住民の高齢化、空室増加、修繕積立金不足…表面化するマンション管理の問題とは?

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2024年6月、国土交通省は「令和5年度マンション総合調査」の結果を公表しました。同調査は、マンションの管理状況やマンション居住者の管理に対する意識を調査するもので、全国の管理組合および区分所有者から回答を受けています。 調査結果によれば、完成年次が古いマンションほど70歳以上の高齢の住民の割合が多くなり、所在不明や連絡先不通の住戸のあるマンションの割合も増える傾向にあるといいます。また、住民の高齢化が進むと修繕積立金不足に陥り、旧耐震基準で建てられたマンションでも改修工事を実施できていない現状も浮き彫りになりました。 この記事では「令和5年度マンション総合調査」の結果をもとに、マンション管理において表面化している問題について解説します。

01居住者の高齢化、所在不明等の空室増加、修繕積立金の不足…マンション管理の問題

先ほど紹介した「マンション総合調査」の結果から、マンション管理で今どのような問題が起きているのか、具体的に検証していきましょう。

まず、マンション居住者の高齢化が進行している事実が読み取れます。同調査によれば、マンションの世帯主に占める60歳代の割合は、平成15年度の21.5%から27.8%に増加しました。同じく70歳以上の割合は、10.2%から25.9%と実に2.5倍も急増しています。特に完成年次の古いマンションにおいて高齢化が顕著で、1984年以前に建てられたマンションでは、全世帯の55.9%で世帯主の年齢が70歳以上という状況です。

完成年次の古いマンションでは、高齢化が進行していること以外にも、次のような特徴が見られます。

① 賃貸住戸の割合が大きい

1984年以前に建てられたマンションでは、賃貸戸数の割合が20%を超える管理組合が全体の3割近くに上ります。賃貸住戸では住民の入れ替えが頻繁に起こるため、住民同士の関係性が希薄になりやすい点が課題です。

② 空室戸数の割合が大きい

全体では空室のないマンションの割合が増えていますが、完成年次が古くなると空室住戸のあるマンションの割合が増加しています。高齢化が進むと、所有者が亡くなって相続が発生しても登記されないまま空室になるケースも多くなっています。

③ 所在不明・連絡先不通の住戸のあるマンションの割合が大きい

1984年以前に建てられたマンションでは、全体の6割近くで所在不明・連絡先不通の住戸がある状態です。

これら3つの課題を抱えたマンションで懸念されるのは、管理組合運営の難航です。空室や所在不明・連絡先不通の住戸が増えると、当初計画していた修繕積立金を十分に集金することができず、大規模修繕を実施できなくなってしまいます。

以前は修繕積立金の増額幅に上限がなかったため、将来的に不足が予想される場合には、管理組合が独自に修繕積立費を値上げしていました。しかし2024年、政府によって修繕積立金の増額幅の上限が規定されたため、今後はそれも難しくなります。

政府による修繕積立金に関する規定の内容に関しては、こちらの記事で詳しく解説しています。

マンション修繕積立金、増額しても当初の1.8倍まで!物件購入の安心材料に
[ニュース] 2024.03.29

高齢化によってもたらされる3つの問題によって、マンションの資産価値が低下するおそれも高まるでしょう。マンションの「老い」がもたらす資産価値への影響に関して詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。

老いを抱えるマンションに高騰する修繕積立金!資産価値のマイナス要因にも
[ニュース] 2023.12.15

02旧耐震基準マンション、約64%が耐震診断を実施せず

同調査では、旧耐震基準で建てられたマンションにおける耐震診断・耐震改修の実施状況についても調べています。それによれば、旧耐震マンションの64.1%は耐震診断を行っていないと回答。耐震診断を実施して「耐震性がない」と診断されたマンションのうち、半数以上が耐震改修未実施であることが明らかになりました。

この要因の一つとして考えられるのが耐震改修費用の不足です。

1カ月ごとの修繕積立金の平均額は右肩上がりの傾向にあり、平成11年度は1戸あたり7378円だったのが、令和5年度には1戸あたり1万3054円まで増えています。駐車場使用料等からの充当額を含む総額で比較しても、平成11年度の1戸あたり9184円から、令和5年度は1万3378円まで跳ね上がっている状況です。

完成年次が古いマンションほど、管理費等の滞納がある物件の割合が大きくなる傾向があり、上記のように膨れ上がる修繕積立金を支払えない住民が増えていると推測されます。滞納によって十分な積立ができない結果、耐震改修費用が不足してしまうのです。

