退職金はローン返済に使う?老後資金に残す?50代からの住宅ローン事情

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50代以上の住宅ローン利用者を対象にした調査で、「退職金を住宅ローンの繰り上げ返済に充てたい・充てた」と答えた人は24.1%にとどまり、「充てない」という回答が47.0%を占めました。その背景には、老後の生活費や医療・介護への不安、長寿化による老後の資金ニーズの高まりが、返済よりも老後資金の確保を重視する人を増やしていると考えられます。 一方で、老後に借金を残したくないと考え、返済を優先する人も一定数います。退職金をローン返済に充てるか、老後資金に残すかの選択は、全世代に共通の課題になっているといえるでしょう。 この記事では、「繰り上げ返済派」「老後資金派」それぞれの考え方やメリット・デメリットを整理し、老後を安心して迎えるための退職金活用のヒントを紹介します。

01「住宅ローンを返済したい」はわずか24.1%、多数派は老後資金を優先

家計診断・相談サービス『オカネコ』は2025年8月、50代以上の住宅ローンを借り入れている人を対象に「オカネコ 住宅ローンに関する調査」を実施しました。

調査によると、住宅ローンの返済終了予定年齢は「60〜64歳」21.7%、「65〜69歳」20.5%、「70〜74歳」18.1%の順となっており、9割近くが60歳以降も返済を続ける見通しです。また、約65%の人が変動金利で借り入れていることも明らかになりました。多くの人が、ローン返済と老後資金確保の両立という大きな課題を抱えているといえます。

一方で、「退職金で住宅ローンを繰り上げ返済したい」と答えた人は、全体のわずか24.1%。実に半数近い人が「繰り上げ返済しない」と回答しており、ローン返済よりも老後資金の確保を優先している人が多いと考えられます。

かつては「退職金で住宅ローンを完済する」という考え方が一般的でしたが、現代は生活費や医療・介護の不安、長寿化による老後資金の必要性の高まりなどを背景に、手元資金として一定の金額を残すことを優先する人が増えているようです。

なお、完済している人も一部回答に含まれている可能性があります。実際、金融広報中央委員会の「家計の金融行動に関する世論調査[二人以上世帯調査](令和5年)」によると、60代世帯の住宅ローン残高は平均733万円となっているものの、借入金がない60代世帯は実に85.9%に上ります。このことから、ローン返済を続ける世帯が多い一方で、すでに完済している世帯も相当数あると考えられるでしょう。

退職金の平均金額は?

そもそも退職金はどれくらい支給されているのでしょうか。厚生労働省の「令和5年賃金事情等総合調査」によれば、定年退職による退職金の平均額は1878万円でした。2003年の大卒入社の平均額2499万円だったことを踏まえると、この20年で約700万円減額しています。

減額の背景にあるのは、退職金制度の導入企業の割合が低下していることや、成果主義により金額が抑えられていることなどがあります。今後もこの傾向が続くと予想されており、今後、限られた退職金を「住宅ローン返済に充てるか」「老後資金のために残すか」は、ますます重要な選択になるでしょう。

02退職金で住宅ローンを返済するメリット

かつては一般的だった「退職金で住宅ローンを返済する」という方法。最大の利点は、老後に借金を抱えなくて済むという安心感です。毎月のローン返済がなくなれば、家計の固定費を大きく抑えられ、老後の生活に余裕が生まれます。

特に、変動金利で借り入れている場合、将来的な金利上昇による返済負担増のリスクを回避できるというのもメリットです。早い時期に完済すれば総返済額も減るため、長期的な負担も軽くなるでしょう。

その結果、年金収入の全額を生活費や趣味、旅行などに回せるため、定年後の暮らしの自由度が上がるかもしれません。

03退職金で住宅ローンを返済するデメリット

一方で、退職金をローン返済に充ててしまうと、手元資金が大きく減ることはデメリットです。老後は、病気やケガによる入院や通院、介護など、突発的な支出が発生しやすい時期でもあり、自由に使える現金が少ないと、生活に不安を感じやすくなります。長寿化に伴い「90歳まで生活費が必要」というのが現実的になっており、退職金をすべてローン返済に回すと、将来の資金が不足してしまうリスクもあるでしょう。

加えて、近年は資産運用や投資の意識が高まっています。退職金を運用すれば、老後資金をさらに増やすことができるかもしれません。退職金をローン返済に充てると、こうした資産形成の機会を失うかもしれないのです。

