住宅ローンを支払えなくなったらどうなる?―滞納時、滞納前の対処法―
昨今は低金利ということもあり、マイホーム購入時に住宅ローンを利用する方が多いです。ただし低金利とはいえ、住宅ローンを利用するということはお金を借りることになり、毎月支払いをしていかなくてはいけません。今回は住宅ローンを万が一支払えなくなってしまったらどうなるのか、また滞納した場合の対処法などについて解説します。
01住宅ローンを払えなくなったらどうなる?
住宅ローンを利用する際、たくさんの条件の中から自分たちに合った住宅ローンを検討し、借り入れをします。例えば、借入希望額をどの程度にするのか、変動金利か固定金利か、どこの金融機関だと条件がいいか、などを検討していきます。
毎月の返済が自分たちの家計の負担にならないよう、より条件のいい住宅ローンを選んでいく中で、それでも「しっかりと返済していけるのか」と不安になることもあると思います。住宅ローンはほかのローンと異なり金額も特に大きく、2年や3年で完済できるものではありません。ほとんどの場合は約10年~35年間、支払いが続きます。長期間に渡り、安定して返済していくことに不安になってしまうのは当然のことです。
ですから、家計状況によって支払いが難しくなってしまったときや、支払いが難しくなりそうなときのための対策も検討しておく必要があります。まずは住宅ローンを支払えず滞納してしまった際に、住宅ローンの債務者はどうなってしまうのか、またそのリスクについて紹介します。
滞納状況別 債務者に起きること
住宅ローンを返済できなくなる理由として、借り入れする当初から無理な返済計画を組んでいたり、返済中に転職をした・ボーナスがなくなった・親の介護で働けなくなったなどの理由から収入が減ったり、さまざまな理由が挙げられます。当初から無理な返済計画を組んでいたという方は、頭金を十分に捻出することができず、返済負担率いっぱいまで借りてしまうことで支払いが苦しくなってしまうことが多いです。目いっぱいまで借り入れをしてしまうと、支払いが厳しくなったときに資金のやり繰りが難しくなります。住宅ローンを借りる際は余裕を持った返済計画を立てなければいけません。
また、長期間にわたり返済していく中で、債務者や家族のライフスタイルが変化することもあるでしょう。例えば、債務者自身が病気になり働けなくなってしまった・転職や親の介護で収入が減ってしまったなどの変化です。このような変化の影響により住宅ローンが支払えなくなってしまった場合に備える必要があります。
住宅ローンの支払滞納が起きた場合
では、実際に住宅ローンを滞納してしまった場合、住宅ローンの債務者にはどのようなことが起きるのかを見ていきましょう。
- 住宅ローンの支払いが一定期間以上滞る(約3カ月)
→ 金融機関から住宅ローン債務者へ督促状・催告書が届く - 約6カ月程度延滞が続いた場合
→ 金融機関から保証会社へ住宅ローンの一括支払い請求される - 保証会社が金融機関へ残りのローンが返済される
→ 保証会社が住宅ローン債務者へ不動産競売の申し立てをする(競売の実行) - 競売
※競売の申立てが行われたあとでも任意売却を検討するケースもある
住宅ローン債務者の返済が滞ってしまうと上記のような流れで最終的には競売にかけられてしまいます。金融機関は保証会社に住宅ローンの一括支払いを請求し、保証会社は住宅ローン債務者の借入残高を返済します。保証会社が返済しますが、住宅ローン債務者は免除されるわけではありません。今度は住宅ローン債務者が保証会社へ返済をしなければいけません。ただし、延滞してすぐに競売にかけられるわけではありませんので、支払いが滞ったり、厳しくなったりしたときはすぐに金融機関に相談しましょう。
住宅ローンを払えなかった場合のリスク
先述したように住宅ローンの支払いができなくなる理由はさまざまです。そして返済が滞ってもすぐには競売の措置は取られませんが、払えないことのリスクはあります。実際に住宅ローンを払えなかった場合のリスクを抑えておきましょう。
信用情報に影響がある
基本的に返済が遅れてしまうことはよくないことです。1日でも滞納してしまうと個人信用情報機関に記録されてしまうので、支払いが本当に苦しくなる前に、厳しくなったら早めに相談することをオススメします。もしそのまま住宅ローンの滞納を続けるとブラックリストに載ってしまったり、今後カードやローンの審査も厳しくなってしまったりと、さまざまなところに影響が出てしまいます。
全額一括返済の請求が来る
住宅ローンの返済が滞ると、保証会社が金融機関へ住宅ローンの残高を返済します。その後に保証会社から住宅ローン債務者へ立て替えた分のローン残高の全額一括支払いが請求されます。ほとんどの人が一括で返済できないことが多く、そのまま競売にかけられてしまいます。
競売にかけられる
住宅ローンが支払えなくなると最終的には競売にかけられてしまいます。また競売にかけられたとしても、競売は通常の相場価格の50%~70%で売却されるため、住宅ローンを完済しきれない恐れもあります。その場合は競売後も残りの金額を返済していかなければならないのです。競売にかけられると当然所有権もなくなるため、手元に住宅や土地の資産が残らなくなってしまいます。
遅延損害金も支払わなければいけない
