長期金利、上昇局面のメリット?生命保険の「予定利率」引き上げで家計にプラス効果
2024年5月30日、長期金利の代表的な指標である新発10年物国債の流通利回りが、一時的に1.1%まで上昇しました。これは約13年ぶりの高水準であり、これから住宅ローンを借り入れしようと考えている人にとっては大きな懸念材料になるでしょう。また、長期金利上昇の影響を受けて、各生命保険会社の「予定利率」は続々と引き上げられており、今後は商品を見直すことで将来的に受け取るお金が増えたり、保険料を安く抑えられたりする可能性もあります。そこで今回は、これから住宅ローンを借り入れ人に向けて、長期金利の上昇が住宅ローンおよび家計に与える影響と、そのようなときこそ生命保険を見直すメリットについて解説していきます。
01約13年ぶりに長期金利が1.1%に上昇
日本の長期金利が上昇している背景には、欧米など諸外国との金利差が大きく影響しています。近年、欧米諸国の長期金利は日本以上に急激な上昇をしており、例えばアメリカの長期金利は2024年5月29日、一時的に4.63%を記録しました。また同日、欧州主要国であるドイツでは5月の消費者物価指数(CPI)速報値が前月よりも上振れしたことを受けて、長期金利が約半年ぶりの高水準となっています。
投資家はより利回りが高い債券を求める傾向にあるので、相対的に金利の低い日本国債は市場参加者たちから魅力を感じられず、売り圧力が高まっている状況です。一般的に金利は債権市場で国債が売られると上昇する傾向にあることから、日本の長期金利の上昇圧力も高まっています。
さらに日本では、金利差による円安などこれまで行われていた金融緩和政策の影響を考慮し、今後は6月もしくは7月の金融政策決定会合で「追加利上げ」や「国債購入額の減額」などといった長期金利の上昇要因となる政策を実行に移すのではないかと市場関係者の間でうわさされています。それらの要素が複合的に絡み合い、投資家たちにさまざまな憶測をもたらした結果、現在日本の長期金利は上昇傾向にあるというわけです。
日本の長期金利は住宅ローンの固定金利と密接に連動しているため、仮に長期金利の上昇圧力が高まればそれに伴って住宅ローンの固定金利も上昇する可能性が高く、これから住宅ローンを組む人にとってはあまりよくない知らせだといえるでしょう。ただし、長期金利の上昇は家計に悪い影響を与えるだけではありません。次の段落からは長期金利の上昇局面で生命保険を見直すメリットを紹介していきます。
02保険の予定利率引き上げで得られるメリット
長期金利が上昇することで考えられる生命保険見直しのメリットは、「予定利率の上昇」です。予定利率とは生命保険の契約時に保険会社が約束する運用利回りのことを指します。予定利率は金融庁が長期金利をもとに毎年発表している「標準利率」を参考にしているので、基本的に長期金利が上がれば予定利率も上がる仕組みです。予定利率が上昇することで契約者が得られる具体的なメリットは大きく分けて、以下の2つがあります。
- 支払保険料が下がることがある
- 満期型の保険では将来受け取れるお金が増額されることがある
上記のようなメリットが発生する理由は、保険会社は契約者から徴収する保険料を保険金支払い時のためにただ積み立てているだけではなく、そのお金を元手に運用しているからです。
長期金利が上昇すると債券などの金融商品の利回りがよくなり、増えた利益を契約者に還元するというサイクルになることが多いです。つまり、予定利率が上昇するということは簡単にいうと「運用が上手くいって、保険会社が儲かる見込みが高い状態」だといえます。そのため、保険期間や保険金額などの条件が同じであっても、予定利率が上がれば一般的にこれまでよりも低い保険料で加入できるなど、より有利な条件で契約しやすくなります。
上述したように、長期金利が上昇すると住宅ローンの固定金利も上昇する傾向にありますが、それと同時に予定利率も上がれば保険の見直しで家計負担を軽減できる場合もあるということです。
長期金利の上昇を背景に相次ぐ、各生命保険会社の動き
2024年5月時点で各保険会社の予定利率引き上げは、すでに始まりつつあります。例えば富国生命は、同年4月から個人年金保険の予定利率を9年ぶりに現行の0.65%から最大1.35%まで引き上げたほか、住友生命保険は同年10月2日以降の新規契約から個人年金保険の一部で予定利率を0.15%ほど引き上げて0.80%にすることを公表しています。また明治安田生命保険は、企業から預かる年金保険の予定利率を2025年4月に現行の1.25%から1.30%に引き上げるなど、各保険会社は他社との競合の兼ね合いもあって続々と予定利率を引き上げ始めており、今後もこうした動きがしばらく続くことが期待されます。
一方で、第一生命は2023年に予定利率型の商品に見切りをつけて、グループの資産運用会社が独自に開発した指数に連動する個人年金保険の販売を開始しました。これは予定利率型の商品の金利変動による影響をできるだけ回避するためであり、会社側の運用リスクが抑えられて安定した経営につながるとしています。このように長期金利上昇に直面した各保険会社はさまざまな対応をとっているので、これから住宅ローンを組むことを予定している人は、この機会に一度現在加入している生命保険の見直しをしてみることをおすすめします。
住宅ローン契約時こそ生命保険の見直しを!
