京都市、高さ規制に動きあり!マンション建設で子育て世代が暮らしやすくなる?
長きにわたり、日本の政治・文化の中心地として発展してきた京都市。今でも貴重な歴史的遺産が数多く残る京都市では、文化的な景観を守るため、2007年から「建物の高さ規制」が設けられてきました。 しかし2022年10月、京都市は市の南部などを対象に当規制の緩和案を公表しました。規制緩和を検討する背景には、若者・子育て世代を中心とした人口流出が深刻化していることが挙げられます。京都市は、人口減少数が2年連続で全国最多となっているのです。建物の高さ規制緩和により、対象地域で高層マンションなどの開発を増やし、人口減少の続く若者・子育て世代にとって住みやすい街を作りたいという考えです。 この記事では、京都市における人口流出が止まらない理由を紹介したうえで、高さ規制の緩和によりどのような影響が想定されるかといった点について解説していきます。
01人口減少数が全国で1位!京都市から若者・子育て世代が流出する理由とは?
2022年1月1日現在、総務省が住民基本台帳をもとに全国市区町村の人口減少数を調査したところ、京都市が全国で1位となりました。しかもこれは、2年連続のことです。
京都市によると、市内で少子高齢化が進む状況が続くと見込まれていることや、20〜30代の若者・子育て世代が就職や転勤、住まいの確保などを理由に市外へ流出していることが、人口減少の大きな要因とのことです。
中でも、近年著しい京都市内の土地価格や住宅価格の高騰が、若者・子育て世代の流出に拍車をかけている状況です。
2022年7月に公表された「令和4年地価調査」の結果によると、京都市内の商業地・住宅地・工業地の地価は、いずれも前年を上回りました。商業地と住宅地は2年ぶりの上昇となり、特に商業地の上昇率は前年のマイナス0.4%からプラス2.5%へと大きく増加し、新型コロナウイルス感染症拡大からの回復傾向が顕著に表れています。
さらに、マンション価格も高騰が続いています。もともと京都市は国際的な観光地であり、住宅地としても国内外から根強い人気を誇るエリアです。
加えて、最近の円安によって海外投資家の購買意欲が高まっていることや、ウクライナ情勢などを原因とする世界的なインフレによって住宅の建材費が高騰していることにより、市内のマンション販売価格は、平均的な所得の世帯では手の届かないレベルまで高くなっています。
そこで20〜30代を中心とした若者・子育て世代が、より良い住まいや生活環境を求め、市外や滋賀県などの県外へと移住する動きが加速しているのです。
02人口流出に歯止めをかけるため、建物の高さ規制を緩和する動きが!
京都市では、豊かな歴史や文化を背景とする優れた景観を守るため、2007年に建築物の高さやデザイン、屋外広告物に関する規制等を全市的に見直した「新景観政策」が制定されました。
一方で先述のとおり、京都市では若者・子育て世代の人口流出が深刻化しています。こうした状況を踏まえ、2022年10月、市内に人や企業を呼び込むため、京都市は市内の一部地域で建物高さなどの規制を緩和する案を公表しました。
公表された緩和案の内容は大きく次の3点です。
- 京都駅南側の油小路通や烏丸通沿いなどで、オフィス・研究施設をはじめとして、建物高さの上限を従来の20mまたは25mから31mに緩和
- 西院駅・西大路駅周辺でマンションなどを建設する場合、遮音対策を講じることなどを条件に、建物高さの上限を従来の20mから31mに緩和
- らくなん進都では、建物の周囲の空間を大きく確保することなどを条件として、容積率を従来の400%から1000%に拡大
緩和案の対象とされている「らくなん進都」とは、京都駅の南側、南北は十条通〜宇治川にかけての約6km、東西は東高瀬川〜国道1号線に囲まれたエリアです。油小路通沿いを中心として都市計画が比較的緩和されており、企業誘致に関する優遇制度が多く設けられていることから、最先端技術を持つ企業などが多数立地しています。
京都市で建物の高さ規制が緩和されると、どんな影響がある?
京都市では、2007年制定の新景観政策により、市内全域で段階的な建物の高さ制限が設けられています。
たとえば、都市計画法における「高度地区」に指定された地域では、10m、12m、15m、20m、25m、31mという6段階の高さ制限があります。京都市内で高度地区に指定されているのは、市内でも中心部や主要部にあたる山科駅前地区、太秦東部地区、京都駅周辺地区および七条新千本地区などです。
最高限度である31mとは、マンションにおける10階建て相当の高さです。現状11階以上の建物は建設できないため、京都市内にはタワーマンションが存在しません。なおこれには、高さ制限だけでなく容積率制限も関係しています。
さらに、中心部から少し離れたエリアはより規制が厳しくなっています。たとえば「風致地区」に指定されたエリアでは、建物高さが8m、10m、12m、15mの4段階で制限されています。
風致地区とは、都市内において、豊かな水景や緑といった自然豊かな景観を維持するために制定されるエリアのこと。建物の高さのほか、建ぺい率や色彩の変更などについても制限が設けられます。
市内随一の繁華街である、南北を五条通・御池通、東西を河原町通・堀川通に囲まれた「田の字地区」でも、幹線道路から少し中に入ると風致地区に指定されており、高さ制限は15mとなっています。高さ15mとなると、5〜6階までの中層マンションを建てるのが限界です。
高さ規制によりマンションの供給数が限られているにも関わらず、投資目的で購入する人も多く、市内のマンションは高騰が続く状況です。購入価格を抑えるために中古マンションを探そうとしても、市内では条件に合う物件が見つからない場合も多く見られます。
今後高さ規制が緩和されれば、風致地区でも10階建てのマンションが建てられる可能性があり、購入者にとって選択肢が増えることが期待されます。若者・子育て世代にも手の届くような価格帯のマンションが販売される可能性もあるでしょう。
京都市はもともと「子育て・教育環境日本一・京都」を掲げ、子育て支援施策の充実を図ってきました。規制緩和により、市内に住まいを見つけやすい状況を作れれば、若者・子育て世代の人口流出に歯止めをかけられるのではないかと期待されています。
京都市では、今後市民からの意見を募集したうえで、高さ制限の緩和を含む都市計画を策定する方針のため、いつから緩和されるかは現時点で未定です。
032022年、京都市の分譲マンション、平均価格は5518万円!あなたは買える?住宅ローンのシミュレーションを試してみよう
不動産経済研究所によると、2022年1月〜6月に京都市内で販売された新築マンションは785戸でした。
去年の同時期よりも95戸増加しているものの、1戸あたりの平均価格は昨年よりも1300万円以上高い5518万円です。面積の広い物件の供給が多かったことも要因の一つですが、平米あたりでも約3万円上昇しています。
将来高さ規制が緩和され、人気エリアでもマンション建設が増えれば、今よりも手の届きやすい価格帯でのマンション供給も期待できるでしょう。
ただ、現状の京都市内における新築マンションの平均販売価格は約5500万円と高額です。市内で新築マンションを探している人は、まず5500万円の住宅ローンを借り入れられるか確認してみるといいでしょう。 当サイトでは、借入金額から毎月の返済額目安がわかる「毎月の返済額シミュレーター」や、現在支払っている家賃だと、どのくらい借り入れられるのかがわかる「借入可能額シミュレーター」を用意しています。試算の参考にしてみてはいかがでしょうか。
監修:新井智美
CFP®/1級ファイナンシャル・プランニング技能士
プロフィール
トータルマネーコンサルタントとして個人向け相談の他、資産運用など上記相談内容にまつわるセミナー講師を行う傍ら、年間100件以上の執筆・監修業務を手掛けている。
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