価格高騰時代のマンション購入は“契約リスク”に要注意 手付金・ローンの落とし穴を解説
都市部を中心とする新築マンションの価格高騰や投資目的の取引の広がりなどを背景に、マンション購入時の契約条件が複雑化しています。その結果、以前よりも契約時の注意点が重視されている状況です。 物件価格上昇により、手付金や初期費用の負担が重くなっているほか、転売防止特約が設けられるケースもあり、契約内容の事前確認の重要性がますます高まっています。せっかくのマンション購入で後悔しないためには、無理なく返済できる金額を把握したうえで、手付金を含む資金計画を立てる必要があるでしょう。 本記事では、マンション価格高騰による契約条件厳格化の現状や手付金の基礎知識、契約時の落とし穴などについてわかりやすく解説します。
- 01マンション価格高騰で契約条件が厳しくなる理由
- マンション価格は過去最高水準へ
- マンション価格の上昇とともに「契約条件」も複雑化
- 02手付金とは、契約時に求められる重要な自己資金のこと
- 手付金には3つの役割がある
- 手付金の役割は「前金」ではなく「契約の安定性を確保するための仕組み」
- 手付金と頭金の違い
- 03新築マンションの契約前にチェックしたいポイント
- 契約書に「転売制限」「手付金の扱い」の記載があるか
- 手付金の金額や支払いスケジュールが妥当か
- 手付金の保全措置(保証・寄託)が用意されているか
- 数年以内の住み替え・転勤の可能性はないか
- 住宅ローン審査に影響しない資金計画になっているか
- 04手付金の新常識を理解し、無理のない資金計画で後悔しない住宅購入を進めよう
01マンション価格高騰で契約条件が厳しくなる理由
近年の都市部を中心とするマンション価格高騰により、購入時の契約条件が厳格化してきています。まずは、価格高騰の現状と契約条件が厳しくなる理由について見ていきましょう。
マンション価格は過去最高水準へ
不動産経済研究所「首都圏 新築分譲マンション市場動向2025年11月」によると、首都圏の新築分譲マンション平均価格は9181万円、東京23区の平均価格は1億2420万円と、なおも過去最高水準で推移しています。前月の10月には、東京23区の平均価格が1億5000万円を超え、過去2番目の高値を記録しました。
価格高騰の背景には、資材費や人件費の高騰、都市部での用地取得競争の激化、投資需要の増加、円安に伴う海外投資の活発化など、複数の要因があります。
新築マンション購入時には、物件価格の5〜10%にあたる金額を「手付金」として支払うのが一般的です。例えば、1億5000万円の物件を購入する場合、750万〜1500万円程度が手付金の相場となります。手付金は原則現金で用意しなければなりません。
現在のように物件価格が上昇傾向だと、契約時に必要な手付金も増えることになり、購入者の負担は確実に重くなります。
マンション価格の上昇とともに「契約条件」も複雑化
マンション価格高騰や投機的な取引の広がりを受けて、契約条件は年々厳格化する傾向にあります。
国土交通省は、2018年1月〜2025年6月に三大都市圏・地方4市(札幌・仙台・広島・福岡)で保存登記された新築マンション約55万戸を対象に、1年以内に売却する短期売買の実態を分析した調査結果を公表しました。
それによると、都心部や大規模マンションになるほど、短期売買の割合は高めになっています。海外居住者による新築取得や短期売買の割合も増加するなど、投資目的の取引が価格高騰に大きく影響していることがうかがわれる結果となりました。
こうしたことから、売主は、人気物件の契約を中心に契約内容に「引き渡し前の転売禁止」「違反時の契約解除・手付金没収」といった特約を盛り込む動きを強めています。2025年11月には、デベロッパー各社が加盟する業界団体である一般社団法人不動産協会(RECAJ)が「新築マンションの引き渡し前の転売禁止」を柱とする自主ルール案を取りまとめ、違反時には契約解除や手付金没収も辞さない旨を示しました。
