渋谷の高級住宅街でも他人事ではない——住宅購入前に確認すべき”隣地リスク”とは
2025年6月頃、東京・渋谷区の高級住宅街に突如現れたのは、下から見ると高さ約8mにもなる盛り土でした。雨が降ればいつ崩れてもおかしくないという周辺住民の訴えにより、裁判所が区に対して、工事停止命令を出すよう命じる事態にまで発展しましたが、問題は2026年6月時点でも解決していません。 この問題で重要なのは、隣地の開発によって周囲の宅地が突然リスクにさらされた点です。住宅購入時に物件の内外装をチェックするだけでは、こうしたリスクは防げません。では、何をどう確認すればよいのでしょうか。 この記事では、物件を決める前に知っておきたい「隣地リスク」の実態と、購入前にできる確認方法について詳しく解説します。
- 01渋谷の高級住宅街で起きた"盛り土"問題とは
- 突如現れた高さ8mの盛り土、住民が抱えた不安
- 区の対応の遅れから、住民による法廷闘争へ
- 裁判所の工事停止命令後も、問題が解決しない現実
- 02なぜ「隣地リスク」は自分では気づきにくいのか
- 購入時点では存在しなかったリスクが、後から生まれる
- 手続きが合法でも、住民の安全は守られるとは限らない
- 03盛土規制法とは?家を買う人が知っておくべき基礎知識
- 熱海土石流をきっかけに生まれた新しい法律
- 渋谷区でも始まった規制と「運用の壁」
- 04購入前に確認できる「周辺リスク」の調べ方
- ハザードマップで「土砂災害警戒区域」を確認する
- 自治体発行の「大規模盛土造成地マップ」を使う
- 周辺の開発計画は「用途地域」と「建築計画概要書」で調べる
- 05隣地リスクのある物件は住宅ローン審査にも影響する
- 土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)は融資を断られるケースも
- 担保評価が下がると、借入額に上限がかかる
- 住宅ローンは残り続ける、将来の売却困難リスクも
- 06マイホーム探しは「隣地まで見る」視点が、長期的な安心につながる
01渋谷の高級住宅街で起きた”盛り土”問題とは
まずは、東京・渋谷区富ヶ谷の高級住宅街で表面化した盛り土問題の経緯と、住民が直面した厳しい現実についてみていきましょう。
突如現れた高さ8mの盛り土、住民が抱えた不安
2025年6月頃、東京・渋谷区富ヶ谷の傾斜地に突如築かれた巨大な盛り土は、同地で予定されるマンション建設工事のためのものです。当初はブルーシートや土砂崩れ防止の「山留め」もなく、土がむき出しの状態で放置されていました。
近隣住民は崩落の危険性について不安を訴えたものの、事業者からの真摯な説明はなかったといいます。住民の指摘を受け、後から木製の山留めが設置されましたが、腐食リスクも懸念されています。さらに盛り土周辺には排水設備もなく、大雨時に水や泥が住宅街にあふれ出るのではないかという心配の声もあり、2026年6月現在も近隣住民の不安は払拭されていません。
区の対応の遅れから、住民による法廷闘争へ
渋谷区は、当初「工事中の一時的な盛り土に過ぎず、法律に基づく許可の対象外である」という立場でした。その結果、住民の訴えへの対応が遅れ、住民側から「区は事業者寄り」であるとして批判を浴びます。
さらに、一向に対応が進まない状況に危険を感じた住民たちは、2025年10月、ついに渋谷区を相手取り提訴に踏み切りました。危険な状態の放置や区の対応を疑問視し、工事停止を命じるよう求めるものでした。
裁判所の工事停止命令後も、問題が解決しない現実
提訴を受け、2026年3月、東京地裁は異例の『工事停止』を命じる仮処分の判断を下しました。裁判所は、工事に伴う盛り土とはいえ、工期が長期にわたるため、ひとたび豪雨や地震が起これば崩落の危険もあると判断したのです。
裁判所の判断にしたがって、渋谷区は4月に事業者へ工事停止と必要な安全対策の実施を命じたものの、翌日には即時抗告を行いました。すでに現場で山留め壁の設置が完了しており、現段階で工事を止めるよりも、最後まで完成させたほうが安全であるというのが、不服申し立ての理由です。
結局、本格的な梅雨や台風のシーズンを迎えた2026年6月現在も盛り土は残されたままです。訴訟の結論が出るまで放置されるおそれもあり、周辺住民は不安を抱えたまま今後も過ごすことになります。
