未完成マンション購入で考えるべきリスクと対策、融資タイミングも注意

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2024年6月上旬、東京都国立市で大手ハウスメーカーの積水ハウスが建設中だった新築分譲マンション「グランドメゾン国立富士見通り」が、6月下旬の完成を目前にして解体されるというニュースが世間を騒がせました。 積水ハウスによると、主な解体理由は「富士山の眺望を含めた周辺への影響の検討が不十分だった」とのことですが、今回のようにすでに契約済の部屋が複数あった未完成マンションが完成間近で解体され、引き渡しが実行されないのは非常に珍しいケースだといえます。 これからマンション購入を検討する世帯としては、今回の事例から「未完成マンションを購入する場合にどのようなリスクがあり、それに対してどのような対策を取れるのか」が気になるところではないでしょうか。そこでこの記事では、未完成マンション購入で考えるべきリスクについて解説していきます。

01積水ハウス建設中の分譲マンション、異例の解体へ

2024年6月上旬に解体されることが決定した「グランドメゾン国立富士見通り」は、JR中央線国立駅から徒歩10分(約700メートル)にある富士見通り沿いのマンションです。当該マンションは駅に近く利便性が高いうえ、その名のとおり富士山を眺められる眺望を魅力に売り出されていました。実際に富士見通りから見える富士山は関東の富士見百景にも選ばれており、地元住民のシンボルになっている名所です。

そのような場所に積水ハウスは、10階建てで総戸数18戸の分譲マンションを建設中でした。完成は2024年6月下旬を見込んでいて、すでに一部の物件が成約済でしたが、積水ハウスは完成予定まで残り1カ月を切った2024年6月11日に一転して、事業中止を国立市へ届け出る事態となっています。

今回の建設中マンションの解体にあたって積水ハウスは、「富士見通り、特に遠景からの富士山の眺望に関する検討が不足していたため」とあくまでも自主的に決定したことを発表しています。その背景として、2021年のマンション建設計画発表当初から住民たちによって「マンション建設によって富士見通りから富士山が見えなくなる恐れがある」ことが指摘されており、国立市からも景観への配慮を求める指導書が2回も交付されていた経緯があります。

また、マンション建設によって富士見通り沿い北側の建物が日照や通風を侵害される恐れがあることも、周辺住民からの反対の声につながっていました。それに対して、積水ハウス側は「2回にわたる設計変更」「周辺住民への説明会の開催」などを実施して周辺住民の理解を求めてきたものの、それも限界であると判断してついに解体決定に至ったという流れです。

「グランドメゾン国立富士見通り」の解体騒動の詳細については、以下の関連記事で解説しています。気になる方は、こちらの関連記事も参考にしてください。

完成直前のマンション解体騒動 クローズアップされた「眺望」という価値
[ニュース] 2024.07.25

02未完成物件に支払った手付金はどうなるの?

これからマンション購入を検討している世帯にとって、今回の問題で特に気になるのは「引渡し前に支払った手付金の扱いがどうなるのか」ではないでしょうか。結論からいうと、手付金については返還される見込みです。

もともと宅地建物取引業法第33条の2には「未完成物件の売買の制限」が規定されています。この法律は一般消費者が不利益を被らないように、宅地建物取引業者が未完成物件を売ることを原則的に禁止するものです。しかし実際には、未完成物件が販売されているケースも少なくありません。

なぜこのようなケースが許されているかというと、それは一定条件を満たしていれば造成中・工事中であっても、未完成物件の売買または予約を締結してもよいという例外があるからです。その条件とは、「未完成物件に関する手付金等の保全措置」が行なわれていることです。

手付金等の保全措置とは、住宅などの売買契約後、売主(不動産会社等)の倒産などで物件の引き渡しができなくなった場合に、支払った手付金等が返還されるための措置を指します。つまり、「売主都合で物件の引き渡しができなくなった場合に手付金がきちんと返還できる」という条件を満たした場合に、初めて未完成物件の売買が許されるのです。

そのため今回のように、売買契約を締結していても売主都合で未完成のまま解体された場合は、一般的に支払った手付金は返還されると考えられます。

03建築中の未完成マンションを購入する前に知っておくべきこと

不動産業界では未完成物件を買うことを「青田買い」、売ることを「青田売り」と表現することがあります。前述のように、未完成物件の売買は原則的に制限されているものの、実際には建売住宅や分譲マンションでは主流の販売方法となっています。その理由は買主・売主の双方にメリットがあるからです。

例えば、売主は早期に資金回収ができる点や早期契約することで不動産価格の下落局面でも販売価格が固定される点がメリットとして挙げられます。一方で、買主都合によってキャンセルされる可能性もあるうえ、完成していない状態で購入を決断してもらわなければならないため、物件説明が十分にできていないと買主との間で完成後にトラブルになりやすい点はデメリットです。

では、買主側のメリット・デメリットはどのようなものがあるのでしょうか。ここからは未完成マンションを購入する前に押さえておきたいメリット・デメリットや注意点について解説していきます。

建築中の未完成マンションを購入するメリットとは?

