50~60代から考え始める老後の住み替え|検討タイミングや住み替え先の選び方などを解説
子どもが独立したり定年退職したりしたタイミングで、「今よりもコンパクトな家に住み替えたい」もしくは「街中で交通アクセスが便利なマンションで暮らしたい」と考える50~60代のシニア世代が増えています。 体力的な衰えを感じる70~80代になる前に住み替えをするメリットは多数あるものの、老後の暮らしを見据えた住まいを選ばなければ、逆に暮らしにくさを感じてしまうかもしれません。 そこでこの記事では、50~60代で老後の住み替えを検討している人向けに、物件の選び方や資金計画について解説します。この記事を読むことで、自分たちに合った住まい選びが分かります。
- 01老後の住み替えの選択肢
- 戸建てへの住み替え
- マンションへの住み替え
- リフォーム・建て替え
- シニア向け住宅
- 子どもと近居・同居
- 02老後の住み替え先の選び方
- 【住宅設備】老後のライフスタイルに合っているか
- 【周辺環境】子どもたちとの距離
- 【周辺環境】利便性やセキュリティーに優れているか
- 【災害リスク】ハザードマップを確認
- 【その他】無理のない購入契約になっているか
- 【その他】売却しやすい物件か
- 03老後の住み替えを考え始めるタイミング
- 子どもが独り立ちしたとき
- 定年退職したとき
- リフォーム・建て替えを検討したとき
- 住み替えの平均は50代からが多い
- 04老後の住み替えのための資金計画
- 現在の住まいの売却資金
- 住宅ローン
- 退職金や預貯金
- 05まとめ
01老後の住み替えの選択肢
子どもの独立や定年退職などをきっかけに、住み替えを検討される人が増えています。老後を楽しく、かつ安全に過ごすための理想の家にはどんな選択肢があるのでしょうか?5つのパターンに分けて解説します。
戸建てへの住み替え
戸建てへの住み替えは、自分たちのライフスタイルに合った暮らしを実現できる点が魅力です。建物の管理は自分でやらなければならないものの、集合住宅のように細かいルールはほぼありません。ゆったりと老後を過ごすには、ピッタリの住宅といえるでしょう。
戸建てに住み替えるメリット
- 自分たちのライフスタイルを実現できる空間が手に入る
- 集合住宅にありがちな使用制限がなく、騒音トラブルも少ない
- 土地の価値はほぼ一定なので、年月が経っても資産として残せる
持ち家なのでペットを飼うのは自由、リフォームなどの改装なども自由に行えます。さらに空いた敷地があれば、家庭菜園に活用できるなど生活空間をアレンジしやすいでしょう。
また、資産としての価値が大きい点もメリットです。建物の価値は築年数とともに減少するものの、土地の価値はあまり変わりません。好立地の物件であれば意外と高い評価額が付く場合もあり、自宅を資産として子ども世代に残すこともできます。
戸建てに住み替えるデメリット
- 建物の維持管理を自力で行う必要がある
- セキュリティー面の対策に費用がかかる
- 間取りによっては生活しづらくなることも
建物の管理は自分たちでやらなければなりませんので、その手間と費用はかかってしまいます。また、間取りや建物の構造によっては、歳を重ねるにつれて暮らしにくくなることもあるようです。特に2階リビングなど生活スペースが上階にある間取りは、高齢になればなるほど階段から転落しやすかったり足腰が悪いと階段の上り下りができなくなったりするため、生活に支障が出てくるかもしれません。老後生活を考えるなら、できれば平屋を選ぶといいでしょう。
マンションへの住み替え
マンションはワンフロアで生活できるため、高齢になって体力が衰えても安全に暮らしやすい住宅といえます。毎月、管理費や修繕積立費といった支払負担は続くものの、建物の維持管理は管理会社におまかせできるので、普段の生活は便利で快適です。
マンションに住み替えるメリット
- ワンフロアで生活空間がつながっていて暮らしやすい
- 管理会社が建物の管理を行い、セキュリティー性も高い
- 気密性が高く、温度管理も安定している
体力が衰えても、庭の草むしりや外壁のメンテンスなど手間がかかる建物の管理は必要ありません。ワンフロアで生活空間がつながっており段差も少ないため、室内での転倒リスクも少ないでしょう。
マンションに住み替えるデメリット
- 管理費や修繕積立金、駐車場代などが必要になる
- 大型マンションで上層階に住む場合は、移動などが不便
- 周りの世帯との騒音トラブルなどが起こりやすい
住宅ローンを完済したとしても、毎月一定額の管理費や修繕積立費を払い続けなくてはなりません。また、上下階との騒音トラブルといった集合住宅にありがちな問題に悩まされるケースもあります。
リフォーム・建て替え
子どもの独立後、空き部屋の増えた住まいをリフォーム・建て替えするパターンです。比較的低コストで、自由に生活空間を構築できる点は大きなメリットといえます。バリアフリー工事など、高齢になってからの生活に合わせたリフォーム・建て替え工事を行う人も多いでしょう。
