住宅ローンの相談件数が増加!実質賃金マイナス、金利上昇で金銭面の不安が浮き彫り
2024年の春闘では、大企業を中心に多くの企業でベースアップが実施されました。しかし、その一方で物価上昇は止まっておらず、労働者の給与と物価変動を反映した実質賃金では2024年4月時点で25カ月連続のマイナスが続いています。さらに、日銀はこれまで行われてきた金融緩和政策を徐々に見直し引き締める方針を示しており、すでに住宅ローンの固定金利は上昇傾向です。 物価と金利の上昇がダブルで起きつつある現状において、これから住宅を購入する世帯では家計への不安から住宅ローンの相談件数が増えています。そこで今回は、実質賃金が金利に与える影響と住宅ローンの問い合わせが増えている背景について解説していきます。
0125カ月連続の実質賃金マイナス!家計を直撃する物価高
日本では少子高齢化による生産年齢人口の減少から人手不足が深刻化していること、また円安によって輸出関連企業の利益が底上げされたことなどが理由で、賃金引き上げの機運が高まりつつあります。
その結果、2024年の春闘では33年ぶりに賃上げ率が5%を超えるほど高い水準を記録したほか、労働者が実際に受け取る名目賃金も増加傾向です。しかし、一般消費者の暮らしが楽になったかといえば、残念ながらそのような声はあまり聞きません。それは物価上昇率を考慮した実質賃金(2024年4月時点)が、25カ月連続でマイナス(前年同月比-0.7%)を記録したように、賃金よりも物価の上昇傾向が強い状態が続いているからです。
特に野菜の高騰は顕著であり、総務省統計局「小売物価統計調査」の主要品目の東京都区部小売価格(2024年5月)によると、1kgあたりの価格は前年同月比でブロッコリー(581円から1081円)、ニンジン(487円から616円)、キャベツ(202円から371円)など、普段の食卓でよく見かける食材がそれぞれ1.5倍から2倍近くまで高騰しています。
また追い打ちをかけるように、2024年5月31日にはこれまで実施されてきた電気・ガス価格激変緩和対策事業が終了しました。政府は6月21日、8月からの3カ月は同事業を継続すると発表したものの、6月、7月は多くの家庭で光熱費のさらなる出費が見込まれます。ちなみに野村総合研究所の試算では、同事業終了に伴って電気・都市ガス料金への補助金がなくなると、2人以上世帯の年間支払い額は合計で2万3000円ほど(電気料金1万7696円、都市ガス料金5461円)増えるとのことです。
以上のように、物価上昇は現在進行形でさまざまな商品で起きており、その対象には生活に必要な食料品や電気・ガスといった光熱費も含まれているので、より幅広い世帯で家計へのダメージが広がっている状況です。
02持家の新設住宅着工戸数も29カ月連続の減少
実質賃金がマイナスになっている影響は住宅業界にも及んでおり、例えば持家の新設住宅着工戸数は減少傾向です。国土交通省「建築着工統計調査報告」(令和6年4月)によると、持家の新設住宅着工戸数は前年同月比で3.9%減少し、29カ月連続で減少しています。これほど長い期間にわたって持家の新築着工戸数が減少している理由としては、「資材価格高騰による住宅価格の高止まり」「実質賃金減少による消費マインドの悪化」が挙げられます。また、2024年4月から適用された建築業界の時間外労働上限規制も住宅建設の担い手不足につながり、着工戸数減少に影響を与えている可能性も否定できません。
野村総合研究所の試算では、今後も全国の新設住宅着工戸数は減少していく見込みで、2022年度の86万戸から2030年度には74万戸、2040年度には55万戸になると予測しています。2024年の春闘で給与が上がった企業は多かったものの、これから住宅を買う人にとっては物価上昇による実質賃金のマイナスや、住宅ローン金利の上昇という金銭面で不安を与えるニュースのインパクトのほうが強く、積極的なマイホーム購入にはつながっていないようです。
住宅ローンやエコ住宅への問い合わせが前年比138%増という状況も
住宅購入に不安を抱く人が増えている一例としては、GOEN株式会社が運営する「おうちの買い方相談室」への相談が急増していることが挙げられます。「おうちの買い方相談室」では、住宅購入希望者に資金計画から購入までの無料サポートを行っていますが、同社によると2024年1月以降、相談件数は前年同期間比で138%も増えたとのことです。
具体的な相談内容としては、「そもそもわが家は住宅ローンを組んで住宅購入をしても良いのか」や「住宅ローンを支払う上での注意点は」といった、近年高騰している住宅の予算について気になっている人が多いようです。また、「太陽光発電を取り入れたり設備に費用をかけたりするべきか」などの値上げが続く、光熱費の節約を意識した相談も増えているとのことでした。
消費者の住宅購入負担が大きくなっている状況は、政府の統計からもわかります。内閣府政策統括官が令和5年に公表した「日本経済2022-2023」によると、家計の負債残高対年収倍率の平均値は39歳以下の若者世代のほうがその他の世代よりも高くなっていました。これは、昨今の住宅価格上昇によって比較的年収が低い20~30代のこれから住宅購入を検討していく世帯を中心に、ローン返済の負担が大きくなっていることを示しています。
もともと住宅ローンの借り入れは高額かつ長期に及ぶので、金銭面での不安を抱えやすいといえます。そして物価上昇が続く昨今の状況が、「将来的に金利が上昇して毎月の返済額が増加しても、支払いを続けていけるのか」といった不安を今までよりも強く与えており、相談件数の増加につながったといえるでしょう。
03実質賃金マイナスが続くと、住宅ローンの金利はどうなるのか?
