風水害に強いマンション選びのポイントとは?これからの時期に気になる被災リスクを知ろう

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「災害大国」とも言われる日本。台風や大雨、大雪や竜巻、地震といった自然災害が多発し、毎年、各地に大きな被害をもたらしています。中でも被災リスクが高いのは土砂崩れや洪水などの風水害で、毎年、梅雨から秋にかけて多発します。今回はデータから過去の風水害被害を振り返り、被災リスクを避けるための住宅探しのポイントを説明します。

01被災リスクが最も高い風水害、多発するのは梅雨~秋

日本は地形、地質、気候などの自然条件が要因で世界的に見ても自然災害の発生リスクが高く、季節や地域を問わず様々な被害が生じています。中でも台風や洪水は頻発しており、中小企業庁の資料(※1)によると、日本における自然災害の発生件数のうち、実に71.8%が台風と洪水によるものとなっています。

※1 中小企業庁「2019年中小企業白書」第3部第2章P3

日本で台風や洪水などの風水害が最も多く発生するのは、例年、梅雨から秋にかけての季節です。この季節は台風による豪雨や暴風、高潮などが相次ぎ、全国で河川の氾濫による浸水や土砂崩れによる家屋の倒壊など多くの被害が発生します。特に近年は大規模な被害をもたらす豪雨が増加傾向にあり、国土交通省によると災害の危険性が一気に高まり、山崩れやがけ崩れが起きやすくなる1時間の降水量が50mmを上回る大雨の平均発生件数は、下表のとおり、この30年間で約1.4倍に増加しており、今後も気候変動の影響により、水害が頻発することが懸念されています(※2)。

1時間降雨量50mm以上の年間発生回数(アメダス1000地点あたり)

時期 平均発生回数
1976~1985年 174回
2008~2017年 238回

※2 出典:国土交通省「第3回大規模広域豪雨を踏まえた水災害対策検討小委員会資料」P23

02都市部のタワーマンションも風水害で被災

風水害による被害は全国的に発生しており、もちろん都市部も例外ではありません。記憶に新しいのは2019年10月の台風19号による被害です。10月6日に発生したこの台風は、大きな勢力を保ったまま12日に伊豆半島に上陸、関東地方を縦断し、各地に記録的な大雨をもたらしました。東京と神奈川を流れる多摩川でも水位が上昇し、流域の神奈川県川崎市では武蔵小杉駅近くの高層マンションが建ち並ぶエリア一帯が冠水。同エリアにある47階建てのタワーマンションでは地下の電気系統の設備への浸水のため停電と断水が発生、エレベーターが使えなくなったことなどにより、高層階の住民は仮住まいを余儀なくされました。原因は台風による大雨で水量を増した多摩川の汚泥水が、マンションの排水管を逆流したこととみられており、従来のマンションの洪水対策の盲点をつく被害としても注目を集めました。

こういった風水害で、建物や家財などに損害が生じた場合には、水災補償を含む火災保険に加入していれば補償を受けることができます。一般社団法人損害保険協会の統計(下表※3)をみると、2019年の台風19号による被災者に支払われた保険金は計5826億円と、風水害による保険金の支払額としては過去2番目に多く、被害の大きさを伺い知ることができます。

なお、火災保険では水災補償を含むプランと含まないプランがあり、水災補償をオプションとしているものもあります。マンションでは一般的に浸水する可能性が低いため水災補償を付けずに契約するケースも多くあります。しかし低層階では浸水の可能性がありますし、土砂災害の危険性がある立地の場合は水災補償を検討したほうが良いでしょう。

過去の主な風水害等による保険金の支払い

災害名 地域 支払額
2018年台風21号 大阪、京都、兵庫等 1兆0678億円
2019年台風19号 東日本中心  5826億円
1991年台風19号 全国  5680億円
2019年台風15号 関東中心  4656億円
2004年台風18号 全国  3874億円
2014年2月雪害 関東中心  3224億円
1999年台風18号 熊本・山口・福岡等  3147億円
2018年台風24号 東京・神奈川・静岡等  3061億円
2018年7月豪雨 岡山・広島・愛媛等  1956億円
2015年台風15号 全国  1642億円

