住宅価格が高騰?住宅ローン金利も上昇?アメリカで決定したテーパリング(量的緩和縮小)の影響を解説

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11月3日のFOMC(米連邦公開市場委員会)で、予想通り、テーパリング(量的緩和縮小)の開始が決定しました。「2022年に少なくとも2回の利上げがある」と言われており、日本の住宅ローン金利への影響が注目されます。加えて忘れてはならないのは、原油価格の上昇と円安で住宅価格の高騰が懸念されることです。テーパリング開始がマイホーム購入に与える影響について詳しく見ていきましょう。

01アメリカがテーパリング(量的緩和縮小)を決定

FRB(米連邦準備理事会)は11月3日に開いたFOMC(連邦公開市場委員会)で、11月中にテーパリング(量的緩和縮小)に着手すると決定しました。テーパリングとは中央銀行が超金融緩和状態から抜け出す過程で採用する出口戦略で、量的緩和策による資産買い入れ額を徐々に減らしていくことを指します。さらにFRBは、パウエル議長が11月30日に、その完了時期を数カ月早めることもあることを検討すべきだとも発言しました。

量的緩和政策とは、中央銀行が国債や不動産担保証券などを大量に買い入れることによって、市場に巨額の資金を供給させる政策のこと。市場に出回る資金を増やすことによって、金融機関が企業や個人への貸付するハードルを下げて経済を活性化させ、景気を回復させることを目的とします。

しかし、市場に資金が過剰に供給されてしまうと景気が過熱気味になってしまい、急激なインフレや金融バブルなど経済や金融市場のリスクを高めてしまうおそれもあります。このリスクを回避するためのテーパリングの開始時期が注目されていました。

今回のFRBによる量的緩和政策は、新型コロナウイルスの感染拡大による景気の後退や金融市場の下落を下支えするために2020年3月に開始されたもので、ゼロ金利政策を維持するとともに、国債などの資産を毎月1200億ドル(約13兆6000億円)も購入することによって市場に大量の資金を供給していました。

しかし、2020年後半以降は感染拡大が抑制されたことなどから、アメリカでは経済活動が活発化し、失業率は4%台に低下、株価が史上最高額を記録するなど景気が急激に回復しつつあります。

一方でコロナ禍による供給不足などを原因に食品やガソリン、住宅などの価格が上昇、2021年10月には消費者物価指数は前年同月比で6.2%上昇と約30年ぶりの高水準を記録し、インフレへの懸念が強まっています。こうした状況を受けてFRBはテーパリング開始を決定、これまで毎月1200億ドルだった国債購入額を毎月150億ドルずつ減らしていく方針を明らかにしていたのです。

次の焦点は利上げ

今回のテーパリングについては、1年近く前からFRBがその可能性を示唆していたことから、市場はすでにその影響を織り込んでおり、テーパリング開始による市場の混乱は起きないとする見方が大勢を占めています。むしろ、次なる焦点として注目を集めているのは、政策金利の引き上げのタイミングです。

市場関係者の間では「テーパリング完了後、早い時期に政策金利が引き上げられる」との見方が有力視されています。今回、FRBが発表した月150億ドルのペースでテーパリングが行われれば、2022年6月にはテーパリングが完了することになりますが、パウエル議長の発言を見ると、より早期に終える可能性が高まっていると言えるでしょう。

02日本の住宅価格は高騰懸念

アメリカの政策金利が引き上げられると日本経済にはどのような影響が及ぶのでしょうか。まず考えられるのが円安の進行です。アメリカで政策金利が引き上げられると高金利を求めて投資資金がアメリカに集まり、大量のドルが買われるようになり、円を含む他の通貨の対ドル価格は安くなります。円安が進むと輸入品価格が上昇して日用品や食品価格も上昇、家計負担の増大が懸念されます。また、投資資金が海外に流出することによって債券や株式の価格が下落すると、企業の業績が悪化、結果として実質賃金の下落に繋がるおそれもあります。

さらに、アメリカの政策金利引き上げは、私たち日本人のマイホームの購入にも影響を及ぼす懸念があります。世界的な原材料価格の高騰や供給の遅れなどを背景に、現在でも住宅価格は上昇傾向にありますが、政策金利引き上げによる円安が進むと、海外から輸入する原材料や原油の価格が高騰し、建築にかかる費用がさらに上昇するため、これまで以上に住宅価格が高騰する可能性が高いことが指摘されているのです。

03住宅ローン金利は引き上げられるのか?

アメリカの政策金利引き上げの影響で、日本の住宅ローン金利も上がってしまうのはないか?との不安を抱いている人も少なくないでしょう。

しかし、結論からいうと、アメリカの金利引き上げがすぐに日本の住宅ローンの金利引き上げに繋がることはないと思われます。

一般的に住宅ローンを借りる際に適用される「借入金利」は、各金融機関が定める「基準金利」から「金利の優遇幅」を引いた金利です。この「基準金利」の決定に大きな影響を及ぼすのが、日本銀行の「政策金利」ですが、日本では1999年のゼロ金利政策以降、政策金利はほぼゼロの状態が続いているため、住宅ローンの基準金利も極めて低い水準で推移しています。もちろん、日銀が政策金利を引き上げた場合は、基準金利が上がってしまうので、住宅ローンの借入金利も上がってしまうことになります。

しかし、日銀は2013年に消費者物価を前年比2%上昇させる「物価安定目標」を掲げ、以来、その目標達成のためにマイナス金利政策を続けています。この政策は「金利を下げてお金を借りやすくすると消費が活性化して物価が上昇する」という考え方を前提としているため、理論上は物価安定目標が達成できないかぎり、日銀が政策金利を大きく引き上げることはありません。そのため、この政策が続く限りは、アメリカの政策金利の動向にかかわらず、原則として日本の住宅ローン金利が大きく引き上げられることはないと考えられているのです。

04スゴ速を活用しよう!

ただし、将来的には、日本でも金融政策の転換によって政策金利が引き上げられ、結果として住宅ローン金利の引き上げが行われる可能性は十分に考えられます。住宅ローンを利用する際には、万が一、返済期間中に金利が引き上げられた場合のことを想定して、余裕のある資金計画を立てることが大切です。余裕のない借り入れをしてしまうと、金利引き上げによる返済金額の増加に対応できず、最悪の場合、自己破産などに追い込まれるおそれもあります。

マイホーム購入を考えはじめたら、家探しを始める前に、無理せずに借りられる金額はどのくらいかを「住宅購入予算シミュレーター」で確認してみましょう。

金額が確認できた後は、実際に住宅ローンが借りられるかどうかを「スゴ速」で調べてみましょう。「スゴ速」は物件が決まっていなくても必要な情報を入力するだけで、金融機関や住宅ローン保証会社の審査を受けることができる便利なサービス。面倒な書類の用意も不要なので、ぜひ気軽にお試しください。

相山華子

監修:相山華子

ライター、OFFICE-Hai代表、2級ファイナンシャル・プランニング技能士

プロフィール

1997年慶應義塾大学卒業後、山口放送株式会社(NNN系列)に入社し、テレビ報道部記者として各地を取材。99 年、担当したシリーズ「自然の便り」で日本民間放送連盟賞(放送活動部門)受賞。同社退社後、2002 年から拠点を東京に移し、フリーランスのライターとして活動。各種ウェブメディア、企業広報誌などで主にインタビュー記事を担当するほか、外資系企業のための日本語コンテンツ監修も手掛ける。20代で不動産を購入したのを機に、FP(2級ファイナンシャル・プランニング技能士)の資格を取得。金融関係の記事の執筆も多い。

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