ZEHを超える「GX志向型住宅」登場、新築で最大160万円の補助金支給

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地球温暖化を防ぐための取り組みは世界各地で行われており、日本でも政府を中心としたさまざまな対策が施行されています。そうした取り組みは住宅分野にも波及しており、政府は2025年度には「GX志向型住宅」という区分を新設して、省エネ住宅推進のための補助制度を拡充する計画です。GX(グリーントランスフォーメーション)とは、化石燃料からクリーンエネルギーへの移行を目指す考え方で、同制度を利用して新築省エネ住宅を建設する場合、最大160万円の補助金を受け取れます。 現在も似たような制度としてZEH水準住宅に対し最大80万円の補助金が支給される「子育てエコホーム支援事業」などがありますが、今後はより高い省エネ基準が必要となる「GX志向型住宅」の普及に伴って、ZEH水準住宅に対する補助金が減額されるかもしれません。そこで、この記事では今後ますます需要が高まることが期待される、GX志向型住宅の概要や補助金制度の詳細、従来の基準との違いを解説していきます。

01GX志向型住宅とは?

2025年度に新設されるGX志向型住宅とは、簡単にいうとこれまでよりも優れた省エネ性能を誇る住宅に対する補助金です。政府は2020年10月に「2050年カーボンニュートラル」を宣言しましたが、日本の最終エネルギー消費の約3割は民生部門(業務・家庭部門)が占めており、その中でも住宅・建築物のエネルギー消費削減は重要な課題となっています。そこで、政府は「子育てグリーン住宅支援事業(国土交通省・環境省)」としてGX志向型住宅の新築を支援する新たな補助制度を実施し、住宅分野での省エネ推進を目指す運びになりました。

現在の省エネ住宅の区分としては、2025年4月以降に建てられる新築住宅に適合が義務化される「省エネ基準」や、2030年までに義務化が検討されている「ZEH水準」があります。2025年度から新しく導入される予定の「GX志向型住宅」は、ZEH水準を上回るほど環境負荷を最小限に抑え、エネルギー効率の向上や再生可能エネルギーの利用を重視した次世代型の住宅として期待されており、その建築に対して補助金が支給される仕組みです。

GX志向型住宅が満たすべき条件とは?

GX志向型住宅として認定されるには、以下の3つの条件を満たしている必要があります。

  1. 断熱等性能等級6以上
  2. 再生可能エネルギーを除いた一次エネルギー消費量の35%以上削減
  3. 再生可能エネルギーを含む場合の削減率100%以上

1の断熱等性能等級6以上というのは、「高い断熱性能を持ち、室内の温度変化を抑えることで、冷暖房エネルギーの消費を削減できる住宅」です。例えば、関東~九州北部地方の場合、「住宅の内部から外部へ逃げる熱量」を表す指標であるUA値は0.46以下(UA値の基準は地域や設計条件に応じて変わるので注意)が目安になります。

また、2については、「平成25年省エネ基準から35%以上削減する」、3は「太陽光発電などを活用して自家発電することで家庭内の消費エネルギーの実質ゼロを目指す」のが、それぞれの条件となっています。なお、都市部の狭小地など、再生可能エネルギー設備の導入が物理的に困難な場合は、ZEH Orientedという別の基準に該当し、一部要件が緩和される場合もあります。

02GX志向型住宅を新築すると補助金はいくらもらえる?

GX志向型住宅に認定された場合にもらえる補助金は、1戸あたり最大160万円です。また、対象者は全世帯なので、注文住宅や分譲住宅、賃貸住宅といった住宅の種類による違いはありません。ただし、以下の表のように長期優良住宅やZEH水準住宅で認められている建て替え時の加算(既存住宅を解体して新築する場合など)がない点には注意してください。

他の住宅性能基準との比較

住宅区分 補助金額 建て替え時の加算額 断熱等性能等級 一次エネルギー消費量削減率 再生可能エネルギー導入
GX志向型住居 160万円/戸 なし 等級6以上 基準から35%以上削減 必須
長期優良住宅 80万円/戸 +20万円 等級5以上 基準から20%以上削減 任意
ZEH水準住宅 40万円/戸 +20万円 等級5以上 基準から20%以上削減 必須

なお、補助金を申請する際は「対象工事の着手日」と「対象地域」の2点には注意が必要です。まず当該補助金は、2024年11月22日以降に基礎工事より後の工程に着手した住宅が対象です。また、土砂災害特別警戒区域や災害危険区域に立地する住宅など原則対象外(一部例外規定が設けられる場合もあり)となる地域があるので、事前に住宅取得予定地が対象となるエリアかどうかをよく確認しておきましょう。

