10年前より6割増の新築マンション価格、住宅ローンが低金利でも家計負担増

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近年、日本では都市部を中心にマンション価格の高騰が続いています。そのため、マンション購入に二の足を踏んでしまっている人もいるのではないでしょうか。実際に不動産業界向けにマーケティングサービスを展開する「マーキュリーリアルテックイノベーター」が2022年までの10年間のデータをもとに調査したところ、東京23区の3LDKのマンション分譲価格は10年前と比べ1.6倍以上に値上がりしているとのことでした。 現在の住宅ローン金利は変動金利を中心として約20年にわたって低水準のまま推移しており、利息の支払い負担は軽減されているものの、物件価格が大きく上昇しているため、低金利による恩恵が物件価格上昇分を補えているとはいえない状況です。そこでこの記事では、マイホーム購入を検討している方に向けて、ファミリータイプの新築マンション価格の動向をはじめ、住宅ローンが低金利でも家計負担が軽減されていない現状について解説していきます。

01【首都圏・関西・東海】地域別3LDKの市場動向まとめ

上述したマーキュリーリアルテックイノベーターがまとめた調査結果は以下のとおりです。

上記の表からは、すべてのエリアで10年前に比べて価格が上がっていることがわかります。特にそのエリアの中心となる地域の伸び幅が大きく、50%以上もマンション価格が上がっているところも少なくありません。その中でも2022年のデータで最も3LDKのマンション価格が高かったのが、東京23区の9004万円です。東京23区の2012年時のマンション価格は5497万円だったことから、63.8%も価格が上昇していることになります。

東京23区のマンション価格高騰の大きな要因としては、アベノミクスの影響や東京2020オリンピックの開催が挙げられます。東京2020オリンピックの開催決定とアベノミクスによる大規模な金融緩和が始まったのは、いずれも2013年のことでした。もともと東京は不動産需要が高い地域でしたが、それらの出来事によってニーズが高まったうえ、金融緩和によって資金調達がしやすくなったことから、さらに不動産市場が活発化したと考えられます。

一方で、最も上昇率が高かったのは大阪市の83.2%です。大阪市のマンション価格は2012年に3631万円でしたが、2022年には6653万円まで上昇しています。大阪市のマンション価格高騰の要因も2018年に2025大阪・関西万博の開催が決定した影響が挙げられます。

2019年末から始まった新型コロナウイルス感染拡大による経済活動の停滞によって2019年から2020年にかけては上昇幅が少なかったものの、その影響が落ち着いてきた2021年には前年に比べて800万円以上も価格が上昇しました。この急激な価格上昇には2025大阪・関西万博の開催決定以外にも未就学児がいる共働き世帯の増加や、それに伴って郊外の戸建てより利便性に優れたマンションを希望する世帯が増加したことも理由だと推測されます。

02住宅ローンの金利が低くなればなるほど、新築マンション価格が高くなる理由とは?

ここまで紹介してきたように、日本では近年、都市部を中心として全国的にマンション価格が高騰しており、新築マンションに手を出しづらい状況になりつつあります。新築マンション価格高騰の背景にはさまざまな理由が挙げられますが、実は住宅ローン金利が下がったこともそのうちの1つです。なぜ住宅ローン金利が下がると新築マンション価格が上がりやすくなるかというと、予算を立てやすくなる結果、マンション購入希望者が増えて需要が高まるからです。

例えば、2012年4月の変動金利は0.9%台が平均的な相場でした。しかし現在では、0.3~0.4%台を推移しています。仮に毎月15万円を35年かけて返済する場合に、金利0.9%で買える物件はおよそ5400万円です。これを金利0.4%で計算すると、およそ5900万円までの物件を購入できる計算になります。つまり、金利が下がることで毎月の返済額が同じであっても、購入できるマンションの価格帯が上がるわけです。

低金利によって今までは手を出しづらかった世帯の人でも新築マンションを購入する選択肢が増えたため、ニーズが増加して価格が上がりやすい状況になっています。近年ではそれに加えて、用地取得費の上昇や人件費および資材費の高騰などが重なり、新築マンション価格は一段と上がっている状況です。

マーキュリーリアルテックイノベーターの調査によると、低金利の恩恵を加味しても2022年時点で10年前より15%(約1.15倍)~70%(約1.7倍)程度、マンション購入者の支払い負担が増えているというデータが公表されています。以上のことから、住宅ローンが低金利であっても、新築マンションを購入する世帯の負担は減るどころかむしろ増えているのが現状だといえます。

マイナス金利が解除されると、マンション価格は下がるのか?

