
コロナ禍で住宅ローン利用者の「返済条件変更」や返済猶予の相談が増加中!借りる前に知っておきたいポイントとは?

コロナ禍の影響で住宅ローンの返済方法の変更を希望する人が増加しています。これを受けて金融庁は金融機関に対して条件変更に迅速かつ柔軟に対応するよう要請を出しました。要請を受けた各金融機関の対応事例を紹介するとともに、借りる前に知っておきたい、返済が困難になったときの対策について紹介します。
01コロナ禍で返済条件変更の申込数が増加
長引くコロナ禍の影響で給与やボーナスがカットされたり、退職を余儀なくされたりしたことにより、住宅ローンの支払いが困難になるケースが多く報告されています。これに伴い、金融機関に住宅ローンの返済条件の変更を申請する人が増えており、金融庁によると、2020年3月10日〜2021年9月末に金融機関に寄せられた条件変更の申請件数は5万7227件に上っています。同じく金融庁の調査では2020年3月10日~2020年9月末の相談件数は2万6974件だったので、1年間で相談件数が3万件以上も増えたことになります。
返済方法変更申請状況
申込 | B-A | ||
期間 | 2020年3月10日〜2020年9月末(A) | 2020年3月10日〜2021年9月末(B) | 2020年10月〜2021年9月末 |
主要行等 | 7742 | 1万8385 | 1万643 |
地域銀行 | 1万8655 | 3万7541 | 1万8866 |
その他の銀行 | 577 | 1301 | 724 |
合計 | 2万6974 | 5万7227 | 3万253 |
出典:金融庁「貸付条件の変更等の状況について」
2020年3月10日〜2021年9月末
2020年3月10日~2020年9月末
02金融庁が条件変更等の迅速かつ柔軟な対応を金融機関に要請
住宅ローンの返済条件の変更申請が認められた場合は、返済猶予など何らかの対応を受けることができます。しかし、申請しても審査に時間がかかったり審査に落ちてしまったりすると、ローンの返済が滞り購入した住まいを差し押さえられるおそれもあります。
そこで金融庁では2020年5月、金融機関に対して住宅ローンの返済方法や条件の変更に迅速かつ柔軟な変更を求め、次のような内容の要請を行いました。
- 住宅ローンのボーナス払いを設定している顧客からの返済猶予の相談に対し、十分な期間の元本据え置きなど、顧客のニーズに応じた条件変更の速やかな実施や、条件変更時の手数料の無料化といった支援を積極的に行うこと
- 条件変更にあたっては、顧客のニーズを十分に踏まえ、具体的に考えられる条件変更等の内容を金融機関側から積極的に提案すること
- 顧客からの相談が増えることを踏まえ、顧客が相談しやすいように住宅ローン専用ダイヤルや相談窓口を積極的に周知すること
03金融機関の対応例
この要請が功を奏したこともあって、上記の表にある通り、2020年3月10日~2021年9月末に金融機関に寄せられた返済方法変更相談のうち97.1%については、実際に何らかの変更や対応が行われています。
返済方法変更申請状況とその対応(2020年3月10日~2021年9月末)
申込 | 実行(A) | 謝絶(B) | 審査中 | 取り下げ | A/(A+B) | |
主要行等 | 1万8385 | 1万5598 | 568 | 859 | 1360 | 96.5% |
地域銀行 | 3万7541 | 3万1974 | 829 | 1325 | 3413 | 97.5% |
その他の銀行 | 1301 | 1032 | 52 | 45 | 172 | 95.2% |
合計 | 5万7227 | 4万8604 | 1449 | 2229 | 4945 | 97.1% |
変更の条件や内容は金融機関によって異なるため一概には言えませんが、金融庁が金融機関に対して行ったヒアリングで、次のような取り組みが行われていることがわかりました。
- 2年以内の元金据え置きであれば案件を問わずに、支店長専決権限として条件変更を実行する
- 条件変更等にあたって通常であれば支払いを求めている違約金や手数料等について、一律に免除
- 住宅ローンに係る返済猶予等の相談について、審査を行わずに最長1年間の元金据え置き等を実施
- 住宅ローンの返済猶予の求めに対して、まず6カ月間、元金を据え置き、6カ月後にその時点の状況を踏まえて対応を再検討する
- 住宅ローンについても返済猶予等の取り組みを行っていることを、具体的な事例とともにリーフレットにまとめて公表、幅広く広報する
