固定資産税清算金とは?不動産売却時に覚えておきたい日割り計算の方法

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不動産の売買で、必要な手続きの1つが「固定資産税清算金」の支払いです。売買取引のあった不動産は、1年のうち売主と買主が所有している時期があるため、固定資産税と都市計画税をそれぞれ負担し合うことになります。今回は「固定資産税清算金」についての基本知識と、その日割り計算の方法について解説します。

01固定資産税清算金とは?

土地や建物などの不動産を所有していると、その年の1月1日時点での所有者に対して「固定資産税」と「都市計画税」が課税されます。継続的に所有している場合は、毎年課税額を支払えばいいのですが、問題となるのは「売買」などで不動産の持ち主が変わった年です。

一般的に、不動産売買では、売主と買主それぞれが所有していた日数(具体的には譲渡日からその年の12月31日まで)に応じて、固定資産税と都市計画税をお互いに負担し合うことが慣例となっています。これが「固定資産税清算金」です。

「慣例」と表現したことには、理由があります。実は、固定資産税の清算金に関しては法律上の規定がありません。あくまでも、「不動産取引上の慣例」として行われているに過ぎないのです。そのため、不動産取引で売買契約を結ぶ際には、売買契約書の中に必ず固定資産税清算金に関する条項が組み込まれています。法的拘束力はないものの、任意契約上の重大な取り決めです。したがって、約束通りの支払いが行われない場合は、債務不履行や契約解除などの要因になりかねないので、契約時に不備のないように注意する必要があります(不動産会社が仲介に入っている場合、不備が起こることはほとんど考えられません)。

なお、通常の固定資産税や都市計画税は、不動産購入後に何回かに分けて納税しますが、「固定資産税清算金」の場合は不動産購入時にだけ支払う費用です。購入時にかかる諸費用の一部として、一括で準備する必要がありますので、その点も覚えておきましょう。

固定資産税と都市計画税の基本知識については、こちらの記事をご参考ください。

02なぜ売主と買主で固定資産税を分担する必要がある?

固定資産税は、毎年1月1日時点で土地や家屋などの償却財産を所有しており、「固定資産課税台帳」に登録されている人に対して課税される地方税のことです。都市計画税もほぼ同様の仕組みです。固定資産税はあくまでも「1月1日」時点での所有者が「納税者」になるため、たとえ売買取引によって年途中で持ち主が変わったとしても、納税者はあくまでも売主が基本となります。新たな所有者となった買主が、固定資産税の納税を負担する必要は本来ありません。

しかし、これではあまりに不公平なケースもあります。例えば売買契約の成立日が2月で、計算の起点となる「起算日」(※起算日については後ほど解説)が1月1日だったケースを想定しましょう。このケースでは買主がその年の11カ月近く不動産を保有しています。

ところが、仮に売主が1年分の固定資産税を負担することになると、売主にとってかなり不公平感が生じますね。そこで、こうした売却時期による税負担の不平等を解消するために、固定資産税清算金の取り決めを契約当事者同士であらかじめ決めておくのです。

ちなみに一般的な慣例としては、物件の引き渡し日以降の固定資産税を、売主と買主の間で精算します。それぞれの所有期間で日割り計算して清算金として分担しますが、精算の基準点となる「起算日」を明確にして、売買契約書に盛り込むことが重要です。

03固定資産税を日割りする場合、買主と売主の支払額は?シミュレーションしてみよう

固定資産税清算金の計算に入る前に、いくつか押さえておきたいポイントを挙げておきます。

「固定資産税清算金」の買主の負担金額は引き渡し日以降の日割りで算出する

あくまでも一般的な事例ですが、通常は「引渡し日」以降の日を日割り計算して、買主の負担する金額を算出します。取引時に、買主の負担金額を売主に支払って売主が納税する、あるいは不動産会社が仲介している場合は、不動産会社が双方から納税額を受け取って支払うことが多いでしょう。

計算の起点となる「起算日」は2種類ある

日割りする際、計算の起点となる「起算日」を「いつ」にするかはかなり重要です。起算日によって、税額の負担額が大幅に変わってくるためです。固定資産税の「起算日」は通常、「1月1日」または「4月1日」の2種類とするのが一般的で、どちらにするかは特にルールはありません。不動産業界では関東圏で1月1日、関西圏で4月1日とする傾向が見受けられますが、最近では1月1日を起算日とするケースが多いようです。この起算日を軸に、引渡し日の前日までは売主の負担、引き渡し日以降は買主の負担として計算します。この起算日が不動産売買契約書に明記されていないことも意外と多いので、注意しておきたいところです。

では実例を用いて、固定資産税清算金の金額をシミュレーションします。固定資産税の納付においては都市計画税も合算されることから、都市計画税も合わせて計算します。

シミュレーション事例

固定資産税額:10万円
都市計画税額:5万円
物件の引渡し日:2021(令和3)年7月15日

この事例を用いて、起算日を「1月1日」と「4月1日」の場合に分けて、シミュレーションします。

起算日が1月1日の場合

売主負担額

負担する日数は195日分(1月1日~7月14日)となります(ただし、うるう年ではないものとする。うるう年の時には1年を366日で計算。以下同様)。この日数分を一年間の日数で割った割合が負担分となるので、以下の通りです。

