返済額が急激に増える変動金利の住宅ローン、長プラ連動型にご注意

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近年、日銀の金融緩和政策の修正で住宅ローンの固定金利は上昇傾向にありますが、その一方で変動金利は低水準のまま推移しています。しかし同じ変動金利であっても、適用金利の見直しによって返済額がいきなり増える商品があるのも事実です。これは長期プライムレートに連動するタイプの変動金利で借り入れしていることが原因だと考えられます。 このタイプの住宅ローンで借り入れした人の中には、契約時に内容をよく確認しておらず適用金利が上がってから気付いて後悔するケースもあるようです。そこで今回は、一部の金融機関で提供されている長期プライムレートに連動するタイプの変動金利や、その商品を選んだときのリスクなどについて解説していきます。

01長期プライムレート連動型の変動金利とは?

長期プライムレート(以下、長プラ)連動型の変動金利とは、簡単にいうと「1年以上の長期金利に連動した金利を基準にする住宅ローン」です。実は住宅ローンの変動金利のほとんどは、1年未満の短期金利に連動しており、企業にお金を貸すときの最優遇貸出金利である「短期プライムレート(以下、短プラ)」に大きな影響を受けています。

一般的な変動金利は、短プラの値を参考にしながら年に2回の適用金利見直しが行われます。しかし2024年1月末時点で日銀によるマイナス金利政策が維持されているため、多くの変動金利ではそれほど変化がありません。それどころか大手銀行の変動金利水準は、なんと15年前の2009年からほとんど変わっていません。むしろ、マイナス金利による収支の悪化に苦しむ銀行間での顧客獲得競争が過熱していることもあって、適用金利は下落傾向です。

ただし変動金利の中でも、長プラに連動するタイプはこの限りではありません。なぜなら、日銀は7月の金融政策決定会合で長期金利の上限を0.5%から事実上1%まで容認したように、少しずつ長期金利の上昇を容認する姿勢に変わりつつあるからです。

金融機関によっては長期プライムレート連動型の変動金利の住宅ローンを提供しているところもあり、今後の金利推移によっては毎月の返済額に影響を及ぼす可能性も否定できません。

新長期プライムレート連動型との違い

「長期プライムレート」と似た言葉に、「新長期プライムレート(以下、新長プラ)」があります。どちらも金融機関が優良企業向けに1年以上の長期貸し出しを行うときに最優遇金利の参考にする指標という点では同じですが、その算出方法が異なります。

長プラとはみずほ銀行などが5年債の利回りを基準に算出して公表している指標です。それに対して、新長プラは融資期間1年以内の短プラに一定の金利を上乗せしたものを各金融機関が独自に設定する指標になります。

例えば、新長プラは「期間3年以内で短プラに0.3%上乗せ」といった形で算出します。つまり新長プラは、短プラがベースです。新長プラ連動型の変動金利は短期金利に連動しているため、基本的に長期金利の影響を受けない点は覚えておきましょう。

02長期プライムレート連動型の変動金利を取り扱う金融機関は?

ここまで長プラに連動した変動金利の概要について解説してきました。とはいえ、長プラに連動した変動金利は一部の信託銀行や地方銀行、生命保険会社、JAなどで取り扱いがあるだけです。なぜ特定の金融機関だけしか取り扱いがないかというと、過去の日本の金利政策が関係しています。

かつて日本では、預金金利などを公定歩合に連動して決めていた時代(規制金利)がありました。その当時の住宅ローンは、全期間にわたって金利が一定の固定型と半年ごとに長プラに連動して金利が変わる変動型が主流でした。しかし1970年代以降、規制緩和の一環で自由化が進み、銀行が金利を独自に決められるようになっています。その結果、長プラに連動するタイプの変動金利は少なくなり、現在のように長期金利が上昇傾向になっても変動金利への影響は限定的だと言われています。

しかし現在でも、長プラ連動型の変動金利を提供している金融機関が存在することには違いありません。そのため、変動金利を選ぶときは、「何に連動して基準金利が決まるのか」までしっかりチェックしておくほうがよいでしょう。

03長期プライムレート連動型の変動金利を選ぶリスクとは?