それでは、今後も実質賃金のマイナスが続いた場合、住宅ローンにどのような影響があるのでしょうか。結論からいうと、住宅ローンの変動金利は夏ごろまでは現状を維持する可能性が高いといえます。なぜなら、もともと日銀は賃金の上昇を伴う形で2%の物価安定目標が達成できた場合に金融緩和政策を見直すと明言していたからです。実際に2024年3月にはその目標の実現が見通せる状況になったとしてマイナス金利を解除しましたが、仮に実質賃金がマイナスのまま推移した場合には賃金と物価の好循環が生まれていないという理由から、日銀が金利を引き上げる判断はしにくいと考えられます。
ただし、ここで注意しておきたいのは、反対に実質賃金がプラスになった場合には政府や日銀が追加の利上げをしやすい状況が生まれてしまうということです。日本政府は春先から続く賃上げと6月から行われる1人当たり4万円の定額減税による可処分所得増の効果で、夏ごろには実質賃金がプラスに転じると見込んでいます。
また、民間のシンクタンクも同様の見解を示しているところも少なくありません。もしも実質賃金がプラスになって利上げが行われると、現在は低水準のまま推移している住宅ローンの変動金利の引き上げにつながることも考えられ、毎月の返済額が増える恐れが高まるでしょう。
仮に1ドル170円のように円安が進み、さらなる物価上昇が起こった場合はこの限りではありません。しかし実質賃金は政府と日銀の金融政策と綿密にかかわっているので、住宅ローンの金利動向が気になる人は日頃から実質賃金についてもチェックすることをおすすめします。
固定金利は10年物国債金利の動きに連動するため、現時点ですでに上昇傾向にあります。そのため、今後住宅ローンを組む際には金利タイプをどれにするかも重要なポイントになるでしょう。
04金銭面での不安があるなら、家探し前に住宅ローン審査を受けてみよう
近年、日本では金利が上昇傾向にあるうえ実質賃金のマイナスが続くなど、マイホーム探しをする人にとって金銭面で不安を抱くようなニュースが多いのは確かです。特に住宅ローンの借入額は高額になりがちなので、「適切な借入額はどれくらいか」や「金利が上がった場合に、毎月の返済を続けていけるかどうか」などの悩みを抱えている人も多いのではないでしょうか。
将来的に金利がどのように推移していくかは誰にもわかりませんが、物件を決める前に予算や毎月の返済額のシミュレーションをして「これくらいの金額なら大丈夫」という基準を知っておくと、比較的安心して住宅探しを始められるはずです。当サイト内には予算作成に役立つ各種シミュレーターをはじめ、実際の保証会社にいくらまで借り入れできるかを審査してもらえる「住宅ローン保証審査」といった無料で利用できるサービスを用意しているので、これから住宅ローンを組む人はぜひ試してみてください。
監修:新井智美
CFP®/1級ファイナンシャル・プランニング技能士
プロフィール
トータルマネーコンサルタントとして個人向け相談の他、資産運用など上記相談内容にまつわるセミナー講師を行う傍ら、年間100件以上の執筆・監修業務を手掛けている。
関連キーワード