東京都の出生率0.99、過去最低を記録 居住コストの高さがネック
近年、日本では少子化が進んでいるといわれますが、その象徴ともいえる数値が合計特殊出生率です。厚生労働省「2023年 人口動態統計」によると、合計特殊出生率は全国平均で1.20でした。全国で最も低かったのは東京都の0.99で、これは前年の1.04を下回って過去最低です。合計特殊出生率は全国的に下落傾向にあるものの、特に東京都においては近年続く家賃の値上げや、住宅価格の高騰による居住コストの高さが要因の1つとされています。 東京都への人口流入数は依然として多く、合計特殊出生率が低くても不動産ニーズは堅調で都心部を中心に住宅価格は上がり続けています。しかし本当にそのようなエリアで、マイホームを購入するリスクはないのでしょうか。そこで今回は、東京都で合計特殊出生率が低下している背景をはじめ、不動産の資産価値との関係性を解説していきます。
012023年の合計特殊出生率は1.20、東京は過去最低0.99を記録
厚生労働省が公表している合計特殊出生率とは「15~49歳までの女性の年齢別出生率を合計した数値」のことで、1人の女性が生涯に産む子どもの数を表す参考指標として用いられています。上述したように、2023年の全国の合計特殊出生率は1.20で東京都は過去最低の0.99を記録しました。ちなみに、2018年から2022年の5年間で市区町村別に集計した数値をみると、最も高かったのは鹿児島県徳之島町の2.25で、最も低かったのは京都市東山区の0.76です。
出生率が高い地域は昔から子どもがたくさんいる風土が育まれていることもあって、人口維持の目安である2.07を安定して上回ることが多い一方、都市部は結婚や出産が遅く、また独身者が多いこともあり出生率が低い傾向でしたが、近年はそれに拍車がかかっています。
ニッセイ基礎研究所※1によると、日本の出生率が全国的に下がり続けている要因として、「経済的な問題」や「女性の育児負担が大きい」ことが挙られています。日本では2024年の春闘で大手企業を中心に賃上げの波が広がりましたが、その恩恵はすべての人が受けられたわけではありません。むしろ、円安や人手不足による物価高が原因で実質賃金はマイナスが続いている状況ですので、将来的に必要になる育児コストを考えると子どもを産むことに対して積極的になれない家庭もあるでしょう。
また内閣府の資料※2によると、日本男性の育児参加は欧米に比べるといまだに少なく、長時間労働の割合が少ない欧米諸国ほど出生率が高い一方で、割合が高い日本は出生率が低い傾向にあるようです。以上のように、合計特殊出生率が低下している理由は日本社会の構造的な問題である部分が大きいですが、その中でも都市部、特に東京都の低さが目立ちます。なぜ、東京都の合計特殊出生率は他の都市部と比べても低くなりがちなのでしょうか。
02東京の出生率の低さは居住コストの高さなどが影響
厚生労働省の調査によると、2018年から2022年の5年間における市区町村別の合計特殊出生率の下位20位は以下のとおりです。
合計特殊出生率 下位20位の市区町村
1位 | 京都市東山区 | 0.76 | 11位 | 大阪府豊能町 | 0.92 |
2位 | 大阪市浪速区 | 0.80 | 12位 | 京都市中京区 | 0.93 |
3位 | 京都市上京区 | 0.80 | 13位 | 東京都杉並区 | 0.95 |
4位 | 京都市下京区 | 0.82 | 14位 | 東京都渋谷区 | 0.95 |
5位 | 埼玉県毛呂山町 | 0.83 | 15位 | 大阪市西区 | 0.95 |
6位 | 福岡市中央区 | 0.85 | 16位 | 東京都目黒区 | 0.97 |
7位 | 東京都豊島区 | 0.89 | 17位 | 大阪市中央区 | 0.97 |
8位 | 東京都中野区 | 0.91 | 18位 | 北海道当別町 | 0.97 |
9位 | 札幌市中央区 | 0.91 | 19位 | 東京都新宿区 | 0.97 |
10位 | 神奈川県箱根町 | 0.92 | 20位 | 仙台市青葉区 | 0.97 |
