日銀の追加利上げ、直近10月が濃厚か 住宅ローン変動金利はいつ上がる?
2024年6月に行われた日銀の金融政策決定会合では、今後長期国債買い入れ額を段階的に減額する一方、政策金利に関しては据え置く方針が決定されました。 このような状況の中、7月2日には1ドル=161円台後半まで円安が進み、実に約38年ぶりの円安ドル高水準となりました。 市場では、円安を食い止めることも狙い、7月の金融政策決定会合で追加利上げが行われるのではないかとの見方もありました。しかし、円安が加速すると物価をさらに押し上げ、日銀が目標とする「2%の物価目標達成」にとっては追い風になります。このことから、日銀は目標達成の確度を高めるべく、遅くても10月までには実施するのではないかという観測が強まっています。 仮に10月に追加利上げが実施された場合、住宅ローンの変動金利は最短でいつ頃から上昇するのでしょうか。この記事では、追加利上げが実施されたとき、住宅ローンを変動金利で借り入れ中の人には、どのタイミングで影響が出るのか解説します。
01日銀は長期国債買い入れ額を減額、政策金利は据え置きに
まず、6月の金融政策決定会合で決定された方針について見ていきましょう。
ここで紹介する大きなポイントは「長期国債買い入れ額の減額を決定したこと」「政策金利は据え置く方針であること」の2つです。
日銀は大規模金融緩和の一つとして、これまで大量の国債を買い入れてきました。7月の会合までは月間6兆円程度をメドに買い入れ、その後は買い入れ額を減額する方針を6月の会合で決定したというのが、1つ目の大きなポイントです。また、買い入れ額は段階的に縮小する見通しで、具体的な減額計画は7月の会合で示すとされました。
日銀が大量の国債を買い入れていると、国債の価格が上昇するため、国債の利回りが下がる=金利が低下することになります。ここで国債の買い入れを減額すれば、国債の価格が低下することになり、金利(長期金利)の上昇につながるというわけです。
しかし、長期金利の上昇は、住宅ローン返済中の人の大半に影響はありません。なぜなら、長期金利の影響を受けるのは固定金利だからです。
住宅金融支援機構「住宅ローン利用者の実態調査」によると、「全期間固定型」で住宅ローンを借り入れた人の割合は全体の1割弱に過ぎません。「変動型」が約7割、「固定金利選択型」が約2割を占めているため、日銀が長期国債の買い入れ額を減額したとしても、直接的な影響は少ないと考えられています。
ただし、日銀が追加利上げ(政策金利=短期金利のアップ)を決定した場合には、変動金利が上昇するため、住宅ローン利用者に大きな影響が及ぶと想定されるのです。
追加利上げに意欲を示す植田日銀総裁
6月18日、植田日銀総裁が参議院の財政金融委員会に出席しました。その場で、7月の会合で長期国債買い入れ減額の具体的な計画を示すとしているが、同時に追加利上げを行う可能性があるのかという問いに対し、「国債買い入れの減額と政策金利の引き上げは別物である」と回答しています。
つまり、7月に長期国債買い入れの計画が打ち出されたとしても、同時に政策金利を上げるとは限らないということです。
植田日銀総裁は、追加利上げの判断基準として「2%の物価目標達成に向けた確度がさらに高まること」の重要性を挙げています。朝日新聞の単独インタビューで、夏から秋にかけて春闘の結果が物価にも反映されていけば、目標達成の可能性がどんどん高まっていくだろうとも発言しました。
上記の発言から、追加利上げに意欲を示しつつも、夏から秋の物価上昇率の変化を受けて、どのタイミングで利上げに踏み切るのかが今後の焦点になるでしょう。
0210月に追加利上げを実施したら、住宅ローン変動金利に影響はいつ出る?
