日銀、マイナス金利政策解除へ 「金利のある世界」がもたらす家計へのメリットとは?
2016年以来続いてきた日本銀行によるマイナス金利政策ですが、2024年3月の金融政策決定会合において解除されることが発表されました。長年「金利なし」が常態化していた日本でしたが、いよいよ久しぶりの「金利のある世界」が実現することになります。 マイナス金利政策の解除が報道される際、よく取り上げられるのが住宅ローン金利への影響です。マイナス金利政策解除によって長期金利・短期金利が上昇すれば、住宅ローン金利もつられて上昇する可能性は高いといえます。そのため、変動金利で住宅ローンを借り入れている家計にとっては、大きな影響が出る可能性もあるでしょう。 一方、「金利のある世界」になることで、家計にもたらされるメリットも存在します。この記事では、今後想定される「金利のある世界」の到来による家計へのメリットを解説します。
013月、ついに日銀がマイナス金利政策解除へ
日本銀行は、2024年3月18・19日に開かれた金融政策決定会合において、2016年以来続けてきたマイナス金利政策の解除を柱とする、大規模な金融緩和策の変更を決定しました。
日銀がマイナス金利政策解除にいたった背景には、33年ぶりの高い水準となった春闘における賃上げ率が挙げられます。2024年の賃上げ率は5.28%と高く、大規模な金融緩和策の目標とされてきた「持続的・安定的な2%の物価目標」を達成できる状況が整ったと考えられたのです。
日銀が政策金利を引き上げるのは2007年2月以来、実に17年ぶりのことです。マイナス金利が常態化していた日本ですが、本来これは正常なことではありません。今回の政策転換により日本の金融政策は正常化へ向かうこととなり、「金利のある世界」が実現します。
022023年から「金利のある世界」を見据え、定期預金の金利を100倍に引き上げる金融機関
日銀のマイナス金利解除が決定される前から、多くの金融機関は「金利のある世界」の実現を見据えて、定期預金の金利を引き上げる動きに出ていました。
2023年11月には長期金利の上昇に伴い、三菱UFJ銀行・三菱UFJ信託銀行・三井住友銀行・みずほ銀行などの大手銀行が、揃って定期預金の金利を引き上げました。特に、三菱UFJ銀行は10年物の定期預金金利を従来の年0.002%から年0.2%へと、実に100倍も引き上げたのです。10年物の金利引き上げは12年ぶりのことでした。
地方銀行も定期預金の金利を横並びで0.002%としていましたが、大手銀行と同様に金利を引き上げる方向に動いています。
ただ、金利が上がったとはいえ、年0.2%だと100万円預けても年間の利息はわずか2000円に過ぎません。「そんなものか」と思ってしまいがちですが、定期預金は元本保証であるため、投資のように預けた残高が減ってしまうことはありません。
よって、1〜2年後に使うことが明確に決まっている資金であれば、定期預金に入れておくメリットはあるといえるでしょう。資金が減ると困る場合も、元本保証の定期預金に入れておくと安全です。もらえる利息はわずかですが、タンス貯金にするよりかは、運用面でも防犯面でもメリットがあります。
03円安の流れを変え、家計への負担が軽減される可能性も
住宅ローンの金利が上がることによる家計への悪影響が注目されがちですが、日銀のマイナス金利政策解除によって負担が軽減される可能性もあります。どういったことなのか詳しく解説しましょう。
昨今の円ドル為替相場は歴史的な円安となっていますが、大きな理由は日米間の金利差が拡大したからです。日本がマイナス金利を続けるのに対し、アメリカは急激な物価上昇を抑えるために政策金利を大きく引き上げてきたため、金利の高いアメリカのドルが買われ、円が売られる傾向が鮮明でした。
今回、日銀がマイナス金利政策を解除したことで、日本とアメリカ(ほかの国も同様)の金利差は縮小するとみられ、結果として円高方向に触れるのではないかという見方が一般的です。
これまでの円安の流れに変化が生じれば、輸入コストの上昇により負担が増していた輸入企業や鉄鋼などのエネルギー集約産業は、コスト軽減の恩恵を受けられる可能性があります。さらに、海外供給に頼る燃料や輸入食品などの価格が下がれば、インフレが和らいで家計の消費負担も軽減されることになるでしょう。
みずほリサーチ&テクノロジーズの試算によれば、一連の物価高による家計負担は24年度単体で7.8万円増、22〜24年度の累計では28.1万円増にもなるといいます。年収が上がるほど家計の負担額自体は増える一方、年収が低い世帯ほど、収入に占める負担額の割合は増える傾向にあります。つまり、物価高の影響は年収の低い世帯により大きく現れるのです。
ただ、2024年度も値上げの波はある程度継続する可能性があるとしています。帝国データバンクが食品主要195社を対象に行った調査では、2024年1〜6月の値上げ要因として「原料高」「エネルギー」を挙げる企業が前年比で減少したのに対し、「円安(為替の変動)」や「人件費」を挙げる企業は増加しました。
さらに、みずほリサーチ&テクノロジーズでは、2024年4〜6月期が1ドル=144円、7〜9月期が1ドル=138円、10〜12月期と2025年1〜3月期は1ドル=134円を中心としたレンジで、緩やかに円高が進展すると想定。円安によって利益幅が拡大していた輸出企業の業績に営業が出てくる可能性があり、為替相場から目が離せない状況は当分続きそうです。
04「金利のある時代」を見据えて住宅ローンの金利タイプ別にシミュレーションしてみよう
日銀がマイナス金利の解除を決定し、いよいよ久しぶりの「金利のある時代」を迎える日本。マイナス金利解除は住宅ローン金利に影響を及ぼすとされますが、現状、変動金利が急激に上昇することは考えにくいというのが市場の見解です。
しかし、変動金利を選ぶと、将来的な金利上昇リスクは避けられません。手元資金や収入に余裕がある場合は変動金利で当初の金利を低く抑えるのも有効ですが、余裕がないのであれば、金利が低いうちに固定金利を検討してみてもいいでしょう。 金利タイプの違いによってどれくらい返済額が変わるのか確かめたいなら、当サイトが提供する住宅ローンシミュレーションで試算するのがおすすめ。ぜひ「金利のある時代」のマイホーム検討の参考にしてください。
監修:新井智美
CFP®/1級ファイナンシャル・プランニング技能士
プロフィール
トータルマネーコンサルタントとして個人向け相談の他、資産運用など上記相談内容にまつわるセミナー講師を行う傍ら、年間100件以上の執筆・監修業務を手掛けている。
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