不動産売買の契約後にキャンセルしたくなったら?契約解除の方法と違約金の相場を解説

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不動産購入において、売買契約書の締結はひとつのターニングポイントです。売買契約書に記名押印することで対象物件の正式な買主と認められますが、その後のキャンセルは違約金の対象になることがあります。不動産は高額な買い物になるので、違約金も高額になるケースも珍しくありません。これから不動産の購入を検討している人のなかには、そうした事態に備えてキャンセルする方法や違約金の詳細について知っておきたい人もいるのではないでしょうか。この記事では、不動産売買契約後の契約解除方法をはじめ、違約金が発生するケースなどを詳しく紹介します。

01不動産売買契約までのおさらい

不動産購入の契約解除や違約金について紹介する前に、まずは物件の引き渡しまでの流れを確認しておきます。不動産購入の具体的な流れは下記のとおりです。

不動産購入の具体的な流れ

  1. 希望条件を明確にする
  2. 予算を検討する
  3. 物件を探す
  4. 気になる物件を下見する
  5. 仲介物件なら不動産会社と媒介契約を結ぶ
  6. 住宅ローンを含めた資金計画を具体的に立てる
  7. 不動産物件の購入申し込みをする
  8. 住宅ローンの事前審査を受ける
  9. 重要事項説明を受ける
  10. 不動産売買契約を不動産会社と結ぶ
  11. 住宅ローンの本審査を受ける
  12. 不動産物件の引き渡し

ただし不動産購入においては、第三者が所有する物件を不動産会社が仲介し、それを購入する「仲介物件」と、不動産会社自身が所有する物件を購入する「売主物件」の2つがあります。それぞれで、流れが多少異なる点には注意してください。

不動産取引における「契約前」と「契約後」とは?

上述した不動産購入の流れを見たときに、「(7)不動産物件の購入申し込みをする」と「(10)不動産売買契約を不動産会社と結ぶ」の違いが分からなかった人もいるのではないでしょうか。なかには「購入申し込み」と「不動産売買契約を結ぶこと」は、同じ意味を持つと思っている人もいるかもしれませんが、不動産取引においては明確な違いがあります。

不動産取引における購入申し込みとは「不動産購入申込書」を記入するだけであって、正式な契約を結んだわけではありません。この段階ではあくまでも購入の意思を売主側に伝えるだけであり、正式な売買契約は一般的に不動産購入申込書を記載した日から7日以内に締結します。

また、「(9)重要事項説明を受ける」の説明をするときに、不動産会社の従業員なら誰が担当してもいいわけではありません。不動産取引の重要事項説明にはそれなりの専門知識が求められるため、宅建業法で契約成立前に宅地建物取引士が説明するように義務化されています。そして、重要事項説明の段階で、買主は契約解除や損害賠償、違約金および手付金の額とそれらの目的の説明を受けます。

つまり、買主も契約解除によって損害賠償や違約金などが発生する可能性があることを理解した上で、「(10)不動産売契約書」にサインする流れです。そのため、売買契約締結後のキャンセルは違約金などの対象になる恐れがあるので、重要事項説明や売買契約書の記載事項をよく理解したうえでサインしなくてはいけません。

02売買契約書に記載される一般的な項目とは?

上述したように、不動産取引をキャンセルしたときにかかる違約金は、正式な不動産売買契約書にサインした段階から発生する恐れがあります。しかし、そもそも不動産売買契約書にはどのような項目が記載されているのか気になる人もいるでしょう。不動産売買契約書には基本的に宅建業法で定められた項目が記載されており、契約条件に応じて内容が増えることもあります。

そこで、不動産売買契約書に「必ず記載しなければならない項目」と「必要に応じて記載する項目」について、それぞれ紹介していきます。また、契約にあたって買主が用意しなければいけない書類などについても紹介するので、参考にしてください。

