マンション価格高騰で賃貸にシフトする人が増加!一方で家賃の値上げラッシュも

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日本の住宅市場では、人口の多い首都圏を中心にマンション価格の高騰が続いており、マイホームの購入をあきらめて賃貸物件に住み続ける人が増えつつあります。しかし不動産情報サービスのアットホーム調べによると、全国的にマンションの平均募集家賃が前年同月を上回るなど、賃貸物件の家賃も値上がりしつつあるとのことです。 マイホーム購入予算の関係もあるとはいえ、「賃貸に住み続ける」ことを選ぶのは果たして正しい選択なのでしょうか。今回はマンション購入を迷っている人に向けて、家賃が上がっている背景や購入と賃貸で迷ったときでも客観的な判断材料になる指標について解説します。

01家賃が上昇傾向!特にファミリー世帯向け物件が顕著

全国的にマンションの家賃は上昇傾向にありますが、それはアットホーム調べの「全国主要都市の賃貸マンション・アパート募集家賃動向(2023年7月)」からも明らかです。同調査によると、東京23区・東京都下・埼玉県・名古屋市・大阪市・福岡市の6つのエリアの全面積帯で、マンションの平均募集家賃が前年同月を上回りました。

その中でも代表的な例として、東京23区における面積帯別の平均家賃を以下に挙げます。

面積帯 平均家賃 前年同月比
シングル向け(30平方メートル以下) 9万832円 +3.7%
カップル向け(30~50平方メートル) 14万967円 +6.3%
ファミリー向け(50~70平方メートル) 21万4725円 +10.2%
大型ファミリー向け(70平方メートル以上) 36万6646円 +8.7%
出典:アットホーム:全国主要都市の「賃貸マンション・アパート」募集家賃動向(2023年7月)

上記のように、東京23区では面積の大きいマンションほど前年同月比で家賃が上昇傾向にあり、特にカップル向け・大型ファミリー向けは2015年1月以降の最高値を記録しました。

一部例外のエリアはあるものの、その他の都市でもファミリー世帯向けのマンションを中心に前年同月比で+3.0%以上の値上がりをしているところが多いなど、全国的に家賃が上昇傾向にあります。

02ファミリー世帯向け賃貸マンションの家賃が値上がりする背景

不動産価格は需要と供給のバランスで決まるため、賃貸マンションやアパートも駅近で近隣に商業施設などがある利便性の高い新築物件は人気があり、家賃も高くなりがちです。しかし、近年のファミリー世帯向け賃貸マンションにおける家賃の値上がりはかなり顕著で、それだけでは説明がつかないケースも少なくありません。なぜ、ここにきてファミリー世帯向け賃貸マンションの家賃は値上がりが続いているのでしょうか。ここからは、ファミリー世帯向け賃貸マンションの家賃が値上がりしている背景を説明します。

理由その1:マンション価格高騰の影響

ファミリー世帯向け賃貸マンションの家賃が上昇している背景として、まずは新築分譲マンション価格の高騰による影響が挙げられます。不動産経済研究所の「首都圏 新築分譲マンション市場動向(2023年7月)」によると、1都3県(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)の新築分譲マンション発売戸数は2591戸、平均価格は9940万円とのことでした。これはおよそ半年前のデータ(2022年12月)に比べて、発売戸数は半分以下(5919戸、43.7%)、平均価格は約1.8倍(5556万円、+179%)です。

発売戸数が減少している要因には、後述するインフレなどの影響が挙げられ、短期間に急激な価格上昇を招いたことで、予算的な兼ね合いから新築分譲マンションを購入できる人が減っていると推測されます。

それに伴って新築分譲マンションの供給数が減ると、購入という選択肢が狭まり、賃貸へシフトする人がさらに増加します。その結果、特に持ち家か賃貸かで悩む若者世帯を中心に賃貸の需要が今まで以上に高まって、人気エリアを中心に部屋数の多いファミリー世帯向けの家賃が上昇するという流れが起こっていると考えられます。

理由その2:マンション建築費の高騰などインフレの影響

上述したように、分譲マンション価格の高騰は賃貸物件の家賃にも影響しますが、そもそもなぜ分譲マンション価格が高騰しているかについては、日本でも徐々に進んできているインフレが大きな要因です。

上記の一般財団法人建物物価調査会の建築費指数グラフを見ても、RC造(鉄筋コンクリート造)の集合住宅の建築費は右肩上がりで上昇していることがわかります。そもそも、賃貸物件は大家にとって収益を生み出す存在でなくてはならず、基本的に物価と家賃は連動しています。仮にマンションを建てる建材費などが高騰して建築費そのものが高くなると、物件のオーナーはその費用を回収するために家賃を高めに設定する必要が出てくるというわけです。

加えて賃貸物件は、賃借人が退去するたびに原状回復をしなければいけません。インフレ時はその際にかかるリフォームや修繕の費用も高くなりやすく、家賃をそのままにしておくとオーナーの負担となって賃貸物件の経営に支障をきたす恐れがあります。もちろん、賃貸物件を選ぶ際は消費者が複数物件を比較して決めるケースが多く、実際にはいくらオーナーといえど周辺相場と比べて極端に高い家賃を設定するのは難しい状況です。しかし、入居率の高いエリアにある物件は需要が安定しているため、多少値上げをしても入居希望者が現れる可能性は高く、そのような立地にある賃貸物件では強気の家賃設定をしている場合が多く見られます。