02なぜ「隣地リスク」は自分では気づきにくいのか
渋谷の事例のように、隣地の開発や造成によって周辺の住宅がリスクにさらされる問題は、他の地域でも起こり得るものです。なぜ購入前に気づくのが難しいのか、理由をお伝えします。
購入時点では存在しなかったリスクが、後から生まれる
渋谷の事例で恐ろしいのは、周辺住民が物件を購入した時点では、隣地に何の懸念もなかったという点です。購入後に近隣で開発計画が突然動き出すケースもあるため、購入時に希望物件そのものや現状の周辺環境を確認するだけでは、こうした事態は防げません。
特に開発ニーズの高い都市部では、周辺にある空き地・更地や古い建物、広大な駐車場などもチェックしておきたいところです。こうした不動産は将来的に売却され、大規模マンションの建設や想定外の造成が行われる可能性もあることを、購入時から念頭に置いておく必要があります。
手続きが合法でも、住民の安全は守られるとは限らない
もう一つ大切な教訓が、行政が「手続き上は合法」と判断していても、実態として住民の安全や資産が脅かされるリスクはあるという事実です。行政は常に住民の安全を第一に判断してくれると考えがちですが、必ずしもそうとは言い切れません。
トラブルがエスカレートすると、住民側で弁護士を立てて訴訟を起こし、行政や事業者と法廷の場で争うことになります。そうなれば、解決までに何年にもわたる精神的・金銭的負担を強いられるでしょう。
03盛土規制法とは?家を買う人が知っておくべき基礎知識
渋谷の事例で論点の一つとなったのが、築かれた盛り土が「盛土規制法」の対象なのかどうかという点です。ここでは、盛土規制法の概要と運用上の課題についてみていきましょう。
熱海土石流をきっかけに生まれた新しい法律
「宅地造成及び特定盛土等規制法(盛土規制法)」は、2021年7月に発生した静岡県熱海市での大規模土石流災害をきっかけとして、2023年5月に全面施行されました。この法律は、かつての「宅地造成等規制法」を全面的に見直したもので、土地の用途に関係なく、盛り土や切り土などで住宅などに被害が生じる可能性のある区域を広く「規制区域」に指定できるようにしたものです。
規制区域内で一定規模以上の盛り土などの工事を行う場合、事前に都道府県知事等の許可を得なければなりません。
渋谷区でも始まった規制と「運用の壁」
東京都でも2024年7月31日、ほぼ全域に規制区域が指定され、渋谷区全域でも同法に基づく厳しい規制がスタートしていました。
今回の事例で、渋谷区は「この盛り土は建築工事に伴う一時的なものであって、規制の対象外である」と解釈していました。しかし、東京地裁からは「盛土規制法違反の疑い」を指摘されたのです。
法律に基づく規制は、統一した正しい運用がなされなければ意味をなしません。今回の件は、新たな法律に対する行政側の判断基準や対応能力の差、運用の形骸化、規制の「抜け穴」といった課題を浮き彫りにしたといえるでしょう。
04購入前に確認できる「周辺リスク」の調べ方
隣地リスクを事前に把握するためには、次に挙げる方法を物件購入前に実施するのがおすすめです。
ハザードマップで「土砂災害警戒区域」を確認する
物件周辺の土砂災害リスクは、自治体が発行するハザードマップで確認できます。「イエローゾーン(土砂災害警戒区域)」と、より危険性の高い「レッドゾーン(土砂災害特別警戒区域)」の2段階があるので、どちらに該当するかも確認しておきましょう。購入物件の敷地だけでなく、隣地や裏山、周辺の傾斜地がこれらの区域に指定されていないかも、重要なチェックポイントです。
ハザードマップは自治体窓口やホームページのほか、国土交通省の「ハザードマップポータルサイト」でも確認できます。
自治体発行の「大規模盛土造成地マップ」を使う
盛り土の実施状況については、各都道府県や市区町村が公表している「大規模盛土造成地マップ」でチェックできます。東京都は「既存盛土等分布マップ」で、大規模な盛り土が行われた場所の確認が可能です。
