住宅ローン、金利引き下げの新プラン!ネット銀行、一定額以上の頭金で優遇幅を拡大

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日本の住宅ローンではこれまで日銀の金融緩和政策の影響もあって、各金融機関による金利の引き下げ競争が盛んに行われていました。しかし、2024年前半にもマイナス金利政策の解除が現実味を帯びるなど、これまでの金融緩和政策からの方針転換をする公算が高くなってきた状況では、金利引き下げ競争も限界を迎えつつあるのが現状です。そこでネット銀行の一部では、他行との差別化を図るため、頭金を一定額以上支払った場合に通常よりも金利を引き下げるプランを始めたところがあります。 なぜ、一部のネット銀行はそのようなプランを始めたのでしょうか。今回は住宅ローンの主流になりつつある、頭金の支払いに応じて金利が優遇されるプランの詳細について解説していきます。

01住宅ローン、激化する金利引き下げ競争もついに限界か

2016年初頭に始まった日銀のマイナス金利政策は、各金融機関の経営において厳しい政策となっています。なぜなら、マイナス金利政策は各金融機関が日本銀行の当座預金に預けているお金の一部に-0.1%の金利を適用する政策だからです。これは簡単にいうと、銀行はお金を預けているだけで日銀に対して毎日利息を支払わなければいけないことを意味しています。つまり、お金を借りて欲しい金融機関側は、消費者や企業に対して融資を積極的に行っていかなければ利益が得られないわけです。

そのため、これまで各金融機関の間で生き残りをかけた激しい顧客争奪戦が繰り広げられてきました。とはいっても、金利を低く設定すればするほど金融機関の収益性は悪化し、採算が取れなくなる恐れがあります。そうなっては本末転倒なので、これまでの顧客囲い込み競争で一定程度金利を引き下げたあとは、以下のように住宅ローンに付加価値を与える方法で消費者にアピールする金融機関が増えていました。

  • 借入期間の長期化(従来の35年から最長50年へ延長することで、毎月の返済額を安く抑える)
  • 団体信用生命保険の拡充(保障を手厚くすることで、万が一のときにも安心感を持ってもらう)
  • グループ会社のサービス利用による金利優遇(例:auじぶん銀行ではauスマホやじぶん電気などとのセット割で金利引き下げ)
  • 住宅ローンの借り手の対象範囲拡大(勤続年数が短い会社員や非正規雇用者、自営業者なども住宅ローンを利用しやすくなった)

しかし、このようなサービスはこれまでの金融緩和政策時において広がったものであり、今後日銀の方針が変更される可能性が高くなっている状況においては銀行経営の視点では限界を迎えつつあります。そこで動きの早いネット銀行の一部は、新しい施策として「頭金の支払いに応じた金利引き下げプラン」の提供を始めました。

02信用度の高い優良顧客の囲い込みにシフトするネット銀行

頭金の額に応じて金利を引き下げるプランを打ち出してきた金融機関側の狙いは、「優良顧客の囲い込み」です。なぜ金融機関側がそのような狙いを持っているかというと、多額の頭金を支払える顧客は一般的に金融資産をたくさん持っていることが多く、十分な支払い能力があると判断されるからです。つまり、万が一の貸し倒れリスクも低く、金融機関側の経営安定につながることを期待しています。

ここにきて金融機関側が貸し倒れリスクを重視し始めている理由としては、上述しているように日銀の金融緩和政策の転換が影響しています。直近の2024年1月23日に開かれた金融政策決定会合では、これまで通りの金融緩和政策が維持されることが決まったものの、植田日銀総裁は「2%の物価目標へ少しずつ確度が高まっている」と発言しました。

もともと、日銀は賃金の上昇を伴いながら2%の物価安定目標が達成される見通しが立った段階で、金融緩和政策の見直しを明言しています。そうした背景もあって、市場では早ければ2024年春闘の結果次第でマイナス金利政策の解除もありうるのではないかと噂されるようになりました。マイナス金利政策の解除によって短期金利が上昇すると金融機関の資金調達コストも増えるので、金融機関側は住宅ローンの貸し出し金利を高く設定する必要が生じます。

しかし、これまで低金利が続いてきた日本では、急激に金利を高く設定すると顧客が他の金融機関に流れる恐れがあり、安易に貸出金利を引き上げられない金融機関も少なくありません。そこで、安定した収益を稼げる事業として住宅ローンを特に重要視しているネット銀行を中心に、金利を引き上げない代わりに頭金を支払える信用度の高い顧客を囲い込んで、収益性を高める施策を打ち出してきたというわけです。

03頭金の支払いでどのくらい金利が引き下げされる?各ネット銀行の金利優遇策を紹介

ここまで紹介してきたように、ネット銀行の一部ではすでに頭金を一定額以上入れることで、優遇金利を適用してくれるサービスを取り扱っています。そこで、ここからは取り扱っている銀行とサービス内容について紹介していきます。なお、金利は毎月変動するので、実際にサービスの利用を検討する人は、必ずその時点での金利をチェックすることを忘れないでください。

住信SBIネット銀行

ネット銀行大手の住信SBIネット銀行の住宅ローン(変動金利、通期引き下げプラン)では、要件を満たした場合に以下の金利引き下げ措置を受けられます。

適用要件 基準金利 金利引き下げ幅(年) 借入金利(年)
物件価格の80%以下の借り入れ 2.775% -2.477% 0.298%
物件価格の80%超から100%以下の借り入れ 2.775% -2.455% 0.320%
物件価格の100%超の借り入れ 2.775% -2.431% 0.344%
※2024年2月時点

