
資産運用を始める前に不動産投資ローンについて学ぼう

ワンルームマンションやアパート、あるいはオフィスビルなどを直接購入して、そこから収益を得るのが不動産投資です。こうした不動産経営を始める際に、金融機関から融資を受けることを不動産投資ローンと言います。ではこの不動産投資ローンは、通常の住宅ローンとどのような違いがあるのでしょうか?

01不動産投資ローンと住宅ローンの違い
住宅ローンは、自分の住む一軒家あるいはマンションなどを購入する際に利用するものです。金融機関から融資を受ける際には、本人の返済能力を基準に審査がなされます。一方、不動産投資ローンは本人の返済能力だけではなく、対象となる「不動産投資」という事業の内容も併せて審査されることになります。その投資用物件を用いて、本当に採算のとれる事業を営めるのか。また、将来にわたって継続的な事業運用が可能なのか。こうした要素が重視されます。返済原資にも大きな違いがあります。住宅ローンでは借主の毎月の給与収入が返済の元となりますが、不動産投資ローンでは、不動産収益として毎月の家賃収入が入るため、主な返済原資はそうした事業収益となります。不動産投資ローンは物件購入自体ではなく、事業自体に融資をしてもらうビジネス要素の強い投資であると言えます。ただの借金ではなく、少ない自己資金を元手に、他人の資本を誘い込むことで、大きな利益を得るといったレバレッジ的な面が強いのです。
異なる金利
不動産投資ローンと住宅ローンでは、金利も大きく異なります。住宅ローンは、給与収入からの返済ですから、貸し倒れとなるリスクが少ないため0.5~2.0%程度の低金利による借り入れが可能です。一方、不動産投資ローンは、住宅ローンよりも貸付金額が大きいですから、収益となる家賃収入が想定通りに入ってこない場合、貸し倒れのリスクがあります。そのため金利も1.5~4.5%と高くなります。
金利水準
住宅ローン | 0.5~2.0%程度 |
不動産投資ローン | 1.5~4.5% |
不動産投資でも、比較的リスクの少ない2000万~3000万円の新築ワンルームマンションへの投資であれば、金利も1.5~3.0%程度と落ち着きます。一方、リスクの大きい1億~2億円のマンション投資や築古物件などは金利が2.0~4.5%と高い水準になります。ですから2%後半から3%台の高い借入金利の際には、購入後のキャッシュフローに最大限の注意を払う必要があります。
02不動産投資ローンを利用するメリットとデメリット
不動産投資ローンを利用して事業を行う上で、そのメリットとデメリットには、どのような点が挙げられるでしょうか。
不動産投資ローンのメリット
先ほども述べたように、少ない資金で高額の物件を手に入れられます。不動産投資ローンを組むことによって、自己資金にあまり余裕がなくても他人資本で事業を行えるのです。不動産投資では、借主の年収や資産に加えて毎月の家賃収入が加算されるため、借り入れることができる上限額は年収の10~20倍程度までと、住宅ローンに比べて大きくなります。住宅ローンの場合は、年収の5~6倍程度の借入額が適切とされており、高くても年収の7~8倍程度です。
借入可能額の上限の目安
住宅ローン | 年収の7~8倍程度 |
不動産投資ローン | 年収の10~20倍程度 |
例えば年収の15倍ほど借り入れられるとすれば、新築マンションで1棟が1億円前後の物件を、ローンで購入可能な目安としては年収700万円前後から可能という計算になります。加えて勤務先や資産状況などが良ければ、年収500万円前後でも1億円の借り入れが可能となるのです。金融機関から不動産購入資金の融資を受けることによって、良い物件があれば、それを元手に、すぐにでも不動産投資事業を始められます。
不動産投資ローンのデメリット
融資を受けたからには、当然ながら毎月の返済があります。もしも不動産投資事業で空室が埋まらないなどの不具合が生じた場合には、自己資金から返済の穴埋めをしなければなりません。これが一時的なものであればまだしも、慢性的になり厳しい返済が続くことになると、事業全体の見直しにもつながります。
ある期間にわたってローンの返済が滞った場合などに、急遽、物件の売却を考えることもあるかもしれません。売却のタイミングにもよりますが、特に所有期間が短かった場合には、売却金額がローンの残債金額を下回る可能性があります。これを自己資金で補填できれば問題はないのですが、補填できなければ、金融機関の抵当権が外せなくなります。
そうなると、いざ買い手が現れたとしても売却できないというリスクが考えられます。 抵当権がついている不動産を売却するには、抵当権が外れていなければならないからです。最悪の場合、自己破産や任意整理などの債務整理を迫られることになります。債務整理となると、その後にクレジットカードが作れなくなるなどのデメリットもあります。
03不動産投資における審査の基準とは
住宅ローンの審査では、返済元となる人物の属性情報のみが審査基準の対象となりますが、不動産投資ローンでは、これに加えて物件の事業性が重視されます。当然ながら一般の住宅ローンよりも細かい審査が行われます。
審査基準