未完成マンションを購入するメリットとしてまず挙げられるのは、「計画的な引っ越しができる」点です。未完成マンションは売買契約を結んでから引き渡しまでの期間が1年以上かかることも珍しくないので、日程的にゆとりをもった引っ越しができます。

近年、引っ越し業界では人手不足が原因で、繁忙期を中心に急な依頼に対応していないケースも散見されますが、早期予約が可能な未完成マンションであれば「依頼する引っ越し業者が見つからない」という事態にはなりにくいでしょう。

また、物件や契約時期によっては希望に応じた間取り変更に対応してくれたり、設備や機器、壁紙などを選べたりするのも未完成マンションならではのメリットです。これは未完成マンションの購入を決断してもらうためのサービスの一環として行っているところもあるので、気に入った物件が見つかったときは積極的に問い合わせてみましょう。

ただし建築中の未完成マンションを購入するデメリットやリスクも!

未完成マンションを購入するデメリットやリスクとしては、下記の4つが挙げられます。

  • 完成時期によっては契約してから入居まで数年以上待つこともある
  • 日当たりや眺望などは建物が出来上がるまでイメージしづらい
  • 建設中にマンション自体の設計変更がなされる可能性もある
  • 契約後に状況(金利など)が変化して、住宅ローンの支払いが難しくなることもある

まず、「完成時期によっては数年以上待つこともある」については、未完成マンションなので当然ながら契約してすぐに入居できるわけではない点に注意が必要です。契約時には工期の目安が提示されるものの、工事が遅れて引き渡しが遅延するリスクがあることを忘れてはいけません。

特に、「子どもの入学や夫の転勤」といったライフイベントの時期に合わせて入居を決めている場合、「工事が遅れたときに、完成するまでの間どこに住むか」は大きな問題となることがあります。そのような事態にならないように、工事の進捗状況は定期的に確認しておくことが大切です。なお、施工会社に原因がある引き渡し日の遅延については、施主は受けた損害分の金額について賠償請求する権利があるということは覚えておきましょう。

また、現在はVRなどを駆使して完成後のイメージをつかみやすくしている販売会社も増えているものの、どうしても「日当たりや眺望などはイメージしづらい場合がある」のもデメリットです。さらに、建設中にマンションの設計変更が行われる可能性があるうえ、今回の国立市のマンションのようにそもそも完成しない恐れもあります。

そのほかでも詳しくは後述しますが、住宅ローンの適用金利は物件の引き渡し時に決まることがあるため、契約時に総支払額が確定しないケースがあるのも未完成マンションを契約するときの注意点です。不動産売買契約は一般的に契約締結前ならキャンセル料はかからないものの、やむをえない理由であっても契約後にキャンセルした場合は違約金がかかることが多いです。総じて、未完成マンションの契約にあたってはお金の面でも物件の面でも不確実性の高さが最大のデメリットだといえます。

04建設中の未完成マンションを購入する前に知っておきたい知識まとめ

上述したように、未完成マンションにはデメリットもありますが、立地や物件価格などの条件を含めたうえで総合的な判断から未完成マンションを選ぶ人もいるでしょう。そこで、ここからは未完成マンションを購入する前に知っておきたい「契約不適合責任」と「金利の適用タイミング」の2つについて解説していきます。

引き渡された物件にトラブルが発生したら「契約不適合責任」を追及できる

未完成マンションを購入するデメリットには、「不確実性の高さ」があります。しかし、施工業者の不備が理由で契約者に不都合が生じた場合は、契約不適合責任を追及できることは知っておきましょう。契約不適合責任とは引き渡された目的物が契約内容と適合しない場合に、売主が買主に対して負う法的責任を請負人が注文者に対して等しく負うことを指します。

例えば、「内装に不備があった」「床が傾斜していた」「工事遅れによって引き渡しが遅くなったにもかかわらず遅延損害金を負担しない」など契約書の内容と実際の仕上がりや対応が異なっていたケースが該当します。契約不適合責任は債務不履行の一種であるため、買主に損害賠償請求や契約解除も認められるので、もしも上記のような不具合があった場合は遠慮せずに申し出るようにしましょう。

