的に住宅価格の1~2割ほどといわれていますが、最近は3割近い頭金を入れているデータもあります。
国土交通省「令和3年度 住宅市場動向調査 報告書」によると、注文住宅の住宅建築資金(土地購入資金を除く)は、全国平均で3459万円、三大都市圏平均で3843万円。このうち自己資金は全国平均972万円で自己資金比率は28.1%で、三大都市圏1332万円で34.7%となっており、三大都市圏においては、3割超えの自己資金を用意している世帯が多いことがわかります。
たとえば5000万円の住宅建築費用がかかるなら、一般的な頭金は500万~1000万円です。3割の頭金1500万円を入れて、借入金額を3500万円に抑えれば、利息負担分を少なくすることができ、総返済額の支払いがも少なくなります。
しかし、だからといって手元のお金を全て頭金に充てるようなことはやめましょう。上でも述べたとおり、住宅ローンの利用の際には諸費用がかかりますし、その後のライフイベントによっては、子どもの教育費用などまとまった資金が必要となる可能性もあります。頭金の額については、近い将来どのような費用が発生するかを考え、その支出に影響がない範囲で用意するようにしましょう。
03年収700万円なら、月々の返済額はいくらが適正?
借入可能額や月々の返済額のおおよその目安がわかったところで、もっと具体的な数字を見ていきましょう。土地付注文住宅のような高額になる借入金額4900万円(年収倍率7倍)を一例に、返済期間別と金利タイプ別での支払いシミュレーションを紹介します。
【返済期間別】総返済額、月々の返済額はいくら?
シミュレーションの条件として、以下のように数値を設定します。
【条件】 借入金額:4900万円 金利:0.375%(変動型、ただし借入期間中も同率と仮定する) ボーナス返済額:なし |
【条件】借入金額:4900万円、金利:0.375%(変動型、ただし借入期間中も同率と仮定する)、ボーナス返済額:なし
借入期間 | 月々の返済額 | 総返済額 |
---|---|---|
25年 | 17万1134円 | 5135万円(うち利息額235万円) |
30年 | 14万3932円 | 5183万円(うち利息額283万円) |
35年 | 12万4508円 | 5230万円(うち利息額330万円) |
ご覧のとおり、同じ条件でも借入期間が短くなれば、その分支払い利息が減ります。借入期間10年短くなると、減額率は0.7倍となる計算です。とはいえ借入期間25年の場合、月々の返済額は17万1134円、手取り年収564万円で計算すると返済負担率は36.4%とかなりの負担割合となるので、現実的に難しいでしょう。
もしも最長35年で借り入れすれば、月々の返済額は12万4508円となり、返済負担率も26.4%に下がります。しかし返済負担率はできる限り25%以内に収めた方が、家計負担が少なくなります。年収700万円(手取り年収564万円)で4900万円程度の借り入れをするなら、頭金を入れて借入金額を抑えつつ、月々の返済額を12万円以内にしましょう。
変動金利は、住宅ローンの契約締結後に金利が上昇しなければ、固定金利と比較すると月々の返済額を抑えられる点がメリットといえます。しかし金利が上昇すると、月々の返済額が増える点には注意が必要です。仮に変動0.375%で月々の返済額12万4508円だったのが、借入期間中に金利が上がり0.9%になってしまうと、月々の返済額は13万6048円に増えます。
また変動金利の住宅ローンの大半は、半年ごとに金利の見直しが行われますが、月々の返済額の見直しに反映されるのは5年に1回となっています(5年ルール)。さらに、見直しの際の金額は、それまでの返済額の1.25倍を上限するという決まりもあります(125%ルール)。
ローンの返済方法について元利均等返済を選んでいる場合、急激な金利上昇で月々の返済額が変わらないのに、元本と利息の比率が変わるといったリスクもあります。元利均等返済においては、利息と元金を含んだ一定額を毎月返済することから、たとえば返済額13万円の内訳が利息8万円、元本5万円だったものが、半年ごと行われる金利の見直しで利息11万円、元本2万円といったように、利息額の割合がどんどん増えていく事態も想定されるのです。
5年に1回の返済額の見直し前に金利が急上昇すると、利息額が月々の返済額をすべて占める可能性があります。金利上昇局面において、変動金利は「元本が1円も減らない」というリスクが出てくるのです。さらに利息額が返済額を上回ってしまうと、超過部分の利息の支払いが溜ってしまう結果となります(この支払われない利息のことを「未払い利息」といい、後に一括繰り上げ返済を行う際には精算する必要があります)。
こういったリスクを回避するためには、繰り上げ返済をして元本を減らしたり返済期間をできるだけ短くして返済額の元本割合を増やしておいたりすることが重要です。金利上昇の影響は借入金額が少ないほど軽くなるのですが、5000万円といった高額な住宅ローンを組む場合は大きな影響を受けるので、より注意が必要といえるでしょう。
【金利タイプ別】総返済額、月々の返済額はいくら?
