新築離婚(マイホーム購入後の離婚)に至る原因と注意点
「結婚したらマイホームを持ちたい」と多くの人が憧れるものです。しかしマイホーム購入にあたり、結婚相手との価値観の違いに気づいたり意見が対立して結婚生活自体にストレスを感じたりした結果、離婚に至るケースもあります。このようにマイホーム購入後に離婚に至ることを「新築離婚」と言います。 この記事では、新築離婚に至る原因をはじめ、マイホーム購入後に離婚する際の注意点について解説します。
01新築離婚とは?
マイホームのような高価な買い物は、夫婦にとって大きな決断と勇気を伴うものです。幸せな家庭と将来設計のためにも、夫婦で協力し合って購入計画を立てなければなりません。しかし、計画を立てる段階でお互いの意見が衝突しあい、購入計画中や購入後に離婚に至ってしまうことがあります。これがいわゆる「新築離婚」です。
しかしマイホーム購入後に離婚してしまうと、通常の離婚問題に加えて財産分与をめぐっての争いが起こります。ローン残債をどちらが払うのか、夫と妻のどちらがマイホームに残るかなどをめぐって裁判沙汰になってしまうケースも少なくありません。
02新築離婚に至る原因
新築離婚に至ってしまう原因には、どのようなものがあるでしょうか?主な原因を3つ紹介します。
夫婦の価値観の違い
夫婦間でもめやすい理由の大半は「価値観の違い」によるものです。不動産を選ぶ際にお互いの意見が衝突してしまうことは意外と多いもの。立地条件や間取り、部屋の内装の好みなどで細かな好みが分かれます。すべての意見が一致することはまずないので、どちらかが妥協しないと話がどんどんこじれてしまうでしょう。物件選びの優先順位をどのようにするか、住宅選びの主導権は夫婦のどちらにするかなど、事前に役割分担を明確にしておかないとトラブルの元です。
また、ライフスタイルや将来設計の違いから対立することもあります。例えば立地ひとつとっても「通勤に便利な場所」を優先するのか、子どもの転校を避けるために「今住んでいる場所の近く」を優先するのかなどで夫婦間の意見が分かれがちです。
住宅ローンなどによる経済的な負担
住宅ローンの返済計画で意見が対立することもあります。特にもめやすいのが、購入後に予定していた収支状況が崩れたときです。子どもが生まれたり、転職などでどちらかの収入が減ったりといった事情で、当初の予定通りのローン返済ができなくなるケースも少なくありません。一度生活が苦しくなると、計画の甘さをめぐってお互い険悪になりがちです。しかし経済的なストレスは継続するため、解決策のない状態が続くと離婚の原因となってしまいます。
親との同居
マイホーム購入と同時に出るのが親との同居話です。普段仲が良いからといって安易に義両親との同居を選んでしまうと、思わぬ家庭崩壊を招いてしまいます。やはり親戚として接するのと同居家族として接するのでは、事情が違うということでしょう。
ちなみに令和2年の司法統計によると、夫側の離婚原因で「家族親族と折り合いが悪い」が5位、妻側でも11位にランクインしています。親の高齢化や育児の問題で義両親との同居を考える夫婦も増えていますが、同時に義両親とのトラブルや夫婦仲の亀裂を招くリスクがあることも念頭に入れておかなければなりません。
03新築離婚になった場合マイホームはどうすればいい?
