最長50年の住宅ローン、ネット銀行にも登場!ローン競争が新たな局面に突入か

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これまで最長50年の住宅ローンは地方銀行を中心に扱われてきましたが、2023年8月にはネット銀行および大手銀行として初めて住信SBIネット銀行でも提供が始まりました。それによって、今後は各金融機関の顧客獲得競争が、金利の低さだけでなく、借入期間の長さでも激しくなる可能性があります。消費者にとって住宅ローン商品の選択肢が増えることは歓迎すべきことですが、果たしてこれから借入期間50年の住宅ローンは主流になるのでしょうか。そこで、今回は長期住宅ローンの概要と商品の選び方を解説します。

01借入期間が最長50年の住宅ローン、ついにネット銀行でも提供開始

これまで借入期間が最長50年の住宅ローンは、西日本シティ銀行、宮崎銀行、福井銀行、千葉信用金庫、足利銀行などの地銀が中心に取り扱っていました。しかし2023年8月に、住信SBIネット銀行が取り扱いを始めたことで、ついにネット銀行大手が初めて長期住宅ローンへの参入を果たしたことになります。

住信SBIネット銀行の住宅ローンにおける市場シェアは、2023年3月期通期決算によると第三四半期までの累計で6.5%(前年4.4%)です。2023年7月時点では、住宅ローンの累計実行額が9兆5000億円を突破し、今後2025年3月期に住宅ローンの市場シェアを10%まで引き上げることを目標にするなど勢いに乗っています。

一方で、日本の3大メガバンクの住宅ローンはあまり好調とはいえません。例えば、みずほ銀行では、2022年3月31日時点での住宅ローン残高が7兆8464億円ありますが、これは前事業年度に比べて2211億円ほど減少しています。

近年の住宅価格は、首都圏などの利便性の良い立地にあるマンションを中心に高騰が続いていて、若者世帯の住宅ローン負担増が問題視されている状況です。これまで住宅ローンの借入期間は35年が主流でしたが、それを50年に延ばすと毎月の返済額が少なくなり、比較的年収の低い若者世帯でも住宅ローンが組みやすくなります。

そうした返済期間の長い住宅ローンのメリットを若者世帯中心にアピールし、さらなる住宅ローン取扱額の拡大を目指すのが今回の住信SBIネット銀行の戦略だと思われます。しかし、その他の銀行がこのまま指を加えて眺めているだけとは考えにくく、今後は住信SBIネット銀行と同様に借入期間が最長50年の住宅ローンを取り扱うネット銀行や大手銀行が増えていく可能性は高いといえます。その結果、今後の民間金融機関の顧客獲得競争は、従来の低金利競争だけでなく借入期間の延長という新たな局面を迎えていくことが予想されます。

02住信SBIネット銀行、借入期間最長50年の住宅ローンとは?

2023年8月に取り扱いが始まった住信SBIネット銀行の住宅ローンは、借入期間35年を超えて借り入れる場合に、年0.15%の金利を上乗せする仕組みです。また、利用にあたっては以下のような要件があります。

  • 借入金額
    • 500万円以上2億円以下
  • 契約者の年齢
    • 借入時は満18歳以上満65歳以下、かつ最終返済時の年齢が満80歳未満

借入期間最長50年の住宅ローンとはいっても、上記のように「最終返済時の年齢が満80歳未満」という年齢要件がある点には気を付けてください。そのため、50年の住宅ローンを組めるのは、実質的に20代の若者世帯です。諸費用は保証料が無料なものの、事務取扱手数料として借入金額の2.2%がかかります。また、繰上返済手数料も無料なので、とりあえず長期の契約を結び月々の返済額を抑えておいて、資金に余裕が出来たら繰上返済を実行するのも選択肢として悪くないでしょう。

金利プランについては、変動金利もしくは最長35年までの固定金利の2つが用意されています。前者には借入期間中一律に金利が引き下げられる「通期引き下げプラン」、後者には借入当初に設定した期間中に金利を大きく引き下げる固定金利タイプの「当初引き下げプラン」といったお得なプランがあり、「通期引き下げプラン」が一番人気です。

なお、固定金利を選択した場合、固定金利期間終了後は変動金利へ自動的に切り替わります。しかし既存契約終了の前日までに申し込めば、固定金利のままで返済を続けられるので、金利選択に迷う人はとりあえず固定金利で様子を見ることもできます。

03最長50年の住宅ローン変動金利を選ぶリスク

日本では2013年3月に当時の日本銀行(以下、日銀)総裁に就任した黒田東彦氏のもとで、大規模な金融緩和が行われてきました。その結果、新たに住宅を購入した若者世代を中心に、金利が固定金利より低くなりがちな変動金利を選択する人が増えています。しかし、変動金利は返済期間が長くなればなるほど、金利上昇が起こったときのリスクが高くなる点には注意が必要です。