シミュレーションの条件として、以下のような数値を設定します。
【条件】返済期間:35年、借入金額:4900万円
金利タイプ | 金利 | 月々の返済額 | 総返済額 |
---|---|---|---|
全期間固定 | 0.940% | 13万6954円 | 5775万円(うち利息額875万円) |
10年固定 | 0.495% | 12万7088円 | 5339万円(うち利息額439万円) |
変動 | 0.375% | 12万4508円 | 5230万円(うち利息額330万円) |
表を見てわかるとおり、全期間固定型の総利息は875万円と変動型に比べて2倍以上になります。ただし全期間固定型は、金利上昇局面において返済額が変わらない点がメリットといえます。先述したように高額な住宅ローンを組む場合、金利上昇するとさまざまなリスクがあるため、そのようなリスクを回避するには全期間固定型を選ぶのも一案です。
また全期間固定型だと月々の返済額は変わらないので、資金計画が立てやすい点もメリットです。住宅ローン控除の適用が外れたら、繰り上げ返済をして元本を減らすことで支払い利息も抑えられることができます。
04無理のない返済計画のために気をつけたいこと
高額な住宅ローンを組む際、活用すべきなのが住宅ローン控除です。住宅ローン控除とは、所得税および住民税を対象にした減税制度のことです。条件を満たせば一定期間、ローンの年末残高に応じた金額が所得税から差し引かれ、還付されます。所得税から引き切れなかった部分は住民税から差し引かれます。控除額は入居後10年目までは、1年ごとに最大40万円(認定長期優良住宅等の場合は最大50万円)です。
しかし「ローンの年末残高等(上限4000万円)×1%」となっているため、年末残高が4000万円以上あっても最大40万円しか還付されません。そのため、夫婦で住宅ローンが組めるなら、ペアローンを利用しましょう。ペアローンとは、1つの住宅購入において夫婦それぞれで住宅ローンを組むことです。
ペアローンのメリットは、夫婦それぞれで住宅ローン控除が適用されるため、シングルローンで最大40万円の住宅ローン控除を受けるより、適用される金額を増やせる点です。
たとえば5000万円のペアローンを組んで、その負担割合における年末残高が夫2900万円、妻1900万円だった場合、夫29万円、妻19万円で合計48万円の控除になり、シングルローンで最大40万円の控除を受けるより、8万円も控除額が増える計算になります。そして控除された所得税および住民税分をローン返済に回せば、経済的な負担も軽減されるでしょう。
ただしデメリットとして、夫婦それぞれで住宅ローンを組むため、それにかかる諸費用も2倍がかかる点が挙げられます。
ペアローンについてより詳しく知りたい方は、以下の記事も読んでみてください。収入合算型の住宅ローンについても紹介しています。
05住宅ローンの各種シミュレーションで無理のない返済計画を立てよう!
世帯年収700万円の適正な住宅ローンの組み方について解説しました。「世帯年収700万円は高収入だから安心」とは思わずに、しっかり返済計画を立てておかないと家計が破綻して、せっかく手に入れたマイホームを手放すことにもつながります。住宅ローンの各種シミュレーションで、支払いイメージを固めておきましょう。
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監修:新井智美
CFP®/1級ファイナンシャル・プランニング技能士
プロフィール
トータルマネーコンサルタントとして個人向け相談の他、資産運用など上記相談内容にまつわるセミナー講師を行う傍ら、年間100件以上の執筆・監修業務を手掛けている。
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