
住宅ローン返済がきっかけで任意整理?踏み切る理由と備えておきたい対策とは

昨今の物価高騰や金利上昇の影響により、家計の負担は重くなる一方です。中には、生活費や住宅ローン返済の負担増加が重なり、債務整理を検討している方もいるのではないでしょうか。債務整理には任意整理・個人再生・自己破産・特定調停の4種類がありますが、生活への影響が比較的少ない「任意整理」を選ぶ方が多いといいます。 住宅ローンは原則、任意整理の対象外ですが、カードローンやリボ払いなどのほかの借り入れを整理すれば、毎月の家計負担を軽くすることも可能です。 この記事では、債務整理の一種である任意整理の基本的な仕組みをわかりやすく解説するとともに、住宅ローンの返済が厳しくなる前に知っておくべき備えや選択肢を紹介します。

01住宅ローンが生活を圧迫?気づかぬうちに借金が膨らんでしまう理由とは
金融系の人材紹介業などを営むアドバイザーナビが2025年7月に実施した「債務整理の利用実態に関するアンケート」によると、「借金が膨らんだ理由」の第1位は「生活費の補填」で全体の49.1%にも上りました。次いで「ギャンブル」(25.5%)、「ショッピング」「投資」(ともに12.7%)となっています。昨今の物価高騰やエネルギー価格上昇により、日常生活にかかる費用そのものが高くなっているため、生活費の負担が重くのしかかっている現状がうかがえます。
その一方で、大きな固定支出である「住宅ローン」が原因となるケースも少なくありません。実際に「住宅ローン」と回答した人は9.1%おり、生活費がかかることにより、住宅ローンの返済が家計に負担をかけることも、借金が膨らむ要因になっていると考えられるでしょう。
このように生活費や住宅ローンの負担が重なることで、返済が難しくなり、最終的に債務整理を検討する方も少なくありません。先の調査によると、債務整理を選んだ方のうち、実に72.7%が任意整理を選択しています。
02任意整理とは?
住宅ローンやカードローンなど、複数の借金返済で困っている方を救済するのが「債務整理」です。債務整理には「任意整理」「個人再生」「自己破産」「特定調停」の4種類がありますが、このうち最も利用されているのが「任意整理」です。
任意整理は、裁判所を通すことなく、弁護士や司法書士が貸金業者と直接交渉を行うのが特徴です。将来の支払い利息をカットしたうえで、元本の返済期間を3〜5年程度の分割払いに再設定することで、毎月の返済負担を軽減できます。自己破産や個人再生と比べて生活への影響が小さく、手続きもシンプルなことから、債務整理を行った人の7割以上が任意整理を選んでいます。
ここからは、任意整理でできること・できないこと、対象となる借金の範囲、さらに手続きや費用の目安について解説します。
任意整理でできること・できないこと
借金に困っている多くの方が利用する任意整理ですが、できることとできないことがあります。利用を検討するのであれば、それぞれを正しく理解しておくことが大切です。
<任意整理でできること>
- 将来かかる予定だった利息や遅延損害金のカット
- 毎月の返済負担の軽減
- 返済総額の実質的な低減
<任意整理でできないこと>
- 元本の減額(過去に支払いすぎた利息がある場合を除く)
- 税金、養育費、滞納家賃などの一部の債務の軽減
- 返済義務の免除
任意整理は「借金をゼロにする手段」ではなく、「現実的に返済可能な形に見直す方法」と理解しておきましょう。
個人再生との違い
元本の見直しによる大幅減額を希望する場合、「個人再生」を検討する必要があります。個人再生は、裁判所に申し立てることで借金を大幅に減額してもらう手続きです。任意整理よりも返済負担を抑える効果は大きいものの、手続きが複雑で時間がかかることや官報に掲載され、他人に知られてしまうなどデメリットもあるため、慎重な判断が求められます。
住宅ローンは任意整理の対象外
特に注意が必要なのが住宅ローンです。住宅ローンは一般的に任意整理の対象外であるため、利息のカットや返済期間の延長はできません。ただし、カードローンや消費者金融からの借り入れを整理することで家計の負担を軽くし、住宅ローンの返済を維持できる可能性があります。
任意整理を検討する場合は、住宅ローンが残っている中でどれだけ効果があるのかを事前にシミュレーションすることが重要です。
任意整理の手続きと費用の目安
任意整理の手続きは、基本的に次の5つのステップで進めます。
- 弁護士や司法書士への相談・契約
- 受任通知の発行
- 貸金業者との交渉
- 和解契約
- 新条件での返済スタート
任意整理にかかる費用は、弁護士や司法書士に依頼する場合、債権者1社につき2万〜5万円程度が相場です。先に紹介した調査によれば、債務整理を行った方の約6割が「10万円以内」に収まったと回答しており、おおむね5万〜10万円程度を目安と考えておけばよいでしょう。大きな費用負担をかけずに手続きを進められる点も、利用しやすさの理由のひとつです。
03住宅ローンが払えないかも…そんなときに考えたい選択肢と対策
任意整理では、住宅ローンの返済負担を軽減することはできません。ここでは、住宅ローンを無理なく返済するために効果的な任意整理以外の選択肢や相談のタイミング、家を手放さずに乗り切る方法を紹介します。