リフォーム・建て替えのメリット
- 空いた子ども部屋を活用した広い間取りを実現できる
- 比較的低コストで、ライフスタイルに合った間取りに変更できる
- リフォーム・建て替え工事に適用される補助金制度などが豊富
使われなくなった子ども部屋がある場合、その空間を趣味の空間へと作り替えることもできますし、壁を撤去して広い空間にするなど、自由な間取りを実現できます。特に車いすの入りやすい空間に作り替えるなどの需要は伸びているようです。
介護生活を見据えたリフォーム・建て替え工事に対しては、国や自治体から補助金が出ることがあります。上手に活用すれば、低コストで理想の住まいを手に入れられるでしょう。
リフォーム・建て替えのデメリット
- 工事内容によっては費用がかかる
- しっかりと設計しておかないと住みづらい空間になりやすい
建て替えは、工事内容によっては費用がかかります。これは建物の一部を改装するリフォーム工事でも同様です。建物の建材や修復度合いによっては、新たにローンを組む必要があるでしょう。
かなり大幅な変更を加える場合は、リフォーム・建て替え後の完成イメージをしっかり持つことが大事です。新築を建てるつもりで施工業者とも相談し、リフォーム・建て替え後に後悔しないよう慎重に工事を進めなければなりません。
シニア向け住宅
家事サービスや介護設備などが付属したシニア世帯向け専用のマンションです。分譲マンションが中心となっているため、通常のマンションと同様に購入後は自分の資産となります。経済的に余裕のあるシニア世帯を中心に需要が増えているようです。
シニア向け住宅のメリット
- 通常のマンションより安心感が高く、暮らしやすい
- 購入後は資産としてマンションを残すことができる
高齢者を支援するためのサポート体制や設備が充実しており、身体機能が衰えても安心して暮らすことができます。購入した住宅は資産となりますので、資産形成にも向いています。
シニア向け住宅のデメリット
- 購入費用が割高で、毎月の管理費や修繕積立金も高額
- 絶対数が少ない
- 介護度が高くなると住み続けられなくなる可能性もある
専用サービスや設備が整っていることもあり、売買価格や維持管理費用は全体的に高めといえます。オプションサービスを選ぶと、サービス費用がさらに高額になりがちです。
さらに問題なのが、シニア向け住宅は「介護施設」ではないという点です。例えば認知症の進行した人、終日介護を必要とする人にまでは対応できないケースがほとんどです。せっかくシニア向け住宅を購入したものの、自力で生活するのが難しい状態になってしまうと、結果的に有料老人ホームなどへ移転せざるを得なくなります。
絶対数の少なさも気になる点です。需要を満たすだけの供給数がまだまだ少なく、希望通りの物件を見つけるのはかなり難しい現実があります。
子どもと近居・同居
子ども世帯との近居・同居をするパターンです。現状の住まいを維持しつつ、家族同士で助け合いながら生活できます。小さなお孫さんがいる場合は子育てを手助けすることができますし、老後の不安を子ども世帯にサポートしてもらえる点で安心です。
子どもと近居・同居するメリット
- 家族全体で生活をサポートし合いながら生活できる
- 自治体によっては補助金を受け取れるケースも
高齢になって身体能力が衰えてきても、生活全般でサポートしてもらえるのは安心感につながるでしょう。また、新しく二世帯住宅用にリフォームすれば、場合によっては公的な住宅補助の対象となるケースがあります。
子どもと近居・同居するデメリット
- 価値観や生活リズムの違いから、子ども世帯と衝突することもある
- 新たに住宅を購入・リフォームする際は費用負担がかかる
子どもといえども、価値観や生活リズムの違いでストレスを抱えてお互いの関係が悪化するケースも少なくありません。生計を同一にすることで、生活費の負担問題も生じます。
新たに住宅を購入・リフォームする場合だと費用は大きくなりますが、親世帯では住宅ローンの借り入れがしにくいことが予想されます。子ども世帯に高額な住宅ローンを組んでもらうことになるので、資金計画の段階から子ども世帯との協力が不可欠です。
02老後の住み替え先の選び方
安心して老後を迎えるためには、ライフスタイルや生活の利便性、自分の資産状況に合った住み替え先を選ぶことが重要です。老後の住み替え先を選ぶ際に重視すべきポイントを挙げてみましょう。
【住宅設備】老後のライフスタイルに合っているか
「趣味を目いっぱい楽しみたい」「自由にペットを飼いたい」など、自分の理想とするライフスタイルの実現に焦点を当てると、住み替え先を選びやすいでしょう。生活の自由度を求めるのなら「戸建て住宅」、老後の生活の安全を重視する場合は「シニア向け住宅」や自宅のリフォーム工事などが選択肢となります。
【周辺環境】子どもたちとの距離
子ども世帯が近くにいるのは心強いものです。子ども世帯と同居しない場合でも、お互いすぐに駆け付けられる距離に住んでいると安心でしょう。子ども世帯との2世帯住宅といった選択肢もありますが、安易な同居によって家族間の関係が悪化するケースもあります。2世帯を選ぶ場合は、子ども世帯とよく相談したうえで住環境を整えましょう。