実際に2022年末からは、ここ10年ほど続いていた日銀の金融緩和策に変化が見えてきています。日銀は2022年12月の政策決定会合で、長期金利の変動幅の上限をそれまでの0.25%から0.5%に引き上げ、さらに2023年7月には1%まで許容することを発表しました。市場はその発表に敏感に反応して日本国債を売る動きが強まり、8月3日には長期金利が一時0.655%と、2014年1月以来の水準まで上昇しています。

住宅ローンの金利は固定金利が長期金利、変動金利が短期金利に大きく左右され、現在のところ上限が引き上げられたのは長期金利のみです。そのため、各金融機関は住宅ローンの固定金利を引き上げるところも出てきていますが、短期金利は現状のマイナス0.1%が維持されているため、変動金利に大きな動きは出ていません。

しかし、市場では「いずれ短期金利も修正するだろう」という見方が強く、それがいつになるかは不透明な状況です。仮に短期金利が上昇すると、住宅ローンを変動金利で契約した人は毎月の返済額が増える可能性が高く、その影響は借入期間が長ければ長いほど大きくなります。

住宅ローンの返済期間を長くすれば毎月の返済額を抑えられるとはいっても、それ以上に金利が上昇しては結局、家計は苦しくなってしまうでしょう。返済期間中に金利が上がっても対応できるほどの資金力があれば話は別ですが、基本的に50年の住宅ローンで変動金利を選ぶのはリスクが高いということは留意しておいてください。

04長期優良住宅なら最長50年の住宅ローン「フラット50」という選択肢も

今後、金利上昇も予測される日本において返済期間50年の住宅ローンを組むなら、全期間固定型である住宅金融支援機構の「フラット50」を選択する方法もあります。「フラット50」は長期優良住宅を対象にした最長50年の住宅ローンです。近年、各種の税制優遇措置を受けられることから、長期優良住宅について関心を持つ人が増えています。

しかし、長期優良住宅として認められるには高い耐震性や数世代にわたって住み続けられる劣化対策が必要で、建築費はもちろん住宅の性能を維持するためのメンテナンス費用も高額になりがちです。そのため、住宅ローンの借入額が増えてしまい、返済期間35年では毎月の返済額の大きさから長期優良住宅の建築を断念する人も少なくありません。

その点、「フラット50」なら借入期間の長さを活かして、借入金額が大きくても毎月の返済額を抑えることができるうえ、全期間固定型なので金利上昇リスクにさらされることもありません。また、仮に転勤などのやむを得ない事情によって住宅を売却しなければいけなくなった場合でもローンが残ったまま売却が可能で、その物件を購入する人に債務を引き継げる金利引継特約を利用できる点もメリットです。

ただし、「フラット50」の借入金額は住宅の建築費もしくは購入価格の90%が上限である点に注意してください。仮に住宅取得費用のすべてを住宅ローンで賄いたい場合は、「フラット50」で足りない分を「フラット35」や「フラット20」と併用することもできますが、2本分の契約が必要です。住宅選びで長期優良住宅を選択肢に入れていて「フラット50」について興味がある人は、下記の関連記事も参考にしてください。

将来の毎月返済額を軽減できる「フラット50」とは? 金利や審査について解説
[特集記事] 2022.12.09

05最長50年の住宅ローンを組めるのは30歳まで!事前の資金計画をしっかり立てよう

ネット銀行大手の住信SBIネット銀行が最長50年の住宅ローンの取り扱いを始めたことで、今後は他の大手銀行でも長期間借り入れられる商品の提供が始まる可能性があります。ただし、住宅ローンには年齢要件があり、仮に「満80歳まで」であれば、借入期間50年で契約するには30歳までに借り入れをしなければいけません。

一般的に20代・30代は住宅購入だけでなく、結婚・子育てといったお金のかかるライフイベントが重なる時期です。たしかに最長50年の住宅ローンを選べば毎月の返済額を抑えられますが、大切なのは自分のライフスタイルに合った無理のない返済計画を立てることです。そのためには、住宅購入予算を事前によく把握しておくことが重要です。当サイト内には住宅購入予算や毎月の返済額を計算するのに便利な無料シミュレーターを用意しています。入力時間は最短3分と忙しい人でも気軽にチェックできるので、ぜひ試してみてください。

新井智美

監修:新井智美

CFP®/1級ファイナンシャル・プランニング技能士

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トータルマネーコンサルタントとして個人向け相談の他、資産運用など上記相談内容にまつわるセミナー講師を行う傍ら、年間100件以上の執筆・監修業務を手掛けている。

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