売買契約書に必ず記載しなければならない項目

売買契約書に必ず記載しなければいけない項目は、下記のとおりです。

  • 当事者の名前・住所
  • 売買物件を特定するために必要な表示(所在地など)
  • 売買物件の金額、支払日、支払い方法
  • 売買物件の引き渡し時期
  • 所有権の移転登記申請の時期
  • 建物の構造耐力上主要な部分等の状況を当事者双方が確認した事項(中古住宅のみ)

上記のなかでも、特に重要になるのは「売買物件を特定するために必要な表示」です。万が一、実際に売買する物件と契約書に記載されている物件が違ったら大問題になるので、一般的には登記簿に記載されている所在地など、公的かつ客観的な資料を参考にして記載されています。物件購入時には所在地に誤りがないか必ずチェックしましょう。

また、売買物件の金額や支払日についてもよく確認しておくことが重要です。期日までに支払いができないと契約違反となり、違約金が発生する恐れがあります。

取り決めで必要に応じて記載する項目

続いて、購入する物件の条件に応じて不動産売買契約書に記載する項目を紹介します。実際に記載されるかどうかは購入する物件や契約内容によって異なりますが、主な項目としては下記が挙げられます。

  • 土地の実測および土地代金の精算
  • 手付金などの代金以外に関する定め(額や授受の時期、目的)
  • 契約解除に関する定めやその内容
  • 損害賠償額や違約金に関する定めやその内容
  • ローン特約
  • 引き渡し前の物件の滅失・毀損(きそん)
  • 公租公課等の精算
  • 瑕疵担保責任
  • 付帯設備などの引継ぎ(中古住宅の場合)

上記のなかで、特に注意したいのは「手付金についての記載」です。手付金で気を付けるポイントは、「どのような種類の手付金として記載されているか」をよく確認することが挙げられます。手付金と一括りにして呼ばれることも多いですが、実は「証約手付」「解約手付」「違約手付」の3種類があります。

1つ目の「証約手付」とは契約が成立した証として支払う手付で、2つ目の「解約手付」は売主と買主のどちらかが、契約を解除したくなったときのために支払うお金です。解約手付は「契約を履行する前まで(詳細は後述)」という制限はありますが、「買主は手付金を放棄する」「売主は手付金の2倍を買主に支払う」といった条件を守れば、売主と買主の双方が解約する権利を民法上で認められています。3つ目の「違約手付」は売買契約書に記載されている項目に違反した場合に、損害賠償とは別に罰金的な意味合いを込めて徴収するお金です。

一般的に売買契約書に記載される手付は2つ目の解約手付として記載され、キャンセルが発生しなければ、先払いしたお金は決済時に購入代金の一部としてそのまま充当されるケースが多いでしょう。

不動産売買契約時に買主が準備すべき書類

最後に、不動産売買契約時に買主が準備するべき書類や代金について紹介します。買主が準備するものは下記のとおりです。

  • 印鑑(住宅ローンを利用する場合は実印)
  • 手付金(一般的な目安は物件価格の10~20%)
  • 印紙代(物件価格によって異なる)
  • 仲介手数料の半金(仲介物件の場合)
  • 本人確認書類(免許書やパスポートなどの顔写真付きなら1点、顔写真が無いなら2点必要)

手付金は、不動産売買契約締結時に現金で納付します。一般的には物件価格の10~20%が目安であり、それなりの金額になることが多いので、あらかじめ準備をしておきましょう。また、正式な契約書を作成するときに必要な印紙代は物件価格によって変わりますが、不動産売買において2022(令和4)年3月31日までに締結される契約書については、軽減措置が用意されています。例えば契約金額が「1千万円を超え5千万円以下」だった場合、本来は2万円を納付しなければいけませんが、不動産売買契約書なら1万円で済みます。

03不動産売買契約後にキャンセルしたい時はどうする?