今後、新築マンションの契約締結時には、特約の内容を今まで以上にくまなくチェックすることが求められます。
02手付金とは、契約時に求められる重要な自己資金のこと
前述のとおり、近年は新築マンションの契約条件が厳しくなっており、手付金についても、以前に比べて慎重に検討すべき時代になっています。ここでは、そんな手付金の役割や重要性について、今一度詳しく確認しておきましょう。
手付金には3つの役割がある
手付金とは、売買契約締結時に買主が売主へ支払うお金で、大きく次の3つの役割があります。
| 証約手付 | 契約が正式に成立したことの証として支払う手付金 |
|---|---|
| 解約手付 | 買主・売主双方に解約する権利を与えるための手付金 (買主は手付金放棄、売主は手付金の倍返しで解約可能) |
| 違約手付 | 契約違反があった場合に支払う違約金としての手付金 |
新築マンション契約時の手付金は、「解約手付」として扱われるのが一般的です。しかし、近年は契約書において「違約手付としての性格」が付与されているケースもあり、手付金の扱いがリスクに直結する時代になったといえるでしょう。
手付金の詳細はこちらの記事をご覧ください。
手付金の役割は「前金」ではなく「契約の安定性を確保するための仕組み」
手付金は、購入代金の一部に充てるための前金ではありません。契約の安定化と買主の本気度を確認するためのお金であり、売主は手付金の受領をもって「この買主は途中でキャンセルしないか」を判断するのです。当然、物件価格が高額になるにつれて、手付金額も高くなります。
仮に手付金が少額だと、売主に次のような事態が発生するおそれがあります。
- キャンセルが起きやすくなり、販売スケジュールが遅延する
- 転売目的の申し込みが増える
- 買主の資金不足により、引き渡し直前にキャンセルされるリスクが高まる
また、売主は手付金の倍額で契約解除できるため、少額の手付金は買い手にもリスクがあります。例えば、より高い価格を支払える別の買い手に切り替えられてしまう、といった事態も起こり得るのです。
不動産購入時の申し込み意思確認で支払う「申込証拠金」と手付金の違いについては、こちらの記事で解説しています。
手付金と頭金の違い
住宅購入時に用意する現金として「頭金」が挙げられます。頭金とは、住宅ローンの借入額を減らすため、購入者が任意で支払う自己資金のことです。頭金を多く入れるほど、月々の返済額を抑えられ、ローン審査も有利になります。
手付金は「契約の証拠として支払うお金」、頭金は「ローン負担を減らすためのお金」というのが大きな違いです。
03新築マンションの契約前にチェックしたいポイント
年々厳格化する傾向にある、新築マンションの契約条件。実際に契約する前には、どのようなポイントを重点的にチェックすべきなのでしょうか。ここでは、特に押さえておくべき5つのチェックポイントを紹介します。
契約書に「転売制限」「手付金の扱い」の記載があるか
新築マンションの価格高騰が顕著になった2023年以降、契約書で「引き渡し前の転売禁止」や「違反時の契約解除」などについて定めるケースが増えています。これらは特約として付記されるため、契約書の後半にさらっと書かれている場合も少なくありません。
特に人気物件では条件が厳しくなる傾向にあるため、「転売禁止」や「手付金の扱い」についてどのように書かれているかを、読み落とさずチェックしましょう。
手付金の金額や支払いスケジュールが妥当か
手付金の相場は物件価格の5〜10%ですが、最近は物件価格の高騰を受け、5%前後に設定するケースが多くなっています。とはいえ、それなりの金額になるでしょう。
買主都合の契約解除の場合、手付金は返ってこないという性質(手付流れ)があるため、契約前に、支払いスケジュールと金額の妥当性を慎重に確認する必要があります。中には、モデルルームで即日契約を促されるような場合もありますが、焦って契約するのは危険です。
たとえ契約を急かされたとしても、焦らずに資金計画と照らし合わせたうえでの判断を心がけましょう。
