LGBTカップル向け住宅ローンが増加中!対応している金融機関や要件を知ろう
LGBT(性的少数者)のカップルを公的に認める自治体の増加や多様性への意識の高まりを受けて、LGBTカップルにも利用できる住宅ローンを提供する金融機関が増えています。今回はその利用要件や、利用にあたっての注意点などを解説します。
01存在感増すLGBT、浸透率は8割超に
日本の人口に占めるLGBT*の割合について公的な調査結果はありませんが、LGBT・性的少数者に関する専門シンクタンクである株式会社 LGBT 総合研究所が2019年に全国の20代~60代の個人約42万人を対象に行った「LGBT意識行動調査2019」では、LGBT・性的少数者に該当する人は約10.0%でした(※1)。
*LGBT: Lesbian(レズビアン、女性の同性愛者)、Gay(ゲイ、男性の同性愛者)、Bisexual(バイセクシュアル、両性愛者)、Transgender(トランスジェンダー、性の自己認識が出生時に割り当てられた性別とは異なる人)の頭文字を組み合わせた言葉で、性的マイノリティ(性的少数者)を表す総称としても使われる。また、最近ではLGBTにQueer(クイア)やQuestioning(クエスチョニング)の頭文字「Q」を加えた「LGBTQ」という呼称が使われることもある。
また、株式会社電通が2020年に全国の20~59歳の計6万人を対象に行った「LGBTQ+調査2020(※2)では、自身をLGBTQ層に該当すると回答した人は、前回の2018年調査と変わらず全体の8.9%でした。また、同調査で「LGBTがセクシャルマイノリティ(性的少数者)の総称の1つであることを知っている」と答えた人は全体の80.1%と2015年の調査(37.6%)、2018年の調査(68.5%)を大きく上回り、ここ数年でLGBTという言葉の認知度がかなり向上してきていることがわかりました。
世界的にDiversity & Inclusion(ダイバーシティ&インクルージョン、個々の違いを認め合うこと)を尊重する意識が高まっていることなどを背景に、自らの性的指向をカミングアウトするLGBTが増えていることもあって、日本でもLGBTの存在感は年々高まっており、LGBTが直面する社会的課題を解決しようとする取り組みが進んでいます。
※1 出典:株式会社LGBT総合研究所
※2 出典:株式会社電通「LGBTQプラス調査2020」
02パートナーシップ制度は103自治体で実施
LGBTが直面する課題の1つが、男性同士または女性同士の結婚が認められないことです。法律上の夫婦と認められないため、2人で住むための部屋が借りづらい、医療機関で手術を受ける際の同意ができない、住宅ローンのペアローンが使えない、勤務先の家族手当がもらえない、携帯電話の家族割引サービスが使えないなど、さまざまな不利益を被るケースも珍しくなく、問題視されています。
LGBTを取り巻くこういった状況を受け、近年、日本ではLGBTのカップルを公認し、2人の関係を婚姻に次ぐものとして認定する「パートナーシップ制度」を導入する自治体が増えています。
2015年に全国で初めて条例に基づくパートナーシップ制度を導入した東京都渋谷区が行っている調査(※3)によると、2021年4月1日現在、パートナーシップ制度を導入する自治体は全国で103(人口カバー率37.1%)に、パートナーシップ証明書の交付を受けたLGBTカップルは同年3月31日現在、1741組に上っています。
※3 出典:渋谷区「全国パートナーシップ制度共同調査」
パートナーシップ証明書の交付を受けた人を対象に、さまざまなサービスを提供する企業や、人事制度を整備する企業も増えており、LGTBのカップルが被っている不利益を解消しようという動きが様々な分野で見られるようになっています。
ここでは、その例をいくつかご紹介しましょう。
保険 | ライフネット生命:死亡保険金の受取人に同性のパートナーを指定可能 ソニー生命:自動車保険の契約時に同姓パートナーを配偶者として取り扱う |
企業の福利厚生など | 日本生命:従業員の福利厚生(休暇、社宅の利用)などについて同性パートナーを配偶者とみなす 日本IBM:結婚祝い金を同性パートナーとの事実婚にも支給 キリングループ:社員の行動規範に性的指向・性自認によって不当な差別を行なわないことを明記 |
家族割 | NTTドコモ:同性パートナーも「ファミリー割引」の適用が可能 日本航空:同性パートナーもマイレージの特典利用が可能 |
不動産 | 三好不動産:LGBTの家探しを支援 SUUMO:LGBTフレンドリー物件を紹介 |
教育 | お茶の水女子大学:トランスジェンダーの学生の受け入れを表明 角川ドワンゴ学園:LGBTの生徒や教職員への支援体制の構築 |
03LGBTカップルが利用できる住宅ローンも続々登場
LGBTのカップルが利用できる住宅ローンも続々と登場しています。これまで、原則として親子や法律婚の夫婦などの親族にしか認められなかった住宅ローンの連帯保証人に同性パートナーを認める金融機関、同性パートナー同士のペアローン利用を認める金融機関が増えており、LGBTカップルにも住宅の購入がしやすくなりつつあるのです。ここでは、各金融機関が打ち出しているLGBTカップル向けの対応と主な利用要件を紹介します(2021年6月1日現在)。
メガバンク
金融機関名 | 主な対応 | 主な利用要件 |