住宅ローン | 本人の返済能力 |
不動産投資ローン | 本人の返済能力+物件の事業性 |
以下が審査対象です。
物件の収益性・資産価値
金融機関は物件の担保力を審査します。担保とは、債務者の返済が困難になり債権者側に多くの損害が発生するといった事態に備えて、あらかじめ債権者に提供されるもののことを言います。審査の際には、物件周辺の取引実績に加えて収益性、つまり対象物件から得られる収益も担保として評価されます。要するに不動産から得られる利益があれば、それが担保として高く評価されるのです。収益性が高ければ高いほど評価も上がります。
資産価値は、建物の築年や状態、そして立地によります。都市部では駅に近いと資産価値が上がります。地方では駐車場の有無などが都市部より重視されます。物件の資産価値は、金融機関がその不動産投資物件に対し、いくらまで融資できるかという評価額にも関連します。これは担保評価と呼ばれます。
自己資金・貯金
不動産投資ローンの場合でも、融資の交渉をする際に個人の属性(自己資金、年収、勤務先、勤続年数、借入金の有無)はかなり重視されます。中でも自己資金は、非常に重要な属性情報のひとつです。手元にある程度の自己資金のある人ならば、融資先としてリスクが少ないと金融機関は判断します。また、例えば、一定以上の貯金があることにより、融資を受ける際には頭金を出さなくても十分に有利になると言われています。
04物件購入時に必要となる自己資金と借り入れできる金額の目安
不動産投資ローンの借入金額について、ここでは年収の5倍を一つの目安としてみましょう。ですから年収600万円のサラリーマンの場合には、借入金額の目安は 3000万円になります。自己資金の目安は、一般的に物件価格の20~30%ほどと言われています。これを頭金として支払います。
不動産購入時の物件価格とは別に、仲介手数料、登記費用、融資手続き費用など諸経費が、およそ物件価格の5〜7%の割合で別途かかります。したがって、 3000万円の物件を購入する場合には、自己資金は物件の頭金として600万〜900万円、手数料は物件価格の6%として約180万円が必要となるでしょう。
都市銀行・メガバンクの不動産投資ローンの審査は最も厳しく、属性情報や購入対象の投資物件に対する評価も、とても厳密です。審査の時間もかかると言われます。制約がもっとも少ないのは政府系の金融機関である日本政策金融公庫です。年収500万円以下の場合には、ローンが組める金融機関は限られてくるため、基本的にここを中心に融資に臨むことになるでしょう。
さらに、年収500万円以下の人でもローンを組みやすいのが、ノンバンクとよばれる金融機関です。ノンバンクとは、預金の受け入れ機能をもたず融資のみを行う銀行。金利は高く、返済期間も短めです。年収500万〜700万円程度であれば、対象エリアが比較的広いSBJ銀行を検討するのがよいでしょう。また、地方銀行である静岡銀行も不動産投資に積極的な金融機関として知られています。融資エリアも広く、東京や大阪・愛知・神奈川などの都市部に支店があるため、これらのエリアに住んでいればローンを組める可能性があります。年収700万円を超えると、期待できる金融機関の範囲はかなり広がります。購入が望める物件の数も一気に増えます。また年収が 1000万円を超えると、メガバンク(都市銀行)や信託銀行などの金融機関も検討対象に入ってくるでしょう。
年収毎に選択できる金融機関の目安
年収 | 選択できる金融機関 |
500万円未満 | ノンバンク |
500万以上700万円未満 | SBJ銀行、静岡銀行など |
700万以上1000万円未満 | 幅広い金融機関 |
1000万円以上 | メガバンク、信託銀行など |
05不動産投資ローンを組んでいると住宅ローンに影響がある?
不動産投資用ローンを組んで投資用物件を先に購入し、その後、住宅ローンを組むことは可能です。住宅ローンの場合、個人の属性である年収のみが返済原資となります。不動産投資で、その個人に多額の借り入れがすでにあれば、やはり引っかかってしまうのではないかと思われがちです。しかし実際は、投資用物件を運用することで毎月の家賃収入が発生し、これを年収の一部とみなしてくれる金融機関が多いのです。
例えば年収が600万円でワンルームマンション投資物件を1件持っている場合、家賃収入が年間で100万円と想定すると年収700万円の扱いとされます。このように不動産投資の実績を積むことにより、1億円超えの借り入れがあるような場合でも金融機関によっては住宅ローンを組むのが可能となるのです。フルローンで住宅ローンを組めない場合でも、頭金を一定額貯めた後であれば審査も通りやすくなるのではないでしょうか。 いずれにせよ、こうした場合には不動産投資ローンと住宅ローンとで、二重の借り入れを背負うことになります。事業責任も含めて、その舵取りは簡単なものではないでしょう。くれぐれも注意を払いながら、返済に臨んでいきましょう。

文・監修:下澤一人
宅地建物取引士
プロフィール
出版社勤務後、宅地建物取引士の資格を取得し、不動産専門新聞記者、不動産会社勤務を経て現在、編集者・ライターとして活動中。