手付金の保全措置(保証・寄託)が用意されているか
万が一、契約後に売主の不動産会社が倒産したり、建物の引き渡しができなくなったりした場合、手付金が返還されないと買主の損害が大きくなってしまいます。こうした事態を防ぐため、売主が宅地建物取引業者の場合、事前に「手付金等の保全措置」を講じることが義務づけられています。
保全措置は大きく次の3種類です。
| 銀行等による保証 | 売主と金融機関が連携して手付金を保証する方法 |
|---|---|
| 保険事業者による保証保険 | 売主が保険料を支払い、手付金の返還に備える方法 |
| 指定保管機関による保管 | 国土交通大臣指定の保管機関を通して、手付金を保証する方法 |
契約前には、手付金の保全方法に関する取り決めや、保証会社や保管期間の名称について必ずチェックしましょう。特に、未完成物件や引き渡しまでの期間が長い物件では、保全措置の有無がリスクに大きく影響します。
手付金の保全措置については、こちらの記事をご覧ください。
数年以内の住み替え・転勤の可能性はないか
転売禁止特約が付与されているマンションを購入すると、契約後に転居の必要性が生じても、数年間は売却できないおそれがあります。
「数年以内に転勤の可能性がある」「子どもの進学で住み替える可能性がある」「共働きで勤務地が変わりやすい」といった、住む場所に関係するライフイベントが近いうちに想定される場合、契約リスクは高まります。現居を売るにも売れないため、ローン返済と新居の家賃の二重負担で、家計が圧迫されるかもしれません。
契約前には、今後数年間のライフイベントをあらためて確認することが大切です。
住宅ローン審査に影響しない資金計画になっているか
新築マンションの購入は、「売買契約締結→住宅ローン本審査→引き渡し」の順番で進むのが一般的です。
売買契約を締結しても、契約後から本審査までの間に転職や年収の変動、新規借入、クレジット返済の延滞などがあると、本審査に落ちてしまうおそれがあります。通常、住宅の売買契約書には「住宅ローンの審査に通らなかった場合、売買契約を無条件で解約できる」旨の「住宅ローン特約」を盛り込みます。この特約があることで、本審査に落ちても手付金の返還を受けられるため、漏れなく記載されているか確認しておきましょう。
また、本審査通過後であっても、引き渡し時に現金で支払う必要のある諸費用が不足すると、契約解除につながります。諸費用に含まれるのは、頭金(入れる場合)、ローン手続き関連費用、登記費用、火災保険料、修繕積立基金などです。これらの諸費用は物件価格の7〜10%に達することもあるため、資金計画に盛り込んでおかないと、現金不足でトラブルにつながるおそれも。
住宅ローンで購入する場合も現金は用意しなければならないことを理解し、事前に余裕を持って準備しておくことが重要です。
04手付金の新常識を理解し、無理のない資金計画で後悔しない住宅購入を進めよう
近年の新築マンション価格高騰を受け、契約時の手付金は「解約手付」としてだけでなく、「違約手付」としての性格も帯びてきています。転売禁止特約の存在により、手付金そのものが契約リスクになるケースも少なくないのです。
こうしたリスクを軽減するには「どれだけローンを借りられるか」ではなく、「いくらなら無理なく返していけるか」を意識することが、ますます重要になっているといえるでしょう。 サイト内の住宅ローンシミュレーターや最新金利ランキングなら、わずか数分で借入可能額と毎月返済額の試算結果を確認できます。新築マンション契約前のリスクヘッジのため、ぜひ有効活用してください。
監修:新井智美
CFP®/1級ファイナンシャル・プランニング技能士
プロフィール
トータルマネーコンサルタントとして個人向け相談の他、資産運用など上記相談内容にまつわるセミナー講師を行う傍ら、年間100件以上の執筆・監修業務を手掛けている。
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