また、築年数の古い旧耐震マンションでは住民の高齢化が進み、管理組合のなり手不足が深刻化。管理組合が正常に機能しなくなったために、外部専門家の活用や長期修繕計画の作成なども進んでいないのが現状です。全体の66.1%のマンションでは、老朽化対策に関する議論も行えていない状況であり、有効な対策を講じるのが難しい実情が浮き彫りになっています。

03マンション購入時に「管理状況」を重視した割合は少ない

マンション管理に関する問題が顕在化する一方、マンション購入において管理状況を重視する人は少ないのが現状です。

同調査において「マンション購入の際に考慮した項目」を尋ねたところ、最も多かったのは「駅からの距離など交通利便性」で71.6%。次いで「間取り」「日常の買い物環境」の順でした。そのような中で「築年数」を重視した人は26.8%、「建物の耐震性能」は23.8%、「共用部分の維持管理状況」は12.0%にとどまりました。

本来、マンション管理は将来の物件の資産価値や住み心地を大きく左右する要素であり、マンションは「管理を買え」と言われるほど、購入にあたって重要なポイントです。

重視する人の多い「交通利便性」は、現役で働いているときは大きく優先される項目であるものの、マンション管理は暮らしやすさや大規模修繕をはじめとする安全性に深く関わる要素です。そこに暮らしている以上、常に影響するものであることから、本来は最も優先すべき項目といえるでしょう。

管理状況の良いマンションを選んで購入すれば、資産価値が下がりにくく、将来の売却時にも有利になる可能性があります。

04EV充電器は90.7%、宅配ボックスは57.5%が未設置という結果

最後に、マンションにおける最新設備の設置状況についても紹介します。

1つ目は、今後普及が見込まれる電気自動車(EV)の充電設備です。設備を設置していないマンションが全体の約9割に上り、導入が進んでいない現状が明らかになりました。

東京都では、2030年までに集合住宅に6万基の充電器を設置することを目標に掲げており、先行して2025年から一定規模のEV充電器設置が条例によって義務づけられます。今後、都内ではマンションにおけるEV充電器設置率の上昇が見込まれ、その動きに追随する自治体が出てくる可能性もあるでしょう。

2つ目に取り上げるのは宅配ボックスです。単身世帯や共働き世帯の増加、宅配業界の人手不足などを背景に広まった宅配ボックスですが、42.5%のマンションでは未設置となっています。

近年は、非接触・非対面で宅配物を受け取ることができる「置き配」が急速に普及しており、必ずしも宅配ボックスを必須の設備とは考えないマンション購入者も増えています。むしろ、今後は置き配対応物件かどうかが重視されるようになるかもしれません。

実際、株式会社ライナフが実施した置き配に関する入居者アンケートによれば、92.2%の人が「置き配可能な物件に住みたい」と回答しています。これは、宅配ボックスがあるにもかかわらず再配達になった経験のある人が82.3%に上っていることが背景として挙げられるでしょう。

また、80.4%の人が「宅配ボックスの代わりに置き配を利用したい」と回答していることからも、マンションにおいて置き配に関するルールづくりを急ぐべきであることが見て取れます。

しかし、今回の「マンション総合調査」によれば、置き配に関するルールを決めていないと回答したマンションが86.0%に上っています。2.5%と少数ではあるものの、置き配を全面禁止としているマンションもあり、世間のニーズとギャップがある状況です。

05将来の売却時にも有利!管理が行き届いたマンションを選ぼう

国土交通省が公表した「マンション総合調査」の結果を通して、1984年以前に建てられた築古物件において、特に住民の高齢化や所在不明の空室増加、修繕積立金不足といった、マンション管理の問題が表面化している現状が明らかになりました。

一般的にマンションは築年数が経過すると資産価値が下がるものの、まったくゼロになるわけではありません。管理状況はマンションの資産価値を大きく左右する要素であり、管理状況が良ければ「マンションは100年以上持つ」とも言われます。

管理が行き届いたマンションは、現在の住み心地の良さや安全性の高さが期待できるだけでなく、将来売却する際にも有利になるでしょう。

将来も資産価値を維持できる、管理のしっかりしたマンションを購入したいなら、まずはどれくらいの予算を組むことができるのかシミュレーションする必要があります。当サイトの住宅ローンシミュレーションを利用して、予算額を決めるところからスタートしてはいかがでしょうか。

新井智美

監修:新井智美

CFP®/1級ファイナンシャル・プランニング技能士

プロフィール

トータルマネーコンサルタントとして個人向け相談の他、資産運用など上記相談内容にまつわるセミナー講師を行う傍ら、年間100件以上の執筆・監修業務を手掛けている。

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