コロナ禍で関心が高まる地方移住、メリットとデメリットを考える

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コロナ禍をきっかけに、地方移住を希望する人が増えていると言われています。具体的には、どのくらいの人が地方移住を検討しているのでしょうか?地方移住のメリットとデメリットを考察するとともに、移住を促進する国や地方自治体のサポートについても調べてみました。

01コロナ禍で地方移住への関心は?

コロナ禍で外出自粛や在宅勤務を経験したことを機に、自身の生き方や働き方をあらためて考えたという人も多いのではないでしょうか。実際に「テレワークを利用すれば、大都市に住まなくても仕事ができる」「感染リスクの高い大都市に住みたくない」「広い家でストレスを溜めずに在宅ワークをしたい」などの理由から地方に移住した人の例がマスコミやインターネットなどで紹介され、注目を集めました。このようにコロナ禍をきっかけに地方に移住したいと考えている人は、決して少なくはありません。内閣府が2020年6月に公表した「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」によると、「今回の感染症の影響下において、地方移住への関心に変化はありましたか?」との問い対して、「関心が高くなった」または「関心がやや高くなった」と回答した人の割合は全体の15%に上ることがわかりました。特に関心が高かったのは東京23区に住む20代の若者で、全体の35.4%が地方移住の「関心が高くなった」または「関心がやや高くなった」と回答しています(※1)。

全体 20代・東京23区在住
関心が高くなった 3.80% 11.80%
関心がやや高くなった 11.20% 23.60%
変わらない 79.70% 35.40%
関心がやや低くなった 1.80% 4.20%
関心が低くなった 3.50% 6.30%

※1 出典:内閣府「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」P8

感染拡大を防ぐために東京を始め大都市圏では、2020年4月から緊急事態宣言や、まん延防止等重点措置が繰り返され、不要不急の外出や移動の自粛、飲食店の営業時間短縮など多くの制限が課されており、都市で暮らす楽しみやメリットが失われつつあります。また、テレワークができる環境であれば、そもそも通勤をする必要がないため、住宅費の負担も軽く、快適な生活ができそうな地方に移住したいと考える若者が増えているのかもしれません。しかし、地方での居住・就労経験のない若者にとって、地方移住は簡単ではありません。「勢いで地方に移住したものの、自分には合わなかった」となることが心配で、移住に踏み切れない人も多いのではないでしょうか。そんな人たちの間で注目を集めているのが「地域おこし協力隊制度」です。

02移住希望者が注目する「地域おこし協力隊制度」とは?

「地域おこし協力隊制度」とは、都市地域から過疎地域などのいわゆる「条件不利地域」に移住して、地域ブランドや地場産品の開発・販売・PRといった地域おこし支援や、農林水産業への従事、住民支援などの「地域協力活動」を行いながら、その地域への定住・定着を図る国の取り組みのことです。2009年のスタート以来、順調に事業は拡大しており、2020年現在、全国1065の地方自治体で約5500人が隊員として活動しています。

活動期間や活動内容、報酬額、応募要件などは受け入れ先の自治体によって異なりますが、おおむね活動期間は1~3年に限定されています。隊員になると、その土地での暮らしや地方での生活自体が自分に合うかどうかを判断した上で、移住を決定することができるため、お試し地方移住的に、地域おこし協力隊員を希望する若者が多く、総務省によると現在活動する隊員の7割近くを20歳代と30歳代が占めています(※2)。

※2 出典:総務省「令和2年度地域おこし協力隊の定住状況等にかかる調査結果」P4、P6

では、地域おこし協力隊の隊員はどのような活動を、どのような待遇で行うのかでしょうか?2021年7月現在で新規隊員を募集中の北海道夕張市を例に見ていきましょう(※3)。

地域おこし協力隊募集要項:北海道夕張市の場合(一部抜粋)

