老いを抱えるマンションに高騰する修繕積立金!資産価値のマイナス要因にも

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マンションの修繕には高額な費用がかかるため、毎月一定額を修繕積立金という形でマンション住民から徴収するのが一般的です。しかし昨今の日本では、人件費や建材費の高騰を背景に、マンションの修繕積立金も全国的な値上がり傾向にあり、中には購入時より10倍ほど高くなっているケースもあります。 修繕積立金が不足するとマンション管理組合の健全性が問われ、資産価値に悪影響を与えるかもしれません。また建物の老朽化に合わせて住民の高齢化が進むと、修繕積立金がさらに集まりにくくなるといった悪循環に陥るリスクもあります。 そこでこの記事では、将来的にマンションの売却を考えている人や中古マンションを購入したい人に向けて、修繕積立金の高騰への対処方法、さらに中古マンション購入時にチェックするべきポイントを紹介します。

01新築マンションの修繕積立金、購入当初より平均3.6倍の値上がりに!

国土交通省の調査によると、修繕積立金の徴収額はマンション購入時に比べて平均で3.6倍も上昇しており、中には10倍を超えるケースもあることがわかっています。なぜ、これほど修繕積立金がマンション売り出し時よりも最終的に高騰しているかというと、「販売当初の修繕積立金を意図的に安く設定しているマンションが多い」からです。

修繕積立金の徴収方法には、主に「均等積立方式」「段階増額積立方式」の2種類があります。均等積立方式は、その名のとおり長期修繕計画で見込まれる修繕工事費の累計額を積み立て期間に応じて均等に徴収する方法です。

一方の段階増額積立方式は、当初の積立額を低く設定する分、一定期間が経過するごとに徐々に積立金額が高くなる方法です。消費者にとっては「初期費用が安くすむ」のがメリットで、マンションの販売会社にとっても「初期費用を抑えることで販売しやすくなる」といったメリットがあります。そのため、一部では分譲時に将来の修繕に備えてまとまったお金を支払う「修繕積立基金」を徴収するところもありますが、最近のマンションは段階増額積立方式を採用するところが増えています。

長期修繕計画の見直しがなされないことも大きな原因

マンションの修繕積立金が初期に比べて高騰しやすい要因としては、「年数の経過とともに修繕規模が大きくなりやすい」ことも挙げられます。一般的にマンションは築年数の経過とともに、給排水管やエレベーター、機械式駐車場といった設備が傷み、大掛かりな修繕工事が増えていきます。

実際に国土交通省の「令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査」では、1回目の大規模修繕工事にかかった金額は「4000万~6000万円」が最も多かったのに対して、2回目は「6000万~8000万円」、3回目以降は「6000万~8000万円」および「1億~1億5000万円」の割合が最も高くなったとのことでした。

また、国土交通省の「管理・修繕に関するテーマの検討」という資料では、長期修繕計画を定期的(5年ごと)に見直しをしているマンションは約56%しかありませんでした。つまり、残りの約44%は長期修繕計画の定期的な見直しを行っておらず、コスト上昇分を修繕積立金に反映していないことがわかります。

定期的な修繕計画の見直しをしていないマンションでは、ある時点での大規模修繕工事の費用が不足すると、その後の修繕積立金を早急に上げる必要が生じます。さらに、修繕積立金の不足額が大きい場合は、一時金としてお金を臨時的に徴収する場合もあり、家計にとって急な出費が発生するかもしれません。そのような事態を防ぐために、国土交通省の「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」では、5年程度のスパンで長期修繕計画の定期的な見直しを推奨しています。

住民の高齢化によって修繕積立金の滞納が増える現状

修繕積立金が年を追うごとに上がる理由としては、住民の高齢化が影響しているケースもあります。マンションは年数を重ねるごとに経年劣化によって大規模修繕工事にかかる費用が高くなり、それに比例して毎月の修繕積立金も高くなることが多いです。しかし、年をとるのはマンションだけではなく、そこに住む住民もマンションと同様に年をとっていき、生活環境が変化していくことを忘れてはいけません。よくある事例としては、住民が亡くなったあと空き家のままになり、修繕積立金を徴収できなくなるケースです。