※3 出典:一般社団法人損害保険協会「過去の主な風水害等による保険金の支払い」

03不動産取引の「重要事項説明」で水害リスクの説明が義務化

このように、甚大な被害をもたらす大規模な風水害が相次いでいることから、国では2020年に宅地建物取引法を改正、不動産取引の際に不動産業者に義務付けられている「重要事項説明」において説明すべき重要事項に、「水害ハザードマップにおける宅地・建物の所在地」が加えられました(宅建業法施行規則第16条の4の3第3号)。ハザードマップとは、自然災害による被害の軽減や防災対策に使用する目的で、被災想定区域や避難場所・避難経路などの防災関係施設の位置などを表示した地図のことで、水防法により都道府県および市区町村に作成が義務付けられており、ホームページ等で公開されています。この法改正により、宅地建物取引業者は取引対象の不動産がハザードマップの被災想定区域内にある場合は、重要事項説明の際に、不動産の購入・賃貸予定者に対してハザードマップを提示の上、その不動産の所在地を指さす、もしくは印をつけるなどして説明することが義務付けられました。なお、取引対象の不動産の所在地が被災想定区域の外にある場合も、ハザードマップに表示されている限りは、その位置を示さなければならず、被災想定区域の外であるからといって、購入・賃貸予定者が水害のリスクがないと誤認することがないような配慮を要するとされています(※4)。

不動産を購入もしくは賃貸する際の重要事項説明で、ハザードマップに関する説明がなかった場合は、必ず説明を求め、対象の不動産がハザードマップ上の被災想定区域にあるかどうかを確認しましょう。被災想定区域に当たっている場合は、実際にその地域周辺で過去にどのような水害があったのか、その頻度や程度について確認し、場合によっては取引の再考を検討するのも一案です。

また、ハザードマップは地形の変化などに応じて随時更新されます。購入した時点で対象不動産が被災想定区域内にない場合も、後になって区域内とされるケースも考えられます。住み始めてからも定期的にハザードマップを確認し、自宅が被災想定区域に指定されていないかどうか確認するようにしましょう。

※4 出典:国土交通省「宅地建物取引法施行規則の一部改正(水害リスク情報の重要事項説明への追加)に関するQ&A:P3・A3-5」

04住宅探しで水害リスクをチェックするには?

ハザードマップを確認する

ハザードマップは市区町村のホームページなどで確認できるため、重要事項説明を受ける前に、自分で対象物件が被災想定地域内にあるかどうかを確認することもできます。浸水などの被災のリスクを少しでも減らしたい場合は、事前にハザードマップを確認した上で、被災想定区域外で住宅探しをすると良いでしょう。また、国土交通省では全国のハザードマップにリンクし、洪水や土砂災害、津波や高潮など様々な種類のハザードマップを見ることができる「ハザードマップポータルサイト」を公開しています。

ただし、ハザードマップの被災想定地域外だからといって、被災する可能性がないわけでは決してありません。たとえば静岡大学防災総合センターの牛山素行教授の「2018年7月豪雨による人的被害等についての調査(速報)」(※5)では、この豪雨の犠牲者のうち約4割がハザードマップ上の「浸水想定地域」の範囲外で亡くなっていたことが明らかになっています。住宅を探す際は、被災想定区域内か否かに関わらず、近隣の避難所や自主避難施設の所在地やそこまでの経路なども確認しておくと安心です。

マンションの場合は、これまで1階に居住する場合以外で水害に関しての対応に大きな注目が集まることはありませんでした。しかし上記でも紹介した2019年のタワーマンションの被災などにより、マンション選ぶ際にも、水害対策にも関心が寄せられるようになりハザードマップのチェックは欠かせないものになっています。

※5 出典:静岡大学防災総合センター「2018年7月豪雨による人的被害等についての調査(速報)」P8

万一に備えた住宅選び

マンションでは水害の被害を減らすためには、危険のあるエリアを認識しておくだけではなく、建物の設備構などもチェックをしておく必要があります。

ライフラインの設備の場所を確認する

マンションを実際に選ぶ際は、電気室や非常用発電設備、受水槽や水道のためのポンプ室がどこにあるかを確認します。そうしたライフラインに関連する設備を上階に置くマンションもありますし、そうでなければ浸水に対する対策が取られているかどうかをチェックします。

