年収600万円の住宅ローンはいくらが適正?借入金額・頭金・税制度などを紹介

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住宅金融支援機構「2022年度 フラット35利用者調査」によると、世帯年収別の利用割合は世帯年収400万円以上600万円未満が全体の約4割を占め、トップになっています。また住宅購入のメイン層となる30代の共働き夫婦の場合、収入合算すると世帯年収600万円程度になりマイホームを検討するご家庭も多いのではないでしょうか。そこで今回は、世帯年収600万円の方だと、住宅ローンで最大どのくらい借入ができるのか、その目安や計算方法について解説していきましょう。

01年収600万円で住宅ローンはいくら組める?

年収600万円でどれくらいの住宅ローンを借りられるのか、それを知るには「年収倍率」と「返済負担率」の2つの指標を使います。両方の指標とも、簡単な計算で適正な借入金額および返済額を導き出せるので、この機会にぜひ理解しておきましょう。まずは「年収倍率」から借入金額の上限を試算してみます。

年収倍率から借入金額の上限は3900万円程度!

「年収倍率」とは、購入する住宅の価格が住宅ローン契約者の年収の何倍かを示す数値のことです。計算式は以下のようになります。

年収倍率 = (住宅の購入費用) ÷ (住宅ローン契約者の年収)

ここでの「年収」は、手取り額ではなく総支給額です。「年収倍率」は、金融機関が住宅ローンの審査をする際にも使用されている基準で、一般的に年収の「5~6倍」が借入金額の適正値だと考えられています。例えば年収600万円だと、借入金額3000万~3600万円くらいが適正ラインになります。

ちなみに住宅金融支援機構「2023年度 フラット35利用者調査」によると、年収倍率の全国平均は約6.7倍でした。購入する住宅の種類別にみると、以下のとおりです。

購入住宅の種類別 年収倍率平均

土地付注文住宅 7.6倍
マンション 7.2倍
建売住宅 6.6倍
注文住宅 7.0倍
中古マンション 5.6倍
中古戸建 5.3倍
出典:住宅金融支援機構「2023年度 フラット35利用者調査」

フラット35の平均値から考えると、年収600万円だと借入金額4000万円程度が上限となります。しかし、金融機関によっては「年収倍率8倍までローン契約できます」と宣伝しているところもあるようです。仮に年収600万円とすると、年収倍率8倍では最大4800万円を借り入れできる計算になります。ただし年収倍率8倍だと、月々の負担も大きくなり生活費を切り詰める必要が生じるばかりではなく、その後の生活に支障が出る危険性があります。

適正な借入金額を考える際の重要なのは、現在の年収ベースで考えるのではなく、今後年収が下がる可能性も含めて考えることです。例えば世帯年収600万円のご家庭の場合、配偶者の出産や育児、介護等で離職したり給料が減ったりすれば、上限での借り入れが危険なことは一目瞭然です。余裕のある資金計画を立てたうえで、月々返済できる金額を知ることが重要になります。続いて、無理のない返済額はいくらかを確認していきましょう。

返済負担率から無理なく返せるのは、月々9万円前後

年収のうち、年間のローン返済額がどれくらいの割合を占めているのかを表した数値が「返済負担率(返済比率)」です。計算式は以下のようになります。

返済負担率 =(年間の返済総額)÷(年収)× 100

少し注意してほしいのが「年間の返済総額」です。この返済総額は住宅ローンだけでなく他のローン、例えばカーローンや教育ローンなども含めて計算します。今回は便宜上、住宅ローンのみを想定しています。

また、計算で使われているのは総支給額であって、手取り年収はもっと少なくなります。そのことを踏まえながら、手取り年収における返済負担率を考える必要があります。では、具体的な目安となる「手取り年収における返済負担率」はどれくらいになるでしょうか。一般的に、家計負担があまりかからないとされるのは、手取り年収の20~25%といわれています。例えば、以下のケースで算出してみましょう。

【ケース例】
・年収600万円(都内在住、40歳未満、ボーナス支給なし)
・手取り年収:約490万円(月額:約41万円)
・借入金額:3600万円
・変動金利:0.517%(借入期間中は変動しないと想定)
・借入期間:35年
・返済方法:元利均等返済

このケースでは、月々の返済額が9万3721円(年間約112万円)ですので、月々の手取り額41万円から引くと月31万円ほどになります。返済負担率を計算すると、約24.3%(年間返済額112万円 ÷ 手取り年収460万円 × 100)ですから、夫婦2人での生活なら多少余裕があるかもしれません。借入金額を押さえたり頭金を入れたりして月々の返済額を8万円台に抑えれば、もっと生活に余裕が出るはずです。