また、定年退職して収入が減った人が支払うことができず、修繕積立金が思うように集まらないこともあります。そうしたマンションでは住民1人当たりの負担が増えるため修繕積立金の値上げが必要になりますが、それを実行するのも簡単ではありません。なぜなら、修繕積立金の値上げには一般的に総会で過半数の賛成(普通決議)が必要だからです。

高齢者の多いマンションではしっかりした修繕を行ってマンションの資産価値を向上させるよりも、「あまり費用と時間をかけて修繕したくない」という思いから「なんとかして修繕や修繕積立金の値上げを先延ばしして欲しい」といった意見を持つ人も多く、修繕積立金が不足しやすい雰囲気になってしまうことがあります。

02修繕積立金が不足することで懸念されるリスク

上述したように、修繕積立金はマンションの資産価値向上に必要な支出の1つですが、十分な金額を徴収できていないケースも少なくありません。では修繕積立金が不足したままだと、どのようなリスクがあるのでしょうか。ここからは修繕積立金が不足することで懸念されるリスクを2つ紹介します。

必要な時期に大規模修繕工事が行えない

修繕積立金が不足すると必要な時期に大規模修繕工事を行うことができなくなり、マンションの資産価値低下につながるリスクがあります。修繕積立金が不足している場合は、主に以下の4つの選択肢の中からどうするかをマンション住民で決めていくのが一般的です。

  • 一時金を区分所有者から徴収する
  • 金融機関から不足金を借り入れる
  • 修繕積立金を値上げする
  • 大規模修繕工事を延期する

必要な時期に大規模修繕工事を行えないと、マンションの見た目が悪くなるだけでなく、雨漏りなどが起こってそこで快適に生活することすら難しくなってしまうかもしれません。そのようなことが起きないように、基本的には①~③のいずれかを選ぶ管理組合が多いです。しかし、①~③の選択肢を実行するには、総会での決議が必要です。住民同士の意見がまとまらず、合意が得られなかったマンションでは仕方なく④の大規模修繕工事の延期を選択し、結果的に費用負担の先送りをしているケースも散見されます。

管理組合の健全性が問われ、売却時に思うように売れない

マンションの資産価値に影響する要素としては立地や築年数、間取りなどが挙げられますが、それ以外にも管理組合の健全性まで評価されることがあります。なぜなら、管理組合がきちんと機能しているマンションは管理が行き届いていることが多く、「きれい」かつ「安全」である可能性が高いと考えられるからです。それとは反対に管理組合が機能していないマンションでは設備の不具合が起こったり、外観の見た目が悪かったりすることが多く、快適に暮らせる環境が十分ではないとして、購入希望者から敬遠されやすくなります。

その結果、マンションの資産価値は低下し、将来的にマンションを売却したくなったときも思うような金額で売れなくなるかもしれません。修繕積立金が大幅に不足している管理組合は、まともに機能していないという評価をされやすいので注意が必要です。

03売却するなら修繕積立金の値上げ前に実行を!

ここまで紹介してきたように、マンションの大規模修繕は回数を重ねるごとに大掛かりなものになり、修繕積立金の徴収額も高くなる傾向にあります。例えば、大規模修繕後に修繕積立金が月5000円増額されると、年間で6万円の負担増になります。修繕積立金が高くなると購入希望者から敬遠されやすくなるので、将来的にマンションを売却するつもりなら、大規模修繕工事の前(できれば、管理組合の総会で修繕積立金の値上げが決まる前)に行動するのがおすすめです。また、修繕積立金の増額はあらかじめ長期修繕計画で決められていることがあるので、マンション入居時にはチェックしておきましょう。

なお、長期修繕計画に将来的な修繕積立金の増額が記載されている場合、購入希望者にもコストがだんだん増えていくことがわかってしまいます。そのため、マンション売却の際は、修繕積立金の増額に応じて希望売却価格を下げないと買い手が見つからない可能性が高くなる点に留意する必要があります。

04中古マンションの購入時にチェックすべきは?