なぜ、これから住宅ローンを組む予定の人が各種ある保険の中でも生命保険の見直しをしたほうがよいかというと、住宅ローン契約時には団信への加入を求められるのが一般的だからです。
仮に、これまで加入している生命保険がある場合には団信と保障が重複し、保険料が必要以上になるケースがあります。そのため、団信への加入と合わせて既存の生命保険を見直し、死亡保障を減らせるかどうかを検討してみましょう。団信は、万一があった場合に住宅ローンの残債部分だけを保障する保険である点には注意しなければいけないものの、既存の生命保険の死亡保障を減らせる場合は保険料が安くなる場合があります。
また、貯蓄型の生命保険を見直すときは既存契約の最低保証利率を確認しておくこともポイントです。貯蓄型の生命保険の予定利率は契約時に定められた最低保証の利率を下回ることはありません。そのため、満期時にどれくらいお金が増えるかは契約時の予定利率が重要になります。例えば、貯蓄性のある終身保険と掛け捨ての定期保険の2つに加入している場合、予定利率が高ければ終身保険はそのまま残し、掛け捨てで加入している定期保険のほうを見直すという方法もあります。
なお、団信へ加入した場合における生命保険見直しのコツについて具体的に知りたい人は、下記の関連記事も参考にしてください。
03銀行の預金、個人向け国債や社債の利回りも上昇!さらなる家計へのプラス効果
日本の政策金利が上がった場合、住宅ローンの返済負担が増すなど家計にとってデメリットがあるのは事実です。しかし金利上昇が、家計にもたらすプラス効果は生命保険の予定利率の上昇だけではありません。例えば、銀行預金や個人向け国債および社債などの利回りが上昇しやすくなるため、金融資産から得られる所得も増加しやすくなり、メリットのほうが上回る場合があります。
みずほリサーチ&テクノロジーズのシミュレーションでは仮に2027年度までに長期金利が3.5%になり、住宅ローンの変動金利が3.1%、固定金利が4.7%まで上昇したケースであっても、全世帯平均で年間最大7.7万円の所得増加につながるという試算を公表しています。これは上述のように金利上昇によって利回りが高まった個人向け国債などの資産運用を選ぶ世帯が増え、金利上昇のデメリットよりもメリットのほうが勝ることが要因のようです。
ただし、対象を負債保有世帯に限ると若年層や低所得者層などでは、ローン返済における利払い負担増の悪影響のほうが大きいというシミュレーション結果が出ている点には注意しなければいけません。特に30~39歳の世帯では年間55.5万円(1カ月当たり4.6万円)のデメリットが生じると試算されています。
一方で、60歳以上の高齢層は住宅ローンの残債が少ない世帯が多く、金利が上がっても利息支払いの負担がそれほど重くならないうえ、多額の金融資産を持っている世帯を中心に金利上昇によって利子・配当収入が増えることでマイナス面よりもプラス面のほうが大きいと予想されています。以上のことから、金利上昇はメリット・デメリットの両方があるものの、一般的に返済負担が大きい人ほど金利上昇によるマイナス面の影響が強くなりやすいことは覚えておきましょう。
04金利のある世界では、住宅ローンは無理のない返済計画を立てよう
日本では、住宅ローンの固定金利に影響を与える長期金利が徐々に上昇し始めています。一方、住宅ローンの変動金利に影響を与える短期金利に大きな動きは見られないものの、いつ短期金利も上昇し始めるかは予断を許さない状況です。日本の政策金利が上昇することはメリットとデメリットの両方があるものの、これから住宅ローンを借り入れする予定の若年層や低中所得層にとっては返済負担の増加によるマイナスの影響が大きいと考えられます。そのため、今後の金利のある世界で住宅ローンを組むのであれば、返済比率を抑えながら無理のない範囲での返済計画の作成が必須です。
当サイト内には適正な予算を把握するために便利な「住宅購入予算シミュレーター」、金利の違いで毎月の返済額がどれくらい変わるかがすぐにわかる「毎月の返済額シミュレーター」など、住宅ローンの返済計画や老後の人生プラン作成に役立つ各種シミュレーターがそろっているので、これから住宅ローンを組む予定の人は試してみてください。
監修:新井智美
CFP®/1級ファイナンシャル・プランニング技能士
プロフィール
トータルマネーコンサルタントとして個人向け相談の他、資産運用など上記相談内容にまつわるセミナー講師を行う傍ら、年間100件以上の執筆・監修業務を手掛けている。