ネット銀行中心に団信の保障範囲が拡充!金利上乗せなしでリスクをカバー

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近年、金融機関の住宅ローンの顧客獲得競争において、金利の低さを前面に打ち出す方法から、団体信用生命保険(以下、団信)の保障内容拡充に軸足が移りつつあるのをご存じでしょうか。特にネット銀行を中心として手厚い保障内容が魅力の団信が登場し、住宅ローン返済期間中の安心を重視したい消費者から注目を集めています。そこでこの記事では、住宅ローンを選ぶ際の基準の1つになる団信の現状をはじめ、年代別の選び方まで紹介します。

01ネット銀行を中心に、住宅ローンは団信の取り組みを強化

団信の基本的な保障は、住宅ローンの返済期間中に契約者が死亡・高度障害状態(医師の診断により余命6カ月が宣告された場合も含む)になった場合に、住宅ローンの残債をゼロにするものです。ただし、団信の保障範囲や保険料は金融機関が自由に設定できることから、近年ではネット銀行を中心にがんや生活習慣病など、特定の疾病に手厚い保障を加えた商品も登場し、競争が激しくなっています。

例えばauじぶん銀行では、従来から契約者ががんと診断された時点で住宅ローンの残債がゼロになる「がん100%保障団信」があり、以前は上乗せ金利+年0.2%で加入できました。しかし、PayPay銀行およびソニー銀行が同様の商品を低金利で販売していたことから、それに合わせて2022年5月に上乗せ金利を年0.2%から年0.1%に引き下げました。この取り組みの結果、auじぶん銀行で「がん100%保障団信」を選ぶ人は、それまでの4.6倍まで増加し、2022年8月1日にoricon MEが発表した「2022年 オリコン顧客満足度調査 住宅ローン」において、全国125の金融機関の中で総合1位を獲得しています。

その理由としては「金利の低さ」以外にも、「団体信用生命保険の充実さ」が挙げられており、住宅ローンを組む際は団信の保障内容が充実した金融機関に魅力を感じる人が増えていることがうかがえます。以下に、主なネット銀行で取り扱っている団信の比較表を記載しておくので、興味がある方は参考にしてください。

主なネット銀行の団体信用生命保険の比較表

金融機関 名称 上乗せ金利 主な保障内容
auじぶん銀行 がん100%保障団信 +年0.1% がんの診断確定時に住宅ローン残高の100%を保障
11疾病保障団信 +年0.2% がんの診断確定時、または10種類の生活習慣病で入院が180日以上継続した場合に住宅ローン残高の100%を保障
ソニー銀行 がん団信50 上乗せなし がんの診断確定時に住宅ローン残高の50%を保障
がん団信100 +年0.1% がんの診断確定時に住宅ローン残高の100%+100万円を保障
住信SBIネット銀行 3大疾病50 +年0.25%(40歳未満は上乗せなし) がんの診断時、または脳卒中や急性心筋梗塞で所定の状態になった場合に、住宅ローン残高の50%を保障
3大疾病100 +年0.4%(40歳未満は+年0.2%) がんの診断時、または脳卒中や急性心筋梗塞で所定の状態になった場合に、住宅ローン残高の100%を保障
PayPay銀行 がん50%保障団信 上乗せなし がんの診断確定時に住宅ローン残高の50%を保障
がん100%保障団信 +年0.1% がんの診断確定時に住宅ローン残高の100%を保障

02都市銀行や地方銀行、団信への取り組みは?

住宅金融支援機構の「住宅ローン利用者の実態調査(2022年4月)」によると、「住宅ローンを選んだ理由(フラット35以外の利用者)」の第1位は「金利が安い」(70.6%)で、第2位が「団信の充実」(19.3%)でした。この結果からも各金融機関による団信の保障内容充実は、住宅ローン利用者のニーズを的確にとらえていることが分かります。

このような背景もあり、近年は比較的フットワークの軽いネット銀行をメインに、団信の保障内容の拡充が進んできました。しかし、こうした状況を都市銀行や地方銀行が黙ってみているわけではありません。近年では、顧客確保のためにそれらの銀行も団信の保障内容の見直しを始めています。