- 住宅の完成前に実行される形の住宅関連融資について、工期の長期化を見据えて、住宅完成・引き渡しまでの元金を据え置く(条件変更手数料も無料)
- 住宅ローンの条件変更の求めがあった場合、収入減少の確認資料を不要として迅速に対応
なお、フラット35を運営する独立行政法人住宅金融支援機構では、ローンの返済が困難になったときの特例として、次のような返済方法の変更メニューを用意しています。
返済特例
毎月の返済金額を減らす。ただし、返済期間が延長されるので総返済額は増加する
中ゆとり
一定期間返済額を軽減する。ただし、減額期間終了後の返済額と総返済額は増加する
ボーナス返済の見直し
ボーナス返済月の変更、毎月分・ボーナス返済分の返済額の内訳の見直し、ボーナス返済の取りやめなど
これらの変更メニューを利用するには、同機構が定める条件を満たす必要があります。詳しくは同機構のホームページ(https://www.jhf.go.jp/files/400355537.pdf)で確認してください。
なお、民間の金融機関では、このようなメニューは公表されていませんが、変更申請をすると何らかのプランが提示されることが一般的です。コロナ禍の影響で収入が減り返済に不安を感じた場合は、速やかに金融機関に相談するようにしましょう。
04自然災害債務整理ガイドラインのコロナ特則
金融機関に相談しても返済方法の変更が認められなかったり、返済方法を変更してもなお返済が滞ったりすると、最悪の場合、自己破産などの債務整理を余儀なくされることになります。こういった事態に追い込まれた個人を支援するために、「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」の特則ができました。
このガイドラインは、自然災害に被災したことで住宅ローン、住宅のリフォームローンや事業性ローンなどの返済が困難となった個人債務者が、債権者との合意にもとづいて債務整理を行う際の準則として取りまとめられたものですが、このガイドラインに新型コロナウイルス感染症に適用する場合の特則を加えたのです。その内容は以下の通りです。
特則の対象者
新型コロナウイルスの影響での失業や、収入・売り上げが減少したことによって債務の返済が困難になった個人や個人事業主。
対象となる債務
2020年2月1日以前に負担していた債務に加え、2020年10月30日までに新型コロナウイルスによる収入・売り上げ減少に対応するために借りた債務。債務には住宅ローンのほか事業ローンやカードローンなども含まれます。
メリット
特則が適用されると、次のようなメリットがあります。
- 財産の一部を手元に残すことができる
- 住宅ローンの返済は継続し、住宅を手放すことなく、その他の債務の免除や減額を申し出ることができます。
- 無料で専門家の支援が受けられる
- 債務整理の手続きにあたって、弁護士や公認会計士など専門家の支援を無料で受けることができます。
- 信用情報機関に登録されない
- 債務整理したことが信用情報機関に個人信用情報として登録されないため、新たな借り入れに影響しません。
ただし、この特則の適用はあくまでも、自己破産などの法的整理に要件に該当することになった場合の最終手段です。返済に不安を覚えた場合は、速やかに金融機関に連絡し、返済猶予などの措置がうけられないか相談することが大切です。
住宅ローンを借りる場合には、あらかじめ無理のない返済計画を立てておくことが大切です。「借入可能額シミュレーター」を使えば、今の家賃と同じくらいの返済額で、いくらくらいの家が買えるのを確認することができるので利用してみてください。

監修:相山華子
ライター、OFFICE-Hai代表、2級ファイナンシャル・プランニング技能士
プロフィール
1997年慶應義塾大学卒業後、山口放送株式会社(NNN系列)に入社し、テレビ報道部記者として各地を取材。99 年、担当したシリーズ「自然の便り」で日本民間放送連盟賞(放送活動部門)受賞。同社退社後、2002 年から拠点を東京に移し、フリーランスのライターとして活動。各種ウェブメディア、企業広報誌などで主にインタビュー記事を担当するほか、外資系企業のための日本語コンテンツ監修も手掛ける。20代で不動産を購入したのを機に、FP(2級ファイナンシャル・プランニング技能士)の資格を取得。金融関係の記事の執筆も多い。
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