
東京の住宅価格は限界か? 新築戸建ての価格下落が映す不動産の行方

近年、東京23区を中心に東京の不動産価格は上昇し続けてきました。しかしここへ来て、その勢いに陰りが見え始めているという見方があります。特に戸建て住宅は、急激な価格高騰に購入者層の所得上昇が追いつかず、買い手が見つからないため値下がり基調が鮮明になっているとの調査結果もあるほどです。 一方、マンション市場に関しては2024年を通じて一層価格が上昇しており、購入者層の年収とかけ離れた相場になったり、投資による売却益が減少したりする事態になっています。これは、東京の不動産市場全体に転機が訪れている兆候ともいえるでしょう。 この記事では、住宅価格の動向、実需層や投資家の動きなどから、2025年以降の東京の不動産市場がどうなっていくのかを考察します。

01東京・新築戸建ての平均価格、2024年は下降基調へ
東京カンテイが発表する「新築一戸建て住宅平均価格」によれば、2024年11月の東京都における新築戸建て(土地面積100平米以上300平米以下)の平均価格は5517万円となり、前月比では1.7%のプラスとなった一方、前年同月比では1.8%の下落となりました。
同じく、新築小規模戸建て(土地面積50平米以上100平米未満)の平均価格は6481万円となり、こちらは前月比でも1.1%のマイナス、前年同月比は0.3%の下落となりました。小規模戸建てに関しては3カ月連続の下落となっており、延床面積の小さな物件や狭小住宅の市場で、価格の調整が目立つ状況です。
新築戸建ての平均価格が下降基調である背景として、以下の2つの理由が考えられます。
1つ目は、多くの実需層にとって手を出しにくい価格帯まで高騰してしまい、ニーズが鈍化してしまったこと。一戸建ての購入者は、大半がマイホーム目的であり、マンション市場のような投資マネーが流入しません。そのため、行き過ぎた価格高騰で需要が減り、価格調整が起こっていると考えられるのです。
2つ目は、今後の金利上昇に対する懸念により、住宅の買い控えが発生していること。実需層は住宅ローンの利用を前提としているため、金利上昇による返済負担の増加を警戒している側面があります。
実需層の需要の回復が見込めない限り、新築戸建ての価格調整は継続するため、価格下落はしばらく続くと考えられるでしょう。
その一方で、販売側が値下げや販売促進策を強化する結果、戸建て市場の取引が活性化するのではないかという期待もあります。
02一方の東京・分譲マンションは2024年も価格上昇が続く
一方で、依然として価格が上昇基調なのが分譲マンションです。
不動産経済研究所の調査によると、2024年度上半期(4〜9月)における首都圏新築マンション平均価格は、引き続き上昇傾向にあります。特に東京23区の平均価格は、前年同期比4.5%増の1億1051万円に達し、過去最高額を更新しました。
分譲マンション価格を押し上げている要因の1つ目は、東京23区を中心とした需要の強さ。2つ目は、新築供給戸数の少なさ。3つ目が、低金利環境や資産運用ニーズの高まりによる旺盛な投資需要です。
とりわけ3つ目の要因が大きいとされるものの、今後の金利動向や経済情勢の変化によっては投資需要に陰りが見られる可能性もあり、注視する必要があります。
東京・新築マンション価格、年収の約18倍に達しているというデータも
東京カンテイの調査によれば、2023年の新築マンション年収倍率は全国平均で10.09倍、最も高い東京都では17.78倍に達しています。つまり、東京都では年収の約18倍支払わないと、新築マンションを購入できないということです。
首都圏は全体的に倍率が高い傾向にあるものの、埼玉県10.99倍、神奈川県13.06倍など、東京都が突出して高いというのは明らかです。それだけ東京都では、マンション取得のハードルが高いといえるでしょう。
