住宅ローン返済中に退職するとどうなる?リスクや対処方法について解説
住宅ローン返済中に退職した場合、今まで通りに住宅ローンを続けられるのか心配になるのではないでしょうか。金融機関に退職が知られるケースがあるのか、知りたい人もいるかもしれません。 そこで本記事では、住宅ローンの申し込み後や返済中の退職、退職によるリスクとその対処法などについて解説していきます。
01住宅ローンと退職に関するよくある疑問
まずは住宅ローンと退職に関するよくある疑問として、住宅ローンを組む前の退職、住宅ローン返済中の退職、退職を金融機関に知られるリスクについて説明します。
住宅ローンを組む前に退職すると審査に影響するか
住宅ローン審査中の退職は、審査に影響する可能性が高いといえます。金融機関は申し込み時の情報、特に返済能力をもとに融資を決定するため、勤務状況の変更は審査落ちの原因になりかねません。
また、住宅ローンの審査に通過したものの、融資を受ける前に退職した場合は契約取り消しのリスクがあります。その際は違約金が発生する可能性もあります。ただし会社都合の退職や倒産に関しては、違約金が免除されるかもしれませんので、詳しくは金融機関に確認しましょう。
退職後も住宅ローン返済は可能か
住宅ローンの返済期間中に退職しても基本的に問題ありません。ただし、退職によって返済困難な状況に陥ることは避けましょう。金融機関に相談せずに滞納が続いた場合、残債の一括返済を求められる可能性が高くなります(詳しくは後述します)。
退職を銀行に知られるリスク
住宅ローンの審査中に退職すると、健康保険証が変更されるため金融機関に情報が伝わります。一般的に金融機関は、融資実行日に健康保険証を確認するからです。したがって、審査中に退職する場合は速やかに金融機関に伝えましょう。
一方で住宅ローン返済中の退職は、基本的に金融機関に知られることはありません。ただし、新たなローンに申し込んだり、給与振込口座に指定していたりという場合は知られる可能性があります。
金融機関に対して、退職を報告する義務があるかどうかは、住宅ローンの契約内容によります。契約約款に「勤務先の変更は報告が必要」と記載がある場合は、伝えなければなりません。契約約款に記載がない場合も、自主的に伝えるほうがよいでしょう。金融機関との信頼関係を継続するためです。
また金融機関が退職の事実を把握しても、住宅ローンの返済を継続している限り、基本的に返済条件の変更は求められません。
02退職後のリスクとその対処法
住宅ローン返済期間に退職した場合のリスクと対処法について解説します。
返済を延滞しないよう、返済計画を明確にする
住宅ローンの返済が滞った場合、遅延損害金が発生したり信用情報機関に事故情報が登録されたりというリスクがあります。さらに支払えない状況が続けば、最終的に自宅を失うことにもつながります。そのため、返済計画を明確にしてから退職することが大切です。
具体的に返済計画を見直す際は、退職前に住宅ローンの借り換えを検討してみましょう。借り換えとは、現在のローンから、別のローンへ切り換える手続きです。借り換えのタイミングによっては金利負担を軽減できるというメリットがあります。
借り換えの詳細に関しては、以下の記事でご確認下さい。
年末調整ができなくなるため、確定申告で対応
基本的に住宅ローン控除は、勤務先の年末調整で手続きを行えます(ただし1年目を除く)。住宅ローン控除とは、マイホーム購入に伴うローンの一部が所得税から差し引かれる制度です。
しかし退職後、年末までに再就職していない場合は、年末調整を受けられません。そのようなケースで住宅ローン控除を受けるには、翌年、自分で確定申告を行う必要があります。
また退職した年度に年末調整を受けていない場合は、確定申告によって所得税の還付を受けられる可能性もあります。
住宅ローン控除については以下の記事で詳しく解説しているので参考にしてください。
03定年退職なら繰り上げ返済もひとつの手
前述したように、定年退職の場合は退職金で繰り上げ返済という選択肢があります。ここでは、繰り上げ返済のメリットとデメリットを解説します。
繰り上げ返済のメリット
繰り上げ返済の主なメリットとして、「心理的な安心感」と「金利の節約」が挙げられます。それぞれ解説していきます。
心理的に安心感がある
定年退職時に住宅ローンを繰り上げ返済(一括返済)すると心理的な安心感を得られます。返済によるストレスとプレッシャーから解放されるからです。定年後に受け取る年金や他の収入を返済に回す必要がありません。
このように住宅ローンの一括返済は、「負債がなくなる」という金銭的なメリットだけでなく、心理的な安定につながります。「定年退職後に返済のことを考えたくない」という場合は検討してみるのもよいでしょう。
将来払うはずの金利を節約できる
住宅ローンの一括返済はもちろん、一部繰り上げ返済も利息を節約する効果があります。繰り上げ返済によって元本が減少するため、返済期間全体で支払う利息が減少するのです。
繰り上げ返済の方法には「期間短縮型」と「返済額軽減型」があり、前者は返済期間を短縮し、後者は毎月の返済額を減らします。金利を抑える効果は期間短縮型のほうが大きいものの、定年退職後は収入減を見込まなければなりません。したがって、返済額軽減型を選択し、毎月の返済額を減らしてもよいでしょう。