日銀が10月に追加利上げを実施したと仮定すると、住宅ローンの変動金利にはいつから影響が出ると考えられるのでしょうか。新たに住宅ローンを借り入れる人とすでに借り入れている人では影響が出る時期が異なるため、それぞれに分けて影響が出る時期を解説します。
なお、住宅ローンの変動金利は基本的に「短期プライムレート(短プラ)」に連動します。短プラは政策金利によって変動することから、政策金利の利上げが変動金利の上昇につながると考えられているのです。
ただ、そもそもローンの基準金利が短プラに連動していない金融機関もあるため、自身の借り入れている住宅ローンの金利が何を基準に動くのか、あらためて確認しておく必要があります。
10月以降に新たに変動金利で住宅ローンの借り入れをする人
まず、10月以降に新たに変動金利で住宅ローンを借り入れる人のケースを見ていきましょう。新規で借り入れる人への影響は比較的早く表れます。
仮に日銀が10月30日・31日の金融政策決定会合で追加利上げを実施した場合、11月には銀行が短プラを引き上げ、12月までに住宅ローンの基準金利に反映させる可能性があるでしょう。
実際、2023年7月に日銀が長期金利の上限を0.5%から1%まで容認すると発表したときには、9月に長期金利が0.7%超まで上昇しました。それに伴い、メガバンクも9月の住宅ローン固定金利を引き上げたという経緯があります。
上記を踏まえると、2024年10月に追加利上げが行われた場合、12月以降に変動金利で住宅ローンを新規借り入れ予定の人は、利上げの影響を受ける可能性が高くなるでしょう。
現在、変動金利で住宅ローンの借り入れしている人
対して、すでに変動金利で住宅ローンの融資を受けている人の場合、10月の利上げ実施の影響を受けるのは、半年後の2025年4月になる可能性が高いと考えられます。
変動金利は市場の金利動向によって変動するものですが、リアルタイムで変動しているわけではありません。一般的に変動金利の借入利率は年2回見直され、基準日を毎年4月1日と10月1日としている金融機関が多くなっています。改定後の新金利が適用されるのは、6月・12月の約定返済日の翌日からです。
つまり、基準日4月1日での金利変動は7月約定返済分から、10月1日での変動に関しては翌年1月約定返済分から反映され、新たな利率で計算した利息を支払うことになります。
上記より、仮に10月に追加利上げが行われた場合、11月に金融機関が短プラの引き上げを実施。12月に変動金利型住宅ローンの基準金利が引き上げられることになり、すでに融資が行われている住宅ローンに関しては、2025年4月1日に決まる借入金利に反映されます。
この場合、実際に返済額が増えるのは、2025年7月の返済分からです。ただし5年ルールが適用されれば、毎月の返済額は据え置かれます。また万が一、金利が見直された場合でも、125%ルールがあればそれまでの返済額の25%以上にはなりません。
03変動金利が年0.25%引き上げされたら?毎月の返済額はどう変わるのかシミュレーションしてみよう
日銀による追加利上げが行われたとして、毎月の返済額はどれくらい増えるのでしょうか。一般的に政策金利の上げ幅は0.25%であることが多いため、今回は、変動金利の利率が年0.25%アップした場合、毎月返済額にどれくらいの影響があるのかシミュレーションしてみましょう。
条件は以下の通りです。
借入金額 | 4000万円 |
---|---|
借入期間 | 35年 |
ボーナス払い | なし |
金利 | 年0.330% (変動後0.580%) |
ここでは、当サイトの「毎月の返済額シミュレーター」を利用して試算するものとします。
金利 | 年0.330% | 年0.580% |
---|---|---|
毎月返済額 | 10万857円 | 10万5254円 |
総返済額 | 4237万円 | 4422万円 |
総支払利息額 | 237万円 | 422万円 |
金利アップの前後で比較すると、毎月の返済額は4397円、総利息は185万円アップする結果となりました。もし金利の引き上げが継続的に行われる流れになれば、さらに返済額がアップする可能性もあり注意が必要です。
04変動型の基準金利を引き上げる金融機関も!金利動向は常にチェックしよう
2024年5月1日、住信SBIネット銀行は短期プライムレートを年1.675%から年1.775%に、年0.1%引き上げました。それに伴い、変動金利タイプの住宅ローンにおける基準金利も2.875%(2024年7月1日現在)へと引き上げています。またソニー銀行も、8月から変動型の基準金利を年0.2%引き上げて年2.007%にすると発表しました。ソニー銀行の基準金利の引き上げは、14年ぶりとのことです。
auじぶん銀行では、7月に新規で借り入れする人向けの変動型の最優遇金利を年0.01%引き上げて年0.329%にしました。ただ、auじぶん銀行の場合、優遇金利の引き上げであるため、すでに借り入れしている人に影響はありません。基準金利が引き上げられたというのはすなわち、住宅ローン返済中の人の適用金利も10月に見直され、実質2025年1月分から返済額が増えるということです。ただし先述したように、5年ルールや125%ルールが適用されるため、慌てる必要はありません。
ただし、ネット銀行のうちPayPay銀行、ソニー銀行およびSBI新生銀行の3行が5年ルールおよび125%ルールを採用していませんので、注意しておきましょう・
しかし新規借り入れを検討している人も、現在返済中の人も、最新の金利動向は常にチェックしておきたいところ。最新金利ランキングをご活用ください。
また、資金計画を立てるにあたっては、金利差によってどれくらい毎月返済額が変わるのか、シミュレーションでチェックしておくことをおすすめします。
監修:新井智美
CFP®/1級ファイナンシャル・プランニング技能士
プロフィール
トータルマネーコンサルタントとして個人向け相談の他、資産運用など上記相談内容にまつわるセミナー講師を行う傍ら、年間100件以上の執筆・監修業務を手掛けている。
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