財形住宅融資とは?基本や仕組み、他の住宅ローンとの違いを解説

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企業に勤めている人の中には、会社で財形貯蓄制度を利用している人も多いのではないでしょうか。実は、財形貯蓄制度を利用している人が住宅購入を検討する場合、「財形住宅融資」で住宅ローンの借り入れができます。しかも財形住宅融資を利用すると、金利面で優遇されるといったメリットもあるんです。今回は、財形住宅融資を利用して賢く住宅ローンを組むための利用条件などについて詳しく解説します。

01財形住宅融資とは?

財形住宅融資とは、財形貯蓄制度をすでに利用している人の中でも、一定の要件を満たした人だけが利用できる住宅金融支援機構の融資制度のことをいいます。ちなみに財形貯蓄制度は、正式には「勤労者財産形成促進制度」といい、財形住宅貯蓄を含めて3種類あります。

勤労者財産形成促進制度の3つの種類

  一般財形貯蓄 財形年金貯蓄 財形住宅貯蓄
対象 財形貯蓄制度が適用されている企業の従業員 財形貯蓄制度が適用されている企業の従業員 満55歳未満の人
利用目的 制限なし 老後の年金資金形成 住宅購入やリフォームの資産形成
積立期間 原則3年以上 原則5年以上 原則5年以上
払出可能な時期 条件なし 60歳以降、年金形式で受け取り 要件を満たした住宅を取得するための費用(リフォーム費用も含む)
非課税措置 なし 財形住宅貯蓄と合算して550万円までは利子等を対象に非課税措置あり (保険商品の場合は払込額385万円まで) 財形年金貯蓄と合算して550万円までは利子等を対象に非課税措置あり (保険商品の場合は払込額385万円まで)
積立商品の種類 定期預金、保険(生命保険・損害保険等)投資信託、国債・社債などの有価証券

財形貯蓄制度は、国と会社が連携して従業員の資産づくりを支援することを目的としており、福利厚生の一環としてこの制度を導入している企業の従業員が利用できます。ちなみに財形年金貯蓄と財形住宅貯蓄は、契約時の年齢が55歳未満の方のみ加入できます。

02財形住宅融資の利用条件

財形住宅制融資を利用するにあたって、一定の要件を満たす必要があります。財形住宅融資の利用条件を下記にまとめました。融資できる限度額は、申込者の財形貯蓄の残高によって変動します。財形住宅融資の利子は固定金利で、返済の開始から終了までの全期間、5年ごとに適用金利を見直すことができます。

財形住宅制度を利用するための融資条件

条件 ・自分で所有および居住するための住宅を建設または購入する人
・返済が終了するまで、融資した住宅に住むこと
条件 ・一般財形貯蓄、財形住宅貯蓄、財形年金貯蓄を行っている会社員または公務員
・財形貯蓄を1年以上続けているかつ、申込日前2年以内に一般財形の預け入れを行っている
・貯蓄残高が50万円以上ある
条件 ・勤務先から住宅における住宅手当や利子補給等の援助など、負担軽減措置が受けられる人
※負担軽減措置は、住宅手当や利子補給等の援助措置を5年以上受けられる期間が必要
限度額 ・一般財形貯蓄、財形年金貯蓄または財形住宅貯蓄の残高合計の10倍まで
・最高4000万円まで ・住宅取得価額の90%まで
他社への借り入れ状況 ・申込者が契約している全ての借り入れの年間合計返済額の割合(総返済負担率)が下記基準を満たしている方
年収400万円未満:30%以下
年収400万円以上:35%以下
※全ての借り入れは、財形住宅融資をはじめ、財形住宅融資以外の住宅ローン、自動車ローン、教育ローン、カードローンを含む
※同居する家族や親族、同居していない直系親族の収入を合算できる場合もある
金利タイプ ・返済の開始から終了までの全期間、5年ごとに適用金利を見直す5年間固定金利

財形住宅融資を利用するためには、上記に記載した条件を全て満たしていなければなりません。また他社への借り入れ状況に関しては、同居している親族や直系親族の収入を合算できる可能性もあるため、申請をする前に確認するようにしましょう。

03融資を受けられる住宅条件

融資を受けられるかどうかは、住宅や土地の条件によっても左右されます。また、新築住宅の建設・購入、中古住宅の場合でも、「土地融資のみ」での利用はできません。ここでは、住宅購入の際、融資を受けるために必要な住宅における条件を説明します。