残念ながら新築離婚になった場合には、マイホームをどうすればいいのでしょうか?考えられる方法を挙げてみましょう。
夫婦どちらが住むのか決める
マイホームに夫婦のどちらかが残るパターンです。
- 住宅ローンの名義人が住み続ける場合
- 住宅ローンの名義人が家を出ていく場合
2つのパターンについて解説します。
住宅ローンの名義人が住み続ける場合
家の所有名義とローンの名義人が夫にある場合、妻が家を出るケースが多いです。ここで重要なのが、住宅ローンとマイホーム評価額の関係です。
もし「マイホーム評価額 < 住宅ローン残債」の状態であれば、マイホームは「オーバーローン」状態と評価され「マイナス財産」として扱われます。「マイナス財産」については財産分与の対象外となるため、妻の負担はなく住宅ローンの名義人である夫が住宅ローンの返済を続けます。
逆に「マイホーム評価額 > 住宅ローン残債」の場合は「アンダーローン」状態、つまりマイホームが財産分与の対象となる「プラス財産」と評価されます。たとえば評価額3000万円でローン残債が2000万円の状態では、1000万円分が「プラス財産」です。財産分与は通常2分の1ずつに分配しますので、このケースでは500万円を夫が妻に支払うかたちとなります。
住宅ローンの名義人が家を出ていく場合
子どもがいる家庭に多いケースです。よくある事例は、子どもの転校を避けるために親権を獲得した妻と子が家に残り、住宅ローンの名義人である夫が家を出ていくパターンです。その際、マイホームの所有権名義と住宅ローンの支払名義を夫のままにしておくと、妻と子は金銭的な負担がないまま、マイホームに住み続けることができます。もちろん子どもは転校の必要なく生活できますので、妻側のメリットは大きいでしょう。
一方、夫側は住宅ローンの負担に加え、新たに家を買う、あるいは住居を借りるなどの必要があります。自分の生活費に加え、妻と子どものための住宅ローンの返済も負担しなければならないわけです。ここで問題となりやすいのが、夫側が途中で住宅ローンの支払いをやめてしまうケースです。
さらに悪質だと妻と子がマイホームで生活しているにもかかわらず、勝手にマイホームを売却してしまうこともあります。このような事態になると、妻と子どもの知らないうちに家を差し押さえられたり、競売にかけられたりして、マイホームを追い出される事態になりかねません。
このように住宅ローンの名義人が家を出ていく場合、マイホームに残る側のメリットが大きい一方で、出ていく側の負担は重くなります。マイホームに残る側から見ても、離婚したとはいえ相手側の協力なしに生活を続けられない点はデメリットです。
マイホームを出る側の資金繰りが苦しい場合は「子どもの卒業まで」などの一定期間を決めて住宅ローンの支払を負担する、あるいは住宅ローンの支払いをマイホームに残る側も一部負担するなどの折り合いを見つけることが大事です。
売却して財産分与の対象にする
夫と妻、どちらもマイホームに残らず、マイホームを売却するパターンです。オーバーローンとアンダーローンの場合で対処方法が異なります。
オーバーローンの場合
夫と妻のどちらもマイホームに住み続ける予定がない場合は、売却によって得た資金で財産分与することになります。ただし新築離婚の場合、住宅ローンはほぼ返済のないまま残っているはずで、売却額だけで住宅ローン残債を埋め合わせできるとは限りません。売却してなおローン残債が残る状態が「オーバーローン」です。
マイホーム売却の際には抵当権を外した状態にする必要がありますので、売却成立と同時に何とかして住宅ローン残債を全て支払う必要があります。そこで赤字が出た分は夫婦で話し合い、負担割合を決めなければなりません。
アンダーローンの場合
「アンダーローン」とは「マイホーム評価額 > 住宅ローン残債」の状態のことです。マイホームの売却金で住宅ローン残債を全額返済してもなお、ある程度のお金が残っています。残ったプラス財産は財産分与の対象です。日本の財産分与は「2分の1ルール」に従うのが一般的で、計算式にすると次のようになります。
(夫婦それぞれの財産の合計総額)×1/2-(自己名義の財産額)
なお「2分の1ルール」はあくまでも慣習的なものなので、分配割合を話し合いで変更することも可能です。
賃貸として貸し出す
売却や財産分与が面倒な場合に利用できる方法です。マイホームを、収益を生み出す「賃貸物件」として運用します。立地次第では借り手が見つかりますし、家賃収入分はローン残債に充てることもできます。とはいえ、何十年間も賃貸運営を続けることは難しいため、実際には売却先が見つかるまでのつなぎとして賃貸に出すことが多いです。
そのほか、住宅ローン返済中に離婚した場合の対処法について、こちらの記事でも詳しく解説しています。気になる方はぜひチェックしてください。
04引き渡し前だったら家の購入をキャンセルできる?