数値が同じである場合、表示桁以下の値で順位付け
上記のように、東京都は合計特殊出生率下位20位の市区町村のうち、6区がランクインしています。東京都に続くのは京都府と大阪府のともに4区町なので、下位20位の都道府県の中では東京都が最も多いエリアになります。
東京都の出生率が低い大きな理由の1つとして、「居住コストの高さ」が挙げられます。株式会社LIFULL※1によると、東京23区のファミリー向け物件の賃料は2024年3月には21万1618円となり、1年間で約3万2000円も上昇しているとのことでした。
アットホーム株式会社および三井住友トラスト基礎研究所※2は賃貸物件の家賃が上がっている要因として、2023年の新築分譲マンションの平均販売価格が1億円を超えたため購入を躊躇する人が増えたことを挙げています。つまり、価格高騰が続く新築分譲マンションを買い控えた人が賃貸マンションでの居住継続を選択し、賃貸マンションの受給がひっ迫した結果、家賃が高騰しているということです。東京都で子育てを続けていくには住居費を含めた生活コストが大きな負担となりやすいことが、出生率が伸び悩んでいると考えられます。
「ファミリー向け賃貸物件が少ない」と東京から転出する子育て世帯
東京都の主に都心部でファミリー世帯が住みにくくなっている状況は、令和5年7月に豊島区が実施した「協働のまちづくりに関する 区民意識調査」※1からもうかがえます。同調査の目指すべき生活環境に対する「現在の評価」を聞いた項目では、「単身向け、ファミリー向けなど、良質な住宅がバランスよく供給されている」「地域に住みつづけるための住宅制度が充実している」の評価が低い傾向にありました。
ただでさえ物価上昇が続いている昨今において、家賃に充てる予算を増やすことは困難な世帯も多く、都心部で生活を続けることの難しさを感じている人もいるようです。生活コストを下げる解決策としては郊外へ転出するのも選択肢の1つで、そうした現状が都心部の出生率をさらに低下させる要因となっています。
ただし、いくら生活コストを下げられるとはいっても郊外に暮らすことで通勤にかかる時間は長くなり、その結果、両親の体力的な負担増や保育園などへのお迎えが遅くなるといったデメリットがあるのも事実です。それらのデメリットを考慮した結果、都心部に住むことを選択したうえで経済的な理由から2人目の出産を躊躇する人も少なくありません。
実際に、公益財団法人1more Baby応援団の「夫婦の出産意識調査2023」※2によると、東京都に限ったことではないものの、全体の78.6%が「2人目の壁が存在する」と回答し、過去10年で最高値を記録しました。その理由としては「経済的な理由」(76.8%)が最も多く、また「2人目の壁」を感じた子育て中の人で、「物価高により子育て費用に不安を感じている」は85.5%とほとんどの人が選択しています。昔から子どもにはお金がかかるといわれていますが、近年のインフレの影響もあって特に生活コストがかかりやすい都心部を中心に、ますます子育てをしにくい環境になっているようです。
東京都区部の自治体、集合住宅に「家族で住める広さ」確保を求める条例を制定
都市部を中心として出生率が下がっている状況は各自治体も把握していて、すでにさまざまな取り組みが行われています。例えば、東京都豊島区が実施する「狭小住戸集合住宅税」もその1つです。平成16年6月1日に施行された同条例は、一定戸数以上の狭小な住戸を有する集合住宅を建築する建築主に課税(1戸につき50万円)する制度です。それによって、1戸あたりの面積が広い住宅を建築してもらい、ファミリー世帯が住みやすい物件を増やすことを狙っています。
同条例は5年ごとに見直すことが定められていますが、直近では令和6年2月7日に区長宛てに提出された「令和5年度豊島区税制度調査検討会議(狭小住戸集合住宅税について検討)」の報告書で、一定の効果があると判断されて継続が決定しました。現在では東京23区のうち18区でマンションなどの事業者に家族で住める広さの住戸を確保するよう義務付ける条例が制定されるなど、ファミリー世帯の定住を狙った取り組みが他の自治体にも広がってきています。
