住宅取得時の贈与税はいくらまで非課税になる?
個人から財産を受け取る場合にかかる税金を「贈与税」と言います。原則として贈与を受けたすべての財産に対して課税されますが、財産の性質や贈与の目的によっては、贈与税がかからないケースもあります。ここでは、住宅取得時の贈与税について詳しく解説します。
01生前贈与時の贈与税
たとえ、財産を与えてくれた相手が親や配偶者でも、他人から財産を受け取れば贈与税がかかります。とはいえ、すべてが対象になるわけではありません。贈与税には年間110万円の基礎控除額が定められており、もし110万円以内であれば申告の必要はなく、課税もされません。逆に、110万円を超える財産を受け取った場合は、翌年には申告をして贈与税を納める義務が発生します。
暦年課税制度とは?
贈与税は暦年課税(れきねんかぜい)制度という課税方式が採用されています。暦年とは、1~12月までの1年という意味があり、4月~翌年3月までの年度と区別するために、暦年という呼び方をしています。
個人から財産を受け取った場合、毎年1月1日~12月31日までの贈与分が合計されて、税額が計算されます。贈与を受けていれば翌年の確定申告で税務署に申告し、納税の手続きを行う必要があります。申告せずに後で贈与の事実が発覚した場合は、ペナルティが課せられるので注意しましょう。税額は受け取った財産の金額に応じて税率をかけて計算される仕組みになっており、税率は贈与額が大きいほど高くなる「累進課税」となっています。
暦年課税制度には、前述した通り年間110万円の基礎控除があります。贈与税は課税価格から基礎控除額を差し引いた金額に対して課税がされます。110万円を超えた場合は、その超えた分に対してのみ贈与税が課されることになり、贈与税を納める義務があるのは贈与者ではなく受贈者となります。複数人から贈与を受けた場合でも、基礎控除額は年間110万円のままとなります。
02住宅取得等資金の資金贈与の特例について
2015年1月1日から2021年12月31日までの間に、両親もしくは祖父母などの直系尊属から、マイホーム購入資金や増改築のための贈与を受けた場合は、一定の要件を満たしていれば贈与税が非課税対象となります。「住宅取得等資金贈与の非課税特例」という制度により、最大 3000万円の贈与まで非課税となります。この制度では、110万円の基礎控除額を上乗せした金額まで贈与税がゼロになるというメリットがあります。住宅の購入や新築・増改築を検討したら、ぜひ利用したい制度です。
制度の概要と適用要件
住宅取得資金の贈与で非課税となるためには、一定の要件を満たす必要があります。その一つに、「非課税を受けるためには贈与を受けた翌年の3月15日までに住宅の引き渡しを受け、居住しなければいけない」というものがあります。仮に、建物の引き渡しが3月15日を過ぎてしまうと、住宅取得のための費用を親から贈与されていても、非課税枠を利用できなくなってしまいます。そのため、引き渡し時に贈与を受け取るように調整するなど、贈与のタイミングについても検討する必要があります。
非課税を受けるための主な要件は以下となります。
- 贈与を受けた年の翌年の3月15日までに、購入・新築・増改築等を行った物件の残金決済や引き渡しを行い、住宅を所有していること。
- 贈与を受けた年の翌年の3月15日までに、住宅に居住すること。または、その後
も遅滞なく入居することが確実に見込まれること。 - 贈与を受けた年の受贈者の合計所得金額が 2000万円以下であること。さらに受贈者の年齢が贈与を受けた年の1月1日時点で20歳以上であること。
- 対象となる住宅用の家屋は日本国内にあること。
- 住宅の登記簿面積が50平米以上240平米以下であること。
住居の種類が新築か中古物件かによっても要件が異なり、増改築の場合は工事費用が100万円以上であることという要件が含まれます。対象物件ごとの注意点についてあらかじめ確認するようにしましょう。
住宅ローン控除額に影響すること
「住宅取得等資金贈与の非課税特例」を利用する場合、気になるのが住宅ローン控除です。住宅ローン控除は、毎年末の住宅ローン残額、もしくは住宅の取得対価のうち少ない方の金額の1%が10年間にわたって所得税から控除される制度です。仮に、4000万円の物件を購入し借入額が2500万円、贈与が1000万円だった場合、購入額の4000万円から贈与額1000万円を引いても、借入額の2500万円よりも金額(3000万円)が上回るため、借入額の全額が住宅ローン控除の対象となります。
しかし、同じ購入額で借入額が3000万円、贈与額が1500万円だった場合は、購入額4000万円から贈与額1500万円を差し引くと2500万円となり、借入額の3000万円のうち、2500万円が住宅を取得するための借入金となります。そのため、超過した500万円は住宅ローン控除の対象から外れます。
住宅取得資金贈与の非課税特例と住宅ローン控除を利用する際は、「住宅ローン借入額+住宅取得資金の贈与額」が購入額を上回った場合、住宅ローン控除額の金額に影響することを覚えておきましょう。
03消費税10%後の非課税限度額は?