雇用関係の有無
業務概要 ①イベント事業の支援(市内イベントの事務局支援や物産展での特産品PR等)
②ふるさと納税返礼品メニューの考案
③夕張市地域おこし協力隊Facebook等を活用した各種地域情報の発信
④他市町村地域おこし協力隊と連携した事業の実施
⑤観光案内業務に関すること
⑥その他目的達成のために必要な業務
募集対象 ①地域住民や地域団体等と積極的にコミュニケーションを図り、円滑に業務を遂行できる方
②満18歳以上で、心身ともに健康な者で、性別は問いません
③現在、過疎地域以外に居住し、採用決定後に夕張市に住民票を異動することができる者
④地方公務員法第16条に規定する一般職員の欠格事項に該当しない者
⑤普通自動車運転免許を取得している者(AT限定可)
⑥ワード、エクセル等のパソコン操作ができる方
募集人員 観光促進支援(1名)
勤務時間 原則、月曜日から金曜日までの週5日間(祝日及び12月31日から翌年1月5日までを除く)。9時から16時15分まで(実労働時間6時間15分)
雇用形態・期間 ①身分は、会計年度任用職員とします
②任用期間は、任用開始日からその日の属する会計年度の末日までとします。なお、活動実績等を踏まえて、1年毎に更新し、最長で3年間まで延長することが可能です
③地域おこし協力隊として、ふさわしくないと市長が判断した場合には、任期中であっても、任用を取り消すことがあります
給与・賃金等 月額20万円(その他手当支給あり、社会保険料等が控除されます。)
待遇・福利厚生 社会保険等:社会保険、雇用保険、厚生年金に加入します
有給休暇:労働基準法第39条の定めるところによります
健康診断:年1回
活動車両:個人でご用意いただきます。借り上げ料として月額3万円を支給します
住居:夕張市内の住宅を市が準備し、家賃は市が全額負担します
転居に係る費用、生活必需品、光熱水費は個人負担です
活動に必要な経費:消耗品や旅費等については、予算の範囲内で市が提供します

※3 出典:一般社団法人移住・交流推進機構

このように受け入れ自治体からさまざまなサポートを受けながら地方での暮らしや仕事を体験できる「地域おこし協力隊」は、地方での居住や就労経験のない人にとっては、比較的リスクの少ないお試し移住の方法だということができそうです。実際、総務省の調査によると、地域おこし協力隊の隊員経験者のうち、活動期間終了後に活動地域に定住した人は全体の約63%(活動地と同一市町村内に定住:50.7%+活動地の近隣市町村内に定住:12.3%)に上っています。同一市町村内に定住した隊員の進路として最も多かったのが、「就業」で全体の41.2%、次いで「起業」が38.5%、「就農・就林」が12.5%でした(※4)。

※4 出典:総務省「令和2年度地域おこし協力隊の定住状況等にかかる調査結果」P4、P6

なお、同調査によると定住率が最も高かったのは山口県で79.7%、最も低かったのは沖縄県で48.4%でした。沖縄県は観光地としても移住先としても人気が高いイメージがありますが、同県内で地域おこし協力隊を受け入れている地域の多くが離島で、企業など就労先が少ないことや、主幹産業である観光業がコロナで停滞しているなどの事情を抱えていて、移住したくてもできないケースも多いものと考えられます。地域おこし協力隊に応募するにあたっては、活動期間終了後にどんな進路を取りたいのかをよく考え、定住を希望する場合は好きか嫌いかだけでなく、その地域の経済状況や就労先の多寡などを確認してから、慎重に応募先を決めた方が良いでしょう。

現在、地域おこし協力隊の受け入れを募集している自治体と募集要項、隊員経験者のインタビューなど各種情報については、一般社団法人 移住・交流推進機構のホームページで随時確認することができます。

03地方移住のメリット・デメリット

もちろん、地域おこし協力隊に応募する場合のみならず、地方移住をするときには、移住のメリットだけでなくデメリットも把握した上で、慎重に判断することが大切です。ここでは、地方移住のメリットとデメリットとして指摘されているものを紹介します。

地方移住のメリット

  • 住居費が安いため、生活費を抑えやすい
  • 同じ家賃や取得費で、都会よりも広い家に住める
  • 満員電車での通勤から解放される
  • 自然環境豊かな場所に住める
  • 新鮮な食材が比較的安価に手に入る
  • 子どもをのびのびとした環境で育てられる
  • 自治体の移住者支援を受けられる
  • 地方には子育て支援を受けられる自治体が多い
  • 近隣住民との交流を持ちやすい

