4月から新設された優遇制度、フラット35「維持保全型」とは?2022年10月以降、さらに制度変更も!
2022年4月から、フラット35の新たな優遇制度である「維持保全型」がスタートし、固定金利が上昇しつつある現在、注目を集めています。ただし、利用条件が設けられていたり、フラット35の他のタイプとも併用ができたりと、仕組みが分かりづらいという声も聞かれるのが実情です。そこでこの記事では、フラット35「維持保全型」の詳細やメリット、注意点について解説するとともに、2022年10月に予定されるフラット35の制度変更についても紹介していきます。
01フラット35「維持保全型」とは?
フラット35「維持保全型」とは、維持保全や維持管理に配慮した住宅、もしくは既存住宅の流通に寄与する住宅を取得すると、フラット35の借入金利を一定期間引き下げられるという制度のことです。制度の要件としてうたわれている「維持保全や維持管理に配慮した住宅」や「既存住宅の流通に寄与する住宅」は、具体的に次のような住宅を指しています。
対象となる住宅 | 概要 |
---|---|
長期優良住宅 (新築住宅、中古住宅) | 法律の規定に沿って、長期優良住宅建築等計画が認定された住宅 |
予備認定マンション (新築マンション) | 新築分譲段階の管理計画が、公益財団法人マンション管理センターから予備認定を受けたマンション |
管理計画認定マンション (中古マンション) | 法律に基づき、マンションの管理計画について、地方公共団体より管理計画認定を受けたマンション |
安心R住宅 (中古住宅) | 耐震性を有し、建物状況調査等が行われ、リフォーム等の情報が提供される中古住宅 |
インスペクション実施住宅 (中古住宅) | 法律に基づいたインスペクションが行われ、調査の結果、問題のある不足がないことが確認された住宅 |
既存住宅売買瑕疵保険付保住宅 (中古住宅) | 既存住宅売買瑕疵保険が付けられた住宅 |
上記6つの対象のうち、いずれか要件を満たす住宅を取得する場合、維持保全型によって金利引き下げを受けることが可能です。
当制度はフラット35の新たな優遇制度の一つであり、2022年4月以降に適合証明書の交付を受けた住宅を対象としてスタートしたものです。新築のみならず、中古住宅の購入も対象になります。
02フラット35「維持保全型」を利用するメリット
2022年4月より新たにスタートしたフラット35の新たな優遇制度「維持保全型」ですが、利用者には具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。
維持保全型を利用するメリットとしては、大きく次の2点が挙げられます。
- 借入当初の5年間、借入金利が年0.25%引き下げられる
- 省エネ性や耐震性などを備えた質の高い住宅を取得する際に利用可能な「フラット35S」と併用できる
ここからは、これら2つのメリットについて詳しく見ていきましょう。
当初5年間、金利が0.25%引き下げされる
フラット35「維持保全型」の最大のメリットは、借入開始から当初5年間、金利が通常より年0.25%引き下げられる点です。わずか0.25%と感じる方もいるかもしれませんが、比較的高額なお金を長期にわたって借り入れる住宅ローンでは、返済額に大きな差が生じます。
たとえば、フラット35で借入期間35年・年1.490%(※2022年6月時点で最も多い金利、融資率9割以下の場合)・4000万円を借り入れるケースにおいて、通常型と維持保全型の返済額を比較すると次のとおりです。なお、ボーナス月の加算はなしで、元利均等返済を行うものとします。
毎月の返済額 | 総返済額 | |
---|---|---|
通常型(金利優遇なし) | 12万3000円 | 5136万円 |
維持保全型 | 当初5年間:11万8000円 6〜35年目:12万2000円 |
5084万円 |
両者を比較すると、当初5年間は毎月の返済額で5000円の差です。総返済額の差は約52万円 = 5136万円 − 5084万円となり、当初5年間で考えると、維持保全型は年間10万円程度お得であることがわかります。
フラット35Sと併用できる
維持保全型を利用する2つ目のメリットは、「フラット35S」との併用が可能であるという点です。
「フラット35S」とは、省エネルギー性や耐震性などを備えた質の高い住宅を取得する場合について、一定期間にわたりフラット35の借入期間が引き下げられるという優遇制度です。借入金利が一定期間0.25%引き下げられますが、住宅の満たす技術基準のレベルに応じて適用できるプランが異なり、プランによって金利の引き下げ期間が定められています。
具体的には、より高い住宅の技術基準レベルが求められる金利Aプランでは当初10年間、Aプランよりも求められる技術基準レベルが低いBプランでは当初5年間、金利が0.25%引き下げられます。
維持保全型は、こうしたフラット35Sと併用可能です。併用した場合の引き下げ期間と引き下げ幅は次のとおりです。
併用パターン | 金利の引き下げ期間 | 金利の引き下げ幅 |
---|---|---|
フラット35S(金利Aプラン)+維持保全型 | 当初5年間 | 年0.5% |
6〜10年目 | 年0.25% | |
フラット35S(金利Bプラン)+維持保全型 | 当初10年間 | 年0.25% |
たとえば、先ほどと同じ借入期間35年・年1.490%(※2022年6月時点で最も多い金利、融資率9割以下の場合)・4000万円を借り入れるケースにおいて、維持保全型のみを適用する場合と、フラット35Sを併用する場合で比較すると次のとおりとなります。なお、ボーナス月の加算はなしで、元利均等返済を行うものとします。
毎月の返済額 | 総返済額 | |
---|---|---|
維持保全型 | 当初5年間:11万8000円 6〜35年目:12万2000円 |
5084万円 |
フラット35S(金利Aプラン)+ 維持保全型 | 当初5年間:11.3万円 6〜10年目:11.7万円 11〜35年目:12.1万円 |
4987万円 |
フラット35S(金利Bプラン)+ 維持保全型 | 当初10年間:11.8万円 11〜35年目:12.1万円 |
5039万円 |
つまり、フラット35Sの金利Aプランを併用すれば、維持保全型単体で借り入れるよりも総返済額が約97万円抑えられるということです。プランBでも約45万円お得になるため、フラット35Sと併用できる点は大きなメリットといえるでしょう。
03ただし、維持保全型の利用には注意点も!