そもそも、キャンセルとは契約解除のことです。つまり不動産売買においては、当事者同士が「買う」「売る」といった明確な意思表示を行い、契約が有効になった後にどちらかの都合によってそれを解除することを指します。契約を結んだらお互いに遵守する義務を負うため、解除にはそれなりの理由がなければ基本的に認められません。

ただし、実際の契約において想定外の出来事が起き、どうしても契約解除しなければいけない事情が発生することもあるでしょう。そこで、ここからは不動産売買契約後にキャンセルする方法について詳しく紹介します。

買主の都合による手付金放棄の契約解除とは?

先述したように、売買契約締結時に支払う手付金を放棄すれば、買主が売買契約を解除することは可能です。これは民法上にも規定されている正当な権利で、この場合において買主はどんな理由があるか問われることはありません。ただし、手付金放棄による解除ができるのは、「相手方が契約の履行に着手するまで」となっています。実際の取引では、この「履行の着手時期がいつなのか」の線引きがあいまいになり、トラブルになるケースが多いです。

例えば、過去の事例では「買主の希望で売主が建築材料を発注したり、工事に着手したりした」「売主が引き渡しや移転登記の準備を完了して、司法書士に手続きを行う旨を伝えてきた」などがあります。そうした条件に該当し、契約の履行に着手したとみなされる状態で買主側が契約解除を申し出ると、手付金放棄だけでなく、売買契約書に記載されている違約金の支払い対象になることも考えられます。詳しくは後述しますが、違約金の金額は売買代金の10~20%程度で決められているケースが多いので気を付けましょう。

住宅ローン特約や買い替え特約による契約解除とは?

住宅ローン特約とは、住宅ローンで売買代金を支払う人が売主と結ぶ契約です。不動産購入を考える人の大半が住宅ローンの利用を考えますが、不動産売買契約の流れで確認したように一般的に住宅ローンの本審査は売買契約締結後に行われます。仮審査は事前に受けるものの、本審査で落ちるケースがないわけではありません。もしも住宅ローンの本審査に落ちた場合、購入資金が用意できず、売買契約締結後に契約解除をしなければいけないケースも考えられます。

そうした買主側のリスクに配慮して結ばれるのが、「住宅ローン特約」です。特約を付けておけば売買契約締結後に住宅ローンの審査に落ち、買主が購入資金を調達できなかった場合でも違約金を負担しなくて済む上、手付金も返還された状態で契約解除できます。ただし、住宅ローン特約を付けた場合、買主は一定期間内で住宅ローンの申し込み手続きを行うという条件が付くのが一般的です。仮に、買主が準備を怠ったことが原因で住宅ローンの借り入れが期限内にできなかった場合は、特約の適用範囲外となります。

また不動産購入にあたっては、現在住んでいる物件を売却して、その資金を元手に新しい物件の購入を考えている人もいるでしょう。別の不動産を売却した代金を今回の物件購入に充てることを「買い替え」と呼びます。しかし、買い替えは何かしらのトラブルが原因で売却が上手くいかなくなると、購入資金が足りなくなるリスクもあります。そうした事態に備えて、売却する不動産の取引が不調に終わった場合に、購入する物件の契約を白紙に戻せるという特約が「買い替え特約」です。買い替え特約を締結すればその条件に該当する場合に違約金は発生しませんが、「いつまでにどれくらいの金額で売却できなかったら解除権が発生するのか」など、具体的な条件を契約書に明記しておく必要があります。

04違約金の相場はいくら?

不動産売買契約が成立した時点で、売主は「登記を移転した上で物件を買主に引き渡す義務」、買主は「代金を売主に支払う義務」の双方が発生します。特約などに明記されていない条件で、その義務を履行しないと契約違反とみなされ、相手方に売買契約を解除されてしまうと同時に、違約金を請求される恐れがあります。

違約金の相場は売買価格の10~20%で、相手方が宅建業者である場合は宅建業法で定められている上限の20%を超えることはありません。仮に、物件価格4000万円(手付金200万円)で違約金10%という契約だった場合は、「4000万円×10%」で400万円です。ただし、手付金200万円を支払い済みであるため、実際には残りの200万円を売主に支払うことになります。