8万137円=15万円×195日÷365日

したがって、8万137円が売主側の負担額です。

買主負担額

上記と同じように計算します。買主の負担日数は170日分(7月15日~12月31日)ですから、以下の通りです。

6万9863円=15万円×170日÷365日

なお、円未満の端数については、売主と買主で調整します。四捨五入して10円単位や100円単位にすることも多いでしょう。

では、同じケースで起算日が4月1日のパターンも計算してみましょう。

起算日が4月1日の場合

売主負担額

4月1日から計算するので、日数は105日分(4月1日~7月14日)となります。

4万3151円=15万円×105日÷365日

起算日1月1日に比べると、売主の負担額が大幅に減ることがわかりますね。

買主負担額

買主の分も計算すると、日数は7月15日から翌年の3月31日までとなるので、260日分(7月15日~翌3月31日)です。

10万6849円=15万円×260日÷365日

このように、起算日をいつにするかによって、売主と買主の負担割合が大きく変わることがわかりますね。そのため売買契約時に、「起算日」を決めておくことの重要性が理解できるでしょう。

04固定資産税清算金の注意点

固定資産税清算金においては注意すべき点がいくつかあるので、ここでは3点紹介します。

固定資産税清算金は税金ではなく売買代金とみなされる

固定資産税清算金は税金ではなく、「売買代金」の一部として「譲渡価額」に算入されます。固定資産税の払い過ぎた分の返金と勘違いしがちですが、本来は売主が負担すべき金額を売買によって買主が負担するため、契約書にある不動産の売買代金に固定資産税清算金をプラスしたものが実質の売買代金となるわけです。

例えば2000万円の売買契約があったとして、固定資産税清算金が10万円であれば、実質の売買価格(譲渡価格)は2010万円となります。不動産売買における買主の立場として、「固定資産税のような税金ではない」という点に、あらためて注意しておきましょう。

税金ではないため、清算金に消費税が課税されることも

「固定資産税清算金」は税金ではなく売買代金の一部とみなされるので、当然「消費税」の課税対象となります。売主が課税業者の場合(ほとんどの不動産会社が該当)、土地と建物のうち、建物部分の固定資産税清算金には消費税が課税されます(土地は課税対象外)。ただし、取引相手が不動産会社ではなく、個人から建物を購入する場合は非課税となります。そのため、それぞれの不動産取引契約の内容をよく調べ、消費税が課税されるのかを確認した上で、計算する必要があるでしょう。

引き渡し日と納税のタイミングの問題

固定資産税を実際に納税する段階で少し複雑なのが、引き渡し日(不動産登記の申請日)と納税のタイミングです。固定資産税額の決定通知が来るのは、その年の4月下旬から5月ごろなので、引き渡し日がいつかによって精算方法に違いがあります。

引き渡し日(不動産登記の申請日)が1月~5月の場合

その年の固定資産税額がまだ決まっていない1月から5月までに引き渡しがあった場合、全体の清算金の額も確定しません。そのため、通常は前年の固定資産税額から日割り計算した上で負担額を決めます。固定資産税額が大幅に変わることは少ないものの、若干実際の納税額と金額が違うケースもあるので、売買契約時に売主と買主、それぞれある程度歩み寄っておく必要があるでしょう。なお、不動産会社が仲介している場合は最適な方法を提案してくれることが多いようです。

引き渡し日(不動産登記の申請日)が6月~12月の場合

この場合は売主の方に納税通知書が届いていますので、固定資産税の金額も決まっています。したがって、あとはその固定資産税の税額を元に精算するだけです。

4月1日起算日の場合の注意点

もう1点重要な点が、「起算日」と「引き渡し」のタイミングによる問題です。特に4月1日を起算日とした場合、物件の引き渡し日が1月2日~3月31日の間だったとすると、翌年度の納税通知書が売主に届きます。買主としては固定資産税清算金の支払いが終わったところで、すぐに翌年分の固定資産税を支払わなければならないので、なかなか金銭的にも辛いところです。買主はこの点をあらかじめ押さえた上で、翌年1年分の固定資産税額をすぐに売主に送金するなど、精算方法についての取り決めを交わしておきましょう。

05固定資産税清算金の基本についてまずは知ろう

今回は固定資産税清算金の基本知識を解説しました。実務的な内容になりますが、固定資産税は通年で確定するため、負担額を売主と買主で分担すること、清算金は税金ではないので売買金額に組み込まれていることを中心に理解しておけば十分でしょう。不動産会社などのプロが仲介に入る場合は、特に神経質にならなくても最適な案を提示してくれるはずです。

新井智美

監修:新井智美

CFP®/1級ファイナンシャル・プランニング技能士

プロフィール

トータルマネーコンサルタントとして個人向け相談の他、資産運用など上記相談内容にまつわるセミナー講師を行う傍ら、年間100件以上の執筆・監修業務を手掛けている。

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