過去に盛り土が行われたからといって、必ずしも危険な土地とは限りません。しかし、古い盛り土では、大地震によって造成地の一部または全体が滑り落ちる「滑動崩落」が起きやすいとされます。こうした崩壊リスクをあらかじめ把握しておくことは、安全な住まい選びのヒントになるはずです。
周辺の開発計画は「用途地域」と「建築計画概要書」で調べる
どれくらいの規模・用途の建物を建てられるかは、「用途地域」によってルールが定められています。購入物件の周辺の用途地域を確認することで、近隣で将来どのような建物が建てられる可能性があるのかを推測できます。用途地域が記された「都市計画図」は、都道府県や市区町村のホームページなどで閲覧可能です。
周辺で具体的な建築計画がある場合、自治体の建築指導課などに行けば、誰でも「建築計画概要書」を閲覧できます。なお、渋谷区をはじめ、インターネット上で建築計画概要を確認できる自治体もあります。
このように地図上で確認することも大切ですが、実際に現場へ出向き、不自然な傾斜や崖がないか、水はけに問題はないかなど、自分の目で確かめることも欠かせません。
05隣地リスクのある物件は住宅ローン審査にも影響する
土砂災害リスクや造成地リスクのある物件を購入する場合、住宅ローンの借り入れに影響する可能性があります。具体的にどのような影響が考えられるのか解説します。
土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)は融資を断られるケースも
土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)内の物件は、【フラット35】Sや【フラット35】子育てプラスなどの金利優遇の対象外となっています。【フラット35】独自の優遇制度が適用されないため、通常よりも返済負担が重くなりやすい点に注意が必要です。
民間の住宅ローンでも、レッドゾーン内の物件は融資を断られるか、条件がかなり厳しくなる傾向にあります。土砂災害警戒区域(イエローゾーン)であれば、融資自体は受けられるケースが多いものの、リスク要因として厳しく見られるでしょう。
担保評価が下がると、借入額に上限がかかる
土砂災害や地盤のリスクを抱える物件は、金融機関による担保評価が低くなりがちです。担保評価が下がると借入可能額も低くなるため、物件の販売価格によっては自己資金での負担が重くなるケースも考えられます。
住宅ローンは残り続ける、将来の売却困難リスクも
レッドゾーンまたはイエローゾーンに該当する物件の重要事項説明では、ゾーン内にあることを買い手へ説明しなければなりません。説明を受けた買い手が購入を取りやめたり、値下げ交渉をしてきたりすることもあるでしょう。そもそも買い手がなかなか見つからず、売却活動が長期化する可能性もあります。
また、後から隣地リスクが顕在化して資産価値が暴落したり、住めなくなったりしても、一度組んだ住宅ローンの返済は終わりません。
つまり、マイホーム選びにおいて、周辺環境の確認は「将来に向けた最大の自己防衛」なのです。
06マイホーム探しは「隣地まで見る」視点が、長期的な安心につながる
渋谷区富ヶ谷の盛り土に関する問題は、マイホームを検討している方にとって、決して他人事ではありません。購入後に隣地リスクが顕在化した場合、売却しようにもできず、ローンの残債がひたすら重くのしかかるおそれもあるのです。
そのような事態を避けるには、物件選びの際に、ハザードマップや大規模盛土造成地マップ、建築計画概要書といった周辺環境に関する公的情報を細かく確認する必要があります。併せて、現地で周辺の地形や空き地の状況を確かめることも忘れないようにしましょう。
どれだけ注意して購入したとしても、想定外のトラブルは起こり得ます。何か起きたときでも慌てず対処できるよう、無理のない借入計画を立てることも防衛策の一つです。 「スゴい住宅ローン探し」で、最新の金利ランキングから借入可能額のシミュレーションまで、住宅ローン選びに必要な情報をチェックするところから始めてみてはいかがでしょうか。
監修:新井智美
CFP®/1級ファイナンシャル・プランニング技能士
プロフィール
トータルマネーコンサルタントとして個人向け相談の他、資産運用など上記相談内容にまつわるセミナー講師を行う傍ら、年間100件以上の執筆・監修業務を手掛けている。
関連キーワード






