家を買うときハザードマップはどこまで気にするべき?都市計画法改正で浸水エリアは住宅建築できない?

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近年、気候変動に伴う集中豪雨による水害が全国で多発しています。こうした状況を受け、2015年に水防法が改正。「洪水浸水想定区域」の雨量規模が、1000年に1回程度の降雨想定へと引き上げられました。また、2022年4月には都市計画法が改正され、市街化調整区域のうち「浸水ハザードエリア等」における住宅建築等の規制が厳格化されました。 そこでこの記事では、ハザードマップから地域の水害リスクをどのように捉えるのか、家探しにおいてどの程度ハザードマップを気にかけるべきなのかなどを詳しく解説します。

011000年に1回の想定最大規模の雨量を想定!「洪水浸水想定区域」とは?

2015年の水防法改正で見直された「洪水浸水想定区域」とは、その名のとおり、河川の氾濫による住宅などの建物の浸水リスクが高いと想定された区域のことです。

河川沿岸地域の住民に、住んでいるエリアの水害リスクを知ってもらい、氾濫時の危険箇所をはじめ、避難場所の正確な情報を事前に確認してもらうことを目的として指定されます。洪水浸水想定区域を示した「洪水浸水想定区域図」では、想定される浸水深も表示されています。

区域設定の対象となるのは、洪水予防河川または水位周知河川の指定区間です。その河川を管理する国土交通省および都道府県が指定します。

従来、洪水浸水想定区域はおおむね100〜200年に1回起こり得る「計画規模洪水」の雨量をベースに設定されていました。

しかし、2015年9月の関東・東北豪雨により、各地で河川氾濫による甚大な被害が発生したのを背景に水防法が改正。洪水浸水想定区域の基準となる雨量が、1000年に1回の「想定最大規模」へと引き上げられました。

「想定最大規模」とは、1年に発生する可能性が1/1000(0.1%)程度の降雨を指します。つまり、1回降れば1000年は降らないという意味ではなく、発生確率は低いものの、いつでも発生し得る大規模な降雨であることを示しているのです。

ただし、現時点では想定最大規模による洪水浸水想定区域が未設定の自治体もあるため、注意が必要です。

02洪水浸水想定区域は水害ハザードマップで確認できる

ハザードマップとは、各自治体が住民向けに洪水や土砂災害、地震など身の回りでどのような災害が起こり得るのかを示すとともに、災害発生時の避難場所や避難経路といった防災関連施設の位置をまとめた災害予測地図のことを指します。

ハザードマップは災害の種類別に作成されており、そのうちの1つに「水害ハザードマップ」があります。これは、都道府県や国土交通省の各河川事務所が公表している洪水浸水想定区域図などを基に市町村が作成しているため、水害ハザードマップを見れば河川氾濫等による災害発生可能性を確認できます。

自治体によっては、洪水、大雨浸水、高潮、津波、土砂災害など、水害の種類別にハザードマップを配布しているところもあります。ハザードマップ自体は数年に一度更新されますが、国土交通省の指導要領に更新時期の規定があるわけではなく、更新のタイミングや頻度は自治体の判断に任されています。

そのため、住んでいる自治体のWebサイトをこまめにチェックし、ハザードマップが更新されているかチェックするといいでしょう。

広範囲なエリアを見るなら「重ねるハザードマップ」が便利

先ほども紹介したとおり、ハザードマップは市町村ごとに作成・公表されているものです。このため、市町村の境界を越えて情報を確認した場合、個々のハザードマップでは情報が途切れてしまうといったケースもあります。広範囲の情報を参照するにあたっては、市町村のハザードマップだけでは不便を感じるかもしれません。

こうした場合にぜひ活用したいのが、国土交通省が取りまとめている「重ねるハザードマップ」です。重ねるハザードマップでは、各種災害による危険がある箇所を地図上に重ねて表示することができるため、市町村を越えた広範囲の災害予測も確認しやすいのがポイントです。

ただし、市町村のハザードマップが更新されて間もない場合など、各市町村のハザードマップと重ねるハザードマップの内容が一致しないケースもあるため要注意です。必要に応じて両者を確認し、常に最新情報をチェックするようにしましょう。

03不動産取引では水害ハザードマップの説明が義務化

2020年8月、国土交通省は不動産の売買や賃貸時に宅建業者が実施する重要事項説明において、ハザードマップにおける対象物件の所在地を買主・借主へ説明することを義務化しました。

この背景としては、近年大規模水害が全国各地で毎年のように発生しており、水害リスクに関する情報が、契約締結の意思決定を行ううえで重要な要素となっていることがあります。

ただし、ここには注意点も存在します。そもそも重要事項説明を行う宅建業者は不動産のプロであり、水害について必ずしも詳しいわけではありません。必要な情報が適切に説明されるかどうかは、あくまでも宅建業者次第と言わざるを得ないのです。

また時間の経過とともに、ハザードマップは最新の状況に応じて更新されます。将来的に更新される可能性もあり、現時点で対象物件が浸水想定区域に該当しないからといって、水害リスクが今後全くないというわけではありません。

042022年4月、都市計画法が改定!市街化調整区域の住宅建築が原則、禁止に?