例えば、北海道銀行では30歳までの契約者なら金利の上乗せなしで、全疾病保障に加入できるうえ、満51歳以上71歳未満の人でも8大疾病保障に加入(金利上乗せ年+0.15%)できます。一般的に8大疾病保障は50歳以上になると加入できないケースも多いので、健康リスクが高まってくる年代で住宅ローンを検討したい人にとっては大きな魅力でしょう。

また都市銀行のりそな銀行では、従来よりも保障内容を拡充した「団信革命」という住宅ローンを扱っています。「団信革命」では年間で0.3%の金利上乗せをすれば、三大疾病以外の病気やけがで所定の状態になった場合に、住宅ローンの返済が全額免除されるのが特徴です。

以上のように、団信の保障内容拡充の波は都市銀行や地方銀行にも及んでおり、消費者の選択肢が広がりつつあります。都市銀行や地方銀行は、ネット銀行では非対応の分割融資に対応しているケースが多い点も踏まえ、特に注文住宅を建てる人にとっては利用するメリットが増えています。

03変化する団信、今後どう選ぶべき?年代別で紹介

団信では、従来からある基本契約の「死亡・高度障害保障」に加えて、「がん保障」やがん・脳卒中・心筋梗塞に手厚い「3大疾病保障」、それに高血圧症・糖尿病・慢性腎不全・肝硬変・慢性膵炎といった5つの疾病に保障を拡充した「8大疾病保障」が登場しています。また、病気やけがの種類を問わず就業不能状態になった場合に住宅ローンの残債がなくなる「全疾病保障」、病気やケガで長期(31日以上)にわたって入院が必要となった場合に、その期間の住宅ローンの支払いが免除される「月次返済保障」というサービスも登場しました。

このように団信の選択肢が増えたことは消費者にとって好ましいことですが、かえってどの団信を選ぶべきか迷ってしまう人もいるのではないでしょうか。どの団信を選ぶべきかは年代によって健康リスクが異なるため、住宅ローン契約者の年齢に応じて変わります。そこで、ここからは住宅ローンを組む人の年代別に団信の選び方を紹介していくので、一緒に考えていきましょう。

20~30代

20代や30代で団信を選ぶときのポイントは、「必要な保障に重点を置いて考えること」です。三大疾病で亡くなる確率は他の年代に比べると低いでしょう。

ただし、厚生労働省の「2020年 人口動態調査」では20〜30代の死因のうち、心疾患が比較的高い順位を占めている点(20~34歳までは第4位、35~39歳は第3位)には注意が必要です。そのため、心配な方は後遺症への備えという点も考慮し、「三大疾病保障団信」の検討をおすすめします。

厚生労働省の同調査では「悪性新生物<腫瘍>(いわゆる、がん)」も上位に入っていますが、国立がん研究センターの調査では20~30代にかけてのがん患者のおよそ8割は女性となっています。そのため、夫婦で住宅ローンを組み、夫が債務者となる場合はそれほどがん保障だけを意識する必要はないでしょう。

なお、国立がん研究センターの調査では、20代で子宮頸がん、30代では子宮頸がんと乳がんの罹患率が高いことが分かっています。そのため、女性が債務者となる場合は、金利上乗せなしの「がん50%保障」や30歳までなら金利上乗せなしで加入できる「全疾病保障」がついている団信を選ぶのもおすすめです。いずれにしても、この年代は後述する40代以降に比べると病気の罹患率は低いので、必要な保障だけをピンポイントで選択し、コストを抑えてできるだけ返済を楽にすることが選び方のコツになります。

逆に保険料の安い年齢のうちに、民間のがん保険に加入しておくとよいでしょう。そのうえで、健康リスクが高まる50代になるまでに、繰り上げ返済を利用して住宅ローンを完済できるよう計画してみましょう。

40~50代

40~50代で住宅ローンを組む場合、完済するのは60~70代になる人が大半です。厚生労働省の「2009年国民健康・栄養調査報告」では、糖尿病などの生活習慣病は40代以降に増えることが指摘されています。この年代は20~30代に比べて3大疾病にかかるリスクは高いので、団信においてもそれなりの保障が付いている商品を選びましょう。