借り換え・繰り上げ返済など、無理なく返済を続けるための方法
住宅ローンの返済を負担に感じる場合、次の4つの選択肢を検討するとよいでしょう。
住宅ローンの借り換え
現在借りている住宅ローンよりも低金利の商品に借り換えることで、総返済額や毎月の返済負担を軽減できる可能性があります。
繰り上げ返済
一時的にまとまった収入を得たなど生活資金に余裕ができたタイミングでローン残高の一部をまとめて返済する方法です。将来の利息負担を抑える効果があります。
リスケジュール(リスケ)
金融機関に相談し、返済期間の延長や返済額の減額を交渉する方法です。延滞前に相談すれば信用情報に傷がつくことはなく、返済条件の変更として対応してもらえる可能性があります。返済負担を減らしつつ住宅を守ることができます。
・リースバック
自宅を不動産会社へいったん売却し、新たに賃貸借契約を結んで住み続ける方法です。残債を整理しつつ、家賃を支払いながらマイホームに住み続けることができます。
金融機関に相談するタイミング
金融機関に相談するタイミングは、本当に返済が苦しくなる前の早い段階がよいでしょう。延滞発生前に相談すれば、ローンの借り換えやリスケの提案を受けられる余地があり、金融機関としても柔軟に対応しやすくなります。一方、返済に行き詰まってから相談した場合、選択肢が限られるおそれがあります。
例えば「次回のボーナス返済が厳しそう」といった段階でも、早めに相談しておく方が選択肢を確保しやすくなります。
住宅を手放さずに解決する方法
任意整理では住宅ローンは対象外となるため、家計負担を軽減しつつ住宅を守るには、ほかの借入金について整理や返済の見直しをしなければなりません。
一方、「住宅資金特別条項(住宅ローン特則)付きの個人再生」であれば、一定の条件下で、住宅を残したまま借金を大幅減額することが可能です。ただし、住宅ローンだけは今までどおり返済を続けなければなりません。
住宅ローン特則を適用する場合、住宅ローンは個人再生の対象外となりますが、リスケなどで毎月の返済負担を軽減できる可能性があります。また、先述のリースバックを活用すれば、所有権こそなくなるものの、自宅に住み続けたいという希望は叶うでしょう。
このように、住宅を手放さずに負担を軽くする選択肢は存在します。返済に不安を感じたときは、早めに弁護士や司法書士などの専門家に相談し、自分に合った方法を検討するのが得策です。
04任意整理をする前に知っておきたい3つの注意点
借入金の返済負担軽減に効果的な任意整理ですが、利用にあたっては3つの注意点があります。事前に理解しておくことで、後悔を防ぎやすくなります。
信用情報に登録される
任意整理を行うと信用情報に登録され、いわゆる「ブラックリスト」に掲載された状態となります。一般的に、任意整理をしてローンを完済してから約5年間、新たなローンやクレジットカードの審査が通りにくくなるでしょう。
信用情報の登録は、スマホの分割払いや住宅ローンの借り換えなどにも影響する可能性があります。一方で、返済が厳しくて延滞を続けるよりも、任意整理で計画的に返すほうが早く信用を回復できるケースも考えられます。以上より、任意整理するかどうかは将来の資金計画も含めて慎重に判断すべきでしょう。
連帯保証人に影響が及ぶ可能性がある
任意整理は裁判所を通さない手続きのため、弁護士や司法書士による話し合いに応じない貸金業者への強制力はありません。状況によっては和解が成立しないケースもあります。
また、連帯保証人が付いている借金を任意整理の対象にした場合、保証人に一括返済が請求されるリスクもあります。任意整理は個人再生と異なり、整理の対象とする債務を自由に選ぶことが可能です。連帯保証人に迷惑をかけたくないなら、連帯保証人付きの借金を任意整理の対象から外しておくとよいでしょう。
家計管理や支出習慣の改善もあわせて進めていく
任意整理をすると信用情報の制約により「クレジットカードが使えない」「新たな借り入れができない」といった不便が生じます。一方で、毎月の返済負担が軽くなることで「生活にゆとりが生まれた」という声もあります。
ただし、整理後も住宅ローンの返済は続きます。再びほかの借金に頼ることがないように、家計管理や支出改善をあわせて進め、安定した返済を継続できる体制を整えることが大切です。
05住宅ローンで後悔しないために今からできること
住宅ローンの返済は長期にわたります。返済が苦しくなってから対策を考えるのでは、取れる選択肢が限られてしまうことも多いため、「苦しくなる前」に対策を講じていくことが大切です。
そして、住宅購入前にゆとりある返済計画を立てることが、何よりも効果的な対策といえます。借入額が収入に対して無理のない範囲か、変動金利にするか固定金利にするかなど、住宅ローンの組み方一つで、将来の返済負担は大きく変わります。将来の収入やライフプランを見据えて、長く安定的に返済できる計画を立てましょう。
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監修:新井智美
CFP®/1級ファイナンシャル・プランニング技能士
プロフィール
トータルマネーコンサルタントとして個人向け相談の他、資産運用など上記相談内容にまつわるセミナー講師を行う傍ら、年間100件以上の執筆・監修業務を手掛けている。