今注目の都市開発エリアとは?住まい探しでは開発計画にも注目しよう

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東京オリンピック・パラリンピック大会や2025年に開催が予定されている大阪万博など大規模な国際イベントを控え、日本では今、各地で都市開発が進んでいます。都市の表情を大きく変える都市開発は、誰によってどのように行われるのでしょうか?一般的な都市開発の進め方を解説するとともに、都市開発が私たちの住まい選びに及ぼす影響について考えてみます。

01街づくりはどのように進められるのか

第二次大戦後の日本は急速な高度経済成長を成し遂げました。しかし、人口や産業が都市に集中し、無秩序な市街化により、景観や生活環境が損なわれてしまいました。道路や公園といった安全で快適な都市生活を営むために必要不可欠な施設の整備が行われないままに市街地が形成されるといった弊害が生じたのです。

そこで国は1968年、都市の健全な発展と秩序ある街づくりを図るため、都市計画にかかわるルールを定めた都市計画法を制定。以来、同法に基づいた都市開発が各地で行われるようになりました。

02都市開発事業の担い手は?

都市開発事業の多くは、行政が大きな方針を決め、民間企業が呼応する形で進められます。都市計画を決定する手続きは都市計画法に定められていて、行政はまず公聴会などを開いて住民の意見を聞き、住民の意見を反映した都市計画案を作成します。案は住民に公告・縦覧され、住民は案に対する意見を提出することができるようになっています。案は住民から提出された意見書とともに都市計画審議会に提出され、審議後に必要な手続きを経て決定されます。

なお、広域的、根幹的な見地から決定すべき大規模な都市計画については都道府県が定め、その他については、基本的に市町村が定めることになっています。

また、日本の都市の国際競争力が相対的に低下する中で、成長をけん引する大都市については官民が連携して市街地の整備を推進し、海外から企業や人を呼び込むことができる魅力のある都市拠点を形成することが課題となっています。そこで重点的に市街地の整備を推進すべき地域として、政令で指定されているのが全国で51地域の都市再生緊急整備地域です。都市再生緊急整備地域の中から国際競争力の強化を図るために特に有効な地域として政令で指定されているのが、全国15地域の特定都市再生緊急整備地域です(地域の数は令和2年9月16日現在)。こうした地域では、土地利用の規制や建物の容積率が緩和されるなどの優遇措置が取られ、開発がスムーズに進みやすくなります。こうして行政が作成した都市計画案をもとに実際の計画を立てて実行していくのは不動産会社や建設会社、鉄道会社など「デベロッパー」と呼ばれる民間企業です。

例えば現在JR渋谷駅周辺で東京都と渋谷区が進めている都市計画事業「渋谷駅街区土地区画整理事業」では、2005年に対象地域が都市再生緊急整備地域に指定され、2007年には有識者や国の担当者らでつくる「渋谷駅街区基盤整備検討委員会」が設置されました。その後、2009年に計画が決定(※1)、2010年度から東京急行電鉄株式会社、独立行政法人都市再生機構が共同施行者となって再開発を進めています(※2)。

※1 渋谷駅街区土地区画整理事業
※2 渋谷区「渋谷駅街区基盤整備都市計画決定・変更について」

03都市開発の現状を住まい探しの参考に

都市開発が行われた地域は雑然としていた街並みが刷新され、新たな商業施設や文化施設、オフィスビルや公共施設がオープンするなど活気ある街に生まれ変わります。また、都市開発で地域に防災機能が強化され、公共の子育て関連施設が拡充された結果、その地域や近隣エリアが「住みたい街」として人気を集め、「住みたい街ランキング」の上位にランクインするといったこともあります。

マイホームの購入を考えている人は、進行中の都市開発の内容をチェックして、再開発などによって住みやすい街に生まれ変わりそうなエリアがないかどうか、確認してみると良いでしょう。全国で進行中の民間の都市開発については国土交通省のホームページ(※3)で確認することができます。

※3 国土交通省「民間都市開発」

全国各地で様々な都市開発が行われていますが、注目を集めている再開発には次のようなものがあります。

「TOKYO TORCH(東京トーチ)」(東京都)

東京駅に近い常盤橋で進行中の三菱地所グループによる複合再開発エリア「TOKYO TORCH」。2021年7月にプロジェクトの第一弾となる東京駅周辺では最も高いオフィスタワー・常盤橋タワーが完成。さらに2027年度の完成を目指して常盤橋タワーの隣に高さ約390m、地上63階建て規模の国内最高層・最大級の超高層複合ビル「トーチタワー」が建設される予定で、大阪市阿倍野区の超高層ビル・あべのハルカスを越える日本一高い超高層ビルとして注目されています。