家を購入する際に水害リスクが重要視されている一方、水害リスクが高いにも関わらず、人口が増えているエリアがあります。それが、以前農地などとして使われていた「市街化調整区域」です。

市街化調整区域とは乱開発を防止するため、都市計画法で定められている市街化を抑制すべきとされた区域のことです。性質上、市街化調整区域は都市部から離れた郊外の農地などが多くなっています。宅地開発の観点からすると、土地の価格が比較的安く、そのうえまとまった土地が確保しやすいというのはメリットといえます。そのため、近年では市街化調整区域の宅地化が進んでいます。

こうした背景を受け、国は2022年4月に都市計画法を改正。市街化調整区域のうち、災害リスクが高いエリア(洪水等で浸水深3m以上になるリスクのある場所)については、建築に関する許可基準が厳格化されました。

本改正により、洪水による大きな被害が想定される場所で住宅建設をしようとする場合、自治体によっては原則禁止、あるいは自治体による厳格な審査が行われるケースも出てくると考えられます。

05もし買いたい家が洪水浸水想定区域内に指定されていたら?購入すべき?

購入を検討している家が洪水浸水想定区域に指定されているエリアにあった場合、購入を見合わせるべきなのでしょうか。

判断にあたって、ハザードマップで特にチェックすべきなのは想定される「浸水深」です。洪水ハザードマップで表示される最大浸水深は0.5mと3.0mを基準とし、必要に応じて5.0mが追加されています。

木造戸建て住宅における浸水深の目安としては、0.5mで1階部分が床上浸水する可能性があり、〜3.0mで2階の床面が浸水する可能性があります。〜5.0mになると2階部分が水没し、3階の床面も浸水する可能性があるでしょう。

このように、同じ洪水浸水想定区域内であっても、浸水深によって対処や避難方法が異なります。鉄筋コンクリート造のマンションでも考え方は一緒ですが、居室が何階なのかによって、どのような対処、または避難方法をとるのかの判断基準となるでしょう

そのため、洪水浸水想定区域内にある物件だからといって、一概に購入を避けるべき物件とは言い切れません。

ここで一つ忘れてはならないのが、ハザードマップで記載されるのは一級河川・二級河川の被害想定であるという点です。局所的な大雨でも氾濫のリスクがある中小河川については、被害想定が記載されていません。

このことからも、ハザードマップにおいて水害リスクが高いからといって購入を避けるのではなく、購入希望の物件に潜むリスクを正しく理解し、どのような対策を講じる必要があるか事前に把握することが大切です。

過去の浸水履歴をはじめとしたリスク可能性はもちろん、いざ災害が発生した際の避難場所を確認しておくことも重要といえます。こうしたチェックポイントを全て確認したうえで、自身が許容できる水害リスクなのか、住宅価格や住みやすさとのバランスはどうなのかといった点も考慮しつつ、最終的に購入すべきか判断するようにしましょう。

06家を買う際は「タイミング」も大事!ハザードマップから水害リスクとどう向き合うか考えてみよう

河川の流域エリアで家を探していると、ハザードマップ上、希望エリアが全て水害リスクの高い地域だったというケースも出てくるでしょう。

ハザードマップはあくまでも災害予測地図であり、記載されている情報は不確実性の高いものも含まれています。ハザードマップから正確な災害リスクを判断するのは、不動産のプロでも難しいものです。裏を返せば、水害リスクが低いとされる物件であっても、将来的に水害による被害が生じないとは言い切れません。 家を買うにはタイミングも大切なため、現状の水害リスクに振り回されすぎることなく、水害リスクとどう向き合うかについて、いま一度考えてみてはいかがでしょうか。

新井智美

監修:新井智美

CFP®/1級ファイナンシャル・プランニング技能士

プロフィール

トータルマネーコンサルタントとして個人向け相談の他、資産運用など上記相談内容にまつわるセミナー講師を行う傍ら、年間100件以上の執筆・監修業務を手掛けている。

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