競売後も返済が残ってしまう場合がありますが、さらに遅延された損害として遅延損害金も支払わなければいけなくなります。どの程度かというと、返済日の翌日から遅延している元金に対して、年14.0%の利息がかかります(金融機関によっては14.6%のところもある)。返済の遅延が長ければ長いほど負担がどんどん増えていくので注意が必要です。
※遅延損害金の計算方法は以下の通りです。
遅延損害金=遅延している元金×14.0%(もしくは14.6%)÷365×遅延日数
02住宅ローンを払えなくなったときにすべきこと
住宅ローンを支払えなくなったときの流れやリスクなどを解説してきましたが、実際に支払えなくなった場合にはどうするべきなのかも気になるところですよね。万が一住宅ローンが支払えなくなった場合に備えて、できることを確認しておきましょう。
住宅を手放したくない場合
住宅ローンが支払えないからといって、子どもの学校事情などさまざまな理由から現在の住宅を手放したくないと考える方もいらっしゃると思います。
ここで間違ってもしてはいけないのは、支払えないからといってキャッシングやカードローンを利用して返済していこうとしたり、支払いの催促が来ても無視したりしてしまうことです。キャッシングやカードローンでお金を借りれば一時的に逃れることができるかもしれませんが、それに伴うリスクはとても大きいです。金利も高いですし、何より借金がどんどん増えていくだけです。また、金融機関から催促が来ているのにも関わらず無視をしてしまうとブラックリストに載ってしまうなど、こちらもリスクがあります。万が一、住宅ローンが支払えなくなったとしても、上記のように対応するのはやめましょう。
それでは、住宅ローンを支払えないけれども、住宅を手放したくない場合の対処法をいくつか紹介していきます。
リースバックをする
住宅ローンを支払えなくなって、売却した自分の家を賃貸として住み続ける方法を「リースバック」といいます。リースバックは一度誰かに売却して、その買主に家賃を支払いながら住みます。最終的に資金ができれば買い戻すことも可能です。
またリースバックをすれば、引越しをする必要がないため、転勤や子供の転校を避けられるほか、売却したことを近所の人たちに知られずに済む、などのメリットがあります。
住宅のリースバックの仕組み
ただし、こちらの方法はあくまでも賃貸であるため、所有権を持つことができません。さらに住宅ローンの支払いはなくなりますが、今度は毎月の家賃を支払わなければいけなくなります。仮に売却後も住宅ローンの返済が残ってしまうと住宅ローンの返済と家賃の二重払いが発生する恐れがあり、さらに家計の負担が増えてしまいます。また最終的に買い戻しする場合には、価格が高くなってしまうケースが多いです。
親子間売買、親族間売買
親子間売買をする方法もあります。こちらは字の通り親子間で売り買いすることをいいます。親子間売買は子どもに買ってもらうことで、ずっと住んできた家に住み続けることができます。そのため引越しなども必要ありません。
ただし、この方法にもいくつか注意点があります。
- 貸してくれる金融機関が少ない。
- 子どもがマイホームを購入するときに住宅ローンが組みづらくなる。
- 親子間でのトラブルになる恐れがある。
もし、どうしてもこの方法で住宅を維持したい場合は、専門家に相談しましょう。
個人再生を検討する
通常、住宅ローンが支払えなくなった場合には、債権者によって担保として設定された抵当権により不動産が処分され、その代金を住宅ローンの返済に充てられてしまいます。しかし、債務者が住宅を手放さずに済む個人再生という手続きがあり、これに関しては「住宅ローン特則」という特別な制度が設けられています。これにより、住宅ローンを支払うことを条件にすることで、住宅を手放すことなく借金を減額することもできます。ただ、利用するには住宅ローンの借り入れであること、個人再生を利用する人の所有する住宅であること、といったいくつかの条件があるため、それぞれの金融機関へ事前に確認しておきましょう。
住宅を手放してもいい場合
次に、住宅を手放してもいいという場合の取るべき行動をご紹介していきます。
任意売却をする
住宅ローンを支払えなければ、最終的には競売にかけられてしまいます。その前に早い段階であれば任意売却をする方法もあります。
任意売却の仕組み
任意売却とは、住宅ローンの支払いが厳しくなった場合に、住宅を売却することをいいます。任意売却をすることで借金がなくなるわけではありませんが、競売ほどは売却価格安くなることはほとんどありません。任意売却では、交渉によっては引越し代が出るなどのメリットもあり、いい形で売却することも期待できます(競売では引越し代などの交渉ができません)。住宅を手放してもいいということであれば、競売にかけられてしまう前に任意売却を検討して交渉することをオススメします。もし任意売却ができない場合は競売を行うことになります。
任意売却と競売の違い
任意売却の場合 | 競売の場合 | |
売却価格 | 市場価格に近い価格で売却できる場合が多い | 市場価格の7割前後の場合が多い |
プライバシー | 通常の不動産売却と同じ方法を取るため、事情を知られずに売却可能 | 新聞やネット上に公開されるため近所や職場に知られる可能性が高い |