さきほどは住宅ローンの低金利化が新築マンション価格上昇につながる背景について解説しました。それでは、反対に住宅ローン金利の低下に大きく影響しているマイナス金利政策が解除された場合、マンション価格は下がるのでしょうか。結論から言うと、たとえマイナス金利政策が解除された場合でも、不動産市場への影響は限定的である可能性が高いと考えられます。なぜなら、マイナス金利政策が解除されても、当面の間、日銀はゼロ金利もしくは+0.5%程度の金利上昇までしか容認しないと考えられているからです。

一般的に市中金利が上昇すると資金調達が難しくなることから、不動産価格は下落するのがセオリーだといわれています。しかし、急激な金利上昇が起こると経済が混乱する恐れがあるため、日銀は市場に大きな影響を与えないように調整をしながら段階的に金利を引き上げていくでしょう。そのため、市場では日銀が直ちに不動産価格に影響を与えるほどの金利引き上げを実行することはないとみられています。

また、忘れてはいけないのが、金利以外で新築マンション価格に影響を与える要因です。2024年4月には建設業の労働時間の上限規制が施行される予定になっています。それに伴って、今後はさらなる人手不足や建設費の高騰が懸念されており、住宅価格が下がることは考えにくい状況です。ただし、もし近いうちに日銀が目標とする年+2%の物価目標の実現可能性が高まって、政策金利が+1%を超える水準を容認する姿勢に転換した場合は状況が変わる可能性があります。

例えば、上述の例のように毎月15万円の返済をする場合、金利が年0.5%ではおよそ5800万円まで借りられるのに対して、年1.5%ではおよそ5000万円までしか借り入れできません。金利上昇によってマンション購入者の予算が少なくなれば、自ずと新築マンションのニーズが減って価格下落要因の1つになるでしょう。

とはいえ、日銀は物価目標の達成条件の1つに「賃金上昇が伴ったインフレ」を挙げており、仮にそれが実現できた場合には、マンション購入者の予算がアップする可能性も残されています。例えば、金利が年1.5%でも給料が増えて毎月20万円ずつ返済できれば、6500万円まで借入可能です。その場合は、たとえ金利が上がっても新築マンションのニーズは減らず、影響は限定的になることが考えられます。以上のことから、マイナス金利政策の解除で新築マンション価格が下がるかどうかは、実質賃金の上昇が大きなポイントになるでしょう。

03日銀がどのようなタイミングで政策修正に踏み切るのか、金利動向をチェックしよう

今回紹介したように日本の新築マンション価格は上昇傾向です。これまで低金利が続いてきたとはいっても、それを超える価格上昇によって家計負担は増しています。今後は日銀が金融緩和政策の修正をいつ発表するかが住宅ローンの総返済額や借入可能額に大きく影響してくる可能性が高いので、動向をしっかりチェックしておきましょう。そうした情報をいち早く入手することで、「今後、変動金利は金利上昇リスクが怖いから返済計画が立てやすい固定金利を選ぼう」など、自分たちに合った住宅ローンの金利タイプが選びやすくなるはずです。

なお、金利の違いによる住宅ローンの総返済額や毎月の返済額から借り入れできる金額を事前に確認しておくと、住宅ローンの契約がスムーズに進みます。サイト内には借入希望額や金利などから毎月の返済額を簡単に把握できる「毎月の返済額シミュレーター」、月々の支払額から予算を逆算できる「借入可能額シミュレーター」など、住宅ローンの予算作成に役立つ各種シミュレーターがそろっています。これから住宅ローンを組むことを考えている人は、ぜひ試してみてください。

新井智美

監修:新井智美

CFP®/1級ファイナンシャル・プランニング技能士

プロフィール

トータルマネーコンサルタントとして個人向け相談の他、資産運用など上記相談内容にまつわるセミナー講師を行う傍ら、年間100件以上の執筆・監修業務を手掛けている。

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