地方移住のデメリット

  • 交通機関が発達しておらず、自家用車がないと生活が不便である
  • 就労先の選択肢が少ない
  • 子どもの学校の選択肢が少ない
  • 飲食店や商店が少ない
  • 娯楽施設が少ない
  • 医療機関が少ない
  • 地域社会が閉鎖的で、溶け込みづらいことがある

04地方移住希望者を支える行政のサポート

地方移住を検討する際に、確認したいのが各自治体の提供している移住者向けの支援制度です。過疎や高齢化に悩む自治体の多くが独自の支援制度を設けています。ここでは、「住居」「子育て」「仕事」のジャンルごとに、主な自治体の支援制度をいくつか紹介しましょう。

住居に関する支援制度の例

自治体名 主な支援内容
鹿児島県薩摩川内市 定住のために400万円以上の住宅を購入した人を対象に、最大150万円を補助する

参考:http://www.city.satsumasendai.lg.jp/www/contents/1270046749584/index.html
山形県遊佐町 県外から移住者が賃貸住宅に入居した場合、その家賃の一部(上限1万円/月)を最大24か月補助する

参考:http://www.yuza-iju.com/yamagataiju_support/
鳥取県岩美町 空き家活用情報システムを利用し、一定の要件を満たす移住者が住宅を改修する場合、その費用の2分の1を助成する(上限金額:県外からの移住者200万円、鳥取県東部以外の県内からの移住者100万円)

参考:http://www.iwami.gr.jp/dd.aspx?menuid=2221

子育てに関する支援制度の例

自治体名 主な支援内容
北海道士別市 登録店舗で割引などの独自サービスが受けられるパスポートを子育て世帯(中学生以下の児童を有する世帯)及び妊婦の方に発行する

参考:https://www.city.shibetsu.lg.jp/www/contents/1608180038198/index.html
栃木県大田原市 空き家等情報バンク制度を利用して空き家を賃借した子育て世帯に、予算の範囲内で家賃の一部(1万円/月)を最大3年間補助する

参考:https://www.city.ohtawara.tochigi.jp/docs/2014062700028/
高知県津野町 児童を出産した者または保護者で、出産の日の3か月前から津野町に住所を有し、引き続き津野町に住所を有する見込みのある方。小中学校に入学する日において、児童、生徒並びに保護者が津野町に住所を有する者
※出産時:第1子5万円、第2子10万円、第3子以降30万円
※小学校入学時:3万円
※中学校入学時:3万円

参考:https://town.kochi-tsuno.lg.jp/kurashi/ijyu/ijyu_children

仕事に関する支援制度

自治体名 主な支援内容
北海道置戸町 町内に在住・起業し、起業後5年以上事業を継続し、積極的に事業を営む意志がある者に100万円を交付する

参考:http://www.town.oketo.hokkaido.jp/chosei/hojo_shorei/kikaku-shoukou/
秋田県秋田市 東京圏から秋田市に移住して就労する人を対象に、最大100万円を補助する

参考:https://www.a-iju.jp/p1527
熊本県天草市 次世代を担う農業者となることを志向する者に対し、就農前の研修を後押しする資金を年間150万円(最長2年間)交付する

参考:http://hp.amakusa-web.jp/a1309/MyHp/Pub/Free.aspx?CNo=15

一般社団法人 移住・交流推進機構のホームページでは全国の自治体で行われている支援制度の一覧を確認できます。

地方移住では事前の情報収集や準備が重要です。移住を検討している人は各自治体が行っている移住セミナーや移住体験会などに参加して、経験者や自治体の担当者に直接話を聞くなどして生の情報を集め、よく比較検討してから冷静に判断するようにしましょう。

相山華子

監修:相山華子

ライター、OFFICE-Hai代表、2級ファイナンシャル・プランニング技能士

プロフィール

1997年慶應義塾大学卒業後、山口放送株式会社(NNN系列)に入社し、テレビ報道部記者として各地を取材。99 年、担当したシリーズ「自然の便り」で日本民間放送連盟賞(放送活動部門)受賞。同社退社後、2002 年から拠点を東京に移し、フリーランスのライターとして活動。各種ウェブメディア、企業広報誌などで主にインタビュー記事を担当するほか、外資系企業のための日本語コンテンツ監修も手掛ける。20代で不動産を購入したのを機に、FP(2級ファイナンシャル・プランニング技能士)の資格を取得。金融関係の記事の執筆も多い。

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