在庫減少の影響で首都圏の中古住宅価格が前年比10%超の上昇!その背景や買い時に関する意見を紹介

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東日本不動産流通機構によると、2021年7月の在庫件数は中古マンション、中古一戸建てともに前年比で大幅減となりました。在庫数の減少を受けて、中古マンション価格も上昇しています。その背景には何があるのでしょうか。また、在庫の減少と価格の上昇で、住宅取得は今後難しくなるのでしょうか?

01首都圏で中古住宅の在庫件数減少が続く

中古住宅の在庫減少が続いています。中古不動産の業者間ネットワークシステム「レインズ」を運営する公益財団法人東日本不動産流通機構の調査(※1)によると、2021年8月の首都圏(1都3県)の中古マンションの在庫件数は4万2731件と、前年同月比マイナス11.3%、9カ月連続で前年同月を下回りました。

中古マンションだけでなく中古一戸建ての在庫数も大幅に減少しています。同機構の調査では、2021年8月の首都圏の中古一戸建ての在庫件数は2万113件と前年同月比マイナス8.8%と減少、3カ月連続で前年同月を下回ったことがわかりました。

レインズへの新規登録数も減り続けています。同調査によると2021年8月にレインズに新規登録された首都圏の中古マンションの数は1万4069件で前年比マイナス13.3%の2ケタ減となり、12カ月連続で前年同月を下回りました。中古一戸建ての新規登録数も4750件で前年比マイナス16.9%の2ケタ減となり6カ月連続で前年同月を下回りました。

その一方で中古住宅の需要は堅調です。同調査によると2021年8月の首都圏の中古マンションの成約数は3,053件で前年比プラス18.2%の2ケタ増となり、6カ月ぶりに前年同月を上回りました。中古一戸建ての売れ行きはさらに順調で、2021年8月の首都圏の中古一戸建ての成約件数は前年比21.8%増の1175件で8月としては1990年5月の同機構発足以降、過去最高の件数となっています。

つまり、首都圏の中古住宅市場では今、需要が堅調なのに供給が少ない、品薄状態が続いているということです。

※1 出典:公益財団法人東日本不動産流通機構「Market Watch 2021年8月」

02価格上昇が続く中古住宅

供給不足・在庫減少を受けて、首都圏では中古住宅の価格が上昇しています。不動産専門のデータ会社東京カンテイのリポート(※2)によると、2021年7月の首都圏中古マンションの平均価格(70平方メートル当たり)は、前月比+2.5%の4218万円と3カ月連続で前月を上回りました。

都県別で見ると、東京都では前月比+1.6%の5800万円と13カ月連続で上昇、前年同月比は+13.3%まで拡大しました。都内でも特に価格が高い23区内のマンションも13カ月連続での上昇を記録し、前月比+0.8%の6380万円となっています。神奈川県(前月比+1.6%、3147万円)や埼玉県(前月比+2.6%、2530万円)、千葉県(前月比+2.6%、2350万円)でも引き続き価格の高騰が続いており、前年同月より10%前後も高くなっています。

首都圏の中古マンション平均価格の推移

地域 2021年5月 2021年6月 2021年7月
首都圏全体 4044万円(+10.1%) 4114万円(+12.2%) 4218万円(+14.4%)
東京都 5671万円(+11.3%) 5711万円(+12.6%) 5800万円(+13.3%)
東京23区 6306万円(+10.8%) 6329万円(+11.7%) 6380万円(+11.5%)
神奈川県 3011万円(+6.1%) 3096万円(+7.9%) 3147万円(+9.9%)
埼玉県 2437万円(+8.2%) 2465万円(+8.2%) 2530万円(+11.3%)
千葉県 2247万円(+8.2%) 2291万円(+9.5%) 2350万円(+11.3%)

()内は前年同月比
※2 出典:東京カンテイ「プレスリリース 2021年8月24日」

中古一戸建ての価格も上昇が続いています。同じく東京カンテイの調査によると、2021年7月の首都圏の中古一戸建て住宅の平均価格は3374万円と、前年同月を10.4%上回りました。都県別に見ると、東京都は5383万円(前年同月比+10.1%)、23区内は平均価格が9000万円を越え、前年同月比+12.4%の9044万円と大きく上昇しました。神奈川県(同+10.2%、3569万円)、埼玉県(同+8.0%、2578万円)、千葉県(同+12.7%、2358万円)も、それぞれ前年を上回っており、首都圏全体で中古一戸建ての価格は上昇傾向にあることがわかります。(※3)

首都圏の中古一戸建て平均価格の推移

地域 2021年5月 2021年6月 2021年7月
首都圏全体 3261万円(+0.2%) 3206万円(-1.8%) 3374万円(+10.4%)
東京都 5177万円(-2.2%) 4972万円(-5.7%) 5383万円(+10.1%)
東京23区 7994万円(-16.2%) 8364万円(-10.4%) 9044万円(+12.6%)
神奈川県 3389万円(+1.2%) 3449万円(+0.8%) 3569万円(+10.2%)
埼玉県 2492万円(-1.3%) 2383万円(-4.5%) 2578万円(+8.0%)
千葉県 2415万円(+15.4%) 2382万円(+9.1%) 2358万円(+12.7%)

()内は前年同月比
※3 出典:下記の東京カンテイ「プレスリリース」より作成
2021年8月10日 2021年7月8日 2021年6月9日

03中古住宅、在庫減の背景は?