参考:https://tokyotorch.mec.co.jp/

「うめきた2期地区開発プロジェクト」(大阪府)

大阪駅前の貨物ヤード跡地で進む大規模複合開発がうめきたプロジェクト。すでにグランフロント大阪としてオープンしている「うめきた1期地区」に続き、「うめきた2期地区」でも広大な都市公園と複合高層ビル4棟で構成される、延べ床面積約55万平方メートルにも及ぶ巨大再開発が2024年の先行開業を目指して進行しています。また、同地区では2023年春に北梅田駅も開業予定で、さらなる利便性の向上も期待されています。

参考:https://umekita2.jp/

「栄広場再開発(錦三丁目25番街区市有地等活用事業)」(愛知県)

名古屋の繁華街・栄地区の中心部に位置する「栄広場」を中心とした区画で進行中の再開発事業。延床面積約9万9500平方メートル、地上36階建て、高さ約200mと、栄地区では最高層の超高層ビルが建設されることで注目を集めています。同ビルは2026年オープンを目指しており、ラグジュアリーホテル、シアターオフィス、商業施設が入居予定。

参考:https://www.city.nagoya.jp/jutakutoshi/page/0000125813.html

「天神ビッグバン」(福岡県)

福岡市が「アジアの拠点都市としての役割・機能を高め、新たな空間と雇用を創出するプロジェクト」として天神地区で推進中の再開発事業。国家戦略特区による「航空法高さ制限の特例承認」や市独自の容積率緩和制度などを組み合わせ,ソフト・ハード両面にわたる施策を一体的に推進し、2024年までに計30棟のビルの建て替えを誘導、新たな空間と雇用の創造を目指しています。

参考:https://www.city.fukuoka.lg.jp/jutaku-toshi/kaihatsu/shisei/20150226.html

04都市開発の住まい探しへの影響は

都市再生緊急整備地域などでは、一定の要件を満たせば、もともと定められていた土地の用途や容積率の制限、建築物の高さの制限が緩和されるため、他ではなかなか実現できないデザインや設計の建物を建てることができるようになります。その結果、超高層マンションの建設が可能になるなど、住まい探しの幅が広がるというメリットがあります。また、再開発地域の住宅地は、無秩序な開発を防ぎ、良好な住環境を実現するため、公園や緑地を設置している場合も多く、一般的な住宅地よりも快適で良好な住環境が期待できます。

その一方で、都市開発で利便性や知名度が向上することによって、対象地域や周辺地域で不動産価格が上昇する傾向がみられます。例えば東京都港区の港南・芝浦地区では、JR山手線「高輪ゲートウェイ駅」の開業(2020年3月)やリニア中央新幹線の開業(2027年を予定)など利便性の向上が期待されることから、マンション用地に対する需要が高まって地価が上昇しており、2020年の地価公示(※4)によると、同区の標準地における1平方メートルあたりの地価は122万円と前年に比べ14.4%も高くなっています。

大阪府豊中市の千里中央駅周辺では、マンション開発に伴う人口の増加や商業施設の再整備などにより活性化が進んでいるほか、今後予定されている大型商業施設の一体再開発構想などへの期待も相まって地価が高騰、駅前広場に隣接した商業地の1平方メートルあたりの地価は前年よりも41.3%も高い178万円となりました。

※4 国土交通省「令和2年地価公示説明資料49特徴的な地価の上昇が見られた各地点の動向」

このように、都市開発によって生まれる街は付加価値も高いため、一般的には住宅の資産価値は高まりますが、一方で価格の上昇で購入するのが難しくなるという面もあります。このほか、都市開発を機に人口が急増することで、交通機関が混雑する、希望する保育園に子供を入れられないなど、思わぬ弊害が生じるおそれもあります。都市開発エリアやその周辺でマイホームを探す際は、都市開発の内容をしっかりと確認し、実際にそこで生活するメリットとデメリットを十分比較検討した上で決定するようにしたいものです。

相山華子

監修:相山華子

ライター、OFFICE-Hai代表、2級ファイナンシャル・プランニング技能士

プロフィール

1997年慶應義塾大学卒業後、山口放送株式会社(NNN系列)に入社し、テレビ報道部記者として各地を取材。99 年、担当したシリーズ「自然の便り」で日本民間放送連盟賞(放送活動部門)受賞。同社退社後、2002 年から拠点を東京に移し、フリーランスのライターとして活動。各種ウェブメディア、企業広報誌などで主にインタビュー記事を担当するほか、外資系企業のための日本語コンテンツ監修も手掛ける。20代で不動産を購入したのを機に、FP(2級ファイナンシャル・プランニング技能士)の資格を取得。金融関係の記事の執筆も多い。

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