【周辺環境】利便性やセキュリティーに優れているか
高齢になるにしたがって、生活の行動範囲は狭くなりがちです。日々の買い物や病院通いが不便な立地だと、安心した生活を維持できません。また戸建て住宅などは、セキュリティー面で不安があります。老後の住宅選びでは、防犯対策も重要なポイントの1つです。利便性や生活の安全性を両立することは、老後の住み替え先に求められる重要な条件といえます。
【災害リスク】ハザードマップを確認
日本は災害大国です。近年は地震だけでなく、異常気象による水害への対策も必須となっています。元から災害リスクの高いエリアに住むのは、シニア世帯にとってはリスクが大きいといえます。住宅を選ぶ際には、あらかじめハザードマップなどで災害リスクがどの程度あるか確認しておきましょう。
【その他】無理のない購入契約になっているか
住宅の購入だけでなく、自宅の一部をリフォームする場合でもまとまった費用がかかります。シニア世帯は新たに住宅ローンを組むことは難しくなるので、自己資金をどれくらい準備できるかが重要です。希望条件を優先するあまり、無理のある資金計画となっていないか十分注意しましょう。
【その他】売却しやすい物件か
後の世代に資産を残したい場合は、売却しやすいかどうかを基準に物件を選んでみましょう。万が一、有料老人ホームへの入所が必要で家を出なくてはならないケースになっても、家の売却で得た資金あれば、その後の生活の大きな助けとなります。「売れやすさ」と「評価額の安定性」の面では、戸建て住宅がその強みを発揮しやすいです。
03老後の住み替えを考え始めるタイミング
まだ活発に動けるうちに住み替えを実行したいところですが、実際にどのタイミングが良いのかを判断するのは簡単ではありません。老後に備えて住み替えを考え始める適切なタイミングについて、いくつか紹介しましょう。
子どもが独り立ちしたとき
子どもが経済的に独立し、家を出るタイミングは住み替えのベストタイミングの1つです。子どもが家を出ると家族の人数が変わるだけでなく、子ども部屋に空きが出るなどで空間構成も変化します。広い家だと光熱費も高くなるので、このタイミングで夫婦2人向けや単身者向けの家にダウンサイズするのも有効な選択肢です。
定年退職したとき
定年退職は、住み替えを検討しやすいタイミングです。会社への通勤の必要性もなくなるので、住みたい地域へ自由に移動できるでしょう。また、退職金でマイホームの購入資金を準備しやすい点もメリットです。高齢になると住宅ローンを組みにくくなりますが、退職金で自己資金を準備できる場合は住宅ローンを組める可能性が高くなります。
リフォーム・建て替えを検討したとき
最初に家を購入してから15~20年くらい経過すると、外壁や水回りなどの劣化が目に付き始めます。長く住み続けるつもりであればリフォーム・建て替えのタイミングです。建物の状況によって費用が変わりますが、老後に備えたバリアフリー工事などは国の補助金対象となっているケースも多く、うまく活用すると低コストでリフォームできます。もちろん、あまりにも老朽化が進んでいるようなら売却も選択肢です。
住み替えの平均は50代からが多い
住み替えを検討する人は、具体的にどのくらいの年齢なのでしょうか。国土交通省「令和4年度 住宅市場動向調査報告書」によると、住宅の二次取得者(建て替えを除く)の平均年齢は注文住宅が59.9歳、分譲戸建住宅が48.3歳、分譲集合住宅が58.1歳でした。さらに中古の戸建住宅では52.5歳、中古の集合住宅が53.6歳です。
この調査から、全体的に50代で住み替えを検討する人が多いことがわかります。ただし、分譲マンションや中古住宅に関しては60代で購入する人も多く、特に分譲マンションの二次取得者の52.6%が60代以上との結果でした。退職のタイミングをきっかけに住み替えをする人が増加傾向にあることがデータから読み取れます。
04老後の住み替えのための資金計画
50~60代からの住み替えでは、慎重な資金計画を立てることが不可欠です。資金調達のための手段は限られるものの、上手にやりくりすれば理想の家を手に入れることも十分可能です。
それでは具体的にどのような資金調達方法があるのか見ていきましょう。
現在の住まいの売却資金
50~60代となると長期の住宅ローンを組むことは難しくなりますので、ある程度まとまった自己資金を調達する必要があります。そこで考えられるのが、現在住んでいる自宅の売却です。できるだけ高く売却することで、その資金を新たなマイホームの購入資金に充てます。頭金としてある程度の金額を用意できれば、短期間の住宅ローンで購入資金全体をカバーできるでしょう。
不動産の評価額は、基本的に土地の価格で決まります。比較的人気のあるエリアに住んでいるのであれば、自宅の売却は有力な資金調達方法の1つです。
住宅ローン
シニア世代になっても住宅ローンの借り入れはできますが、返済期間や借入可能額に制限がかかります。
実際にどれくらい借りられる?