ではなぜ、コロナ禍でさまざまな経済活動に制約が出ている中にあっても、中古住宅市場は活況となっているのでしょうか?その理由としては、次のような点が指摘されています。

新築マンションの価格高騰

一般的に中古マンションの価格は新築マンションの価格に連動していると言われており、昨今の中古マンションの価格高騰にも、新築マンションの価格高騰が影響していると考えられます。実際、ここ数年、首都圏では新築マンションの価格高騰が続いており、株式会社不動産経済研究所の調査(※4)によると、2021年7月に首都圏で販売されたマンションの1戸当たりの平均価格は前年同月比+6.1%の6498万円、1平方メートルあたりの単価も98万4000円と前年同月を7.8%上回りました。こうした新築価格高騰を受け、予算的に新築マンションの購入をあきらめ、割安な中古マンションや中古一戸建てを購入するケースが増えているものと考えられます。

※4 出典:株式会社不動産経済研究所「首都圏新築分譲マンション市場動向 2021年7月」

郊外需要の増加

新型コロナウイルス感染拡大に伴い、新しい働き方の1つとして自宅でのリモートワークが定着。毎日オフィスに行く必要がなくなったことから、通勤アクセスのよい都心から郊外に転居する人が増え、それにともなって郊外の中古住宅へのニーズも高まっていることが考えられます。

コロナ禍による意識の変化

新型コロナウイルス感染拡大により在宅時間が増えたことで、「在宅ワークができる個室がほしい」「もっと広い家に住みたい」「庭のある家に住みたい」など、住宅に求める要素が変化しています。これまでマンションに住んでいた人が、マンションよりも広く、割安感のある中古一戸建てを購入して転居するケースも増えているものと考えられます。

売り控え/売り惜しみ

コロナ禍で経済の先行きが不透明なこともあり、「今は売りどきではないのかも」との懸念から、不動産の売却を控える人が増えたことが、中古不動産の在庫数減少につながったとの見方もあります。逆に昨今の中古市場の活況ぶりを見て「価格がもっと上がるのでは」との期待から、あえて物件を売りに出さない「売り惜しみ」の影響を指摘する声も聞かれます。

04今後、住宅取得は難しくなる?

では、中古住宅市場では、この先も在庫数の減少と価格高騰が続くのでしょうか?市場の先行きについては様々な予測がなされていますが、少なくとも新築マンションに関してはコロナ禍で一時停滞していた供給が回復してくると見られていることから、今後さらなる供給不足や極端な価格高騰は起きないだろうとの見方が有力です。また、コロナ禍の影響で実体経済が大きなダメージを受けていることからも、マンション価格の上昇がこれ以上続くことは考えにくいとの声も聞かれます。

ただし、その一方で「新築マンションの価格は高止まりする。中古物件の価格も上昇傾向が続くだろう」等の予測もあり、現段階では、どれが正しいのかを判断することは不可能です。したがって、結局のところ、「住宅の買い時」は、専門家の意見を参考にしつつも、最終的には自分自身で判断せざるを得ないのが実情でしょう。

もっとも、住宅の購入にあたって考慮すべきは、価格の動向だけではありません。資金計画に大きな影響を及ぼす税制についても、常に情報収集を心がけ、お得な制度が適用されるタイミングを逃さないようにしたいものです。その意味で今年は注目すべき点が2つあります。

1つ目は住宅ローン控除や住宅取得資金贈与の特例における対象住宅の拡充。2021年度税制改正で、消費税10%が適用される住宅に2022年12月末までに入居した場合に限って、この制度の対象となる住宅の床面積が、従来の「50平方メートル以上」から「40平方メートル以上」に緩和されることになったのです。これにより、40平方メートル台の単身者用のコンパクトな住宅も減税の恩恵を受けられるようになることから、新築・中古を問わず40平方メートル台の住宅の需要が高まる可能性が高いと言われています。

2つ目は住宅ローン控除の見直しです。これはまだ決定したわけではありませんが、2021年度の税制改正大綱の中で住宅ローン控除制度の在り方について見直しを行うことが明記されたことから、2022年度の税制改正で控除率や控除額が縮小される可能性が高いものとみられています。制度そのものがなくなるわけではありませんが、現行制度の恩恵を受けたいのであれば、確実に現行制度が適用される期間内に売買契約・入居を済ませる必要があります。

適用期間は、売買契約の時期などによって異なるため、国税庁のホームページで確認してください。

また、タイミングを逃さず住宅を購入するためには、今の収入や年齢でどのくらいの住宅ローンを組めるかを把握しておくことが大切です。「借入可能額シミュレーター」では、月々の支払額、ボーナス払い額、借入期間を入力するだけで、すぐに借入可能額の目安を確認することができます。資金計画を立てる際の参考に、ぜひご活用ください。

相山華子

監修:相山華子

ライター、OFFICE-Hai代表、2級ファイナンシャル・プランニング技能士

プロフィール

1997年慶應義塾大学卒業後、山口放送株式会社(NNN系列)に入社し、テレビ報道部記者として各地を取材。99 年、担当したシリーズ「自然の便り」で日本民間放送連盟賞(放送活動部門)受賞。同社退社後、2002 年から拠点を東京に移し、フリーランスのライターとして活動。各種ウェブメディア、企業広報誌などで主にインタビュー記事を担当するほか、外資系企業のための日本語コンテンツ監修も手掛ける。20代で不動産を購入したのを機に、FP(2級ファイナンシャル・プランニング技能士)の資格を取得。金融関係の記事の執筆も多い。

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