03出生率が不動産の資産価値に及ぼす影響
ここまで都心部の出生率の低さやその背景について紹介してきましたが、これから住宅を購入する人が最も気になるのは、出生率が不動産価格にどのような影響を与えるかではないでしょうか。
結論から言うと、出生率が低いエリアの不動産価格は下がりやすいといえます。なぜなら、不動産価格は不動産に対するニーズの強さに比例するからです。出生率が低いエリアは人口が減っていく可能性が高いため、その地域の不動産に対するニーズは一般的に弱くなります。例えば、住人が減って賃貸住宅や新築住宅が供給過剰になると家賃や物件価格の値下げ競争が始まり、不動産市場は下落しやすくなるでしょう。反対に人口増加率が高いエリアでは、賃貸や購買のニーズが強いため、不動産価格は上がりやすいといえます。
これまで東京都の場合は出生率が低くても他エリアからの人口流入が多く、人口は右肩上がりで増加してきました。また、インバウンド需要や海外投資家による不動産投資活発化の影響もあり、利便性の高い山手線沿いの都心5区(港区・中央区・千代田区・渋谷区・新宿区)を中心に不動産価格高騰が続いています。そのため、出生率が低くても都心に近いエリアを中心として、しばらくの間は急激な不動産価格の下落が起こる可能性は低いでしょう。
ただし、国立社会保障・人口問題研究所による東京都の人口シミュレーションでは2035年の約1446万人をピークに減少が始まると予測しています。人口減少の進む日本では将来的にインバウンド需要が見込めなかったり、海外投資家による投資先ではなかったりする地域においては、たとえ都内であっても地方と同様に資産価値が低下するエリアが出てくると考えられます。
なお、下記の関連記事では人口増加率と合計特殊出生率の密接な関係について、より詳しく解説しているので気になる方は参考にしてみてください。
04街探しは人口増加率に着目!「出生率向上」と「人口流入」もチェックしよう
2024年4月、民間の有識者グループである「人口戦略会議」は今後の人口予測をもとに各自治体を4つのグループにわけた報告書を発表しました。同報告書では全国の市区町村のうち4割超にあたる744自治体が「消滅可能性自治体」に区分されたほか、東京都の23区中16区で「出生率が低く他地域からの人口流入に依存している地域」である「ブラックホール型自治体」に該当するなど、これから人口減少が進む恐れのあるエリアに多くの自治体が含まれています。
一方、今後も自治体が持続していく可能性が高いとされる「自立持続可能性自治体」は、人口増加率が高い地域を中心に65の自治体が該当しています。人口増加率は数値が高いほどその地域に多くの人が流入したことを示しており、一般的には世代を問わず住みやすい街として人気のあるエリアが多いです。それに加えて出生率が高いエリアは人口が安定して増える可能性が高いので、不動産の資産価値という観点からは狙い目のエリアになるでしょう。これから住宅を購入しようと考えている方は、人口増加率の高いエリアを中心に探してみるのも1つの方法です。
なお、マイホームは高額な買い物になるので、購入前にしっかりした資金計画を作成しておくことも大切です。当サイト内には、さまざまなライフイベントを加味して試算できる「住宅購入予算シミュレーター」をご用意しています。一般的な家庭の生活費が事前入力されているので、自身の収入や家族構成などを入力するだけで適切な住宅購入予算が試算できます。また住宅ローンの種類別に、金利の低い金融機関がすぐにわかる「最新金利ランキング」があるので、資金計画の参考にしてみてください。
監修:新井智美
CFP®/1級ファイナンシャル・プランニング技能士
プロフィール
トータルマネーコンサルタントとして個人向け相談の他、資産運用など上記相談内容にまつわるセミナー講師を行う傍ら、年間100件以上の執筆・監修業務を手掛けている。
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