ここまで見てきたとおり、メリットの多いフラット35「維持保全型」ですが、利用にあたっては注意すべき点もあります。
1つ目の注意点は、維持保全型には予算金額があるということです。予算金額に達する見込みが出てくると、その時点で受付終了となります。これはフラット35Sも同様です。受付終了となる場合、終了日の約3週間前までにフラット35の公式ページで告知される予定となっているため、利用を検討している方は随時確認しておきましょう。
2つ目の注意点が、2022年10月にフラット35の金利引き下げ方法について、さらなる制度見直しが予定されていることです。この点については、後の章で詳しく解説します。
042022年4月にはフラット35「地域連携型」も拡充
2022年4月に拡充された優遇制度が、フラット35「地域連携型」です。地域連携型とは、地方公共団体が提供する子育て世帯や地方移住者に対する補助金の交付とセットで、フラット35の金利優遇が受けられるという制度のことです。
子育て世帯や地方移住者に対して積極的な取り組みを行っている地方公共団体と、フラット35を提供する住宅金融支援機構が連携して取り組むもので、2023年3月31日までの申込受付分に適用されます。
地方公共団体が提供する子育て世帯向け制度と併せて利用する「子育て支援」の場合、借り入れから当初10年間について年0.25%の金利引き下げを適用可能です。UIJターン支援や空き家取得支援といった制度と併せて利用する「地域活性化」の場合は、当初5年間について金利が年0.25%引き下げられます。
この地域連携型と維持保全型は併用でき、さらに先ほどのフラット35Sも併用可能です。利用条件が適合していれば、プランに応じて、金利引き下げ期間や引き下げ幅がプラスされます。
052022年10月以降には、さらなる制度変更あり!
2022年10月、フラット35では次のような制度変更が予定されているため、事前に内容を確認しておきましょう。
(1)フラット35「ZEH」がスタート
- 脱炭素社会の実現に向けた取り組みの加速を目的として、フラット35Sに「ZEH」等住宅を対象とした「フラット35S(ZEH)」が新設されます。これは、新築・中古どちらも対象となります。
- 借り入れから当初5年間は年0.5%、6〜10年目までは年0.25%金利が引き下げられます。
(2)フラット35Sの基準の見直し
- フラット35Sの省エネルギー性基準が強化されます。
- 中古住宅の金利Bプランにおけるバリアフリー基準が見直されます。
- そのほかにも一部基準が見直され、おおむね基準が緩和される方向です。
(3)借り換えにおける利用時の最長返済期間を延長
- 対象住宅が長期優良住宅の場合、借り換え融資の利用にあたっての最長返済期間が次のように変更されます。
次の①・②のうち、いずれか短い年数を上限とする
①「80歳」−「借り換え融資の申込時の年齢」(変更なし)
②「50年」−「従前の住宅ローンの経過期間」(35年から50年に延長)
(4)金利引き下げ方法の変更
- 金利の引き下げ方法がポイント制に変更されます。
- 住宅性能や管理・修繕、自治体との連携によって使える制度などをポイント化して、当てはまる制度のポイントを加算していく仕組みとなります。
- 獲得したポイント数にしたがって、次のように金利が引き下げられます。
獲得ポイント | 金利引き下げの内容 |
---|---|
1ポイント | 当初5年間につき、年0.25%引き下げ |
2ポイント | 当初10年間につき、年0.25%引き下げ |
3ポイント | 当初5年間につき、年0.5%引き下げ 6〜10年目につき、年0.25%引き下げ |
4ポイント | 当初10年間につき、年0.5%引き下げ |
06金利優遇があるフラット35の新制度を大いに活用しよう
ウクライナ情勢を受けた資源価格の高騰などを背景とした長期金利の上昇に伴い、住宅ローンの固定金利も少しずつではありますが上昇局面となっています。(2022年6月時点)
こうした中で、2022年4月に新設された「維持保全型」などによって、フラット35における金利優遇措置が受けやすくなりました。これにより、住宅ローンで固定金利を選んだとしても、従来に比べ返済負担が軽減されることが見込まれます。
もし、今後住宅ローンを借り入れるにあたって、変動金利にするか固定金利にするか迷っているのであれば、当サイトの「毎月の返済額シミュレーター」を活用して、どのくらい返済額に違いが出るのかチェックしてみましょう。
監修:新井智美
CFP®/1級ファイナンシャル・プランニング技能士
プロフィール
トータルマネーコンサルタントとして個人向け相談の他、資産運用など上記相談内容にまつわるセミナー講師を行う傍ら、年間100件以上の執筆・監修業務を手掛けている。
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