
5年は売れない?千代田区のマンション転売制限がもたらす影響と購入前の注意点とは

都心の新築マンションに「転売制限」が導入される動きが出ています。2025年7月、東京都千代田区は不動産の業界団体に対し、一部新築マンションについて「5年間は原則転売禁止」とする特約を契約に盛り込むよう要請しました。狙いは、投資目的の転売を抑えて価格の高騰を防ぎ、「本当に住みたい人」が優先的に購入できる環境を整えることにあります。 2025年8月時点では、こうした方針を打ち出している自治体は千代田区のみですが、今後他区にも広がっていくようであれば、都心の人気エリアにおけるマンション購入にも影響が及ぶかもしれません。 この記事では、千代田区における転売制限の概要や導入の背景、マンション購入前にチェックしておきたい注意点について分かりやすく解説します。

01千代田区が要請した「マンションの転売制限」とは?
東京都千代田区は2025年7月、不動産協会などの業界団体に対して「転売制限特約」の導入を要請しました。対象となるのは、補助金の交付や高さ制限の緩和などが認められた、公共性の高い再開発事業で供給される新築分譲マンションです。こうした物件において、具体的に次の2点を特約として盛り込むことを求めています。
- 購入者が物件の引き渡しから原則5年間、転売できないようにすること
- 一つの物件において、同一名義で複数戸購入できないようにすること
今回の要請の背景には、投資目的で短期間に転売される新築マンションの増加があります。REINS(東日本不動産流通機構)の「首都圏中古マンション・中古戸建住宅 地域別・築年帯別成約状況【2025年1~3月】」によれば、東京23区では築5年以内の成約が415件(+4.8%)、築10年以内が768件(+10.8%)と、いずれも前年を上回りました。築浅物件の流通増加は、短期保有での売却=転売の活発化を示唆しています。
さらに、三菱UFJ信託銀行の「デベロッパー調査」(2024年度下期)では、千代田区・港区・渋谷区で供給されるマンションのうち、2〜4割を外国人が取得しているとの回答が多数を占めました。都心部では外国人投資家の存在感が高まっており、投資目的の購入比率が上昇していることが、短期転売を後押しする要因となっています。
千代田区は、転売制限によって投機的な取引を抑え、新築マンションが住む場所として適正に流通するよう促していきたい考えです。実際、この制限が実現すれば、千代田区のマンション価格上昇が抑えられる可能性もあるでしょう。
現段階では、あくまで区から不動産事業者に対する要請にとどまり、法的な拘束力はありません。千代田区は、国や都に対し「短期転売における譲渡所得税の引き上げ」などの根本的な抑制策の導入を求めていく方針ですが、制度化までには時間がかかると見られます。
しかし、投機的な取引の増加に対し、一部の不動産会社では独自に短期転売防止のための特約を導入するなど、民間主体の先行的な取り組みも徐々に広まっています。
02住む人にとってはプラス?転売制限があるマンションの良い点・気を付けたい点
千代田区が要請した転売制限が実現した場合、制限特約付きのマンションを購入することによるメリット・デメリットは、どのような点にあるのでしょうか。それぞれ見ていきましょう。
<転売制限付きマンションを購入するメリット>
- 居住目的で購入する場合、抽選や価格高騰が起こりにくく買いやすい
- 短期転売が減ることで住民の入れ替わりが少なく、落ち着いた環境が得られる
- 資産価格の急変動が抑えられ、長期的に安定した暮らしを見込みやすい
<転売制限付きマンションを購入するデメリット>
- 転勤などやむを得ない事情があっても、引き渡しから5年間は原則売却できない
- 住み替えを前提に購入した場合、思うように売却できないリスクがある
- 制限期間中に不動産価格が上昇していると、売却のチャンスを逃してしまうおそれがある
03マンション購入前に確認すべき3つのチェックポイント
2025年8月現在、転売制限を要請しているのは千代田区のみですが、今後他の自治体に波及していく可能性もあります。居住用マンションの購入で後悔を避けるためには、あらかじめ次の3点をチェックしましょう。
契約時に「転売制限特約」があるか?
千代田区で物件を供給する不動産会社の一部では、すでに短期転売を防ぐための特約を自主的につける動きが出ています。購入予定の物件に転売制限特約があるかどうかは、不動産売買契約書の「特約条項」や「譲渡制限」といった項で確認できます。加えて、営業担当者に「転売に制限があるか」「譲渡制限の特約はついているか」など、事前に質問しておくと安心です。
特に、価格上昇の著しい都心部や再開発エリアのマンションの購入を希望する場合は、入念にチェックしておきましょう。
5年以上住み続ける計画が立てられるか?
今回の千代田区のように、転売制限を設けるケースでは「引き渡しから原則5年間は売却できない」といった、売却期間の制約が生じます。よって、購入から5年以上は住み続ける前提で、資金計画やライフプランを立てる必要があるでしょう。
転勤・結婚・出産・子どもの進学・親の介護など、引っ越しを伴う可能性のあるライフイベントを見据えたうえで、5年以上住み続けられるかどうかシミュレーションしておくことが大切になります。
物件所在地の自治体で制度導入の動きがあるか?
先述のとおり、新築マンションの転売制限の要請を正式に打ち出しているのは、2025年8月現在で千代田区のみです。しかし、この取り組みが成功すれば、都心の人気エリアや再開発エリアを中心に、他の区でも同様の要請が行われる可能性もあります。
これから東京都心や周辺の人気エリア、大都市中心部などで新築マンションの購入を検討しているなら、自治体のホームページや報道情報をこまめにチェックし、要請の動きがないか確認しておくとよいでしょう。
04「資産より暮らし」を重視する時代へ、住まい選びの視点も変わる!
今回の千代田区の要請は、新築マンションを「投資商品」ではなく「住むための家」として取り戻すための取り組みといえます。ただし、売却そのものを否定しているわけではなく、あくまで短期的な投機目的の購入を抑えるための対策です。
今後、他区でも同様の方針が広がれば、住まい選びにおいても「将来価格がどうなるか」という視点だけでなく、「自分や家族がどのような生活を送れるのか」「どれだけの期間住み続けるのか」といった、より生活に重きを置いた視点が重要になってくるでしょう。
マンション購入後の生活を豊かなものにするには、将来の売却や住み替えの可能性を考慮しつつ、まずは無理のない資金計画を立てることが何よりも大切です。当サイトの「住宅ローンシミュレーション」なら、現在の年収や家賃から適切な購入予算や借入額の目安を試算できます。マンション購入を考えている方は、検討の第一歩としてぜひご活用ください。

監修:新井智美
CFP®/1級ファイナンシャル・プランニング技能士
プロフィール
トータルマネーコンサルタントとして個人向け相談の他、資産運用など上記相談内容にまつわるセミナー講師を行う傍ら、年間100件以上の執筆・監修業務を手掛けている。
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