繰り上げ返済のデメリット
繰り上げ返済の主なデメリットとして、老後資金の不安、団信の終了、利息を手数料が上回る可能性、住宅ローン控除の不適用があります。それぞれ解説していきます。
老後資金が不安になる
繰り上げ返済によって老後資金が不足するのでは…と不安になるデメリットがあります。
定年退職時に受け取る退職金は、老後生活に備えるための大切なお金です。繰り上げ返済によって退職金を住宅ローンに充てた場合、老後の生活費のほか、必要な医療費や介護費、車の買い替え、家のリフォームなど、急な出費に対応できないリスクがあります。
老後に安心した生活を送るためには、急な出費への備えを含めて「繰り上げ返済するかどうか」を慎重に考えることが重要です。
団信が終了する
基本的に住宅ローンを契約する際は、団体信用生命保険(以下、団信)への加入が必要になります。団信とは、住宅ローンの契約者が死亡や高度障害になった場合に、保険金によって住宅ローンが完済される制度です。
団信を生命保険の代わりに利用している人も多いかもしれません。しかし住宅ローンの一括返済によって団信は終了します(一部繰り上げの場合は完済まで終了しません)。
他の生命保険への加入を考えても、60歳を超えていると保険料が高額だったり、健康状態によっては生命保険に入れなかったりという懸念があります。
このように、団信の終了に伴って保障がなくなるという点はデメリットといえるでしょう。団信の保障を考える際には、民間の生命保険とのバランスを考慮しておく必要があります。
利息より手数料が上回る可能性がある
繰り上げ返済を何度も行う場合、手数料を考慮する必要があります。金融機関によって手数料の有無や金額は異なります。基本的にインターネット経由の手続きは手数料無料が多いものの、金融機関によっては返済額に応じて手数料が発生する場合もあります。
「利息を減らすために繰り上げ返済する」という目的があるにもかかわらず、手数料が利息を上回っていれば意味がありません。そのため、可能な限りまとまった金額での繰り上げ返済を検討してみましょう。
住宅ローン控除が受けられなくなる
繰り上げ返済によって、住宅ローン控除を受けられなくなる可能性があります。住宅ローン控除は一定期間、一定額を所得税から控除できる制度です。そのため、前述した期間短縮型で繰り上げ返済を行った場合、住宅ローン控除の対象から外れることがあるのです。
住宅ローン控除自体、見直しが多い制度なので、繰り上げ返済を検討する際は金融機関に相談するとよいでしょう。
04失業してしまった場合は、すぐに金融機関に相談を!
失業した場合に金融機関に相談するメリットと、相談なしで滞納を続けた場合のリスクについて解説します。
返済プランの見直しを検討してくれる
一般的に金融機関は、返済プランの見直しに柔軟に対応してくれます。退職によって返済が困難になった場合は、早めの相談が大切です。返済期間の延長や月々の返済額の軽減、一時的な返済猶予など、契約者の状況を踏まえた提案をしてもらえるでしょう。
自宅を手放す必要がある場合も、自己破産や任意売却という選択を含め、引越し費用や生活設計の支援を受けられるかもしれません。
さらに一部の金融機関では、退職時に住宅ローンの支払いを免除する保険を提供しています。そのような保障付きのプランを選ぶことにより、将来のリスクを軽減する効果が期待できます。
相談なしで滞納が続くと、残債の一括返済を求められてしまう
金融機関に相談せずに滞納を続けると、残債の一括返済を求められます。それでも返済できなければ、競売によって自宅を失うことになるでしょう。
さらに、自宅の売却代金が残債を下回るとローンが残ります。そのローンについても返済しなければなりません。したがって、金融機関への相談は素早く行うのがベストです。
他にも、病気によって住宅ローンが返済できなくなった場合については、以下の記事で詳しく解説しています。ぜひチェックしてください。
05まとめ
住宅ローン返済中に退職する場合は、滞納しないように事前に計画を立てたり、住宅ローン控除を受けるには自分で確定申告したりといった行動が必要です。
定年退職の場合は繰り上げ返済も考えるとよいでしょう。繰り上げ返済のメリットには、心理的な安心感と金利の節約があります。一方、デメリットには老後資金の不安、団信の終了、利息を手数料が上回る可能性、住宅ローン控除の不適用などがあります。
実際に返済が困難になった場合は、素早く金融機関に相談してください。相談なしで滞納を続けると残債の一括返済を求められます。
何よりも毎月無理のない範囲で、住宅ローンの返済額を設定することが重要です。借り入れする前には住宅ローンシミュレーションで、資金計画を立てましょう。サイト内には、借入希望額やボーナス返済額、借入期間を入れるだけで、月々の支払いがいくらになるかわかる「毎月の返済額シミュレーター」をご用意しています。ぜひ活用してみてください。
監修:新井智美
CFP®/1級ファイナンシャル・プランニング技能士
プロフィール
トータルマネーコンサルタントとして個人向け相談の他、資産運用など上記相談内容にまつわるセミナー講師を行う傍ら、年間100件以上の執筆・監修業務を手掛けている。
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