「違約金」と「損害賠償額の予定」との違い

売買契約書の解除における取り決めにおいて、違約金に似たものとして「損害賠償額の予定」を記載することもあります。不動産売買契約は一般的に高額になるため、契約解除などによって被る金銭的な損害も大きくなりがちです。そうしたリスクに備えるために、不動産売買契約では債務不履行を犯した場合の損害賠償額をあらかじめ規定しておくことが多く、それを「損害賠償額の予定」と呼びます。

違約金と損害賠償額の予定は、どちらも契約内容に違反した者が支払う点においてはよく似ています。ただし、違約金は「契約を違えたこと自体」に支払い義務が生じるのに対し、損害賠償額の予定は「物理的な損害を被った場合」が支払い対象です。つまり、違約金は契約解除された相手側が実際には何の経済的損失が発生していない場合でも支払わなければいけません。一方、損賠賠償額の予定は債務不履行によって相手方に損害を与えた場合のみ、金銭によって損害を賠償する責任を負います。

なお、宅建業法では「債務不履行を理由とする契約解除に伴う損害賠償の予定等の額が売買代金額の20%を超える定めをしたときは、その超過部分の定めは無効になる」と定められています。そのため、損害賠償額の予定で定められる金額も違約金と同じく、物件価格の20%が上限になることが多く、10~20%ほどが相場です。

「損害賠償額の予定」と「違約罰」との違い

売買契約書によっては、損害賠償額の予定とは別に「違約罰」を定めているものもあります。違約罰とは、契約を結ぶ当事者が損害賠償額の予定以上の損失を被った場合に備えて売買契約書に記載しておく規定です。違約罰は相手方が契約違反したこと自体にペナルティーを課すもので、金額をいくらに設定するかは損害賠償の予定額とは別に決められます。

もともと損害賠償額の予定は、売買契約書を作成する時点で決められるものです。そのため、契約後に解除する場合に当初の損害賠償額の予定よりも被る経済的な損失のほうが大きくなる可能性があります。しかし、損害賠償額の予定の増減をすることは原則として裁判所から認められていません。

そこで、違約罰を売買契約書の規定に盛り込んでおき、万が一のときは損害賠償の予定額に加えて実際に発生した損害額の差額も請求するというわけです。

05不動産売買契約前なら、いくらでもキャンセルできる?

結論からいうと、不動産売買契約の締結前ならキャンセルは原則自由です。なぜなら、民法の基本原則として、不動産売買においては法令に違反したり、公序良俗に反したりしない限り契約は自由とされているからです。

ただし、あまりにも信義則違反が顕著なときはこの限りではありません。信義則とは「相手の信頼を裏切らずに、常識的な範囲で行動しなければいけない」という考え方です。交渉の過程において、「確実に売買契約書にサインするはず」と思われる段階まで到達していた場合に、買主の一方的な都合でキャンセルすると信義則違反とみなされるかもしれません。

その場合、売主や不動産会社が契約すると信じたことによる損害である「信頼利益」の範囲内(契約が成立したときに得られたはずの利益ではない)で損害賠償請求される可能性があります。

06キャンセルしないためにも、不動産売買契約書のサインは慎重にしよう

不動産売買契約書にサインしたら、その後の契約解除は基本的に違約金の対象になります。違約金の相場は物件価格の10~20%程度なので、それなりに高額です。余計な出費をしないためにも、これから不動産を購入する予定のある人は、売買契約書にサインするときは特に慎重に行う必要があります。疑問点や不安材料があれば不動産会社に相談し、必要に応じて住宅ローン特約や買い替え特約などを盛り込むことも検討しましょう。

新井智美

監修:新井智美

CFP®/1級ファイナンシャル・プランニング技能士

プロフィール

トータルマネーコンサルタントとして個人向け相談の他、資産運用など上記相談内容にまつわるセミナー講師を行う傍ら、年間100件以上の執筆・監修業務を手掛けている。

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