新築住宅を建設する場合

新築の住宅を建設する場合は、以下の3つの条件を全て満たす必要があります。

  1. 住宅部分の床面積が70平方メートル以上280平方メートル以下の住宅
  2. 住宅支援機構の定める技術基準に適合する住宅
  3. 申込年度の2年前(2022年に申し込むのであれば2020年)の4月1日以降に取得した土地、または取得予定の土地であること(面積の制限はなし)

2の「住宅支援機構の定める技術基準」の詳しいことは、下記のURLで確認できますので、参考にしてください。

新築住宅を購入する場合

次に新築住宅を購入する場合には、以下の条件を全て満たしている必要があります。

  1. 申込日前より2年以内に完成または工事中の住宅(未着工を含む)
  2. 機構の定める技術基準に適合する住宅
  3. 一戸当たりの住宅部分の床面積が次の面積である住宅
    • マンション(専有面積):40㎡以上280㎡以下
    • 一戸建て、連続建て、重ね建て:70㎡以上280㎡以下
  4. 申込日より前に、売主から申込者本人または第三者に所有権の登記がされておらず、土地を含めて申込後に申込者本人の所有となる住宅
  5. まだ一度も人が住んだことのない住宅
  6. 敷地の権利が所有権または借地権(地上権で登記されているものまたは賃借権)である住宅

中古住宅を購入する場合

最後に、中古住宅を購入する際の条件を紹介します。中古住宅の場合は、新築後の経過年数を問わず1~3のいずれかに当てはまる住宅であれば問題ありません。しかし、その下に記載されている◎の条件は、全て満たしていなければなりません。

  1. 「適合証明書」により、財形住宅のリ・ユース(中古)住宅のタイプのいずれかに適合すると証明されている住宅
  2. フラット35サイト「中古マンションらくらくフラット35」に掲載されている「適合証明書が省略できる中古マンション」であることが「適合証明省略に関する申出書」により確認済みの住宅
  3. 「リ・ユースマンション適合確認書」により要件に適合すると確認された住宅

3に関しては特例のようなもので、1983年4月1日以降に新築された住宅、または建築確認日が1981年6月1日以降の住宅において、タイプがリ・ユースマンションの場合のみ該当します。

必須で満たさなければならない条件

  • 食事室を含む2つ以上の居住室ならびに台所、トイレおよび浴室がある住宅で、店舗と併用でないもの
  • 建築後2年を超えた住宅(建築後2年以内の場合は、人が住んだことのある住宅)
  • 申込日より前に、売主から申込本人に所有権の登記がなされていない住宅で、申込後、申込本人の所有になるもの(土地を含む)
  • 敷地の権利が所有権または借地権(地上権で登記されているものまたは賃借権)である住宅 ※定期借地権付住宅に対する融資可能
  • 一戸当たりの床面積(専有面積)が40㎡以上280㎡以下の住宅

04財形住宅融資の申込方法

財形住宅融資は、融資の種類によって申し込み方法や必要書類が異なります。まずは該当する融資に必要な書類をそろえた上で、住宅がある場所と同じ都道府県内の「住宅金融支援機構の取り扱い金融機関」に申し込み手続きを行いましょう。

住宅がある都道府県まで遠い場合などは、「住宅金融支援機構」に直接申し込むことも可能ですが、融資が決定してから返済終了までの手続きは各金融機関で行うことになります。住宅金融支援機構を取り扱っている金融機関は以下のHPに記載されているため、申し込む前に確認しておきましょう。

紹介した全ての融資において必要な書類を下記にまとめました。

  • 財形住宅資金借入申込書
  • 負担軽減措置等の証明書(※勤務先から証明された書類等をもらう必要あり)
  • 財形貯蓄残高計算依頼書(発行日から7カ月以内)
  • 財形住宅融資の融資金利に関する確認書(申込時に提出できない場合は、融資の契約時までに提出)
  • 封筒(融資予約「承認」通知書送付用)、返信用の切手を貼ったもの
  • 住宅金融支援機構 財形住宅融資商品概要説明書

借入申込書は、住宅金融支援機構のお客さまコールセンター(0120-0860-35)へ請求すれば無料で送付してくれます。必要な書類をまとめたら、下記住所へ送付します。