04退職金を老後資金として残すメリット

近年主流となっているのが「退職金を老後資金として残す」という選択肢です。

最大のメリットは、老後の想定外の出費に対応できるという安心感です。病気やケガ、介護、自宅の修繕など、突発的にまとまった資金が必要になった場合でも、退職金があれば慌てずに対処できます。

また、順調に老後の生活を送れていれば、生活費の不足分を補う、日々の通院費や介護費を捻出する、趣味や旅行に使うなど、お金の使い道を自由に決められるでしょう。資金に余裕が生まれることで、老後の暮らしに対して心の余裕を持てるようになるのです。

05退職金を老後資金として残すデメリット

一方で、退職金を住宅ローンの返済に充てない場合、当然老後も毎月の返済が続きます。定年後も「本当に返しきれるのか」という不安を抱えながら生活しなければならず、返済負担が精神的な負担につながるケースもあるでしょう。

特に変動金利で借り入れている人は、将来的な金利上昇によって、毎月の返済負担が大きくなるリスクがあります。「いつ返済額が増えるかわからない」という不確定要素に対する不安も、老後の生活に影を落とすかもしれません。

06退職金を“返済”と“老後資金”に分けるバランス型という選択肢も!

退職金を「すべてローン返済に充てる」か「すべて老後資金に残す」の2択ではなく、一部を返済に回してバランスを取る方法もあります。

具体的にイメージするため、以下の3つのケースでシミュレーションしてみました。

  • 全額返済に充てた場合
  • 全額老後資金に残した場合
  • 一部を繰り上げ返済に充てた場合
【試算の条件】
・住宅ローン残高:1500万円
・残り返済期間:15年
・借入金利:全期間固定 年1.5%
・退職金額:2000万円

全額返済に充てた場合

  • 手元資金:500万円
  • 毎月返済額:0円(完済)
  • 総返済額:0円

退職金2000万円のうち、1500万円を住宅ローンの完済に充てると、手元に残るのは500万円のみ。将来、医療費や介護費が増えれば、生活に不安を感じるかもしれません。

全額老後資金に残した場合

  • 手元資金:2000万円
  • 毎月返済額:約9万3000円
  • 総返済額:約1677万円

2000万円はそのまま手元資金として残りますが、毎月の返済は続きます。金利上昇リスクがなくても、収入が年金だけになった状態で約9万3000円の返済が毎月の固定費として重くのしかかる点には注意が必要です。

一部を繰り上げ返済に充てた場合

  • 手元資金:1000万円
  • 毎月返済額:約3万1000円
  • 総返済額:約559万円

退職金のうち1000万円を繰り上げ返済に充てるとします。返済期間を変えずに毎月返済額を減らす場合、ローン残高は500万円に圧縮されます。毎月返済額は約3.1万円に減額となり、総返済額も約559万円に減少。さらに、退職金の残り1000万円は手元資金として置いておくことができるのです。

退職金の一部を繰り上げ返済に充て、残りを生活資金として確保すれば、借入額や毎月の返済負担を減らしつつ、将来に備えることもできます。この方法なら「ローン返済派」と「老後資金派」双方のメリットを取り入れ、より柔軟に老後の資金計画を立てられるでしょう。

07自分にぴったりの退職金の使い方を見つけよう!

退職金を住宅ローンの返済に充てるのか、それとも老後資金として手元に残しておくのか。

これは、老後のライフプランを左右する、誰もが避けられない重要な選択です。今回紹介した調査では、半数近い人が「退職金をローン返済に充てない」と回答していますが、それがすべての人にとっての最善策とは限りません。

そこでおすすめしたいのが、当サイトの「住宅購入予算シミュレーター」です。このシミュレーターでは、現在の収入や子どもの進学、退職金など、さまざまなライフイベントも加味した資金計画を試算できます。定年の目安である65歳時点での想定貯蓄額もチェックできるので、将来の生活やライフイベントも見据えた予算検討に役立つはずです。

マイホーム購入を希望しているものの、老後資金に不安を感じているなら、まずはシミュレーションから検討を始めてみてはいかがでしょうか。

新井智美

監修:新井智美

CFP®/1級ファイナンシャル・プランニング技能士

プロフィール

トータルマネーコンサルタントとして個人向け相談の他、資産運用など上記相談内容にまつわるセミナー講師を行う傍ら、年間100件以上の執筆・監修業務を手掛けている。

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