ただし、契約不適合責任を追及する際は下記の点に注意してください。

  • 施工業者は助成金や住宅ローン控除などについて説明する義務はない
  • 室内の細かい傷や汚れは引き渡し時に指摘しなければならない
  • サインした契約書の内容と合っていれば、たとえイメージと違っても施主の了解済みとして取り扱われる
  • 施主側が調達して提供した「施主支給」をした場合、原則対象外

契約不適合責任はあくまでも請負契約に対して責任を負う法律なので、工事とは関係ないトラブルに関しては効力を発揮しません。利用したい助成金などがある場合は、自分たちでも情報を仕入れておくことが大切です。

また、細かい傷や汚れなどは入居したあとに無意識のうちにつけてしまうこともあります。責任の所在があいまいになりがちなので、できるだけ引き渡し時に確認してすぐに指摘しましょう。入居前の確認時に、写真を撮っておく方法も有効です。基本的に新築物件に関する契約不適合責任の追及は施主だけでは難しいので、もし気になる点があったら早めに弁護士などのプロに相談することをおすすめします。

住宅ローンの融資実行日は「物件引き渡し日」!金利の適用タイミングに注意

未完成マンションの購入で住宅ローンを利用するにあたって気を付けたいのが金利の決定時期です。引き渡された不動産を担保として抵当権を設定できるようになるため、一般的に住宅ローンの融資実行日は引き渡しと同日に設定されることが多いです。それに対して、住宅ローンの金利は「申し込み時」か「融資実行時(物件引き渡し時)」のどちらかが適用される仕組みです。これまで住宅ローンでは融資実行時(物件の引き渡し時)の金利が適用されることが一般的だったため、引き渡し時期が数年後に遅延すると「金利上昇リスク」がネックになりやすいのがデメリットでした。

しかし、国土交通省の「令和5年度民間住宅ローンの実態に関する調査結果報告書」※によると、近年の流れとして「申込時金利適用可能型」の住宅ローンを取り扱う金融機関が増えていることがわかります。

具体的には、「農協」「信金」「信組」「地銀」といった金融機関を中心として58.4%が「現在商品として取り扱っている」、0.7%が「商品化を予定」と回答しています。一方、「商品化の予定はない」も39.5%と4割近くの回答がありますが、半数以上の金融機関では「申込時金利適用可能型」の商品を取り扱っているので、未完成マンションの購入で住宅ローンを利用するときは複数の金融機関に相談してみるとよいでしょう。

日本では2024年8月1日に日銀が追加利上げによって短期プライムレートの引き上げを実施し、それに伴って変動型の住宅ローン金利も上昇傾向です。そのため、完成時期が不確実な未完成マンションでは、仮に引き渡しが数カ月後であっても「申込時金利適用可能型」の住宅ローンを選ぶほうが無難です。

05未完成マンションを購入する際は金利動向も常にチェックしよう

未完成マンションを購入する最大のリスクは不確実性ですが、契約不適合責任や金利の適用日を事前に理解しておくことで、リスクを低減させることが可能です。特に総支払額に大きく影響する住宅ローン金利の適用タイプは、申込時金利適用可能型の住宅ローンを選ぶことをおすすめします。

とはいえ、利用したい金融機関に申込時金利適用可能型の住宅ローンがないケースもあるでしょう。そのような場合は、金利上昇リスクのある変動型ではなく、計画的に返済しやすい固定型を選ぶのも選択肢の1つです。

当サイト内では、最長35年の全期間固定金利の住宅ローン「フラット35」の借入可能額がわかる「ARUHIの家探し前クイック事前審査」をご用意しています。自営業やフリーランスで開業1年未満の方でも審査可能。審査に不安がある方はぜひご利用ください。

まだ物件が決まっていないものの、金融機関からどのくらい借り入れできるか知りたい人は「住宅ローン保証審査」がおすすめです。事前に「家を買える額」が分かるので、マイホーム選びがスムーズに進められます。ぜひご利用ください。

他にも、住宅ローンの種類別に最も低い金利が一目でわかる「最新金利ランキング」、毎月の返済額や金利の違いによる総支払額の違いを簡単に把握できる各種シミュレーターをご用意しているので、これからマイホームを購入する予定の人はぜひ試してみてください。

新井智美

監修:新井智美

CFP®/1級ファイナンシャル・プランニング技能士

プロフィール

トータルマネーコンサルタントとして個人向け相談の他、資産運用など上記相談内容にまつわるセミナー講師を行う傍ら、年間100件以上の執筆・監修業務を手掛けている。

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