もはや東京23区においては、単独の収入で新築マンションを購入するのが困難な状況となっており、ディベロッパーは共働き世帯にターゲットを絞っています。単身者や片働き世帯は賃貸市場に依存せざるを得ないものの、賃貸物件も家賃が高騰している状況です。賃貸住まいでも経済的な負担は大きく、さらに資産を持てないことが老後の不安にもつながっています。
また、建築費や土地取得費の上昇による供給コストの増加で、中低価格帯の物件が不足しています。実需層は背伸びをして、割高な住宅ローンや高い家賃を負担せざるを得なくなっており、結果として教育費や老後資金の確保が難しくなるなど、生活の質の低下を招く恐れも指摘されているのです。
このように、東京では「所得格差」が「住宅取得の格差」に直結する状況が生まれ、住宅市場の二極化が進行しています。住宅取得のために郊外エリアへ移住する世帯も多く、地方へ流出する傾向も見られます。
03マンション投資、当初の見込みと異なり売却益を得られないケースが増加
マンション価格を押し上げている投資マーケットですが、ここへ来て、投資家が期待したほど売却益を得られないケースが増えているといいます。なぜなら売却価格が上昇していても、取得価格も同様に高値で推移しているため、十分な収益が得られないからです。
加えて、金利上昇の影響もあると考えられます。2024年7月の日銀による追加利上げをきっかけに、多くの金融機関が住宅ローンの変動金利を引き上げました。金利上昇は住宅ローンの返済負担増を招くため、住宅需要が下がりやすくなります。特に、東京のマンションのような高価格帯の市場では、金利のわずかな上昇でもローン返済額に大きな影響がおよぶため、購買意欲の低下が顕著になりがちです。
ニーズの低下で需給バランスが崩れると最終的な売却価格が下がるため、投資家が当初見込んでいた価格で売却することができず、十分な売却益を確保できません。また、投資家が借り入れている不動産投資ローンの返済額も増えるので、実質利回りも低下してしまいます。
こうした流れは、過去のバブル崩壊後に見られた状況と似ているという指摘もあります。不動産市場では、過度な価格高騰が続くと、市場が価格調整局面に入るというのがセオリーです。投資家が十分な売却益を見込めなくなると、新たな買い手が減少し、マンション価格が適正化されます。
加熱した価格が需給のバランスに見合った水準に調整されれば、市場が安定化し、実需層がマンション市場に戻ってくる可能性があります。そうなれば、現在のような過度な価格上昇は抑制されるかもしれません。
04東京・新築戸建て住宅が値下がり基調なときは、焦らず冷静な判断を心がけよう!
東京の新築戸建て住宅平均価格は値下がり基調ですが、今後もさらなる価格調整が起こる可能性があります。そのため、焦って購入せずに市場の動向を注視するのが得策です。
さらに、金利動向にも注意する必要があります。日銀が今後追加利上げを行えば、変動金利のローンにおける金利上昇リスクが顕在化する可能性もあるからです。
比較的価格の低い郊外の物件を検討するのも有効ですが、都心部と郊外では価格の動きに差があります。都心部に比べ、郊外の物件は下落幅が大きくなるケースも見られるので、希望エリアの土地価格や供給状況を確認し、資産価値が維持されやすい物件を選ぶようにしましょう。
住宅を購入するにあたっては、無理のない返済計画を立てることと、将来の維持費を考慮することが大切です。頭金を多めに用意すれば借入金額が減り、住み始めてからの返済負担を抑えることにもつながります。
今後、マイホームを検討している方は、手始めに当サイトの住宅ローンシミュレーターで、適切な予算や借入可能額を試算してみるのがおすすめです。
住宅ローン審査に不安がある場合は、物件が決まっていなくても高い精度で借入見込額を確認できる、「住宅ローン保証審査」をぜひご活用ください。

監修:新井智美
CFP®/1級ファイナンシャル・プランニング技能士
プロフィール
トータルマネーコンサルタントとして個人向け相談の他、資産運用など上記相談内容にまつわるセミナー講師を行う傍ら、年間100件以上の執筆・監修業務を手掛けている。