建売物件やマンションは、購入キャンセルが可能です。不動産売買契約締結後であっても、「契約履行の着手前」であれば、契約時に支払った手付金を放棄することで契約解除できます。
ここでの「契約履行の着手前」とは、購入資金の払い込みや登記手続き申請の前までです。決済前であれば解除できると考えてよいでしょう。ただし、手付金に関しては契約で放棄期間が制限されていることが多く、実際に契約解除ができるかどうかは契約内容次第です。
契約終了後であっても購入キャンセルできることはありますが、売主との合意が必要です。場合によっては違約金を請求されることもあります。
05マイホーム購入後に離婚するときに注意するポイント
マイホーム購入後に離婚すると、マイホームの処分問題が大きな争点となります。新築離婚に際して特に注意したいポイントを挙げておきましょう。
共有資産を明確にする
財産分与の対象となる共有資産がどれくらいになるか、夫婦で共通認識を持つことが大事です。特にマイホームの鑑定評価についての認識が夫婦間で食い違うと、必ずもめてしまいます。売却を予定する場合は、可能な限り高く売却できる方法をお互い検討しましょう。その際には、住宅ローン残債をなるべく少なくすることを最優先に考えることが大切です。できるだけマイナス財産のない状態を目指すのがお互いにとって一番良い選択です。
住宅ローンの負担を決める(オーバーローンの場合)
マイホーム売却によってオーバーローンとなる場合、夫婦間での負担割合をめぐって対立しがちです。夫婦それぞれの資産状況を踏まえたうえで、お互いの負担割合について離婚協議で明確にしておきましょう。あとで揉めないように、きちんと明文化しておくことが大事です。
それと同時に夫婦間でお金をできるだけ集め、住宅ローン残債を少しでも減らすことも重要です。ローン残債が少なければ少ないほどお互いの負担分も小さくなるので、負担割合をめぐるトラブルも減ります。
公正証書を作成する
新築離婚では不動産や住宅ローンなどの大きな財産が関わりますので、離婚協議の内容に確実性を持たせたいところです。そこで「公正証書」の作成がおすすめです。公正証書は離婚協議書の内容に法的拘束力を持たせる公文書で、第三者である公証人が作成します。
公正証書は裁判所の確定判決と同等の効果があり、相手方の財産の差押えや強制執行の債務名義※としての役割を持ちます。
相手側の勝手な行動に対する防御策としても有効です。たとえばマイホームとローンの名義は夫のまま妻と子がマイホームに残るケースでは、夫側が妻と子の知らないうちに勝手にマイホームを処分してしまうことがあります。このような事態を避けるために「家を勝手に売却しない」などの付記条項を離婚協議内容に盛り込み、公的影響力のある「公正証書」に明記しておきましょう。「公正証書」に記載された協議内容を反故にする法律行為に対しては裁判上でも有利となります。
※債務名義:相手方が支払うべきお金を支払わないときに、裁判所が強制的に回収してもよい(強制執行)と許可する文書のこと
06まとめ
マイホーム購入がきっかけの離婚では、大きな財産が絡む分、通常の離婚以上に大変な労力がかかってしまいます。万が一「新築離婚」に至った場合、まずは生活基盤をどのように保つかを最優先に考えたうえで、住宅ローン残債をできるだけ少なくする努力をしましょう。金融機関や弁護士、不動産会社などにもよく相談して、ベストな方法を検討してください。
監修:新井智美
CFP®/1級ファイナンシャル・プランニング技能士
プロフィール
トータルマネーコンサルタントとして個人向け相談の他、資産運用など上記相談内容にまつわるセミナー講師を行う傍ら、年間100件以上の執筆・監修業務を手掛けている。