2019年10月から消費税が10%になりましたが、住宅取得資金贈与の非課税特例を受ける場合、非課税限度額はどうなるのでしょうか? 一定の要件を満たした上で、一般住宅と一定基準を満たした住宅を購入、もしくは増改築する場合の具体例を契約締結日ごとに紹介します。
消費税10%における契約締結日ごとの非課税限度額
2019年4月1日以降の契約で、消費税が10%の物件の非課税枠の目安は以下となります。
契約期間:2019年4月1日~2020年3月31日の場合→2500万円(一般住宅)・3000万円(一定基準を満たす住宅)
契約期間:2020年4月1日~2021年3月31日の場合→1000万円(一般住宅)・1500万円(一定基準を満たす住宅)
契約期間:2021年4月1日~2021年12月31日の場合→700万円(一般住宅)・1200万円(一定基準を満たす住宅)
上記の一定基準を満たす住宅とは、「断熱等性能等級4または一次エネルギー消費量等級4以上」、「耐震等級2以上または免震建築物」、「高齢者等配慮対策等級3以上」のいずれかを満たす住宅です。2019年3月31日までに契約された物件については、引き渡しが消費税10%となる2019年10月1日以降の場合でも、以前の税率8%が適用されるケースもあります。また、東日本大震災により滅失した住宅再建等の非課税枠は、1000万円(一般住宅)と1500万円(一定基準を満たす住宅)となります。
04非課税特例を利用する際の注意点
「住宅取得等資金贈与の非課税特例」を利用する際には、非課税対象となるために所定の手続きを行う必要があります。せっかく住宅取得のために贈与を受けていても、申告を行わなかったり、要件を見落としていたりすると、最終的に非課税とならない可能性があります。以下の注意点について意識するようにしましょう。
注意点その1:贈与税が0円でも申告が必要
贈与税が0円になるとしても、申告手続きを行わなければ非課税の対象とはなりません。申告には期限があり、贈与を受けた翌年の2月1日から3月15日の間に税務署で手続きを行う必要があります。例えば、2019年分の適用を受ける場合は、2020年2月1日~3月15日の間に、申告や納税手続き済ませるようにしましょう。
申告に必要な主な書類は、非課税の特例の適用を受ける旨が記載された贈与税の申告書、戸籍謄本、登記事項証明書、住宅購入の際の契約書の写しなどになります。納税地の所轄税務署に必要書類を忘れずに提出しましょう。また、マイナンバー制度の導入に伴い、個人カードなどの本人確認書類の提示やコピー添付も必要になります。
注意点その2:小規模宅地等の特例について
贈与税は110万円以上の贈与の場合に課税対象となります。現金や預金だけでなく、土地の贈与も対象となります。もし土地を贈与された場合、「小規模宅地等の特例」の適用は果たして可能なのでしょうか? この「小規模宅地等の特例」とは、正式名称を「租税特別措置法第69条の4小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例」と言い、贈与税ではなく、相続税の特例となります。そのため、贈与税の特例として減額することは原則としてできません。