03GX志向型住宅のメリット

GX志向型住宅を建設する最大のメリットは、「住宅を建築する際にかかる費用の負担が後に軽減されること」です。一般的に省エネ住宅の建設コストは高くなりがちですが、1戸あたり最大160万円の補助金を受け取ることでその負担を軽減できます。ただし、補助金が受け取れる時期は住宅完成後3~6カ月です。一時的に立て替えが発生する点には気をつけておきましょう。

また、「光熱費の削減」や「快適な居住環境の実現」、「環境への配慮」につながることもメリットです。近年、円安などの影響によって光熱費が高止まりしていますが、GX志向型住宅のように高断熱・高気密設計の住宅は断熱性能が高いので光熱費がかかりにくく、年間を通して快適な室内環境を維持しやすいのが特徴です。太陽光発電システムなど再生可能エネルギー設備を導入すれば、さらに光熱費削減につながるうえ、二酸化炭素の排出量を減らして地球環境保全にも貢献できます。現在、こうした環境性能に優れた住宅は市場からの注目が高まりつつあるので、将来的な資産価値向上を期待できる点もメリットとして挙げられます。

04GX志向型住宅のデメリット

GX志向型住宅にはさまざまなメリットがありますが、デメリットもいくつかあります。デメリットとしてまず挙げられるのは、「住宅ローン借入金額の増加」です。

先述したように、GX志向型住宅を建てる際は、建築にかかる費用が高くなる傾向があり、費用を捻出できない場合は住宅ローン借入金額が増加します。家の完成後に、補助金が受け取れるとはいえ、住宅ローンの借入金額が高くなるほど保証料や手数料などの諸費用の負担額も増加することを覚えておきしょう。

また、「設計・施工の複雑化」や「メンテナンス費用の増加」もデメリットです。すべての住宅に当てはまるわけではありませんが、高い省エネ基準を満たすために設計や施工が複雑になる場合があり、その結果工期の延長や設計費用の増加が生じる可能性があります。さらに、忘れてはいけないのがメンテナンス費用です。特に太陽光パネルや蓄電池は定期的なメンテナンスが必要で、維持費用を長期間支払い続けなくてはいけません。

05GX志向型住宅の重要なポイントまとめ

GX志向型住宅のメリット・デメリットは確認できたでしょうか。初期費用の増加といったデメリットはあるものの、省エネに優れた住宅を建てることで地球環境に貢献するだけでなく、近年高騰している電気代の節約にもつながるのがGX志向型住宅の魅力です。そんな住宅に興味を持った方に向けて、最後にGX志向型住宅を建てる際の重要ポイントをまとめました。

性能基準をクリアするための計画をしっかり立てる

先述したように、GX志向型住宅として認定されるには、「断熱等性能等級6以上」「一次エネルギー消費量35%以上削減」「再生可能エネルギーを含む場合の削減率100%以上」といった3つの要件をクリアしなければいけません。そのためには、例えば「適切な断熱材および窓の設計」「高効率な設備(冷暖房、照明、給湯など)や再生可能エネルギー(太陽光発電システムなど)の導入」が必要です。それらの設備や仕様が基準をクリアしているかを、しっかり確認しながら設計を練ることがポイントになります。

信頼できる施工業者を選定する

GX志向型住宅の要件は細かく決まっているので、認定されるかどうかを素人が判断することは難しいといえます。そこで大切なのが、「信頼できる施工業者の選定」になります。安心して設計を任せるためにも、経験と知識が豊富な施工業者を選びましょう。

例えば、代表的な省エネ住宅である「ZEH水準住宅の施工実績があるか」や「過去に実際に補助金を申請したことがあるか」などを事前に確認しておくことをおすすめします。補助金を申請するのは施工業者ですので、申請に慣れた業者を選ぶことも大切なポイントです。

補助金申請は正式な手順を踏まないと要件をクリアしていないとみなされる恐れがあるので、適切な申請手続きが不可欠です。設計段階で補助金の要件を確認して施工計画にしっかり反映してくれたり、省エネ計算書などの必要書類の準備を早めに進めてくれたりする業者を選ぶとよいでしょう。

06GX志向型住宅は初期コストと将来的な運用コストのバランスを考慮しよう

GX志向型住宅はその機能性の高さゆえに、初期費用が高額になりやすいのがデメリットです。しかし、補助金を活用すればそのデメリットを軽減できるうえ、光熱費の削減につながるので長期的なコストで見ればお得になることも考えられます。本記事を読んでGX志向型住宅に興味を持った方は、初期コストと将来的にかかるお金のバランスを考慮した返済計画をシミュレーションして検討するとよいでしょう。

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新井智美

監修:新井智美

CFP®/1級ファイナンシャル・プランニング技能士

プロフィール

トータルマネーコンサルタントとして個人向け相談の他、資産運用など上記相談内容にまつわるセミナー講師を行う傍ら、年間100件以上の執筆・監修業務を手掛けている。

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