暗号資産で住宅ローンが組める時代に?米国で制度検討、日本でも実現するのか

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かつてビットコインなどの暗号資産(仮想通貨)は、通貨としての信頼性の問題からそれを担保に住宅ローンを組むことはできませんでした。しかし、アメリカでは「暗号資産で住宅を購入する」という発想が少しずつ実現に近づいています。実際に2025年6月にはアメリカの住宅ローンを監督する公的機関「FHFA(連邦住宅金融局)」が、2つの大手住宅ローン機関に対し、「暗号資産(仮想通貨)をローン審査で資産として評価する方法を検討するよう指示した」という報道がありました。 もしこの制度が現実のものとなれば、住宅ローンの審査基準に新しい選択肢が加わり、特に若者世代や投資に積極的な人たちがこれまでより住宅を購入しやすくなるかもしれません。そこで、この記事では、「なぜいま暗号資産が住宅ローンの資産として評価されようとしているのか」や「日本で同じような仕組みが導入される可能性」について解説していきます。 また、もしも日本に導入された場合、どんなメリットがあるかといった疑問についてもわかりやすく解説するので、これから住宅ローンを組む予定の方は参考にしてください。

01なぜアメリカでは「暗号資産 × 住宅ローン」が現実味を帯びてきたのか

まずは暗号資産を住宅ローンの担保として評価する動きが起きている背景について解説します。どのような流れで、暗号資産の評価が見直されようとしているのでしょうか。

住宅当局が「暗号資産を資産として評価する」制度を検討中

先述の報道は、アメリカの大手総合情報サービス「Bloomberg」のものです。同社の報道によると、2025年6月、米連邦住宅金融局(FHFA)は住宅ローン債権の買い取り・証券化を担う政府支援企業(GSE)であるファニーメイとフレディマックに対し、「暗号資産を資産評価に取り入れる可能性を検討するよう指示した」とのことです。

これは住宅ローン審査において、借入希望者が保有する暗号資産を「資産」として認める方向性を模索することを意味します。仮に今回の報道が実現すれば、これまでの資産評価の歴史において大きな転換点になるかもしれません。

ただし、認められるのは「取引所に預けた暗号資産」に限定

今回の報道で注意したい点は、あくまでも「米国の規制下にある中央集権型取引所(CEX)で保管されている暗号資産」に対象が限定されることです。これは中央集権型取引所(CEX)で保管されている暗号資産が個人のウォレット(暗号資産の通過を保管する場所)やDeFi系資産(ブロックチェーン技術を活用し、銀行などの仲介者なしに、ユーザー同士が直接金融取引する分散型金融を活用して築いた資産)よりも信頼性が高く、資産評価をするために必要な暗号資産の「その時点での価格」や「保有状況の確認」を制度的・技術的にしやすいことが理由です。

つまり、銀行やローン保証機関が「評価可能な資産として暗号資産を認識できるか」が重要なポイントで、今後同制度が普及していくかどうかのカギとなるでしょう。

若い世代にとって“チャンス”になるかもしれない理由

今回の暗号資産の資産評価への組み入れは、特に若者世代にとってチャンスとなる可能性を秘めています。これまで住宅ローンを組む際に評価される資産は主に、資産として信頼性の高い預貯金や有価証券などに限られていました。しかし、Z世代を中心に資産形成の手段が多様化している今、暗号資産をポートフォリオの一部に組み込んでいる人も少なくありません。

こうした背景を踏まえると、暗号資産を資産評価に含めることは従来の枠組みでローン審査が通りにくかった層にとって新たなチャンスとなり得ます。特に資産はあるが投資などで運用しているため現金比率が低くなってしまっている「デジタルネイティブ世代」にとっては、住宅取得のハードルを下げるきっかけになることが考えられます。

02もし日本で導入されたら、どんなメリットがある?

今回紹介した報道はあくまでアメリカのものであって、まだ日本でこのようなサービスが開始されるには時間がかかるかもしれません。しかし、アメリカで暗号資産の資産評価への見直しが行われ、それが普及した場合、やがて日本でも同様の制度を取り入れる可能性があります。そこで、もし日本でこのような制度が導入されたら、どんなメリットがあるかについて解説します。

暗号資産が「頭金」や「信用力」として使えるようになる可能性も

仮に暗号資産が住宅ローンでの資産評価で認められるようになれば、今後は暗号資産で頭金の支払いが可能になるかもしれません。さらに、暗号資産の資産総額が審査基準を満たせば住宅ローンの審査も通りやすくなるでしょう。これまで審査の際に重視されてきた「年収」や「雇用形態」だけに依存せず信用力を強化できるため、個人事業主やフリーランス、勤続年数がまだ長くない若年層にとって有利に働く可能性があります。

貯金が少なくても住宅ローンが組みやすくなる

現在、日本の住宅ローン審査では暗号資産をいくら持っていても、ほとんど評価されないのが現実です。たとえ、ビットコインなどを数百万円程度保有していても、保有資産額として扱われないケースも珍しくありません。しかし、暗号資産が正式に資産として認められるようになれば、たとえば「収入は少なくても暗号資産での投資で資産を築いている人」や「銀行預金は少ないけど、暗号資産を持っている人」もこれまでより住宅ローンを組みやすくなるでしょう。