長プラに連動した変動金利を組む最も大きなリスクは、「一般的に短期金利よりも基準金利の変動が激しいうえ、今後金利が上昇する可能性が高い」ことです。仮に基準金利が上がれば自ずと適用金利も上昇し、最終的に毎月の返済額が増えることにつながります。なぜ、長期金利が上がる可能性が高いかといえば、それはこれから日銀の金融緩和政策の転換がありそうだからです。

2024年1月末時点で日銀は短期金利でマイナス金利政策を維持しているものの、長期金利についてはイールドカーブ・コントロールを導入しています。イールドカーブ・コントロールとは、国債の買い入れによって長期金利を目標値までに抑えることを目的にした金融政策の一種です。もともと、このイールドカーブ・コントロールにおける長期金利の目標値は0%程度でしたが、度重なる修正の結果、2023年10月31日には1.0%を一定程度超える水準まで容認するようになりました。

市場では賃金の上昇が伴う形でインフレが加速した場合、マイナス金利の解除よりも先にイールドカーブ・コントロールのさらなる修正が行われるという見立てもあり、今後長プラはさらに上昇するのではないかと言われています。そのため、これから長プラ連動型の変動金利で住宅ローンを組む人は、返済額が増えるリスクについてもよく理解したうえで契約することが大切です。

04長期プライムレート連動型の変動金利を選ぶと良い局面とは?

上述したように、今後の日本では長プラに連動した変動金利を契約すると金利上昇に伴って、返済額が増加する恐れがあります。とはいえ、長プラに連動した変動金利のすべてが悪いわけではありません。金利変動が激しいというデメリットは、反対にいうと金利が下がったときの恩恵が大きいことも意味しています。つまり契約するタイミングによっては、長プラに連動した変動金利を選択したほうがよい局面もあるわけです。

その局面とは、「逆イールド」の状況です。逆イールドとは、短期金利が長期金利よりも高くなる現象のことで、過度な金融不安や政策変動によって短期金利が急騰した結果、発生することが多いと言われています。一般的に短期金利は日銀などの中央銀行が決定する政策金利の影響を強く受けるのに対し、長期金利は市場参加者による将来見通しに影響されやすいです。これまで逆イールドが発生すると、その後景気後退局面に陥るケースが多かったことから「景気後退の予兆」としても金融機関や投資家たちから重視されています。

仮に逆イールドが発生すると、長プラ連動型の変動金利は短期金利に連動した商品よりも適用金利が低くなり、総返済額も少なくて済む場合があります。とはいえ、上述のように長プラは短プラに比べて変動が激しいので、逆イールド状態は短期間で解消されるケースも珍しくありません。そのため、長プラに連動した変動金利が有利な局面であるかどうかは慎重な判断が求められます。

05変動金利の商品選びは「基準金利の決まり方」にも注目しよう!

今回紹介したように、変動金利の中には長プラに連動した商品があります。そのような変動金利は長短金利が逆イールドになっている状態では有利に働くこともありますが、「長プラ連動型の変動金利はそもそも金利変動が激しい」「日銀はマイナス金利政策の解除よりもイールドカーブ・コントロールの修正から先に取りかかる可能性が高い」といった点を考えると、あまり大きなメリットとはいえません。

以上のことから、これから住宅ローンを組む予定の人は特別な理由がない限り、基本的に長プラに連動した変動金利を選ぶ必要はないでしょう。住宅ローンを契約する前には、事前に「適用金利が決まる方法」についてしっかり確認しておくことが大切です。

なお、変動金利が上昇した場合に返済額がどのくらい変わるかを確認したい人は、サイト内にあるシミュレーターを利用すると簡単にチェックできます。特に毎月の返済額シミュレーターなら借入希望額、返済期間、ボーナス返済の有無、金利を選択するだけで金利差による毎月の返済額の違いがすぐにわかるので、忙しい人にもおすすめです。これから住宅ローンを組む予定の人はぜひ試してみてください。

新井智美

監修:新井智美

CFP®/1級ファイナンシャル・プランニング技能士

プロフィール

トータルマネーコンサルタントとして個人向け相談の他、資産運用など上記相談内容にまつわるセミナー講師を行う傍ら、年間100件以上の執筆・監修業務を手掛けている。

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