<郵送申込先>
〒112-8570 東京都文京区後楽1丁目4番10号
独立行政法人住宅金融支援機構 本店 郵送申込係

※郵送での申し込みの場合も、借り入れの契約および返済などの手続きは取扱金融機関で行います。

申し込み後は、ほかの住宅ローンと同様に申込者の雇用形態や年収、勤続年数、他社の借り入れ状況などをもとに審査が行われ、審査に通過すれば融資が可能となります。審査の結果によっては融資を受けられない可能性や、希望していた額よりも減額される場合があります。

05財形住宅融資のメリット・デメリット

財形住宅融資によって得られるメリットやデメリットには、どんなものがあるのでしょうか。具体的な内容を紹介します。

財形住宅融資を利用するメリット

財形住宅融資のメリットには、以下の2つがあります。

  1. 他の住宅ローンに比べて金利が安い
  2. 事務手数料や保証料が不要

一般的に販売されている住宅ローンに比べると、金利が低く返済がしやすいことや、事務手数料・保証料が不要なため、住宅ローンにかかるコストを少しでも少なくしたいと考えている方にはおすすめです。それぞれの詳細を解説します。

メリット1:他の住宅ローンに比べて金利が安い

住宅金融支援機構が民間金融機関と共同で提供するフラット35と比較しても、財形住宅融資の金利はかなり低いといえます。具体的な金利は以下のとおりです。

フラット35を利用した場合の金利

※借入期間:21年以上35年以下
※2022年2月時点

融資率 金利の範囲 最も多い金利
9割以下 年1.350%~年2.270% 年1.350%
9割超 年1.610%~年2.530% 年1.610%

財形住宅融資を利用した場合の金利

※2022年1月1日~同年3月31日までに申込んだ人に適用
※団体信用生命保険に加入しない場合
※2022年2月時点

当初5年間:年1.01%

年利は1.01%と低く設定されており、最初の5年間は固定金利となります。その後は5年ごとに見直しがあります。

メリット2:事務手数料や保証料が不要

金融機関によって金額は異なりますが、一般的な住宅ローンでは借り入れ時に事務手数料が発生します。融資額に関わらず定額の場合もありますが、融資額の2.2%など、定率型で事務手数料が請求される場合もあります。例えば3000万円の借り入れをするのであれば、66万円(税込)=3000万円×2.2%と高額になります。

また事務手数料の他に、ローンの保証会社に支払うための費用「保証料」も、借入金額や返済期間によって金額が変わるため、あらかじめ考慮しなければなりません。一般的に返済期間35年の場合、借入金額1000万円当たり約20万円が必要です。例えば3000万円借り入れするなら保証料は60万円となります。財形住宅融資を利用すれば、これらの費用はかからないため、数十万~数百万円単位で無駄な出費を抑えられるでしょう。

その他、住宅ローンにかかる費用にはどんなものがあるのか知りたい方は、以下の記事を参考にしてみてください。

06財形住宅融資を利用するデメリット

金利や手数料・保証料不要など魅力的なメリットがある一方で、以下のようなデメリットもあります。

  1. 借入可能額は最大4000万円
  2. 金利の見直し額に上限が設定されていない

デメリットは借入可能額に上限がある点と、最初の5年間は低金利で払い続けられるものの、その後の見直しでは上限なく金利が上がる可能性があるというものです。こちらの詳細も解説します。

デメリット1:借入可能額は最大4000万円

財形住宅融資を利用する場合、借入可能額に上限があり、最大4000万円までしか借り入れできません。そのため、購入を希望している住宅の金額が4000万円以上の場合は、利用できないケースも出てくるでしょう。また財形住宅融資を利用する際、団体信用生命保険(団信)へ支払う費用は自己負担となります。団体信用生命保険とは、ローン返済中に契約者の生命に万が一のことがあった場合、保険金により残りの住宅ローンが弁済される保障制度です。住宅金融支援機構が行う財形住宅融資では「加入は任意」となりますが、加入しておくと安心です。