03新築分譲マンション、面積縮小の傾向も顕著

新築分譲マンションの価格高騰は、賃貸住宅への需要の変化だけでなく、新たに建築されるマンションの間取りにも影響を与えています。上述した不動産経済研究所の「首都圏 新築分譲マンション市場動向(2023年7月)」によると、都区部で発売された新築分譲マンションのタイプ別戸数は以下のとおりで、圧倒的にファミリー世帯向け物件が多いことがわかります。

住宅のタイプ 発売戸数
ワンルーム 37戸
1K 7戸
1DK・1LDK 139戸
2LDK 540戸
3LDK 815戸
4LDK 4戸
出典:不動産経済研究所「首都圏 新築分譲マンション市場動向 2023 年 7 月」

ただし、一口にファミリー世帯向けの物件といっても、近年のマンション専有面積の平均値が縮小傾向にある点には注意が必要です。不動産経済研究所が2023年6月に発表した「首都圏マンション 戸当たり価格と専有面積の平均値と中央値の推移」によると、2022年のマンション専有面積の中央値は68.82平方メートル(平均値66.12平方メートル)で、3年連続で60平方メートル台が続いています。2014年には平均値が71.16平方メートル、中央値が71.11平方メートルであったことを考えると、専有面積が徐々に減少していることがわかるでしょう。特に平均値よりも市場の実態を反映しやすい中央値の縮小ペースが加速していることからも、不動産会社は販売価格を少しでも下げるために、マンションの専有面積を減らしていると推測されます。

また、2015年から2020年にかけては平均値と中央値の乖離が大きくなっており、最大で4.13平方メートルまで広がっている点もポイントです。その後、2022年においては2.7平方メートルと差が縮まってはいるものの、2014年に比べて中央値と平均値の差は開いています。

さらに、これらの数値は東京五輪選手村跡地「晴海フラッグ」のタワー棟の供給が完了していない時点でのものです。「晴海フラッグ」には板のように長い外観が特徴の板状マンションとタワー棟があり、前者の平均面積が85平方メートル程度なのに対し、後者は75平方メートル程度とその差は約10平方メートルあります。中央値と平均値の乖離は、これらの大規模マンションの引き渡しが進むとともに今以上に広がることが予想されます。

仕様・設備ともにグレードダウンした物件が増える懸念

マンション価格の高騰が続いて消費者の負担感が増した結果、契約率が低下すると、建築予算を抑えるために専有面積の縮小だけでなく、仕様や設備をグレードダウンして販売するマンションが増える可能性もあります。実際にどれくらいの契約率になったらグレードダウンした低予算のマンションを販売するかの判断は各不動産会社によって異なりますが、一般的に業界では分譲マンションの初月契約率が70%を超えた場合は好調で、それを下回った場合は不調と判断されるケースが多いようです。

近年の建材費の高騰によって、「とりあえず賃貸へシフトし、様子を見て将来的にマンションを購入しよう」と考えている場合、いざ購入しようと思ったときには、家族全員がゆとりを持った生活をするための十分な専有面積がなく、現在よりも仕様や設備がグレードダウンした物件を購入するしか選択肢が残されていないかもしれません。また、そのような物件は資産価値の低下も懸念されるので、マンション購入を先延ばしする予定の人はその点も留意したほうがよいでしょう。

04購入か賃貸か…迷った際の指標「200倍の法則」

最後に、新築分譲マンション価格高騰によって購入か賃貸かで迷っている人のために、それを判断するための「200倍の法則」という指標を紹介します。200倍の法則とは、「購入予定のマンションとそのエリアの賃貸に住んだ場合の家賃とを比較して、それが200倍以内なら割安である」と判断する考え方です。

例えば、6000万円のマンションを購入する場合、そのエリアの家賃相場が25万円であれば、「5000万円 = 25万円 × 200倍」となり、6000万円のマンションは割高だと判断します。なぜ、このような判断をするかというと、購入予定のマンションを年間利回り6%で投資用物件として活用した場合に、ある程度の利益が見込める水準だからです。上記の例だと、「300万円 = 5000万円 × 6%」が年間で見込める家賃収入であり、それを毎月の家賃にすると25万円(300万円 ÷ 12カ月)になります。

ただし、200倍の法則はあくまでも不動産投資の指標の1つであり、東京都市部など地価の高いエリアでは、300倍や400倍が普通であることも珍しくありません。大切なことは、200倍の法則を1つの目安としつつも、通勤時間や子育てのしやすさなど自分たちにとっての優先順位を満たした物件を探すことです。そうした物件を効率よく探すための指標として参考にしてみてください。

05まずは毎月どのくらいローン返済できるかシミュレーションしよう

今回は新築分譲マンション価格の高騰に伴って、賃貸物件の家賃も値上がり傾向にあることをお伝えしました。購入と賃貸のどちらを選ぶかは人それぞれですが、マンションを資産としても考え、「家賃を支払い続けるなら購入したい」と思うなら、まずは予算を把握し住宅ローンの毎月の支払いがどれくらいなら家計が苦しくならないかをシミュレーションしてみることが大切です。

当サイト内には、マンション購入の適切な予算を知るために役立つ「住宅購入予算シミュレーター」、現在支払っている家賃から借入可能額がわかる「借入可能額シミュレーター」、借入希望額や金利から毎月の返済額を知ることができる「毎月の返済額シミュレーター」があります。いずれも最短3分で結果がわかるので、ぜひ気軽に試してみてください。

新井智美

監修:新井智美

CFP®/1級ファイナンシャル・プランニング技能士

プロフィール

トータルマネーコンサルタントとして個人向け相談の他、資産運用など上記相談内容にまつわるセミナー講師を行う傍ら、年間100件以上の執筆・監修業務を手掛けている。

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