長崎発、空き家に10年住んだら無償譲渡 子育て世帯のマイホーム取得を支援

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今、長崎県長崎市の不動産会社が始めた「贈与型賃貸住宅」プロジェクトが全国的に注目を浴びています。これは、不動産会社がリノベーションした空き家に当初は賃貸住宅として入居し、10年後に「賃貸住宅として引き続き住む」か「贈与で譲り受ける」かのどちらかを自由に選択できる仕組みです。 10年という期間を設けることで、子育て世帯が進学などで教育資金の負担が大きくなる時期に、家を無料でもらえるというのが狙い。子育て世帯の経済的負担を軽減できるだけでなく、全国的に問題となっている空き家対策にもつながる取り組みです。この記事では、長崎発で始まった新たな取り組みについて解説します。

01長崎市の不動産会社が開発した「贈与型賃貸住宅」とは?

長崎市の不動産会社・明生興産が開発した「贈与型賃貸住宅」。当初は入居者が賃貸住宅として住み、10年後に「賃貸のまま住み続ける」か「土地建物を無償で譲り受ける(贈与)」かのどちらかを自由に選択できるというものです。

期間を10年に設定しているのは、子どもの小さなうちに入居した子育て世帯が、大学進学にあたって教育費を必要とする時期にさしかかるためです。子どもが小さなころは家賃を支払い、中学生以上になってお金がかかるタイミングで住宅を譲り受けることで、家計負担が軽減されるといいます。

ただ、ターゲットは子育て世帯だけではありません。マイホームがほしいけれど就労状況や経済状況によって住宅ローン審査が下りない人や、将来的にマイホーム取得を考えている若者世代もターゲットとしています。

このあとの章で詳しく解説しますが、長崎市は坂が多いために、ワンルームなどの家賃が九州一高いことで有名。家賃の高さは大都市・名古屋をもしのぐほどです。

贈与型賃貸住宅の仕組みを利用して、斜面地にある空き家を格安で借りることにより、若者の住宅費の節約にもつながります。そのため、人口流出の止まらない長崎市にとって、若者世代の人口回復の呼び水になるのではないかとも期待されているのです。

02「贈与型賃貸住宅」が長崎市で開発された背景

「贈与型賃貸住宅」が長崎市で開発された背景には、「坂の街」特有の深刻な課題があります。

長崎市は坂が多く、実に市街地の約7割が斜面に広がっています。近年、この斜面市街地に暮らす居住者の高齢化と空き家の増加が深刻化しており、市内の空き家の数は2018年の1万5270戸から、2040年には3万1580戸へと2倍以上に増加するという想定です。

問題を深刻視する長崎市は、空き家の解体費補助や解体後の公園整備事業などを展開していますが、まだ実績は乏しいといいます。

贈与型賃貸住宅は子育て世帯や若者世帯のマイホーム取得をサポートするという面だけでなく、こうした斜面地の活性化と空き家対策としての側面も兼ねているのです。足腰の弱い高齢者にとっては移動が大変な斜面地の住宅ですが、眺望や日当たり、風通しの良さなど魅力も多くあります。

こうした斜面地ならではの魅力を活かしながら、おしゃれにリノベーションすることで、若者を惹きつけられる可能性があるでしょう。

03全国的に広がる、子育て世帯向けの空き家活用

長崎市でスタートした新たな子育て世帯向けの空き家活用事例ですが、政府もこうした動きを後押しする方針を打ち出しています。2023年6月に政府が公表した「こども未来戦略方針」のなかで、子育て世帯の空き家活用に向けた施策として、次に挙げる具体的な取り組みが提示されました。

  • 空き家の活用を促す区域を設定し、空き家所有者に対して子育て世帯向けの活用を働きかけていく
  • 空き家の活用を通じて、今後10年間で、子育て世帯などが居住する住宅約10万戸を確保する

政府の方針と並行して、全国の自治体でも独自の子育て世帯向けの空家活用施策が広がりを見せています。

例えば、大阪府・堺市では、子育て世帯や若者世帯が空き家となった中古住宅を購入する場合、最大120万円を支援する事業を実施しています。対象となるのは、市内の賃貸住宅やほかの自治体から転居する18歳未満の子どもがいる子育て世帯、パートナーの一方が30代以下の若者世帯です。堺市は、子育て世帯による空き家購入を支援することで、増加する空き家の活用と人口減少の食い止めを狙っています。

この動きは地方の過疎地域でも見られ、山形県遊佐町では、空き家バンクの登録物件を町が最大350万円かけてリフォームしたうえで希望者に提供するという取り組みを行い、都市部などからの移住を増やそうと取り組んでいる状況です。

空き家問題と人口減少に悩む多くの自治体は、子育て世帯向けの独自の支援策を打ち出し、自治体への移住を促しています。子育て世帯の流入が増えることで、今後地域を活性化する効果も期待されています。

04「今の家賃くらいだと、いくらの家が買えるの?」を知りたいなら住宅ローンシミュレーターを試してみよう

人口流出と斜面地の空き家問題に頭を抱える長崎市でスタートした「贈与型賃貸住宅」の取り組みは、日本全国の自治体が抱える課題に対する新たな対応策として、大きな注目が集まっています。

そのほかにも、子育て世帯の空き家活用を促進する施策が全国で行われており、空き家を取得して地方に移住するというのが、次の時代のトレンドの一つになるかもしれません。

住宅価格が高騰する昨今、今支払っている家賃でどのくらいの家が買えるのか不安に感じる若い方も多いのではないでしょうか。当サイトが提供する住宅ローンシミュレーションを使えば、家賃から住宅の予算を確認することができます。

シミュレーションの結果、希望借入額に届かない場合には、今回紹介したような空き家の活用などを視野に入れるのもおすすめです。また、自治体によっては、移住者向けの新築住宅支援を実施しているところもあるので、大いに活用してマイホームをお得に取得しましょう。

新井智美

監修:新井智美

CFP®/1級ファイナンシャル・プランニング技能士

プロフィール

トータルマネーコンサルタントとして個人向け相談の他、資産運用など上記相談内容にまつわるセミナー講師を行う傍ら、年間100件以上の執筆・監修業務を手掛けている。

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