中古マンションを購入するときは購入価格や周辺環境、築年数などをチェックするのはもちろん、大規模修繕工事と修繕積立金の値上げ予定を確認しておくことも重要です。まずは、修繕積立金の徴収方法が均等積立方式なのか、段階増額積立方式なのかを確認しておきましょう。

仮に均等積立方式であっても、修繕積立金が不足がちである場合は近いうちに増額する恐れもあります。購入を検討するにあたり、管理組合が保管しているはずの「重要事項に関わる調査報告書」などの書類をチェックすることをおすすめします。修繕積立金の詳細が記載されている「重要事項に関わる調査報告書」は、物件の購入前であっても不動産仲介会社に依頼すれば取り寄せてくれることがあるので、相談してみてください。

なお、適切な修繕積立金は建物の形状や規模、立地、共用施設の有無などによって変わります。例えば、形状が複雑だったり、階層が高かったりするマンションは修繕費用がかかりやすいため、修繕積立金も高くなりやすいです。また、塩害を受けやすい海岸沿いのマンションや寒暖差の厳しい地域にあるマンションなどは劣化が進行しやすく、修繕計画のサイクルが速かったり、特別な修繕が必要だったりして修繕積立金を多く支払わなければいけない場合があることも理解しておきましょう。

05修繕積立金の値上がりと住宅ローンの金利上昇で家計への負担増!

マンション購入時の毎月の出費としては、修繕積立金以外にも住宅ローンの支払いが挙げられます。人件費や建材費などの高騰からもわかるように、インフレ傾向にある日本では今後日銀が金利の引き上げを徐々に容認していくのではないかと言われています。

実際に2023年10月に行われた日銀の金融政策決定会合では長期金利の1%超えが容認され、それに伴ってメガバンク3行は続々と固定金利の引き上げを発表しました。その影響は固定型の住宅ローンとしてよく利用されている「フラット35」にも及び、11月に適用される最も低い金利についてはは3ヵ月連続の引き上げになりました。

金利は市場動向に左右されやすく、今後の正確な動きを予測することは難しいものの、日本では2022年末ごろから長期金利に上昇傾向が見られており、今後もフラット35をはじめとした固定型住宅ローンの金利引き上げが続く可能性があります。

一方、2024年前半には日銀のマイナス金利政策が解除されるのではないかと市場関係者の中で予想されていることもあり、変動金利についても予断を許さない状況です。現在の金利が低いからといって安易な気持ちで変動型を選択すると、将来的に金利が上昇した場合、支払い利息も含めた総返済額がかなり膨らんでしまうかもしれません。そこに、経年劣化による修繕積立金の値上がりが重なると、家計にとってダブルパンチをくらう格好になります。

変動金利が上がったときは繰り上げ返済をして元本を減らし、金利負担を軽減する方法が効果的です。そのため、これから変動型の住宅ローンを選択するのは、いざというときに繰り上げ返済ができる資金的な余裕がある人のほうがよいでしょう。教育費などで出費が多く、資金的に余裕がない人は借入当初の金利が高いというデメリットがある反面、将来にわたって資金計画を立てやすいメリットがある固定型の利用も検討してみてください。

06金利タイプでどのくらい毎月の支払額が変わるのか、住宅ローンシミュレーターで確認しよう

マンションは年を重ねるごとに老朽化が進み、それを修繕するための費用も高額になっていきます。その過程では住民の高齢化も進むので、十分な金額を徴収することが難しくなることもあります。中古マンションを購入する場合は管理組合がしっかり機能しているかどうかも忘れずにチェックしておきましょう。

また、マンションを購入したあとでかかるランニングコストには、住宅ローンの金利も含まれます。今後の金利がどのように推移するかは誰にもわからないので、住宅ローンを組む前にしっかりシミュレーションしておくことが重要です。

当サイト内には、金利の違いでどれくらい総返済額が変わるかを簡単に把握できる「毎月の返済額シミュレーター」など、住宅ローンの返済イメージをつかむのに役立つ各種シミュレーターが用意してあるので、ぜひ試してみてください。

新井智美

監修:新井智美

CFP®/1級ファイナンシャル・プランニング技能士

プロフィール

トータルマネーコンサルタントとして個人向け相談の他、資産運用など上記相談内容にまつわるセミナー講師を行う傍ら、年間100件以上の執筆・監修業務を手掛けている。

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