さらに非常用電源の確保や防災倉庫の設置、止水版や土のうを準備するなど水害への備えをアピールする物件も出てきていますので、マンション探しの際のチェックポイントの一つとしておきましょう。

駐車場の確認

マンションの駐車場に関しては1階の平置き駐車場であっても、地盤面より低い場所だと浸水や区車の水没の危険がありますので確認が必要です。地下駐車場や機械式の駐車場は豪雨による被害を避けることは困難です。災害時にあらかじめ車を別の場所に移動することを想定しておくと同時に車両保険での対応も考えておいたほうが良いでしょう。

何階を選べばいいか

ハザードマップ上で洪水が起きた時に浸水する危険性がある場合、例えば5~10メートルの浸水が想定されている場合は3階でも浸水の恐れがあります。地下などに部屋がある物件も水害の危険を考えて検討することが大切です。水害の危険性があるエリアでは1階や2階は避けて、できれば4階以上を選んだ方が良いかもしれません。

住民の防災意識にも注目

中古マンションであれば、設備面の点検とは別に、管理組合が防災対策に積極的で、定期的な訓練などを行っているかなどを仲介会社に確認しておくことも必要です。

一戸建てでは災害に備えた家づくりを

一戸建ての場合は万一の時のための家づくりを考えておくことが大切です。国道交通省では、急激に被害の内容が増加する床上浸水の防止に焦点を合わせることが重要だとして、床を高くすることや、2階以上を居住スペースにするピロティー構造にすることで、被災軽減が可能となると説明しています。また、災害時の二階の活用や、脱出用として屋根に外部への出口を設置することも有効だとしています。(※)

(※)参考:国土交通省「水害対策を考える」

火災保険への加入

ハザードマップ上の被災想定区域内か否かに関わらず、被災への備えとして、洪水、高潮、土砂崩れ等による水災を補償する火災保険への加入は前向きに検討したほうが良いでしょう。実際、火災保険の加入件数は増加傾向にあり、損害保険料算出機構の調査(※6)によると2019年度の火災保険の新契約数は1302万件と過去5年間で最も多くなっています。

ただし、火災保険では地震や噴火、津波による損害については補償されないため、これらの損害に備えるためには、火災保険とは別に地震保険に加入する必要があります。

また、一般的に火災保険の水災補償には次のような支払い基準が設けられていることが多く、水災で被害を受けてもこの基準を満たさない場合は補償が受けられないことにも注意が必要です。

一般的な火災保険における水災の支払い基準

  • 建物や家財に再調達価額の30%以上の損害が生じた場合
  • 「床上浸水」または「地盤面から45cmを超える浸水」によって損害が生じた場合

※6 出典:損害保険料算出機構「2020年度火災保険・地震保険の概況」P24

災害大国日本では、どんなに気を付けて住宅を選んでも自然災害のリスクをゼロにすることは難しいものです。住宅の修繕・補強で災害に備える、被災した場合に迅速に生活再建ができるよう火災保険に加入するなどの対策をし、万が一への備えを怠らないようにしましょう。

相山華子

監修:相山華子

ライター、OFFICE-Hai代表、2級ファイナンシャル・プランニング技能士

プロフィール

1997年慶應義塾大学卒業後、山口放送株式会社(NNN系列)に入社し、テレビ報道部記者として各地を取材。99 年、担当したシリーズ「自然の便り」で日本民間放送連盟賞(放送活動部門)受賞。同社退社後、2002 年から拠点を東京に移し、フリーランスのライターとして活動。各種ウェブメディア、企業広報誌などで主にインタビュー記事を担当するほか、外資系企業のための日本語コンテンツ監修も手掛ける。20代で不動産を購入したのを機に、FP(2級ファイナンシャル・プランニング技能士)の資格を取得。金融関係の記事の執筆も多い。

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