大手住宅情報サイトARUHIが実施した「住宅購入に関する調査2021」によると、60代の人の住宅購入金額の平均は3228万800円(中央値は2550万円)、借入金額は平均587.67万円(中央値は0円)、住宅ローンの借入期間は平均22.78年(中央値25年)となっています。
やはり借入金額自体は少なめで、退職金や家の売却金などを用意して全額キャッシュで購入する人も多いようです。同調査によると、60代の購入者の実に58.4%が2000万円以上の頭金を準備していました。月々の返済負担や返済期間を考慮しても、住宅ローンでの借入額は500~1000万円程度が上限といえそうです。
リバースモーゲージ型住宅ローン
リバースモーゲージ型住宅ローンとは、自宅を担保に入れることで生活資金を借り入れる住宅ローンです。老後の生活費を確保する手段として、利用機会が増えています。借入分は生活資金への用途限定で毎月支給され、返済は生きている間は利息分だけで済む仕組みです。通常の住宅ローンの返済と比較すると元金分の返済がないため、月々の負担額が軽くなるなどのメリットがあります。
リバースモーゲージの概要やメリット・デメリットについて詳しく知りたい方は、こちらの記事でも詳しく解説しています。ぜひ参考にお読みください。
リースバック
リースバッグとは自宅をリースバック運営会社に売却し、そのリースバック運営会社と新たに賃貸契約を結ぶかたちで自宅に住み続けることができるサービスです。いわば自宅を「持ち家」から「賃貸」に変更するといったイメージです。
リースバックは、住宅ローンのような年齢制限がありません。賃貸と同じなので、毎月の管理費や固定資産税などの費用支出もなくなります。その一方で売却価格が安くなる、相場よりも高い賃料を払い続けなければならないなどのデメリットもあります。
老後の生活コスト減につながりますが、十分な知識がないまま利用することでトラブルも発生しています。リースバックについてはこちらの記事で詳しく紹介していますので、ぜひこちらも参考にご一読ください。
退職金や預貯金
退職金や預貯金は、シニア世帯の住み替え資金の主力となります。先述したARUHIの「住宅購入に関する調査2021」によると、50代の住宅購入者の40.7%、60代の58.4%が頭金として2000万円以上準備しているとの結果でした。これらの準備金は自宅の売却資金や預貯金、退職金などが主な資金源です。自己資金が多ければ多いほど住宅ローンの借り入れハードルが下がるため、住み替えにも有利となります。
05まとめ
50~60代でも、新しい住まいを購入することは十分可能です。ただし、現役世代と違って収入源が限られてきますので、住み替えのタイミングを見越した万全の資金計画を立てなければなりません。
サイト内では、老後の年金生活に不安な方向けに「老後のお金シミュレーション」をご用意しています。ねんきん定期便やねんきんネットに載っている情報を入力するだけで、老後の収支をシミュレートできるので、ぜひご利用ください。住み替えを検討される方はできるだけ早めに計画を立て、幸せな老後生活に備えましょう。
監修:新井智美
CFP®/1級ファイナンシャル・プランニング技能士
プロフィール
トータルマネーコンサルタントとして個人向け相談の他、資産運用など上記相談内容にまつわるセミナー講師を行う傍ら、年間100件以上の執筆・監修業務を手掛けている。
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