ちなみに全期間固定型の「フラット35」では、「総返済負担率」の利用条件が定められています。年収400万円未満の場合は30%以内、年収400万円以上の場合は35%以内までなら借り入れ可能としています(フラット35での年収とは「総支給額を意味します)。

しかし、フラット35は民間の金融機関では審査に通りにくい方も対象としているので、この数値設定は高めに設定しているといえます。返済負担率は手取り年収の20~25%以内に設定するのが、理想的だと理解しておいてください。

02住宅ローンを借入可能額の上限まで借りることのリスク    

借入可能額の上限で住宅ローンを組むと、どんなリスクがあるのでしょうか?まず長期的なリスクを考えてみましょう。ライフイベントの変化によって、引越しや転職、出産、育児、介護等で仕事を続けられないといった事態は十分起こりえます。新型コロナウイルス感染症拡大による影響のため、突然給与やボーナス、退職金が減らされることも起こりうるわけです。

万が一、住宅ローンの返済計画に影響が出た場合、借り入れている金融機関に対して支払い計画の変更(リスケジュール)を相談する必要が生じます。しかし収入の状況等によっては、申し出に応じてくれる金融機関は少ないかもしれません。もし返済猶予を認めてくれたとしても、返済再開後の金利が上がる可能性も否めません。

このように、住宅ローンの借入金額は大きく、返済は長期間にわたるものなので、「いくらまで借りられるのか」ではなく、「いくらまでなら無理なく返済できるのか」を最重要視して検討することが大切といえます。

03頭金はいくら準備すればいい?

頭金を準備して、住宅ローンの返済額を抑えることを検討している方も多いでしょう。頭金を入れれば借入金額が減り、総支払額や月々の返済額が抑えられます。一般的に、準備する頭金の相場は住宅価格の1~2割といわれています。例えば4000万円の住宅購入なら、400万~800万円程度の頭金があればよいという計算になります。

ちなみに国土交通省「令和5年度 住宅市場動向調査 報告書」によると、土地付注文住宅(新築)を購入した世帯の平均購入資金は5811万円でした。自己資金比率をみると平均29.0%で、およそ1685万円が頭金の平均値となっており、1~2割より少し多めに頭金を入れている世帯が多いことがわかります。

ただし、自己資金を投入しすぎて、貯金がほとんどなくなるのも考えものです。最低でも手元には生活資金3カ月分や予備費など、生活に支障をきたさない程度の金額を残したうえで、頭金を捻出する必要があるでしょう。

04年収600万円の現実的な借り入れプラン、返済プランを解説

それでは、年収600万円の人の現実的な借り入れプランについて、ごく簡単な事例を元に見ていきましょう。

【借入期間別】月々の返済額、総返済額はいくらになる?

まずは借入期間別に、月々の返済額と総返済額を比較していきましょう。条件としては以下の数値を設定します。

【条件】

  • 借入金額:3900万円
  • 金利:0.375%(変動型 ※ただし借入期間中も同率と仮定)
  • ボーナス返済:なし
借入期間 月々の返済額 総返済額
25年 13万6209円 4087万円(うち利息額187万円)
30年 11万4558円 4125万円(うち利息額225万円)
35年 9万9098円 4163万円(うち利息額263万円)

借入期間を最長35年にすると、月々の返済額は10万円を下回るので、年収600万円の手取り月収約41万円に対する返済負担率は、24%台に抑えられます。ただ、変動金利の場合は将来的に金利が上昇するリスクがあり、月々の返済額が上がる可能性も考えられるでしょう。そのため、資金的な余裕があれば、借入期間を5年程度短くするのも1つの方法です。

しかし、同じ条件であっても借入期間30年だと手取り年収における返済負担率は28%です(年間返済額137万4696円 ÷ 手取り年収490万円 × 100)。他のローンの支払いがあれば、30%を超えてくる可能性も出てくるでしょう。さらに借入期間25年では33%を超えます(年間返済額163万4508円 ÷ 手取り年収490万円 × 100)。借入期間25年だと家計を圧迫する恐れが高まるため、できれば手取り年収における返済負担率が25%に収まる返済プランにしましょう。

【金利タイプ別】月々の返済額、総返済額はいくらになる?