住宅と土地は密接な関係にあるため、土地の贈与も「住宅取得等資金贈与の非課税特例」に含まれると考えがちですが、この制度は金銭が対象となるため、土地は対象外となります。例えば、夫婦でマイホームを購入し、建物は夫の名義、土地は夫と妻の共有名義としたとします。この場合、もし妻が親や祖父母から贈与を受けたとしても、妻は土地のみで家屋を取得していないため、贈与を受けた資金に対しては非課税の適用外となります。また、同じケースで妻の親や祖父母が、義理の息子である夫に贈与をした場合、いくら夫が住宅を取得して名義人となっていても、直系尊属からの贈与ではないため、同様に非課税の適用はありません。
非課税対象の申告を検討している方の中には、住宅ローン契約後に返済のための贈与を受けるという方がいるかもしれません。しかし、「住宅取得等資金贈与の非課税特例」の要件を満たせないと非課税対象外となるため、注意が必要です。
注意点その3:「相続時精算課税」選択時の対応
贈与を受けた年の翌年の3月15日までに行う贈与税の申告では、前述した「暦年課税」ではなく「相続時精算課税」を選択することも可能です。相続時精算課税とは、60歳以上の親もしくは祖父母からの贈与の際に、相続までの贈与額を相続財産として加算し、納めた贈与税を相続税で精算する制度のことです。
相続時精算課税では、贈与の合計額が2500万円までであれば、贈与税がかからない特別控除額を利用できます。しかし、2500万円の特別控除額分は相続財産に加算され、相続時に相続税として精算されます。また一度、相続時精算課税を選ぶと、同じ親からの贈与は暦年課税に戻せないため注意が必要です。
05親子リレーローンを利用する際の注意点
親子リレーローンとは、最初は親が住宅ローンの返済をし、親が退職、もしくは、高齢になったタイミングで子どもに引き継がれるローンです。返済期間を長く設定できる特徴があり、親子で同居する場合や親が高齢で住宅ローンを組めない場合などは、親子リレーローンを利用することで希望するマイホームを購入できます。
親子リレーローンの場合は、一般的に共有名義となるため、それぞれが負担する割合に応じた住宅ローン控除を受けられます。しかし、注意しなくてはいけないのが、贈与税や相続税がかかる可能性がある点です。
例えば、親子リレーローンで子どもが100%返済している場合、親と子どもで名義を50%ずつ持っているとします。そうすると仮に親が亡くなった際、税制上は親の名義分が相続財産となり、他に兄弟がいれば相続争いとなってしまう可能性があります。所有者が複数の共有名義になってしまうケースでは、名義変更をすると夫から妻、親から子どもへの贈与とみなされ、贈与税がかかるケースがあるため注意が必要です。 親が全額出資していて、「将来は子どもが相続するのだから」という理由で持分の登記をする際は、贈与税がかかるリスクがあるという認識を持ちましょう。子どもに十分な資金がない場合、まずは「住宅取得等資金贈与の非課税特例」を利用して資金を提供し、贈与税の負担を軽減しながら子どもに二世帯住宅の持分を持たせる選択肢を取ることも一つの手です。
監修:川添典子
住宅金融普及協会 住宅ローンアドバイザー/2級ファイナンシャル・プランニング技能士
プロフィール
大学卒業後、某ハウスメーカー就職。住宅販売の営業職として、顧客開拓、住まいづくりの提案、資金計画相談、販売後のアフターフォローを担当。仕事を通して、お客様の一番の関心事と不安はお金に関する事だと感じ、ファイナンシャルプランナー2級と住宅ローンアドバイザーの資格を取得。ハウスメーカーを退職後、暮らしに役立つライター・編集者として、お金・不動産に関する知識や情報を提供しています。
文・監修:下澤一人
宅地建物取引士
プロフィール
出版社勤務後、宅地建物取引士の資格を取得し、不動産専門新聞記者、不動産会社勤務を経て現在、編集者・ライターとして活動中。