持ち出し金 | 一切なし | 引越費用など |
残債 | 競売よりも高く売却できるため、競売よりも残債は少なくなる可能性が高い | 任意売却よりも多く残る可能性が高い |
残債の返済 | 無理ない範囲で分割返済が可能 | 一括での返済を求められる |
自宅に住み続ける | 親族間売買や投資家に購入してもらい、リースバックしてもらう方法がある | 不法占拠者として追い出される可能性も… |
引越費用 | 債権者との交渉次第で、最高30万円の引越費用を受領できる | 裁判所から明渡命令が出せるため、立退料が支払われるケースはほとんどない |
引越し日 | 購入者、債権者との協議を行い、引越し日を設定できる | 所有権移転後は不法占拠になり、引越し日は自由に選べない |
自らの意思 | 債権者との協議は必要ですが、通常の不動産取引と同様に、ご自身の意志で売却活動が可能 | 競売は所有者の意志は全く関係ない |
出典:一般社団法人全国住宅ローン救済・任意売却支援協会「任意売却と競売の違いを比較」
03住宅ローンを支払えなくなる前にすべきこと
住宅ローンの支払いを延滞してしまい、そのまま支払えなくなると自宅を競売にかけられてしまったり、ブラックリストに載ってしまう恐れがあったり、リスクがとても大きいということが分かりました。さまざまな理由から住宅ローンの支払いは厳しくなるものです。
ただ、いきなり返済ができなくなるというよりも、状況の変化などから返済が厳しくなる兆候はあるはずです。毎月の収入や貯蓄から考えて支払いが厳しくなりそうということは予測できるのではないでしょうか。住宅ローンの支払いができなくなってしまう前にできることについて紹介します。
以下の記事も参考にしてください。
住宅ローンを借り換えた場合の効果とシミュレーション
仮に金利が低下している場合は、住宅ローンの借り換えをするのも一つの手段です。借り換えをした場合の効果をシミュレーションしながら解説していきます。
※あくまでシミュレーションによる試算であり、実際の金額とは異なる場合があります。
住宅ローンの借り換えによる効果
- 3000万円 金利3% ※元利均等返済 30年間の支払い → 月々126,481円
- 3000万円 金利1.2% ※元利均等返済 30年間の支払い → 月々99,272円
上記のシミュレーションのように、金利の低い住宅ローンに借り換えをすることで、月々の返済を2万円程度減らすことができます。ただし、金利にあまり差がない、あるいは1~2万円の減額では間に合わない場合には、この方法は適していません。また、すでに住宅ローンの返済が滞納してしまっていると借り換えの審査に響いてしまうので注意が必要です。
住宅ローンの支払い計画を変更した場合の効果とシミュレーション
住宅ローンの支払いが厳しくなったら、早い段階で金融機関に相談しましょう。早い段階から相談をしておけば金融機関から返済額を減らしたり、返済期間を伸ばしたり、返済計画の見直しを提案される可能性もあります。金融機関によって対応が異なりますので、自分が借り入れしている機関に確認しましょう。
もし金融機関からの提案で何とかなるようなら延滞を避けることもできますから、厳しいと感じたらすぐにでも相談しましょう。なかなか相談しにくいことかもしれませんが、支払いが厳しいことには変わりありません。延滞してさまざまなリスクを背負う前に、相談することで解決できることもあります。
住宅ローンの返済期間を延ばした場合
※一例として、返済期間を延ばした場合
(借入金額3000万円 金利1% ※元利均等返済 30年間の支払いを35年間に延ばす)
- 3000万円 金利1% ※元利均等返済 30年間の支払い → 月々96,491円
- 3000万円 金利1% ※元利均等返済 35年間の支払い → 月々84,685円
上記のように5年間返済期間を延ばし、返済期間を30年から35年に延ばすことによって、月々の負担を1万円ほど減らすことができます。仮に返済期間を20年で組んでいたとしたら、35年に延ばすことでさらに月々の負担を減らすことができます。ただし、その分利息の負担も増えることも覚えておきましょう。
その他
そのほかにも住宅ローンの支払いが厳しくなる前にできる対策はあります。
- 夫婦どちらかのみ働いている場合、支払いに余裕ができるまでは共働きする。
- 不要な生命保険などを解約する。
- 車を売る(税金や保険料を減らすことができ、利益が出れば資金にもなる)。
- 光熱費や通信費など固定費を節約する。
どの対策も住宅ローンを滞納してしまう前に早めに検討する必要があります。自分たちだけではどうしたらいいのか分からない場合は、ファイナンシャルプランナーなどの専門家に相談して、住宅ローンを滞りなく返済できるように家計を見直してみましょう。
※あくまでシミュレーションによる試算であり、実際の金額とは異なる場合があります。
文・監修:下澤一人
宅地建物取引士
プロフィール
出版社勤務後、宅地建物取引士の資格を取得し、不動産専門新聞記者、不動産会社勤務を経て現在、編集者・ライターとして活動中。
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