次に金利のタイプ別で比較します。住宅ローンで用意されている金利タイプは、主に「変動型」「10年固定型」「全期間固定型」の3つです。条件として以下の数値を設定します(金利は2021年9月現在から想定)。

【条件】

  • 借入期間:35年
  • 借入金額:3900万円
金利タイプ 金利 月々の返済額 総返済額
全期間固定 0.940% 10万9007円 4581万円(うち利息額681万円)
10年固定 0.495% 10万1152円 4249万円(うち利息額349万円)
変動 0.375% 9万9098円 4163万円(うち利息額263万円)

金利タイプで比較すると、全期間固定型と変動型で総利息400万円以上の差が出ることがわかります。超低金利の傾向が続くうちは、変動型の方がお得感はあります。しかし、変動型は金利上昇のリスクが常にあるので、リスク回避のためにも全期間固定型を選ぶのもよいでしょう。月々の返済額が一定になるので、返済プランも立てやすいといえます。

また全期間固定型は、変動型に比べると月々の返済額が増えるとはいえ、手取り年収における返済負担率は26.6%です(年間返済額130万8084円 ÷ 手取り年収490万円 × 100)。利息の負担増は、住宅ローン控除適用終了後に繰り上げ返済する方法などで元本を減らすことにより、その分利息分の支払いを削減することも可能です。住宅ローン控除と繰り上げ返済を上手に使い分けてみましょう。

05借りられる額が希望より少なかったらどうするべき?

先ほどの国土交通省「令和3年度 住宅市場動向調査 報告書」で、土地付き注文住宅(新築)の購入した世帯で、住宅ローン借入金額の全国平均は5112万円、うち自己資金の平均額は1203万円ですから、借入金額の平均は3909万円になります。ただし、この金額はあくまでも平均値なので、実際には希望通りの借入金額よりも少ないケースがあるかもしれません。

借入金額が希望より少ない場合は、購入資金の1~2割程度の頭金を貯めてから住宅ローンを組む方法が一般的です。しかし今は超低金利状態なので、時期を待つのではなく、早めに住宅ローンを組んだ方がよいケースも考えられます。コロナ禍を経た世界経済は不安定な状況にあるため、今後金利が上昇するリスクも大いに考えられるからです。

夫婦共働きで住宅購入するなら「ペアローン」や、収入合算の連帯債務型の住宅ローンを利用する手もあります。どちらも借入金額が増やせたり、夫婦で住宅ローン控除が受けられたりとメリットが多いので検討してみましょう。もっと詳しく知りたいという方は、こちらの記事をご覧ください。

ペアローンと連帯保証と連帯債務。夫婦で住宅ローンを組むならどれがお得?
[基礎知識] 2024.06.04

06住宅ローンを組むなら、税制度を賢く活用しよう

住宅ローンを組むうえで理解しておきたい制度が、「住宅ローン控除」です。住宅ローン控除とは、個人が住宅ローンを利用してマイホームを新築や取得、増改築した場合に、定められた要件を満たすと一定期間、年末時点でのローン残高の1%(最大40万円)が所得税または住民税から差し引かれ、還付されるという制度です。

現行の制度では、控除期間は最長10年間です。ただし、消費税の引き上げ(8%から10%)に伴う対策として、控除期間が10年間から13年間に延長される特例措置あります(2019年10月1日から2020年12月31日までの間に消費税10%が適用されるマイホームを取得して入居した場合)。

さらに住宅ローン控除は、コロナ禍によって制定された通称「新型コロナ税特法」により、控除期間13年の特例適用期間が1年間延長されました。

加えて、2021年度の税制改正でも控除期間の再延長が決定し、当初は2020年12月31日までだった入居対象期間が2年間延長されるなど、次々に優遇措置の延長が実施されています。

今から住宅ローンを組む人にとっても非常に重要な制度ですので、もう少し詳しく知りたい方はこちらの記事も参考にしてください。

2022年度の税制改正で住宅ローンの控除額が少なくなる!? 恩恵を受けるにはいつまでに契約が必要?
[ニュース] 2021.12.13

07シミュレーションを活用して無理のない返済プランを見つけよう

マイホーム購入は、人生で一度あるかないかの大イベントです。とはいえ、初めてだと知らないことが多く、戸惑うかもしれません。

しかし基本的なことから理解していくと、それほど難しくありません。そのため、資金計画を立てるためにサイト内にあるシミュレーションを活用して、月々の返済についてイメージを掴むようにしましょう。

月々の支払額から予算を考えたい方は「借入可能額シミュレーター」を、金利から月々の支払いを比較してみたい方は「毎月の返済額シミュレーター」を利用してみましょう。きっとあなたにぴったりの返済プランがわかるはずです。

新井智美

監修:新井智美

CFP®/1級ファイナンシャル・プランニング技能士

プロフィール

トータルマネーコンサルタントとして個人向け相談の他、資産運用など上記相談内容にまつわるセミナー講師を行う傍ら、年間100件以上の執筆・監修業務を手掛けている。

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