物件価格とは、住宅ローンを利用して購入する物件の購入価格または建築する物件の工事請負価格(いずれも諸費用や手数料は除く)の合計額のことです。物件価格の100%超で借り入れた人と、80%以下で借り入れた人では借入金利(年)が約0.05%違います。約0.05%と聞くとそれほど差はないと思う人もいるかもしれませんが、借入金額や借入期間によっては総支払額が大きく変わることがあるので、事前のシミュレーションが大切です。なお、住宅ローン契約中の保障を充実させたい人は年0.2~0.4%ほど金利がアップするものの、団信とのセットプランもあるので、そちらの利用も検討してみてください。

ソニー銀行

ソニー銀行の住宅ローンには変動金利に対応した「変動セレクト住宅ローン」、固定金利(10年・15年・20年)の「固定セレクト住宅ローン」、すべての金利タイプを選べる「住宅ローン」の3つの商品があります。これまではどの商品を選んでも自己資金の割合によって金利引き下げ幅が異なっていましたが、昨今の不動産価格上昇や利用者の資金計画および返済状況などをふまえ、2023年11月1日以降は一律の引き下げ幅に変更されました。

例えば、変動セレクト住宅ローンの場合は、新規購入または借り換えで以下のような金利が適用されます。

適用要件 基準金利 金利引き下げ幅(年) 借入金利(年)
変動金利適用期間中 1.807% -1.410% 0.397%
固定金利適用期間中 1.807% -0.950% 0.857%
※2024年2月時点

上の表では一見すると頭金の有無が金利に及ぼす影響がないように見えるかもしれません。しかし、ソニー銀行の住宅ローンでは新規購入の場合、「物件価格を超えた借り入れをする場合は金利を年0.05%上乗せする」というルールがあります。そのため、新規購入でソニー銀行の住宅ローンの利用を考えている人は、低い金利を適用してもらうために物件価格を超えた分だけは頭金を用意しておくほうがよいでしょう。

paypay銀行

paypay銀行は新規借入の人を対象に、変動金利の全期間引き下げ型で以下のような金利プランを用意しています。

適用要件 基準金利 金利引き下げ幅(年) 借入金利(年)
自己資金10%以上※ 2.280% -2.030% 0.250%
自己資金10%未満 2.280% -1.990% 0.290%
※借入総額が物件購入価格および建築請負価格の合計額に対して90%以内
※2024年2月時点

上記の金利は2024年2月7日時点のものですが、引き下げ後の適用金利は年0.25%で今回紹介する4つの銀行の中では最も低くなっています。変動金利であるため、将来的な金利上昇リスクはあるものの、借入当初の金利をできるだけ安く抑えたい人は検討してみるとよいでしょう。なお、当プランの利用にあたっては諸費用、事務手数料が自己負担となる点は留意しておいてください。

イオン銀行

最後にイオン銀行の金利優遇プランを紹介します。イオン銀行で変動金利の住宅ローンを新規借入した場合におけるプランは以下のとおりです。

適用要件 基準金利 金利引き下げ幅(年) 借入金利(年)
物件価格の80%以内の借り入れ 2.370% -1.990%※ 0.380%
物件価格の80%超の借り入れ 2.370% -1.940%※ 0.430%
※金利引き下げ幅は審査結果により変動する。-1.99%と-1.94%は最大値
※2024年2月時点

上記のように、イオン銀行では借入金額が物件価格の80%以内の場合、金利が最大で年1.99%引き下げられます。ただし、リフォーム資金の借り入れは物件価格の80%以内に該当しないため、中古住宅を購入する予定の人は気を付けましょう。また、上記の金利プランはいずれもローン取扱手数料の定率型を利用するのが条件です。ローン取扱手数料の定額型を利用する場合は、定率型に比べて金利が年0.2%高くなるので注意してください。

04ネット銀行によって、頭金の条件はさまざま!無理のない範囲で検討してみよう

今回はネット銀行が取り扱う住宅ローンで頭金を入れると金利を引き下げてくれるプランが増えている背景と、実際のプランの一例について紹介しました。本文で紹介したように、頭金を入れることで一定の金利引き下げ措置を受けられるのは、これから住宅ローンを組む人にとっては魅力でしょう。もともと支払利息を含めた住宅ローンの総返済額は、借入金額に大きな影響を受けます。頭金を用意して借入金額を抑えれば、今回紹介した金利引き下げとの相乗効果でさらに総返済額を減らすことができるかもしれません。

ただし、頭金による金利引き下げプランは、取り扱っている銀行によって用意しなければいけない頭金の割合が異なるほか、「頭金がない場合は金利上乗せになるケースもある」点には気を付けてください。金利の引き下げはとても魅力的ではあるものの、手元の生活資金を圧迫するほどの頭金を入れてしまうと、その後の生活が苦しくなる可能性があります。そのようなことがないように、あらかじめどのくらいの頭金なら家計に負担がないかをシミュレーションしておくことが大切です。当サイト内には、借入金額や金利による違いでどのくらい毎月の返済額が変わるかを簡単に試算できるシミュレーターを用意してあるので、これから住宅ローンを組む予定の人はぜひ試してみてください。

新井智美

監修:新井智美

CFP®/1級ファイナンシャル・プランニング技能士

プロフィール

トータルマネーコンサルタントとして個人向け相談の他、資産運用など上記相談内容にまつわるセミナー講師を行う傍ら、年間100件以上の執筆・監修業務を手掛けている。

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