デメリット2:金利の見直し額に上限が設定されていない

もう一つのデメリットは、金利の見直し額に上限がないことです。本来、変動金利には見直し後の毎月の返済額が、前回の1.25倍以上にはならないという「125%ルール」があります。しかし財形住宅融資の場合、最初の5年間は固定金利で支払い、その後5年ごとに見直しされる適用金利には下限や上限が設定されていません。そのため、急激に金利が上昇しても、5年間は上昇した金利を含めた返済額を毎月、支払い続けなければなりません。上限が設定されていないため、見直し後は他の住宅ローンの方が、毎月の返済額が安くなるケースもあるのです。

07財形住宅融資と他の住宅ローンとの違い

住宅ローンは大きく分けて、公的融資と民間融資、協調融資(フラット35)の3つに分類されます。その中でも財形住宅融資は、住宅金融支援機構や雇用・能力開発機構が提供している公的住宅ローンの1つです。公的住宅ローンには他にも、都道府県や市町村などが行う自治体融資がありましたが、現在はほとんど行われていません。ここから、財形住宅融資と他のローンとの違いについて説明します。

民間融資

民間融資とは、銀行や信用金庫などの民間企業が行う融資のことです。公的な機関よりも店舗数が多く、全国各地に支店があるため店頭での相談も気軽に行えます。さらに、独自のローン商品を取り扱っており、一定の条件を満たしている場合、店頭金利より引き下げられた金利が適用されるケースもあります。公的融資と比べて圧倒的にローン商品の種類が豊富で、金利も抑えられる可能性がありますが、公的融資に比べて審査が厳しいといった特徴もあります。

協調融資(フラット35)

協調融資とは、日本公庫と民間金融機関が連携して融資する住宅ローンのことで、代表的なものに、住宅金融支援機構と民間金融機関による「フラット35」があります。融資実行時に適用された金利が完済まで続く全期間固定型が特徴で、金利が上がっても毎月の返済額は変わらないので、安心感があります。

公的融資は、勤務先や財形住宅金融、共済組合、住宅金融支援機構取扱店の金融機関などで取り扱われていますが、協調融資の取り扱いは、都市銀行や地方銀行、信用金庫、ネット銀行、生命保険会社などです。融資を受ける金融機関によって金利や事務手数料の有無が異なるため、契約前にはしっかりと確認が必要です。

住宅ローンの種類やフラット35についての詳細は、下記の記事を参考にしてみてください。

08自分に適した融資方法を選ぶ際のポイント

住宅ローンと一口で言っても、さまざまな種類があることがわかりました。とはいえ「どの住宅ローンが自分に合っているかわからない」という人も多いのではないでしょうか。住宅ローン選びに迷っている人向けに、押さえておきたい融資方法のポイントを解説します。

公的融資

借入金額が4000万円以内に収まるなら、保証料や事務手数料のコストがかからない公的融資がおすすめです。さらに5年間は低金利で借り入れできるため、「なるべく早く完済したい」と考えている人は財形住宅融資を検討してみましょう。

民間融資

住宅購入の際、不動産業者や勤め先などで提携ローンがある場合は、金利面で有利になることもあるため民間融資を選びましょう。「変動金利でとにかく安さを求める!」という人は、125%ルールが適用され、比較的金利が安いネット銀行を検討するのがおすすめです。

協調融資(フラット35)

完済までの全期間、固定金利で支払い続けることができ毎月の返済額が変わらないため、毎月の返済額を固定させたい人は、フラット35がおすすめです。また持病があって団信に加入できない人や、ワイド団信などの上乗せ金利を負担することも避けたい人にも適しています。

09財形住宅融資のメリット・デメリットを比較して最適な住宅ローン選びを!

財形住宅融資は5年間の固定金利があり、金利の下降局面であれば享受できるメリットは大きなものとなります。しかし5年後に金利が見直しされる際は、上限設定がないため金利が上昇する局面では毎月の返済額が大きくなり、家計を圧迫する可能性もあることをあらかじめ理解しておく必要があります。各住宅ローンのメリットやデメリットを比較し、自分が購入する住宅には、どのローンが適しているのかをしっかり吟味しながら利用を検討してみましょう。

新井智美

監修:新井智美

CFP®/1級ファイナンシャル・プランニング技能士

プロフィール

トータルマネーコンサルタントとして個人向け相談の他、資産運用など上記相談内容にまつわるセミナー講師を行う傍ら、年間100件以上の執筆・監修業務を手掛けている。

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