みずほ銀行 | ペアローン、収入合算ローンにおける配偶者の定義に「同性パートナー」を追加 | 次のうちいずれかを提出すること ・渋谷区の発行するパートナーシップ証明書の写し ・任意後見契約および合意契約に係る公正証書の正本または謄本、および任意後見契約に係る登記事項証明書 |
三井住友銀行 | 連帯債務型借入における配偶者の定義に「同性パートナー」を追加 | ・自治体の証明するパートナーシップ証明書の写し、またはこれに類する証明書の提出 ・団体信用生命保険への加入 |
地方銀行
金融機関名 | 主な対応 | 主な利用要件 |
広島銀行 | 収入合算や担保提供における配偶者の定義に「同性パートナー」を追加 | 以下の書類の提出 ・地方自治体が発行する「同性パートナーシップ」を証明する書類 ・合意契約に係る公正証書(※)の正本または謄本 ・任意後見契約に係る公正証書の正本または謄本 ・任意後見契約に係る登記事項証明書の正本または謄本 ※合意契約に係る公正証書には以下の①②のいずれの事項も明記されていること ①2人が愛情と信頼に基づく真摯な関係であること ②2人が同居し、共同生活において互いに責任を持って協力し、その共同生活に必要な費用を分担する義務を負うこと |
琉球銀行 | 住宅ローンにおける収入合算者(連帯債務者、連帯保証人)の定義に「同性パートナー」を追加 |
「本人確認書類」および「住民票」での同居の確認がとれること ※自治体のパートナーシップ証明書や公正証書は不要 |
信用金庫
金融機関名 | 主な対応 | 主な利用要件 |
京都信用金庫 | 住宅ローン(連帯債務型、ペアローン型、単独債務型)の借り入れにおける配偶者の定義に「同性パートナーの方々」を追加 | ・自治体の発行する同性パートナーシップ証明書またはこれに類する書類の提出 ・購入した住まいに転入後、上記証明書を取得し、提出すること ・当金庫所定の保証会社の利用 ・当金庫所定の団体信用生命保険への加入 |
川崎信用金庫 | 同性パートナーを住宅ローンの審査において「年収合算者」や「共有者」、「担保提供者」「居住者」として扱う | 「川崎市パートナーシップ宣誓制度」で認められたカップルであること |
ネット銀行
金融機関名 | 主な対応 | 主な利用要件 |
楽天銀行 | LGBT専用の「楽天銀行LGBT住宅ローン」の提供 | 以下の窓口を通して、住宅の購入を予定していること ・リクルート住まいカンパニーが運営する全国の「スーモカウンター新築マンション」 ・三好不動産が運営する店舗 ・連生型団体信用生命保険(2人のいずれか一方が死亡または所定の高度障害になった場合に返済免除になる保険)への加入 ※自治体のパートナーシップ証明書や公正証書は不要 |
住信SBIネット銀行 | 同性パートナーをペアローンのペア相手や、収入合算者(連帯保証人)、担保提供者に指定可能とする | 正式審査申込時に追加で以下書類を提出すること ①任意後見契約及び合意契約(※)に係る公正証書の謄本 ②任意後見契約に係る登記事項証明書 ※2人が共同生活を営むに当たり、当事者間において、次の事項が明記された公正証書を作成していることが必要。 ・2人が愛情と信頼に基づく真摯な関係であること。 ・2人が同居し、共同生活において互いに責任を持って協力し、およびその共同生活に必要な費用を分担する義務を負うこと。 |
持続可能な開発目標(SDGs)の目標のひとつにジェンダー平等があることもあり、多くの金融機関がLGBTへの対応を進めており、LGBTカップルが利用できる住宅ローンは、今後ますます増えていくものと思われます。LGBTカップルにとっても住宅が購入しやすくなることは大変喜ばしいことですが、実際に2人でローンを組む際には、関係解消のリスクを頭に置いておく必要があります。法律婚の場合は、離婚にあたって財産分与を求めることができますが、LGBTカップルの場合は現状では法的な婚姻関係にないため、相手に財産分与を求めることは難しく、トラブルに発展する可能性があるからです。このトラブルを避けるために推奨されているのが、「パートナーシップ契約書」の作成。万が一別れることになった場合に住宅ローンや住宅をどうするのかを話し合って決め、決定した内容を公正証書としておくと、関係解消時のトラブルを解決するための指針とすることができます。
また、カップルのうち、どちらかが死亡した場合に備えて、お互いが遺言書を作っておくことも大切です。住宅ローンの返済途中にパートナーが亡くなった場合は団体信用保険に加入していれば残債の返済は免除されますが、遺されたパートナーは法定相続人ではないため、法定相続人である遺族が相続権を主張した場合、2人で購入した家に住めなくなるおそれもあるからです。
同性のパートナーと一緒に住宅を購入する際には、LGBTカップル特有の課題があるものの、借り入れのハードルは下がりつつあります。住宅購入を検討している方は予算検討シミュレーションをして無理の無い住宅購入予算を検討しましょう。
監修:相山華子
ライター、OFFICE-Hai代表、2級ファイナンシャル・プランニング技能士
プロフィール
1997年慶應義塾大学卒業後、山口放送株式会社(NNN系列)に入社し、テレビ報道部記者として各地を取材。99 年、担当したシリーズ「自然の便り」で日本民間放送連盟賞(放送活動部門)受賞。同社退社後、2002 年から拠点を東京に移し、フリーランスのライターとして活動。各種ウェブメディア、企業広報誌などで主にインタビュー記事を担当するほか、外資系企業のための日本語コンテンツ監修も手掛ける。20代で不動産を購入したのを機に、FP(2級ファイナンシャル・プランニング技能士)の資格を取得。金融関係の記事の執筆も多い。