自分の資産を“そのまま使える”柔軟な選択肢が増える

暗号資産がそのまま資産評価に含まれれば、住宅ローン審査を受ける前に現金比率を高めることだけを目的にした保有資産の売却をする必要がなくなります。その結果、価格が安いタイミングで無理に暗号資産を手放す必要がなくなり、資産額を維持したまま信用力として活用できるのはもちろん、より戦略的な投資や資金計画も立てやすくなるはずです。

実際に大和証券グループのフィンテック関連会社が暗号資産を担保にローンを提供した事例もあり、こうした商品が住宅ローンにも広がっていけば、従来よりも柔軟で本人に合った住宅取得スタイルが実現するかもしれません。

03日本での導入が難しい理由とは?

ここまで述べてきたように、アメリカでは暗号資産を銀行預金などと同じ資産として評価する取り組みがようやく本格化してきました。しかし、日本でもすぐに同じような仕組みが導入されるかについては、依然ハードルが高いのが現状です。

暗号資産に対する制度整備の進捗など日本特有の課題もあり、金融庁や各金融機関は慎重な姿勢を崩していません。ここからは、なぜ日本で暗号資産を資産として評価することが難しいのか、制度と実務の両面から解説します。

日本の制度や金融庁はまだ慎重な姿勢

日本で暗号資産の資産評価が進まない大きな理由は、暗号資産がまだ「通貨」として認められていないからです。公的には今のところ暗号資産は通貨ではなく、「資産性のある財産的価値」という微妙な立ち位置で扱われており、金融庁はそのリスク性に対して慎重な立場をとっています。住宅ローンを扱う銀行やモーゲージバンク(「不動産を担保にした貸し付け(住宅ローン)」 を専門に取り扱う金融機関)は行政のガイドラインに従う必要があるため、現時点で暗号資産を正式な資産評価の対象とするのは制度上難しいというわけです。

特に各種ローンの中でも個人としては借入額が大きく信用リスクに敏感になりがちな住宅ローン審査においては、法的根拠と金融行政の方針転換が不可欠です。

価格の変動が大きくて「安定した資産」とは言いにくい

暗号資産は数ある投資商品のなかでも、「短期間で価格が大きく変動しやすい」という特性があります。住宅ローンの審査では返済能力を安定的に評価することが重要視されるため、価格変動の大きい資産は担保としての信頼性に不安があると判断されがちです。たとえば、申込み時に保有していた暗号資産が審査期間中や契約後に大幅に価値を下げた場合、信用評価に影響を与えるリスクも考えられます。そのリスクをどう考えるかは各金融機関の判断に委ねられる部分ではありますが、こうした価格の安定性の不安定さ特性が暗号資産を住宅ローンの担保として扱う難しさの一因となっています。

新しい資産を取り入れるには時間が必要

日本の住宅ローン審査では特に年収や勤続年数、預貯金、信用情報といった安定した収入や資産が重視される傾向にあります。そのため、暗号資産のように価格変動が大きく、評価が難しい新しい資産をすぐに審査基準に取り入れるのは困難だとされています。

仮に一部の銀行や金融機関が暗号資産の活用に前向きだったとしても、実際に導入するまでには「システム整備」「審査基準の見直し」「社内ルールの変更」など、数多くの課題をクリアしなければいけません。暗号資産を住宅ローン審査で評価するには、制度と運用の両面でまだまだ時間がかかるのが現実です。

04暗号資産が“使える資産”になる日は来るのか?

暗号資産はすでに一部の決済で利用できるなど、徐々にその活用の幅が広がっています。その波は住宅ローンの世界にも及んでいて、いつか「暗号資産が住宅ローンでも使える資産」として認められる日が来るかもしれません。しかし、現時点では暗号資産そのままでは住宅ローン審査に通りにくいので、すぐに住宅を買いたいと考えている方は現金化して「通貨として認められる資産」に変えることが住宅購入の近道となるでしょう。

とはいえ、住宅ローンは借入額や金利タイプによって返済額が大きく変わり、それに伴って将来の家計に与える影響も変化します。そのため、「変動型と固定型のどちらがいいか」や「どの金融機関で借りるのがいいか」などで迷う方もおられるのではないでしょうか。そんな方には、資産状況やライフプランに合わせて、自分にぴったりの住宅ローンを無料で診断できるうえ、複数の金融機関を簡単に比較できる「スゴい住宅ローン探し」がおすすめです。

サイト内には月々の支払額から予算を考えたい方に向けた「借入可能額シミュレーター」や、金利の違いで月々の支払額が変わるか比較したい方に向けた「毎月の返済額シミュレーター」など、住宅ローン予算作成に役立つ各種シミュレーターがそろっているので、ぜひ試してみてください。

新井智美

監修:新井智美

CFP®/1級ファイナンシャル・プランニング技能士

プロフィール

トータルマネーコンサルタントとして個人向け相談の他、資産運用など上記相談内容にまつわるセミナー講師を行う傍ら、年間100件以上の執筆・監修業務を手掛けている。

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