ただし、がんや3大疾病、8大疾病が付帯している商品には年齢制限が設けられているのが一般的です。例えば、メガバンクの場合、「満56歳未満」が加入条件になっていて、46歳を境に付帯できる特約の種類が変わります。上乗せ金利は利用する金融機関によって異なりますが、年+0.1%のところもあるので年齢要件をクリアしていれば保障が充実している8大疾病保障の検討をおすすめします。また、がんに対して不安な人は金利が上乗せされるケースは多いものの、「がん100%保障団信」へ加入するのも選択肢の1つです。

なお、どのような病気やケガであったとしても、働けなくなった場合に住宅ローンの残債を免除してくれる「全疾病保障」は基本保障として最初から団信に含まれていることも多いです。例えば、「auじぶん銀行のがん保障」「常陽銀行の3大疾病保障」には全疾病保障が付帯しています。

つまり、団信に加入さえすれば、契約者に万が一のことがあった場合における最低限の保障はある程度担保されるという見方もできるでしょう。特にペアローンを組んでいて夫婦ともに年収がある場合は、無理に金利の上乗せをして総返済額を増やすことはせず、あえて特約が無料で付帯している範囲内で団信の利用を検討してみるのも悪くありません。

60代~

60代以降で住宅ローンを組む場合、そのときの健康状態によってはそもそも団信に加入できないケースも考えられます。しかし、住宅ローンの契約において団信への加入が必須条件になっている金融機関も多いので、困ってしまう人もいるでしょう。そのようなときは、健康上の理由で通常の団信に加入できない人向けの「ワイド団信に加入する」または、団信への加入が任意である「フラット35を利用する」のどちらかになります。

ワイド団信については糖尿病や高血圧症などの持病を抱えている人でも加入できる場合がある一方で、上乗せ金利が年+0.3%ほどかかるところが多いのがデメリットです。また、特約の付帯有無も各金融機関によって異なるので、どこまでが保証範囲になるかを確認しておくことも大切だといえます。特約の付帯については通常金利に加え、年+0.1~0.3%の範囲で金利が上乗せされるケースが多いものの、病気になるリスクが高い60代で住宅ローンを組む場合は、積極的に検討したほうがよいでしょう。ただし、特約を付帯しすぎると総返済額が予算オーバーしてしまう恐れもあるので、事前によくシミュレーションしておく必要があります。

04適用金利の違いで借入金額や返済額がどう変わるのか知りたい人は、各シミュレーションを利用してみよう

これまで金融機関の住宅ローン顧客獲得競争では、低金利だけにフォーカスしてキャンペーンなどの販売普及活動をしているところが多くありました。近年でも金利を重視する人が多い点については変わりないものの、保障内容が充実した団信が登場してきたことにより、消費者が住宅ローンを選ぶ目線も変わってきています。必要な保障は住宅ローンを組むときの年齢や健康状態によっても左右されますが、返済期間中に万が一のことが起こっても大丈夫なように自分に合った団信を選びましょう。

とはいえ、借入額によっては1%未満の金利上乗せでも最終的な返済額が大きく変わる可能性があります。そのため、保障内容と総返済額のバランスを見ながら、団信への加入を検討することが重要です。

また忘れてはならないのは、「団信の保障は完済したらなくなる」ことです。さらに保障対象は住宅ローンの借入額のみです。そのため、別途必要となる生活費などの保障については、団信の保障内容を考慮しながら、民間の保険で準備しておく必要があります。団信と民間保険の保険料のバランスを考え、どちらかに偏りすぎることのないように保障を準備しておきましょう。

当サイト内には金利の違いで月々の支払額がどのくらい変わるかを簡単にシミュレーションできる「毎月の返済額シミュレーター」など、各種シミュレーターを用意しているので、住宅ローンの利用を検討している方は試してみてください。

新井智美

監修:新井智美

CFP®/1級ファイナンシャル・プランニング技能士

プロフィール

トータルマネーコンサルタントとして個人向け相談の他、資産運用など上記相談内容にまつわるセミナー講師を行う傍ら、年間100件以上の執筆・監修業務を手掛けている。

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